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【レイナール夫人の秘密】
2.シャルデル伯爵の甘言
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視線を上げると、まるでリシアが顔を上げることを見越していたかのように、唇に柔いぬくもりが触れた。
一瞬の接触。
けれど、リシアはそれが何かを理解し、ぼっと顔面を染めた。
その様子を楽しそうに笑みながらディアヴェルは見ているのだから、悪趣味だと思う。
リシアはキッとディアヴェルを睨んだつもりだったのだが、ディアヴェルの目には謎の変換がされたらしい。
「ああ、もう、そんな顔をして煽られたら…理性も何も形無しです」
「ま、待って、ください。 カリアがお茶の用意をしてきてくれるのでしょう? こんなところを見られては…」
思い直すか思いとどまるかしてくれ、とリシアが念を送ると、ディアヴェルはふわりと笑んだ。
もしや、リシアの念が通じたのだろうか…、と思ったのだが。
「よかった。 俺とのキスが嫌なわけではないのですね」
全く違ったらしい。
そして、ディアヴェルは上機嫌でリシアの顔面にキスを降らせ始める。
「わ、わたしの話を聞いていましたか? カリアが、っ!」
まるで、リシアを黙らせようとでもするかのように、ねろり、と首筋を舐められた。
ぞわっと全身に何かが走るような気がして、力が抜けてしまう。
真っ赤になったリシアが視線を下げてふるふると震えていると、ディアヴェルはリシアの身体をいとも簡単に抱き寄せる。
リシアの顔を覗きこむディアヴェルの顔は、満足そうな笑みを浮かべていて、腹立たしくなる。
むっとした感情は、そのまま表情にも表れたらしい。
「…また、そんな可愛い顔をして…。 大丈夫ですよ、何度も言いますが、当家の使用人は優秀ですから、その辺の空気は察してくれます。 見られたとしても、見なかったことにしてくれますし」
だから、流されてしまいましょう?
そう、言われた気がした。 と思ったときには、再び唇が触れる。
リシアが結んだ唇の間を、そっとディアヴェルの舌がなぞる。
それでもリシアがディアヴェルを迎え入れずに固く閉ざしていると、少々強引に唇の間から舌が割り込んできた。
そして、リシアの歯列を、ディアヴェルの舌がそっとなぞり、歯列の付け根の辺りもなぞっていく。
リシアが、力を緩めそうになったとき、ディアヴェルの舌がそっと引いた。
「ね、リシア。 気持ちいいでしょう? もっと気持ちよく、幸せになれるキス、したいのですけれど?」
ディアヴェルの菫青石の瞳が、甘く深い色になる。 表情ももちろん、甘く優しい。
ディアヴェルはリシアに、決して無理強いをしない。 そこが、ずるい、とも思う。
我慢比べと言うのは所詮、欲しがった方の負けだ。
けれど、言葉にはできない。
あからさまな態度にもできない。
だってリシアはまだ、他の男の妻だから。
そして、ディアヴェルは悪いことに、リシアの気持ちを察せる男なのだ。
「…嫌なら、拒んでくださいね?」
そう言って、顔を近づけてくる。
リシアが目を閉じて、軽く口を開くと、すぐに唇と、舌が触れ合う。
温かい。 柔らかい。 気持ち、いい。
そのせいにするのはよくないのもわかっているが、思考が停止してしまうのだ。
本当は、彼の首に腕を回して、縋りつきたい。 けれど、それができない。
これくらいなら、赦されるだろうか。
リシアが、ディアヴェルの胸にそっと手を添えると、ディアヴェルはキスを深くしながら、がばりとリシアを抱きしめてきた。
それが、少し苦しいけれど、嬉しい。
だから、リシアはディアヴェルの胸に添えた手でディアヴェルを押し返すことなく、抱きしめられるがままになる。
「ん…ディアヴェル…」
