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石に花咲く
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「…本当に、待っていらっしゃったの?」
寝室に足を踏み入れたシィーファは、寝台に腰かけたラディスを認めて、目を瞬かせた。
てっきり、寝ているか、寝たふりを決め込んでいると思っていたのだ。
シィーファの問いに、ラディスはぎゅっと眉間に皺を寄せ、膝の上で合わせた手を所在なさげに動かしている。
ラディスの視線は、シィーファを見ずに、床の一点に注がれていた。
「…先に、断っておくけれど…。 私は、本当に、そんなつもりで貴女を身請けしたわけではないんだ。 でも…」
考えながら、ゆっくりと言葉を紡ぐラディスは、一度言葉を切り、視線を上げる。
そして、真っ直ぐにシィーファを見つめてきた。
「今は、女性とそういうことになるのだとすれば、貴女以外いないって思っている」
「…そうですか」
それは、一時の錯覚だ、と喉から出かかったが、シィーファはその言葉を飲み込むことに成功した。
シィーファから言わせれば、彼は恐らく、生身の女の身体に、気分が高揚してそのように思っているだけだ。
シィーファが静かにベッドに近づくと、ラディスはシィーファに手を伸ばして、シィーファの手を握る。
シィーファとしては、ラディスの隣に腰かけるつもりだったのだが、ラディスに手を引かれるままに、脚を広げて座ったラディスの足の間に引き寄せられた。
ラディスは、シィーファの手を握ったままで、じっとシィーファを見上げてくる。
その、夜明けを待つかの如き、色の瞳で。
「だから、…上手く言えないけれど、私は貴女を意のままにするために貴女を身請けしたわけではなく、貴女だから、一緒に過ごしたくて…、本当に、それだけで」
ラディスの様子があまりに必死なので、シィーファはラディスが握ったシィーファの手をそっと、握り返す。
「大丈夫です。 たった三日ですけれど、貴方のことはなんとなくわかったつもりです」
シィーファの返した言葉に、ラディスの瞳が輝いたように見える。
ランプの明かりを、瞳が吸い込むか、虹彩が弾くかしたのだろうが、輝いて見えたのだ。
ラディスはいつかのように、それはどちらの大丈夫? とは問わなかった。
代わりに微笑むと、シィーファの手を恭しく掲げて、口づける。
両手の指の付け根に、交互に唇を押し付けたのだ。
「ありがとう。 …きっと私は、シィーファをほかの男に触れさせたくなかったんだ。 シィーファにも、ほかの男には触れてほしくない」
シィーファは、ラディスの主張に、思わず目を丸くしてしまった。
ただの興味と好奇心を、特別な感情と錯覚しているものと思っていたが、もしかするとこれは、独占欲や所有欲が高じたものなのだろうか?
つまりは、子どもが、気に入りの玩具を誰にも渡したがらない様と同じだ。
気に入りの玩具を、誰にも取られないように、自分のものにする。
目の前のこの方は、本当に、子どもなのだ。
そう思うと、母性本能というのだろうか。
ますます、自分がこの方に、女の見極め方を伝授しなければという気になった。
彼のような、容姿だけでなく恐らく家柄や血筋もよく、尚且つ真面目で誠実で優しい青年に近寄る悪い女は少なくない。
素直で純粋で、子どものような方だからこそ、聖母のような、あるいは天使のような女性と結ばれるべきだ。
そのための作法を、自分は彼に、教えるだけ。
そう、シィーファは自分を納得させる。
「脱ぎますか?」
シィーファが問うと、ラディスは動物が驚いたときに毛を逆立てるような様子になった。
そして、そっとシィーファの手から手を離すと、自分が先にベッドに上がり、シィーファの手を引く。
「…私が、脱がせたい」
ラディスがそのように希望するから、シィーファは頷く。
シィーファとしては、自分から脱ごうが、誰かに脱がせてもらおうが、あまり変わりはないと思っているので、どちらでもいい。
ラディスに手を引かれるままにベッドに上がったシィーファは、ラディスの目の前に膝立ちになった。
「どうぞ?」
今、シィーファが身に着けているのは、里の衣装ではなく、ラディスたち西洋圏の人間が着るような、上下一体となった頭から被る衣装だ。
