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【レイナール夫人の秘密】
7.レイナール夫人の最愛
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つつがなく離婚の手続きは済み、リシアはシャルデル伯爵邸で過ごしている。
今のリシアは、ディアヴェルの【婚約者】という立場となった。
それに伴い、リシアの部屋はディアヴェルの隣室へと移されている。 だが、使用人たちの猛反対に遭い、寝室は分けられたままだ。
リシアは正直、ほっとしている。 のだが。
「ああ、全く。 離婚後百日が経過しないと再婚できないとかいう法律を作ったのはどこのどいつだ。 馬鹿じゃないのか。 リシアの胎にいるとしたら、それは俺の子以外にありえないのに」
おやすみの挨拶をしに来たディアヴェルは、ぶつぶつと文句を言っている。
リシアは、ちらとディアヴェルを見た。
「? 何です? リシア」
「…わたしも、百日、長いなぁ…って」
ふぅ、とリシアは息をつく。
カイトと離婚したあと、すぐにディアヴェルと結婚できるものだと思っていただけに、色々と不安になっていたりもするのだ。
「…その間に、貴方の気持ち、変わったりしない?」
「リシア…」
ふぅ、と溜息が口から出て行くのを止められない。
「だって、貴方、素敵だし…。 天然でたらしだし…。 色んな女性にたくさん見られていたのですもの。 …不安になってしまう」
「っ…リシア!」
ベッドに入って上体を起こしているリシアに、ディアヴェルがぎゅっと抱きつく。
「気持ちが変わるようなら、わざわざ人妻の貴女に横恋慕するようなことはしませんよ」
「でも、隣の芝は、って言うでしょう?」
「ああ、もう、可愛いですね、リシアは」
再度、ぎゅうう、と抱きしめられる。
うっとりとした表情のディアヴェルは、菫青石の瞳に甘やかな色を載せた。
「初めて貴女と会って、貴女を抱いたときに言ったはずです。 【何もかも、俺の好みだ】と。 そんな女が、他にいるとも思えない。 安心して?」
言いながら、胸をふにふにと触ってくるディアヴェルを、リシアは制止する。
「ぁ。 待って」
ディアヴェルは手の動きを止め、そっと手を離してくれる。
「だめ?」
間近に、菫青石の瞳で見つめられ、可愛く問われてリシアは赤くなった。
これを言うのはすごく恥ずかしいけれど、ディアヴェルを嫌で止めたわけではないことを伝えなければ、と腹をくくる。
「その…今日は、ごめんなさいの日なの」
リシアが小声でこっそりと言うと、ディアヴェルはきょとんとし、次いでうっすらと頬を染めた。
「あ、…。 ごめん」
気まずい沈黙が流れた。
それを破ったのはディアヴェルだった。
「そっか…。 それで、元気なかったんだ?」
優しく髪を梳きながら、頬にキスを繰り返してくれる。
今日の昼間に、月が廻った。
子どもを欲した最初の理由は不純だが、今は純粋に、リシアはディアヴェルの子どもが欲しいと思っている。
彼もそれを理解してくれて、リシアが欲しがるものを与えてくれていたというのに。
情けない、と思っていると、意外な言葉が耳に届いた。
「でも、俺は、少しほっとしてる」
「え」
思わずリシアはディアヴェルを凝視してしまう。
もしかして、子どもが欲しいと思っていたのはリシアだけだったのだろうか。
ディアヴェルはリシアの脳内を見たかのように微笑んだ。
「…貴女の子ども、俺の子じゃないって疑われるのも嫌だし、俺が、貴女を孕ませたから責任を取って結婚すると言われるのも嫌だ」
それはまるで、ディアヴェルがリシアしかいらない、と言ってくれているかのようで、リシアは頬を赤らめる。
ディアヴェルの好意を素直に受け取れる状況になって、リシアは理解した。
受け取りたいのに、受け取れない苦悩も。 好きなのに、好きだと告げられない苦痛も。
だから、できるだけディアヴェルには伝えたいと思うし、伝えてほしいと思う。
その思いのままに、リシアはディアヴェルの腕に、身体を預ける。
「…わたしも、ディアヴェルが好きだから、赤ちゃんがほしい」
ディアヴェルはリシアのその言動に、軽く目を見張った後で、笑んだ。
「…じゃあ、終わったら、教えてくださる?」
笑みの形の唇が、リシアに近づき、優しく唇を吸って離れて行く。
「ん…婚約期間に、ベッドを共にしてしまうのは、構わないの?」
リシアが問えば、ディアヴェルは何を今さら、とでも言うかのように笑った。
「それを言うなら、リシアが人妻のときに、俺は二回も貴女と関係を持ってしまいましたが?」
それはそうなのだけれど、あのときと今とでは色々と違うのだ。
立場も、状況も、自分の気持ちも。
その辺は、上手くディアヴェルには伝わらないらしい。
「貴女が、子どもを欲しいのはよく理解しているつもりだけれど、結婚式を挙げるまでは待ってくれる?」
そう問われて、リシアは赤くなりながらもこくりと頷いた。
近い将来、ディアヴェルの子どもを授かるのだとしたら、やはりその子は金髪に菫青石の瞳がいい。
