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石に花咲く
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甘ったるい雰囲気に呑まれて、少し酔っていたのかもしれない。
最も大切なことを忘れそうになっていた。
自分は【売り物】で、相手は【客】。
自分たちは彼らにとっていいこと尽くしの【石女の一族】だ。
「…何か、気に障るようなことを言った?」
案じるような表情のラディスに顔を覗き込まれて、シィーファはハッとする。
今は【仕事中】なのだ。
ぼんやりしている場合ではない。
これは、自分たちに課せられた役割なのだ。
だから、相手を溺れさせることはあっても、自分たちは溺れてはならない。
そう、気を引き締めて、シィーファは微笑む。
「いいえ、何も」
シィーファの返答に、納得はしていないらしい。
ラディスはその、夜明けを待つような色の美しい瞳で、ジッとシィーファを凝視する。
「…何か、難しいことを考えている?」
「それは、何が難しいかによりますね」
シィーファの返した言葉は、ラディスの望んだものではなかったらしい。
ラディスの眉間に、一瞬だが皺が刻まれたのを、シィーファは見逃さなかった。
だが、それはどちらかと言えば、【気分を害した】よりも【拗ねた】ように、シィーファの目には映った。
恐らく、それは間違いではなかったのだろう。
まるで、身体に訊くとばかりに、ラディスがシィーファの胸に顔を埋めた。
「ぁっ…!」
シィーファは、思わず首を反らして声を上げてしまう。
熱く、濡れた、粘膜の刺激に、胸の先から腰に凄まじい快感が駆けたのだ。
ラディスは、シィーファの左胸の先を舌先で舐め上げ、右胸の先を指の腹で撫でる。
お腹の奥の熱が一気に上昇して、脚の間がぎゅううとなる。
もう、久しく、身体がこんな反応を示すことなどなかったのに。
猫がミルクを舐めるときのように、舌先や舌全体を使ってシィーファの胸の先を舐め上げていたラディスだが、急に、ちゅっとシィーファの胸の先を啄んだ。
「んっ…」
先程までとは違った刺激に、シィーファは身震いする。
そのことに、ラディスは気を良くしたらしい。
ちゅうっとシィーファの固くなった尖りに、吸いついてきた。
「あ…」
唇の内側の、柔らかくて熱い粘膜に、扱くようにされるのが、ぞくぞくする。
飴玉を舌の上で転がすように、胸の先を舐められるのが気持ちいい。
気持ちよくて、膝をくっつけてもじもじとしながら、シィーファは唇に手を当てた。
それでも声が漏れそうなので、唇を噛む。
恐らくは年下の、初めての男に、いいようにされているのが、癪ではあるけれど、シィーファはある種尊敬の念をもって、ラディスを見た。
ラディスは、若くて、健全な男だ。
それは、ラディスの下肢の中心が、角度をもって立ち上がっているのを見れば一目瞭然である。
加えて、ラディスは初めてなのだ。
好奇心や興味、あるいは欲望が暴走し、もしかすると乱暴に、よくても雑に扱われるのではないかと、シィーファは覚悟していた。
自分が気持ちよくなることに、自分が気持ちいいことに夢中で、受け容れる女の側の苦痛を理解しない男は、実は多い。
それでも、シィーファたちはプロだから、気持ちいいかと問われれば気持ちいいと言い、欲しいかと問われれば欲しいと言う。
もっととねだる。
それは、シィーファたちにとって、その行為が対価を得る【仕事】だからだ。
多少の苦痛には目を瞑るし、我慢する。
相手が望むものを、提供する。 否、差し出す。
自分の身体を、精神を、心を削って。
だから、今回もそうだと思っていたのに、ラディスは、どこまでも穏やかだった。
呼吸が、時折弾むようになるので、興奮していないわけではない。
興奮していないわけではないことは、その隆起を見れば明白なのだが、それにしても鋼の理性だと思う。
今だって、シィーファが快感のあまり震えると、ちらと視線を上げてシィーファの様子を気にするのだ。
そして、シィーファの表情や様子を確認し、安堵したように微笑んで、続ける。
その度に、シィーファの胸の奥――心臓が、ドクンと大きく脈打つことに、恐らくラディスも気づいているだろう。
不思議なことだ。
苦しくて、胸がいっぱいで、目が潤む。
いつだって、身体を重ねるときは、自分を殺そうとしてきた。
自分は今、人間ではなく、ものなのだと、思おうとしてきた。
身体は自分の意思に反して動く、あるいは動かないのに、頭だけは冷静に物事を考えていて、非常に気持ちが悪かった。
なのに今、例えば身体が言うことを利かなくても、あるいは無意識に動いても、不快感がない。
脈打つ、心臓を、実感する。
心臓が動いて、血液を送り出し、全身に巡らせていることを、汗ばみ、上気する肌や熱と共に、自覚するのだ。
自分が、生きていること。
どうしてだろう。
これは、仕事、なのに。