まるで、てるてる坊主のようだな、というのがシィーファの正直な感想である。
ラディスは、一つ、細く静かに深呼吸をすると、シィーファの着ている寝間着の裾に、手をかける。
「…嫌だったら、言って」
何かに挑むような、緊張した、真剣な表情で、この期に及んでそんなことを言うから、シィーファは笑ってしまった。
「…大丈夫です。 殿方って、緊張するとだめなんですよ? だから、気楽になさって」
緊張すると何がだめか、明言は避けたが、ラディスには伝わったはずだ。
まあ、だめだったときはだめだったときで、役に立たせるやり方なんて幾らでもあるけれど、最初からそれでは、ラディスにはいささか刺激が強すぎるだろう。
「わかった、ありがとう」
ラディスは、そう微笑むと、ゆっくりとシィーファに顔を近づけてきた。
そして、そっと、シィーファの唇の端に、唇を押し当てる。
シィーファが驚いている間に、ラディスの唇はシィーファの唇に触れては、離れる。
そうされたことに、シィーファは目を見張る。
ぶわわ、と自分の頬が熱くなるのを、感じた。
ラディスは、西洋文化圏の人間らしく、キスやビズに慣れているのだろう。
【石女の一族】であり、娼婦だったシィーファこそ、そういう恋人めいた甘い戯れには慣れていない。
何となくだが、このことはラディスには気づかれてはならない。
そう思うのは、直感だ。
シィーファの唇に、軽いキスを降らせ終えたラディスは、満足したのか、シィーファの下唇を吸うようにして、離れる。
そして、シィーファの目を間近に覗き込んで、微笑んだ。
「脱がせるね…」
ラディスが、シィーファの寝間着の裾を持ち上げるから、シィーファはその動きに合わせて腕を上げる。
今日は、下着を身に着けていなかったので、あっという間にシィーファの肌がラディスに晒された。
ラディスはラディスで、もう風呂場で全部晒しているのだからと腹を括っているのか、さっさと寝間着を脱いで素肌を晒す。
ラディスは、シィーファの裸体をじっくりと、目に焼きつけるように見つめているが、シィーファもシィーファで、じっとラディスの身体を確認してしまった。
ランプのオレンジの明かりに照らされると、人体はどうしてこうも淫らに見えるのだろう。
なんだか、変な気分になってしまう。
それに、見つめるラディスの視線が、チリチリと肌を灼くように熱い気がしてくる。
あまりにまじまじとラディスが見つめるものだから、見られることが恥ずかしいような気もしてきた。
「…あの、そんなに見ないで、いただけますか」
シィーファが目を逸らしつつ小さく訴えると、ラディスはハッとした様子で頬を染めた。
「シィーファがあまりにもきれいだから」
「!?」
裸体を、きれいだなどと褒められるのは初めてで、シィーファは言葉が返せない。
ラディスはシィーファの裸体を凝視していた目を、シィーファの顔へと向けてきた。
「…どうしたの?」
綺麗な瞳にジッと見つめられて、どうしようもなくなってしまったシィーファは、小さく悲鳴を上げるしかない。
「少し、恥ずかしい、だけです」
もう、触って、愛撫して、さっさと挿入してくれればいいのに。
顔から火が出そうになっていると、ふっと微笑む気配がした。
笑うなんてひどい、という恨めしい気持ちで視線を上げたシィーファだったが、その気は殺がれてしまう。
ラディスが、あまりにもきれいな微笑みを浮かべていたからだ。
「よかった。 私だけでなくて」
思わず、見惚れていたのだが、ぬくもりが二の腕に触れてビクリとする。
すると、すぐにぬくもりが離れる。 ラディスの、手だ。
「触ったら、いやだった?」
優しく問われたシィーファは、ほとんど反射で首を横に振った。
ラディスは安堵したように微笑んで、再びシィーファの両の二の腕にそれぞれ触れる。
そして、その場で円を描き始めた。
「肌理が細かくてすべすべだ…。 少しひんやりするね、寒くない?」
ラディスの手を温かいと感じるのだから、確かにシィーファの二の腕は少しひんやりとしているのだろう。
けれど、寒いとは思わないから、首を横に振る。
「寒くありませんよ。 それに、これから熱くしてくださるでしょう?」
シィーファがラディスの目を見つめて首を揺らすと、ラディスが目を伏せて堪えるような表情になった。
