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【シャルデル伯爵との出逢い】
2.シャルデル伯爵の衝動
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用意されていた一室の扉を開けて、中に入るよう動作で促す。 女は、躊躇ったようだったが、結局は足を踏み入れた。
ディアヴェルは笑んで、扉を閉め、施錠もした。
「緊張、されています?」
そっと、女の頬を撫でる。
そうすれば、女は身を強張らせた。
慣れていない、と思ったのも当たりだったようだ。
「…はい」
困ったように囀る唇も愛らしければ、ディアヴェルの目を真っ直ぐに見られない恥ずかしがりな瞳ですら愛しい。
「大丈夫ですよ、貴女にひどいことなどしませんから。 お嫌いなことがあれば仰って? 貴女の嫌なことなど、誓ってしませんから」
そっと、顔を近づけると、女の美しい瞳が、ディアヴェルに向いた。
もう一つ、心臓が跳ねる。
女は、不思議そうにディアヴェルを見つめている。
まるで、これから何をされるかわからない、とでも言うかのように。
けれど、ディアヴェルは自分の欲求に従って、彼女の唇にそっと触れる。
本当に、触れるだけの口づけ、なのに。 触れた瞬間に、ゾクリとした。
やわらかくて、甘い唇だ。 けれど、ディアヴェルはあることに気づいて、顔を離す。
「口づけ、慣れていらっしゃらない?」
女は、ふっくらとした淡い色の唇を、一度噛んだようだった。 まるで、恥じ入るようだと思う。
「別に、責めているわけでは、なくて」
思わず、言い訳めいたことを口にすれば、女はそっとディアヴェルの身体を押す。
嫌がられたのだろうか。 動揺するような、不安なような、よくわからない感覚にディアヴェルが襲われていると、ディアヴェルの視線から逃れるように目を伏せた女は、驚くべき内容を口にした。
「あ、あの、ごめんなさい。 わたし、赤ちゃんが、欲しくて」
「………え?」
ディアヴェルは、自分の耳を疑った。
けれど、なぜか、女の目はここで、真っ直ぐにディアヴェルを見る。
「ここに来れば、赤ちゃんの種がもらえると、聞いたの。 けれど…赤ちゃんの種は、誰でもすぐに与えてくださるものではないのでしょう?」
絶句せざるを得なかったのも、無理のないことだ。
目の前の女は、何を言っているのだろう。 正気だろうか。
そう、思っていたはずなのに。
「貴方は、わたしにそれを、与えてくださる?」
ディアヴェルの様子を窺うように、可愛らしくそろりと問うてくる女に、どうでもよくなってしまった。
初対面の女性に…しかも、ディアヴェルの素性を知らないであろう女性に、子胤をせがまれたのは初めてのことだ。
ディアヴェルが直感で感じたように、このひともディアヴェルに何かしらの感情を抱いてくれたのだろうか。
それも、子胤がほしいと思うほどの。
ぶわっと鳥肌が立った。
それは、嫌悪感からではなく、どちらかといえば、戦慄。
興奮と、歓喜。
そっと女の頬を右手で包むようにしながら、親指でそのふっくらとした唇に触れて、その感触を楽しむ。
「貴女は、こんなに魅力的なのに…」
口づけだけで、感じた。
余裕のあるふりで、紳士を気取ってはいるが、今のディアヴェルは目の前の女性に触れたくて堪らない。
こんな欲求を覚えるのは初めてだった。
けれど、それをすぐに実行に移さなかったのは、やはり女性を慮ってだ。
夫以外に、初めてを許してしまって、彼女は罰されないか?
この行為を、彼女は怖がらないか?
