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【シャルデル伯爵の房中】

9.レイナール夫人の焦燥 *

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「ん…」
 まどろみの中でリシアは、何となく身体が重く、自由が効かないことを不思議に思う。
 身じろぎしようとしても、儘ならない。 背中にぬくもりを感じる。
 とても穏やかな気分になって、もう一眠りしてもいいだろうか、と思ったとき、なぜか色々な記憶が脳裏をよぎって完全に覚醒した。


 起きようとして、絡みつく腕にはっとする。
 身を捩って背後を見れば、ディアヴェルがリシアの身体を背後から抱きしめている。
 しかも、自分も、彼も、裸のまま。
 というか、彼が自室に戻っていなかったなんて。
 リシアはサーッと青ざめ、自分に絡むディアヴェルの腕を解こうと試みる。


「貴方、ねぇ、起きて。 ディアヴェル」
「…ん…リシア…」
 だが、逆に拘束は強くなり、すりすり、とディアヴェルはリシアに擦り寄るようにする。


「ん、寝惚けていないで、起きて」
 軽くリシアが腕を叩けば、ようやく拘束が緩む。
 ほっとしてリシアが起き上がると、タイミングを見計らったように腕を引かれる。


「っ…!」
 体勢を崩したリシアは、重なるようにディアヴェルの上に倒れ込み、また抱きしめられてしまった。
 リシアを抱きしめたままでディアヴェルはいつのまにか反転したらしい。
 気づけばディアヴェルの向こうに天井が見えて、リシアは少しだけもやもやした気持ちになる。
 本当に、この男は手慣れている。


 けれど、そう思ったのもつかの間。
「…もう少し…。 抱いていても、罰は当たらないでしょう…? 今までずっと我慢したんですから」
 降ってきた穏やかな笑みに、どうでもよくなってしまった。
 素肌が触れ合う感じに、恥ずかしくてくすぐったいけれど、幸せだ。
 リシアとて、この時間をもう少し味わっていたい気もするが。
「貴方の寝室に貴方がいなかったら、お邸の方たちが心配するわ」
 必死に訴えると、ディアヴェルはくすりと笑む。


「しませんよ。 リシアとようやく結ばれたんだ、ってほっとするだけです。 うちの使用人たちは貴女を夫人にと望んでいるのだから」
 ディアヴェルの言葉に、リシアは呆けた顔をしたのだろう。
「それに、これだけベッドを乱しておいて、何もなかったで納得されると思います?」
 かぁぁぁぁぁ、と頬を染めたリシアは、思わず恥ずかしい反論をしていた。


「そ、それは、貴方が、激しいから」
 そうすれば、ディアヴェルは菫青石の綺麗な瞳を細めて、楽しそうに笑う。
「ふぅん? 俺が激しいと比較できるほど、貴女は男を知っているのですか?」
 リシアの初めてが、ディアヴェルであることをディアヴェルは知っている。
 ディアヴェルしか、男を知らないことも知っているはずなのに、どうしてそんな意地悪を言うのだろう。


 誰かと比べたわけではない。
 激しいと思うには、それなりの理由がある。
 リシアは羞恥に顔を真っ赤に染めながらも、その理由を口にした。


「は、激しく、したじゃない…。 泣きたくなるくらい、ゆっくり、焦らしたり」
 たくさん男を知っていると誤解されるよりも、リシアなりの理由を上げる方がいい、とリシアは思ったのだ。
 そうすれば、ぎゅ、と身体を抱きしめられた。
「あ、だめです、今の。 その気になりそう」
「え」
 降ってくる声に、リシアは目を瞬かせる。


 ディアヴェルの腕の中で何とかもがいて顔を上げれば、瞳を細めて目元を染めたディアヴェルが、リシアを切なげに見下ろしている。
「今の表情。 いじめて、って言われた気が」
 どこをどう見たらそうなるのだろう。
「言ってな…ん…」
 反論しかけたリシアの唇が、ディアヴェルのそれに塞がれる。


 朝には相応しくない、濃厚なキスだった。 ディアヴェルの舌が、リシアの口の中を舐め回して、舌を擦り合わせてくる。
 キスを繰り返していると、気持ちよすぎて身体に力が入らなくなってしまう。
 そして、変調はリシアだけでなく、ディアヴェルにも起きていたようで、何か硬いモノが太腿の辺りに当たった。


 もしかして、とぼんやりした頭で考えようとしていると、唇が離れて、リシアは大きく息を吸い込む。
 リシアのもしかして、は当たっていたらしい。
 困ったように目を伏せたディアヴェルが、言った。
「あー…だめです。 っちゃった」
 何が、というのは聞かないでもわかる。


 そっと瞼を持ち上げたディアヴェルの菫青石の瞳は、熱に揺れている。
「もう一回、は、身体…つらいですよね?」
「え」
「俺、本当に貴女のこと好きみたいです。 おあずけ長かったし…ああ、でも、我慢すること自体がそんなになかったのか…。 抱きたいのに、こんなに禁欲したのも初めてだし。 こんなに簡単にその気になるなんて」
 ぶつぶつと何か言っているディアヴェルに、リシアは困惑した。


「ぇ、あの」
 そもそもは、ディアヴェルに起きてもらって、自分の部屋へ戻ってもらって…というところだったのに、別のものが起きてしまったようで、そこまでは――よくないけれど、比較対照の結果――まだいい。


 ディアヴェルは、部屋に戻るでもなく、もう一回しよう、と出鱈目なことを言っているのか。
 リシアの話を聞いていないとしか思えない。


 だが、ディアヴェルはリシアの困惑の理由を、【もう一回は身体がつらい】ということだと誤認したらしい。
「大丈夫ですよ。 抱かせろなんて言いませんから。 …ただ、ちょっと手伝ってくださる?」
 ディアヴェルの手が、リシアの手に触れたかと思えば、自分の方に引き寄せる。

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