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【シャルデル伯爵との出逢い】
5.レイナール夫人の逃避
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運命なんて、信じていなかった。 実感したこともない。
けれど、リシアは今、目の前に運命を見ている。
*†*:..。..。..:*†*:..。..。..:*†*:..。..。..:*†*
「リーシュ?」
呼ばれて、リシアはハッとする。
傍らの夫は、リシアを見、不思議そうに目の前の人物を見る。
周りの音を遮断して、しばし自分の世界に引き籠もってしまっていたようだ。
現実逃避とも言う。
それくらいに、これは、ありえない。
もう一度、夫――カイトの、菫青石の綺麗な瞳がリシアに戻ってきて、リシアはドキッとした。
目の前の、青年と同じ、色の、瞳。
「面識があったか?」
「いいえ」
問われたリシアは、慌てて首を横に振る。
否定はしたが、心臓はばくばくと音を立てている。 どこを見ていいのかもわからない。
どうして、彼が、ここに。 そう、思う。
リシアの思い違いや記憶違いでなければ、もう二度と、会うことはないと思っていたひとだ。
「シャルデルの若当主殿だよ」
にこやかに笑んで、夫が目の前の青年をリシアに紹介してくれた。
夫の口からもたらされたその名前に、リシアは衝撃のあまり、卒倒するかと思った。
踏みとどまれた自身にほっとしつつ、だが、冷や汗が背中を伝う。
シャルデル、といえば、子どもでも知っている。
豪商貴族。
貴族でありながら、【豪商】と呼ばれるのには意味がある。
とにかくシャルデルは、金に縁がある。
シャルデルと賭けはするな。 大枚を捨てる覚悟があるなら、それもよいだろう。
シャルデルが手を出さぬものに手は出すな。 大損をしてもよいのなら、試してもよいだろう。
妻が夫の金遣いを諫めるときに使われる台詞にすらなっているほどの、大貴族。
また、没落貴族から領地を買ったら、金鉱が眠っていたとはあまりにも有名な話だ。
シャルデル伯爵家には、大天使の加護か何かがあるのでは、と専らの噂である。
栄枯盛衰とは言うが、シャルデル伯爵家に関してはその理も無効なのかもしれない、と。
そして、目の前にいる、この青年が、シャルデル伯爵家の、若当主。
サーッと血の気が引くような思いがした。
呼吸が苦しい気もする。
「ディアヴェル殿、これは私の妻で、リシアと」
カイトがリシアを紹介すれば、シャルデル伯爵はふわり、と人好きのする笑みを見せる。
そこでリシアはここまで一度も微笑むことができていないことに気づいたが、時間を巻き戻すことは出来ない。
自分の態度は、不自然ではなかっただろうか。
そして、叶うのなら、この青年と出会ったときに、時を巻き戻してほしい。
目の前の美青年の唇が動くので、何を言われるかと、リシアは肝を冷やして覚悟をする。 けれど…。
「カイト殿が幼妻をお迎えになったとは風の噂で存じておりましたが…お綺麗な方ですね?」
彼は微笑んで、そう言っただけ。
気を張っていた分、拍子抜けしてしまった、というか。
その後も、シャルデル伯爵はあの夜の話題には触れない。
他人のふりをしてくれるようだ、とリシアはほっとした。
あるいは、よく似た他人という可能性もある、とリシアは思っていたのだが、早々に、その考えが間違いであることに気づかされることとなる。
けれど、リシアは今、目の前に運命を見ている。
*†*:..。..。..:*†*:..。..。..:*†*:..。..。..:*†*
「リーシュ?」
呼ばれて、リシアはハッとする。
傍らの夫は、リシアを見、不思議そうに目の前の人物を見る。
周りの音を遮断して、しばし自分の世界に引き籠もってしまっていたようだ。
現実逃避とも言う。
それくらいに、これは、ありえない。
もう一度、夫――カイトの、菫青石の綺麗な瞳がリシアに戻ってきて、リシアはドキッとした。
目の前の、青年と同じ、色の、瞳。
「面識があったか?」
「いいえ」
問われたリシアは、慌てて首を横に振る。
否定はしたが、心臓はばくばくと音を立てている。 どこを見ていいのかもわからない。
どうして、彼が、ここに。 そう、思う。
リシアの思い違いや記憶違いでなければ、もう二度と、会うことはないと思っていたひとだ。
「シャルデルの若当主殿だよ」
にこやかに笑んで、夫が目の前の青年をリシアに紹介してくれた。
夫の口からもたらされたその名前に、リシアは衝撃のあまり、卒倒するかと思った。
踏みとどまれた自身にほっとしつつ、だが、冷や汗が背中を伝う。
シャルデル、といえば、子どもでも知っている。
豪商貴族。
貴族でありながら、【豪商】と呼ばれるのには意味がある。
とにかくシャルデルは、金に縁がある。
シャルデルと賭けはするな。 大枚を捨てる覚悟があるなら、それもよいだろう。
シャルデルが手を出さぬものに手は出すな。 大損をしてもよいのなら、試してもよいだろう。
妻が夫の金遣いを諫めるときに使われる台詞にすらなっているほどの、大貴族。
また、没落貴族から領地を買ったら、金鉱が眠っていたとはあまりにも有名な話だ。
シャルデル伯爵家には、大天使の加護か何かがあるのでは、と専らの噂である。
栄枯盛衰とは言うが、シャルデル伯爵家に関してはその理も無効なのかもしれない、と。
そして、目の前にいる、この青年が、シャルデル伯爵家の、若当主。
サーッと血の気が引くような思いがした。
呼吸が苦しい気もする。
「ディアヴェル殿、これは私の妻で、リシアと」
カイトがリシアを紹介すれば、シャルデル伯爵はふわり、と人好きのする笑みを見せる。
そこでリシアはここまで一度も微笑むことができていないことに気づいたが、時間を巻き戻すことは出来ない。
自分の態度は、不自然ではなかっただろうか。
そして、叶うのなら、この青年と出会ったときに、時を巻き戻してほしい。
目の前の美青年の唇が動くので、何を言われるかと、リシアは肝を冷やして覚悟をする。 けれど…。
「カイト殿が幼妻をお迎えになったとは風の噂で存じておりましたが…お綺麗な方ですね?」
彼は微笑んで、そう言っただけ。
気を張っていた分、拍子抜けしてしまった、というか。
その後も、シャルデル伯爵はあの夜の話題には触れない。
他人のふりをしてくれるようだ、とリシアはほっとした。
あるいは、よく似た他人という可能性もある、とリシアは思っていたのだが、早々に、その考えが間違いであることに気づかされることとなる。
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