それは、リシアが父の血を引いている証であり、最愛のディアヴェルの子どもであるという証になるから。
もしも、自分とディアヴェルの子どもが金髪に菫青石の瞳であれば。
運命というものを、信じていいのかもしれない、とリシアは思った。
今のリシアは、ディアヴェルの【婚約者】という立場となった。
それに伴い、リシアの部屋はディアヴェルの隣室へと移されている。 だが、使用人たちの猛反対に遭い、寝室は分けられたままだ。
リシアは正直、ほっとしている。 のだが。
「ああ、全く。 離婚後百日が経過しないと再婚できないとかいう法律を作ったのはどこのどいつだ。 馬鹿じゃないのか。 リシアの胎にいるとしたら、それは俺の子以外にありえないのに」
おやすみの挨拶をしに来たディアヴェルは、ぶつぶつと文句を言っている。
リシアは、ちらとディアヴェルを見た。
「? 何です? リシア」
「…わたしも、百日、長いなぁ…って」
ふぅ、とリシアは息をつく。
カイトと離婚したあと、すぐにディアヴェルと結婚できるものだと思っていただけに、色々と不安になっていたりもするのだ。
「…その間に、貴方の気持ち、変わったりしない?」
「リシア…」
ふぅ、と溜息が口から出て行くのを止められない。
「だって、貴方、素敵だし…。 天然でたらしだし…。 色んな女性にたくさん見られていたのですもの。 …不安になってしまう」
「っ…リシア!」
ベッドに入って上体を起こしているリシアに、ディアヴェルがぎゅっと抱きつく。
「気持ちが変わるようなら、わざわざ人妻の貴女に横恋慕するようなことはしませんよ」
「でも、隣の芝は、って言うでしょう?」
「ああ、もう、可愛いですね、リシアは」
再度、ぎゅうう、と抱きしめられる。
うっとりとした表情のディアヴェルは、菫青石の瞳に甘やかな色を載せた。
「初めて貴女と会って、貴女を抱いたときに言ったはずです。 【何もかも、俺の好みだ】と。 そんな女が、他にいるとも思えない。 安心して?」
言いながら、胸をふにふにと触ってくるディアヴェルを、リシアは制止する。
「ぁ。 待って」
ディアヴェルは手の動きを止め、そっと手を離してくれる。
「だめ?」
間近に、菫青石の瞳で見つめられ、可愛く問われてリシアは赤くなった。
これを言うのはすごく恥ずかしいけれど、ディアヴェルを嫌で止めたわけではないことを伝えなければ、と腹をくくる。
「その…今日は、ごめんなさいの日なの」
リシアが小声でこっそりと言うと、ディアヴェルはきょとんとし、次いでうっすらと頬を染めた。
「あ、…。 ごめん」
気まずい沈黙が流れた。
それを破ったのはディアヴェルだった。
「そっか…。 それで、元気なかったんだ?」
優しく髪を梳きながら、頬にキスを繰り返してくれる。
今日の昼間に、月が廻った。
子どもを欲した最初の理由は不純だが、今は純粋に、リシアはディアヴェルの子どもが欲しいと思っている。
彼もそれを理解してくれて、リシアが欲しがるものを与えてくれていたというのに。
情けない、と思っていると、意外な言葉が耳に届いた。
「でも、俺は、少しほっとしてる」
「え」
思わずリシアはディアヴェルを凝視してしまう。
もしかして、子どもが欲しいと思っていたのはリシアだけだったのだろうか。
ディアヴェルはリシアの脳内を見たかのように微笑んだ。
「…貴女の子ども、俺の子じゃないって疑われるのも嫌だし、俺が、貴女を孕ませたから責任を取って結婚すると言われるのも嫌だ」
それはまるで、ディアヴェルがリシアしかいらない、と言ってくれているかのようで、リシアは頬を赤らめる。
ディアヴェルの好意を素直に受け取れる状況になって、リシアは理解した。
受け取りたいのに、受け取れない苦悩も。 好きなのに、好きだと告げられない苦痛も。
だから、できるだけディアヴェルには伝えたいと思うし、伝えてほしいと思う。
その思いのままに、リシアはディアヴェルの腕に、身体を預ける。
「…わたしも、ディアヴェルが好きだから、赤ちゃんがほしい」
ディアヴェルはリシアのその言動に、軽く目を見張った後で、笑んだ。
「…じゃあ、終わったら、教えてくださる?」
笑みの形の唇が、リシアに近づき、優しく唇を吸って離れて行く。
「ん…婚約期間に、ベッドを共にしてしまうのは、構わないの?」
リシアが問えば、ディアヴェルは何を今さら、とでも言うかのように笑った。
「それを言うなら、リシアが人妻のときに、俺は二回も貴女と関係を持ってしまいましたが?」
それはそうなのだけれど、あのときと今とでは色々と違うのだ。
立場も、状況も、自分の気持ちも。
その辺は、上手くディアヴェルには伝わらないらしい。
「貴女が、子どもを欲しいのはよく理解しているつもりだけれど、結婚式を挙げるまでは待ってくれる?」
そう問われて、リシアは赤くなりながらもこくりと頷いた。
近い将来、ディアヴェルの子どもを授かるのだとしたら、やはりその子は金髪に菫青石の瞳がいい。
それは、リシアが父の血を引いている証であり、最愛のディアヴェルの子どもであるという証になるから。
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