【R18】レイナール夫人の華麗なる転身

環名

文字の大きさ
上 下
9 / 55
【レイナール夫人の回想】

1.レイナール夫人の初夜① *

しおりを挟む
 初めては、痛いものだと聞いていた。
 覚悟もしていた。
 誤算は、こんなに恥ずかしいことをするとは知らなかったことと。
 相手が信じ難いくらいに優しくて、時間をかけてリシアを愛したことだった。


「ぁ…!」
 思わず声を上げてしまって、慌てて唇を噛んだけれど、取り繕えただろうか。
 仮面越しだから、表情はわからないだろうと思って気を抜いていた。


「痛い、ですか?」
 動きを止めた彼に、労わるように問われ、申し訳なく思いながらもリシアは頷く。


 彼は、自分を気遣ってくれていた。
 痛くないようにと、たくさんそこに触れてくれて、たくさん気持ちよくしてくれた。
 けれど、それでも痛いなんて。


「ごめんなさい…」
 彼を見ていられなくて目を伏せれば、口づけをもらう。


 高級男娼というものは、皆このように客に優しいのだろうか。


 そんなことを考えながらも、リシアはその優しいキスに誘われるようにして、そろそろと瞼を開けてしまう。
「謝られる必要はありませんよ。 貴女のここ…小さいんですから」
 仮面をつけたままの男の口元が微笑んでいるのだけはわかる。 男は、リシアと自身の結合部に触れた。
 くすぐったいような感じがして、リシアは口を引き結ぶ。
「ん」


「でも…今、止めてしまうと、余計に痛いですよ…?」
 余計に痛い、という言葉に、リシアはますます強張った。
「なら、早めに、済ませて…?」
 ゆっくりするからじわじわと鈍い痛みが続くのであれば、一気に強い痛みだけで終わらせてもらった方がよいかもしれない、と思ったのだが。


「それは、嫌です」
 目の前の男が、存外きっぱりとした口調でリシアの願いを切り捨てるものだから、愕然としてしまった。


「な」
 優しい、と思ったのだが、ひどい男に捕まったのだろうか。
 けれど、続く声と言葉は、ひたすらに甘かった。


「貴女の身体が、素晴らしく俺好みなのがいけない」
 中途半端に繋がったままで、男の手がリシアに伸びてくる。
「あ、何を」
「顔を見せて…?」
 男の手が、リシアの顔を隠す仮面に触れるものだから、リシアは身を捩って抗おうとする。


「だめ、いや、あっ…」
 けれど、身を捩ると、繋がったところが痛んで、声を上げてしまった。
 ずきずきする下肢に、ふるふると震えていると、男が甘く囁く。
「暴れると、痛いですよ…? 抵抗しないで…?」
 思わず、それに従ってしまったのは、彼の声があまりに優しかったからだ。
 そっと触れる手ですら優しい。


「ああ、では、俺が先に外せばよろしい?」
 言って、彼ももどかしそうに自身の仮面を剥ぎ取る。
 仮面の下から現れた顔に、リシアは目を見張った。
 男は、信じ難いくらいの、美青年だった。


「ぁっ…」
 男の顔を凝視しているうちに、リシアも仮面を奪われてしまう。
 男は、菫青石の瞳を軽く見張って、リシアの顔を凝視し、堪えるように目を細めた。


「ああ、信じられない。 本当に何もかも、俺の好みだ」


 そして、そのまま男はリシアに覆いかぶさってきて、唇を塞ぐ。
「んぅ…」


 キスも、したのは初めてだったというのに。
 この夜だけで、色々なキスを教えられてしまった。 甘い蜜を流し込まれ、いいように翻弄され、溺れそうになる。
 唇が離れると、彼は切なげな表情で震える。
「ああ…信じられない。 こんなに、気持ちいいなんて」


「え…あ」
 リシアは驚く。
 口づけに翻弄され、訳がわからなくなっているうちに、彼はリシアの身体に完全に侵入していたらしい。
 身体の奥、深いところまで、熱と硬さを感じる。


「わかる…? 俺が、貴女の中に、いるの」
 少し、脚の間がひりひり、お腹の当たりがじくじくするが、それ以上に、熱く脈打つもので、お腹がいっぱいになっているような気がする。


 自分以外のものが、自分の中にある。
 嬉しいとか、幸せだとか、気持ちいいだとかではなくて、それが、すごく妙な感じだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね

江崎美彩
恋愛
 王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。  幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。 「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」  ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう…… 〜登場人物〜 ミンディ・ハーミング 元気が取り柄の伯爵令嬢。 幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。 ブライアン・ケイリー ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。 天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。 ベリンダ・ケイリー ブライアンの年子の妹。 ミンディとブライアンの良き理解者。 王太子殿下 婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。 『小説家になろう』にも投稿しています

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...