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【シャルデル伯爵の手中】

10.レイナール夫人の羞恥 *

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 シャルデル伯爵は菫青石の瞳の色を濃くして、今度は親指の腹で布地を押し上げる固まりを刺激する。
「ああ…夜着の上からでもわかりますよ…? 固くなってしまっている…。 俺に触れられたい、と」
 触れられたいなんて、思ってもいない。


 リシアがお尻で後ろにずり下がって逃げようとすると、そのままとさりとベッドに押し倒されてしまった。
 これは、いよいよ、逃げ場がない。
「お願い、お止めになって」
 フロックコートを脱ぎ捨てて、タイを緩めながらゆっくりと、影が覆いかぶさってくる。


「貴女のその声と言葉は、逆効果です。 お厭でしたら、噛みついて?」
 彼の美しい顔が近づいてくるので、キスを予感したリシアは横を向く。
 そうすれば、彼の唇はちゅ、とリシアの唇の端に触れた。
 それ以上横を向けないリシアは、せめてもの抵抗でしっかりと唇を引き結ぶ。 けれど、シャルデル伯爵は身体をずらして、優しくリシアの唇に唇を重ねた。


「っ…」
 繰り返される口づけに、唇に力を入れ続けたリシアは、呼吸が辛くなる。
 唇を引き結びながら鼻で呼吸をするのは、リシアには難しい。 苦しくなって、一瞬力を抜いたときに、口も開いてしまった。


「んっ…」
 口内に、彼の侵入を許してしまう。
 柔らかくて、甘いのに、濃くて、深い。 気持ち、いい。
 喉の奥から声が漏れそうになる。


 じゅ、ちゅう、と舌を深く貪られ、開いたままの口の端から唾液が零れそうになる。
 このままでは唾液を垂らすという醜態を晒すことになる、とリシアは慌てて何か拭くもの、と手を動かす。
 そうすれば、一度シャルデル伯爵の唇が離れるから、リシアはこくん、と唾液を飲みこむ。 けれど、間に合わずに口の端から零れた唾液を、シャルデル伯爵の舌が舐めとった。
 そうされただけでも、とてつもなく恥ずかしいというのに、この男は、
「ああ…この味だ」
 と目を細めて艶めかしく笑んだ上、舌で唇を舐め上げている。


 じんじんと、リシアの舌は痺れていた。 身体の中心も、熱をもってじんじんと疼いている気がする。
「心配していたんです。 貴女は魅力的だから。 俺以外の男にも迫られているんじゃないかと。 迫られても、赦しはしなかったようですね…?」
 安心したように告げるシャルデル伯爵に、リシアはうろたえた。
「ど、どうして」
 そんなことがわかるのか、という言葉は続けられなかった。
 微笑んで見下ろすシャルデル伯爵が、わかる理由を披露してくれたからだ。


「わかりますよ。 俺が教えた通りに反応しますから。 ああ、でも、身体の確認もしなければいけませんね」
 後半の、不穏な言葉に、リシアはびくりとする。
 身体の確認、ということは、今されたキスのような確認をされるということだろう。


「それは、だめ」
「どうして? 貴女の身体は、俺に触れられたいようですが?」
 前触れもなく急に、きゅっとネグリジェを押し上げる胸の尖りを摘ままれて、びりり、と何かが駆けた。
「ぁん」
 思わず漏れた声が甘ったるくて、リシアはぱっと口を押さえて真っ赤になる。


 シャルデル伯爵の瞳は、光を吸いこんで甘く深い藍紫色になっていた。
「確認だけで止めますから。 ね? リシア?」
 甘く誘うような声が、リシアの返答を待たずにするするとネグリジェをたくしあげていく。
 リシアは小さく首を振ったのだが、シャルデル伯爵は言い含めるように笑むばかりだ。


「貴女だって、色んな男に身体を開いていると思われるのは嫌でしょう?」
 ぐ、とリシアは言葉を飲み込む。
 出逢った場所が出逢った場所で、あんな関係から始まったのだから、リシアが淫らな女だと思われても、それは仕方ないかもしれない。
 けれど、リシアはシャルデル伯爵に抱かれるまで、男を知らなかった。 子の作り方さえも。
 誰でもよかったわけではなく、シャルデル伯爵だったから、身体を開いたのだ。


 そして、彼に抱かれたあと、リシアが「貴方でよかった」と言ったのは、リシアの本心だ。
 それを、疑われたくはなかった。
 恥ずかしい、と涙目になりつつも、シャルデル伯爵に身を委ねたリシアは、あっという間に裸体を晒すこととなった。
 胸と恥部を腕と手で何とか隠そうとするリシアを見下ろして、シャルデル伯爵はほぅと感嘆の溜息をついたようだった。


「やはり、素晴らしい…、よく見せて」
 シャルデル伯爵の手が伸びて、リシアの腕をどかそうとする。
 強引に外してしまえばいいのに、リシアが抗えるくらいの力加減というのがにくい。

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