「…シィーファ…。 嬉しいけれど、あまり煽らないでほしい。 割と、余裕がないから」
余裕がない、と告白されて、改めてラディスの下肢の中心を見てみれば、確かにラディスのものは緩く起ち上がりかけている。
その状態で、余裕がないのだろうか、とシィーファはまた笑ってしまった。
「まだまだ、余裕ですよ。 もっと、もっと、余裕がなくなってもらわないと」
もしかすると、そのシィーファの余裕な態度に、ラディスはむっとしたのかもしれない。
先程までの慎重な触れ方とは別人のように、シィーファに抱きつくようにして、首の付け根に顔を埋めてきた。
そこで、大きく息を吸い込まれ、吐かれて、熱い吐息が肌を撫でる感触に、肌がざわざわする。
「シィーファと一緒に寝る度に、いい匂いがするって思っていたけれど…。 いい匂いは、肌の匂いなのか。 寝るときに抱きしめて、知っていたはずなのに…。 柔らかくて、気持ちいいね」
何か、吹っ切れたのだろうか。
ラディスは、そのまま、シィーファの肌に唇を這わせ始める。
「ん…」
時に吸い上げられ、舌先が這わせられる生ぬるい感触に、震えずにはいられない。
ラディスの手も、シィーファの太腿を撫でていたかと思えば、撫でながら、徐々に上に上がっていく。
太腿の付け根、腹、そして、胸の膨らみへと。
「ふ…」
胸の膨らみを、下から持ち上げるようにして揉み込まれて、シィーファは思わず、鼻から抜けるような音を出してしまった。
媚びるようで、甘えるようなその音のせいだろうか。
何でもないことのはずなのに、身体が、異性に触れられていることを、妙に意識してしまっているような気がした。
寝室に足を踏み入れたシィーファは、寝台に腰かけたラディスを認めて、目を瞬かせた。
てっきり、寝ているか、寝たふりを決め込んでいると思っていたのだ。
シィーファの問いに、ラディスはぎゅっと眉間に皺を寄せ、膝の上で合わせた手を所在なさげに動かしている。
ラディスの視線は、シィーファを見ずに、床の一点に注がれていた。
「…先に、断っておくけれど…。 私は、本当に、そんなつもりで貴女を身請けしたわけではないんだ。 でも…」
考えながら、ゆっくりと言葉を紡ぐラディスは、一度言葉を切り、視線を上げる。
そして、真っ直ぐにシィーファを見つめてきた。
「今は、女性とそういうことになるのだとすれば、貴女以外いないって思っている」
「…そうですか」
それは、一時の錯覚だ、と喉から出かかったが、シィーファはその言葉を飲み込むことに成功した。
シィーファから言わせれば、彼は恐らく、生身の女の身体に、気分が高揚してそのように思っているだけだ。
シィーファが静かにベッドに近づくと、ラディスはシィーファに手を伸ばして、シィーファの手を握る。
シィーファとしては、ラディスの隣に腰かけるつもりだったのだが、ラディスに手を引かれるままに、脚を広げて座ったラディスの足の間に引き寄せられた。
ラディスは、シィーファの手を握ったままで、じっとシィーファを見上げてくる。
その、夜明けを待つかの如き、色の瞳で。
「だから、…上手く言えないけれど、私は貴女を意のままにするために貴女を身請けしたわけではなく、貴女だから、一緒に過ごしたくて…、本当に、それだけで」
ラディスの様子があまりに必死なので、シィーファはラディスが握ったシィーファの手をそっと、握り返す。
「大丈夫です。 たった三日ですけれど、貴方のことはなんとなくわかったつもりです」
シィーファの返した言葉に、ラディスの瞳が輝いたように見える。
ランプの明かりを、瞳が吸い込むか、虹彩が弾くかしたのだろうが、輝いて見えたのだ。
ラディスはいつかのように、それはどちらの大丈夫? とは問わなかった。
代わりに微笑むと、シィーファの手を恭しく掲げて、口づける。
両手の指の付け根に、交互に唇を押し付けたのだ。
「ありがとう。 …きっと私は、シィーファをほかの男に触れさせたくなかったんだ。 シィーファにも、ほかの男には触れてほしくない」
シィーファは、ラディスの主張に、思わず目を丸くしてしまった。
ただの興味と好奇心を、特別な感情と錯覚しているものと思っていたが、もしかするとこれは、独占欲や所有欲が高じたものなのだろうか?