唇がようやく離れるので、蕩けた頭でリシアがディアヴェルの名を呼んだときだった。
「…本当にそういう関係になったのか」
呆然とした呟きが、リシアの耳に届いた。
一瞬の接触。
けれど、リシアはそれが何かを理解し、ぼっと顔面を染めた。
その様子を楽しそうに笑みながらディアヴェルは見ているのだから、悪趣味だと思う。
リシアはキッとディアヴェルを睨んだつもりだったのだが、ディアヴェルの目には謎の変換がされたらしい。
「ああ、もう、そんな顔をして煽られたら…理性も何も形無しです」
「ま、待って、ください。 カリアがお茶の用意をしてきてくれるのでしょう? こんなところを見られては…」
思い直すか思いとどまるかしてくれ、とリシアが念を送ると、ディアヴェルはふわりと笑んだ。
もしや、リシアの念が通じたのだろうか…、と思ったのだが。
「よかった。 俺とのキスが嫌なわけではないのですね」
全く違ったらしい。
そして、ディアヴェルは上機嫌でリシアの顔面にキスを降らせ始める。
「わ、わたしの話を聞いていましたか? カリアが、っ!」
まるで、リシアを黙らせようとでもするかのように、ねろり、と首筋を舐められた。
ぞわっと全身に何かが走るような気がして、力が抜けてしまう。
真っ赤になったリシアが視線を下げてふるふると震えていると、ディアヴェルはリシアの身体をいとも簡単に抱き寄せる。
リシアの顔を覗きこむディアヴェルの顔は、満足そうな笑みを浮かべていて、腹立たしくなる。
むっとした感情は、そのまま表情にも表れたらしい。
「…また、そんな可愛い顔をして…。 大丈夫ですよ、何度も言いますが、当家の使用人は優秀ですから、その辺の空気は察してくれます。 見られたとしても、見なかったことにしてくれますし」
だから、流されてしまいましょう?
そう、言われた気がした。 と思ったときには、再び唇が触れる。
リシアが結んだ唇の間を、そっとディアヴェルの舌がなぞる。
それでもリシアがディアヴェルを迎え入れずに固く閉ざしていると、少々強引に唇の間から舌が割り込んできた。
そして、リシアの歯列を、ディアヴェルの舌がそっとなぞり、歯列の付け根の辺りもなぞっていく。
リシアが、力を緩めそうになったとき、ディアヴェルの舌がそっと引いた。
「ね、リシア。 気持ちいいでしょう? もっと気持ちよく、幸せになれるキス、したいのですけれど?」
ディアヴェルの菫青石の瞳が、甘く深い色になる。 表情ももちろん、甘く優しい。
ディアヴェルはリシアに、決して無理強いをしない。 そこが、ずるい、とも思う。
我慢比べと言うのは所詮、欲しがった方の負けだ。
けれど、言葉にはできない。
あからさまな態度にもできない。
だってリシアはまだ、他の男の妻だから。
そして、ディアヴェルは悪いことに、リシアの気持ちを察せる男なのだ。
「…嫌なら、拒んでくださいね?」
そう言って、顔を近づけてくる。
リシアが目を閉じて、軽く口を開くと、すぐに唇と、舌が触れ合う。
温かい。 柔らかい。 気持ち、いい。
そのせいにするのはよくないのもわかっているが、思考が停止してしまうのだ。
本当は、彼の首に腕を回して、縋りつきたい。 けれど、それができない。
これくらいなら、赦されるだろうか。
リシアが、ディアヴェルの胸にそっと手を添えると、ディアヴェルはキスを深くしながら、がばりとリシアを抱きしめてきた。
それが、少し苦しいけれど、嬉しい。
だから、リシアはディアヴェルの胸に添えた手でディアヴェルを押し返すことなく、抱きしめられるがままになる。
「ん…ディアヴェル…」
唇がようやく離れるので、蕩けた頭でリシアがディアヴェルの名を呼んだときだった。
「…本当にそういう関係になったのか」
呆然とした呟きが、リシアの耳に届いた。
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