今、シィーファに触れる男にとって、シィーファはものではなく人間であり、大切に、丁寧に扱われる対象だということを、意識せずにはいられないのだ。
最も大切なことを忘れそうになっていた。
自分は【売り物】で、相手は【客】。
自分たちは彼らにとっていいこと尽くしの【石女の一族】だ。
「…何か、気に障るようなことを言った?」
案じるような表情のラディスに顔を覗き込まれて、シィーファはハッとする。
今は【仕事中】なのだ。
ぼんやりしている場合ではない。
これは、自分たちに課せられた役割なのだ。
だから、相手を溺れさせることはあっても、自分たちは溺れてはならない。
そう、気を引き締めて、シィーファは微笑む。
「いいえ、何も」
シィーファの返答に、納得はしていないらしい。
ラディスはその、夜明けを待つような色の美しい瞳で、ジッとシィーファを凝視する。
「…何か、難しいことを考えている?」
「それは、何が難しいかによりますね」
シィーファの返した言葉は、ラディスの望んだものではなかったらしい。
ラディスの眉間に、一瞬だが皺が刻まれたのを、シィーファは見逃さなかった。
だが、それはどちらかと言えば、【気分を害した】よりも【拗ねた】ように、シィーファの目には映った。
恐らく、それは間違いではなかったのだろう。
まるで、身体に訊くとばかりに、ラディスがシィーファの胸に顔を埋めた。
「ぁっ…!」
シィーファは、思わず首を反らして声を上げてしまう。
熱く、濡れた、粘膜の刺激に、胸の先から腰に凄まじい快感が駆けたのだ。
ラディスは、シィーファの左胸の先を舌先で舐め上げ、右胸の先を指の腹で撫でる。
お腹の奥の熱が一気に上昇して、脚の間がぎゅううとなる。
もう、久しく、身体がこんな反応を示すことなどなかったのに。
猫がミルクを舐めるときのように、舌先や舌全体を使ってシィーファの胸の先を舐め上げていたラディスだが、急に、ちゅっとシィーファの胸の先を啄んだ。
「んっ…」
先程までとは違った刺激に、シィーファは身震いする。
そのことに、ラディスは気を良くしたらしい。
ちゅうっとシィーファの固くなった尖りに、吸いついてきた。
「あ…」
唇の内側の、柔らかくて熱い粘膜に、扱くようにされるのが、ぞくぞくする。
飴玉を舌の上で転がすように、胸の先を舐められるのが気持ちいい。
気持ちよくて、膝をくっつけてもじもじとしながら、シィーファは唇に手を当てた。
それでも声が漏れそうなので、唇を噛む。
恐らくは年下の、初めての男に、いいようにされているのが、癪ではあるけれど、シィーファはある種尊敬の念をもって、ラディスを見た。
ラディスは、若くて、健全な男だ。
それは、ラディスの下肢の中心が、角度をもって立ち上がっているのを見れば一目瞭然である。
加えて、ラディスは初めてなのだ。
好奇心や興味、あるいは欲望が暴走し、もしかすると乱暴に、よくても雑に扱われるのではないかと、シィーファは覚悟していた。
自分が気持ちよくなることに、自分が気持ちいいことに夢中で、受け容れる女の側の苦痛を理解しない男は、実は多い。
それでも、シィーファたちはプロだから、気持ちいいかと問われれば気持ちいいと言い、欲しいかと問われれば欲しいと言う。
もっととねだる。
それは、シィーファたちにとって、その行為が対価を得る【仕事】だからだ。
多少の苦痛には目を瞑るし、我慢する。
相手が望むものを、提供する。 否、差し出す。
自分の身体を、精神を、心を削って。
だから、今回もそうだと思っていたのに、ラディスは、どこまでも穏やかだった。
呼吸が、時折弾むようになるので、興奮していないわけではない。
興奮していないわけではないことは、その隆起を見れば明白なのだが、それにしても鋼の理性だと思う。
今だって、シィーファが快感のあまり震えると、ちらと視線を上げてシィーファの様子を気にするのだ。
そして、シィーファの表情や様子を確認し、安堵したように微笑んで、続ける。
その度に、シィーファの胸の奥――心臓が、ドクンと大きく脈打つことに、恐らくラディスも気づいているだろう。
不思議なことだ。
苦しくて、胸がいっぱいで、目が潤む。
いつだって、身体を重ねるときは、自分を殺そうとしてきた。
自分は今、人間ではなく、ものなのだと、思おうとしてきた。
身体は自分の意思に反して動く、あるいは動かないのに、頭だけは冷静に物事を考えていて、非常に気持ちが悪かった。
なのに今、例えば身体が言うことを利かなくても、あるいは無意識に動いても、不快感がない。
脈打つ、心臓を、実感する。
心臓が動いて、血液を送り出し、全身に巡らせていることを、汗ばみ、上気する肌や熱と共に、自覚するのだ。
自分が、生きていること。
どうしてだろう。
これは、仕事、なのに。
今、シィーファに触れる男にとって、シィーファはものではなく人間であり、大切に、丁寧に扱われる対象だということを、意識せずにはいられないのだ。
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