つまりは、子どもが、気に入りの玩具を誰にも渡したがらない様と同じだ。
気に入りの玩具を、誰にも取られないように、自分のものにする。
目の前のこの方は、本当に、子どもなのだ。
そう思うと、母性本能というのだろうか。
ますます、自分がこの方に、女の見極め方を伝授しなければという気になった。
彼のような、容姿だけでなく恐らく家柄や血筋もよく、尚且つ真面目で誠実で優しい青年に近寄る悪い女は少なくない。
素直で純粋で、子どものような方だからこそ、聖母のような、あるいは天使のような女性と結ばれるべきだ。
そのための作法を、自分は彼に、教えるだけ。
そう、シィーファは自分を納得させる。
「脱ぎますか?」
シィーファが問うと、ラディスは動物が驚いたときに毛を逆立てるような様子になった。
そして、そっとシィーファの手から手を離すと、自分が先にベッドに上がり、シィーファの手を引く。
「…私が、脱がせたい」
ラディスがそのように希望するから、シィーファは頷く。
シィーファとしては、自分から脱ごうが、誰かに脱がせてもらおうが、あまり変わりはないと思っているので、どちらでもいい。
ラディスに手を引かれるままにベッドに上がったシィーファは、ラディスの目の前に膝立ちになった。
「どうぞ?」
今、シィーファが身に着けているのは、里の衣装ではなく、ラディスたち西洋圏の人間が着るような、上下一体となった頭から被る衣装だ。
まるで、てるてる坊主のようだな、というのがシィーファの正直な感想である。
ラディスは、一つ、細く静かに深呼吸をすると、シィーファの着ている寝間着の裾に、手をかける。
「…嫌だったら、言って」
何かに挑むような、緊張した、真剣な表情で、この期に及んでそんなことを言うから、シィーファは笑ってしまった。
「…大丈夫です。 殿方って、緊張するとだめなんですよ? だから、気楽になさって」
緊張すると何がだめか、明言は避けたが、ラディスには伝わったはずだ。
まあ、だめだったときはだめだったときで、役に立たせるやり方なんて幾らでもあるけれど、最初からそれでは、ラディスにはいささか刺激が強すぎるだろう。
「わかった、ありがとう」
ラディスは、そう微笑むと、ゆっくりとシィーファに顔を近づけてきた。
そして、そっと、シィーファの唇の端に、唇を押し当てる。
シィーファが驚いている間に、ラディスの唇はシィーファの唇に触れては、離れる。
そうされたことに、シィーファは目を見張る。
ぶわわ、と自分の頬が熱くなるのを、感じた。
ラディスは、西洋文化圏の人間らしく、キスやビズに慣れているのだろう。
【石女の一族】であり、娼婦だったシィーファこそ、そういう恋人めいた甘い戯れには慣れていない。
何となくだが、このことはラディスには気づかれてはならない。
そう思うのは、直感だ。
シィーファの唇に、軽いキスを降らせ終えたラディスは、満足したのか、シィーファの下唇を吸うようにして、離れる。
そして、シィーファの目を間近に覗き込んで、微笑んだ。
「脱がせるね…」
ラディスが、シィーファの寝間着の裾を持ち上げるから、シィーファはその動きに合わせて腕を上げる。
今日は、下着を身に着けていなかったので、あっという間にシィーファの肌がラディスに晒された。
ラディスはラディスで、もう風呂場で全部晒しているのだからと腹を括っているのか、さっさと寝間着を脱いで素肌を晒す。
ラディスは、シィーファの裸体をじっくりと、目に焼きつけるように見つめているが、シィーファもシィーファで、じっとラディスの身体を確認してしまった。
ランプのオレンジの明かりに照らされると、人体はどうしてこうも淫らに見えるのだろう。
なんだか、変な気分になってしまう。
それに、見つめるラディスの視線が、チリチリと肌を灼くように熱い気がしてくる。
あまりにまじまじとラディスが見つめるものだから、見られることが恥ずかしいような気もしてきた。
「…あの、そんなに見ないで、いただけますか」
シィーファが目を逸らしつつ小さく訴えると、ラディスはハッとした様子で頬を染めた。
「シィーファがあまりにもきれいだから」
「!?」
裸体を、きれいだなどと褒められるのは初めてで、シィーファは言葉が返せない。
ラディスはシィーファの裸体を凝視していた目を、シィーファの顔へと向けてきた。
「…どうしたの?」
綺麗な瞳にジッと見つめられて、どうしようもなくなってしまったシィーファは、小さく悲鳴を上げるしかない。
「少し、恥ずかしい、だけです」
もう、触って、愛撫して、さっさと挿入してくれればいいのに。
顔から火が出そうになっていると、ふっと微笑む気配がした。
笑うなんてひどい、という恨めしい気持ちで視線を上げたシィーファだったが、その気は殺がれてしまう。
ラディスが、あまりにもきれいな微笑みを浮かべていたからだ。
「よかった。 私だけでなくて」
思わず、見惚れていたのだが、ぬくもりが二の腕に触れてビクリとする。
すると、すぐにぬくもりが離れる。 ラディスの、手だ。
「触ったら、いやだった?」
優しく問われたシィーファは、ほとんど反射で首を横に振った。
ラディスは安堵したように微笑んで、再びシィーファの両の二の腕にそれぞれ触れる。
そして、その場で円を描き始めた。
「肌理が細かくてすべすべだ…。 少しひんやりするね、寒くない?」
ラディスの手を温かいと感じるのだから、確かにシィーファの二の腕は少しひんやりとしているのだろう。
けれど、寒いとは思わないから、首を横に振る。
「寒くありませんよ。 それに、これから熱くしてくださるでしょう?」
シィーファがラディスの目を見つめて首を揺らすと、ラディスが目を伏せて堪えるような表情になった。
「…シィーファ…。 嬉しいけれど、あまり煽らないでほしい。 割と、余裕がないから」
余裕がない、と告白されて、改めてラディスの下肢の中心を見てみれば、確かにラディスのものは緩く起ち上がりかけている。
その状態で、余裕がないのだろうか、とシィーファはまた笑ってしまった。
「まだまだ、余裕ですよ。 もっと、もっと、余裕がなくなってもらわないと」
もしかすると、そのシィーファの余裕な態度に、ラディスはむっとしたのかもしれない。
先程までの慎重な触れ方とは別人のように、シィーファに抱きつくようにして、首の付け根に顔を埋めてきた。
そこで、大きく息を吸い込まれ、吐かれて、熱い吐息が肌を撫でる感触に、肌がざわざわする。
「シィーファと一緒に寝る度に、いい匂いがするって思っていたけれど…。 いい匂いは、肌の匂いなのか。 寝るときに抱きしめて、知っていたはずなのに…。 柔らかくて、気持ちいいね」
何か、吹っ切れたのだろうか。
ラディスは、そのまま、シィーファの肌に唇を這わせ始める。
「ん…」
時に吸い上げられ、舌先が這わせられる生ぬるい感触に、震えずにはいられない。
ラディスの手も、シィーファの太腿を撫でていたかと思えば、撫でながら、徐々に上に上がっていく。
太腿の付け根、腹、そして、胸の膨らみへと。
「ふ…」
胸の膨らみを、下から持ち上げるようにして揉み込まれて、シィーファは思わず、鼻から抜けるような音を出してしまった。
媚びるようで、甘えるようなその音のせいだろうか。
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