「こんな、得体の知れない男から、子胤が欲しいなど…叱られませんか?」
女が、どこの令嬢かは知らない。
けれど、女性に貞淑が求められる世の中、未婚の女性が既に破瓜し、子どもを宿しているなど…噴飯もので済むはずがない。
ディアヴェルが言えば、女性は少し、笑ったようだった。
その、笑い声も、耳を擽るように心地よい。
「優しい方」
目を閉じた女は、自身の頬に触れるディアヴェルの右手に自身の左手を重ね、すり、と頬ずりするような動きを見せる。
ドクッと、心臓が、大きく脈打つ。
そして、その速度のまま駆け出して、ディアヴェルは我慢が限界であることを悟る。
「俺で、いいのですか?」
確認のために問えば、頬を染めた彼女が、小さく頷く。
「貴方の赤ちゃんが、欲しいのです」
そのとき確かにディアヴェルは、優しく笑う耳に心地よい声のこの魅力的な女性を、手に入れたいと思ったのだ。
ディアヴェルは笑んで、扉を閉め、施錠もした。
「緊張、されています?」
そっと、女の頬を撫でる。
そうすれば、女は身を強張らせた。
慣れていない、と思ったのも当たりだったようだ。
「…はい」
困ったように囀る唇も愛らしければ、ディアヴェルの目を真っ直ぐに見られない恥ずかしがりな瞳ですら愛しい。
「大丈夫ですよ、貴女にひどいことなどしませんから。 お嫌いなことがあれば仰って? 貴女の嫌なことなど、誓ってしませんから」
そっと、顔を近づけると、女の美しい瞳が、ディアヴェルに向いた。
もう一つ、心臓が跳ねる。
女は、不思議そうにディアヴェルを見つめている。
まるで、これから何をされるかわからない、とでも言うかのように。
けれど、ディアヴェルは自分の欲求に従って、彼女の唇にそっと触れる。
本当に、触れるだけの口づけ、なのに。 触れた瞬間に、ゾクリとした。
やわらかくて、甘い唇だ。 けれど、ディアヴェルはあることに気づいて、顔を離す。
「口づけ、慣れていらっしゃらない?」
女は、ふっくらとした淡い色の唇を、一度噛んだようだった。 まるで、恥じ入るようだと思う。
「別に、責めているわけでは、なくて」
思わず、言い訳めいたことを口にすれば、女はそっとディアヴェルの身体を押す。
嫌がられたのだろうか。 動揺するような、不安なような、よくわからない感覚にディアヴェルが襲われていると、ディアヴェルの視線から逃れるように目を伏せた女は、驚くべき内容を口にした。
「あ、あの、ごめんなさい。 わたし、赤ちゃんが、欲しくて」
「………え?」
ディアヴェルは、自分の耳を疑った。
けれど、なぜか、女の目はここで、真っ直ぐにディアヴェルを見る。
「ここに来れば、赤ちゃんの種がもらえると、聞いたの。 けれど…赤ちゃんの種は、誰でもすぐに与えてくださるものではないのでしょう?」
絶句せざるを得なかったのも、無理のないことだ。
目の前の女は、何を言っているのだろう。 正気だろうか。
そう、思っていたはずなのに。
「貴方は、わたしにそれを、与えてくださる?」
ディアヴェルの様子を窺うように、可愛らしくそろりと問うてくる女に、どうでもよくなってしまった。
初対面の女性に…しかも、ディアヴェルの素性を知らないであろう女性に、子胤をせがまれたのは初めてのことだ。
ディアヴェルが直感で感じたように、このひともディアヴェルに何かしらの感情を抱いてくれたのだろうか。
それも、子胤がほしいと思うほどの。
ぶわっと鳥肌が立った。
それは、嫌悪感からではなく、どちらかといえば、戦慄。
興奮と、歓喜。
そっと女の頬を右手で包むようにしながら、親指でそのふっくらとした唇に触れて、その感触を楽しむ。
「貴女は、こんなに魅力的なのに…」
口づけだけで、感じた。
余裕のあるふりで、紳士を気取ってはいるが、今のディアヴェルは目の前の女性に触れたくて堪らない。
こんな欲求を覚えるのは初めてだった。
けれど、それをすぐに実行に移さなかったのは、やはり女性を慮ってだ。
夫以外に、初めてを許してしまって、彼女は罰されないか?
この行為を、彼女は怖がらないか?
「こんな、得体の知れない男から、子胤が欲しいなど…叱られませんか?」
女が、どこの令嬢かは知らない。
けれど、女性に貞淑が求められる世の中、未婚の女性が既に破瓜し、子どもを宿しているなど…噴飯もので済むはずがない。
ディアヴェルが言えば、女性は少し、笑ったようだった。
その、笑い声も、耳を擽るように心地よい。
「優しい方」
目を閉じた女は、自身の頬に触れるディアヴェルの右手に自身の左手を重ね、すり、と頬ずりするような動きを見せる。
ドクッと、心臓が、大きく脈打つ。
そして、その速度のまま駆け出して、ディアヴェルは我慢が限界であることを悟る。
「俺で、いいのですか?」
確認のために問えば、頬を染めた彼女が、小さく頷く。
「貴方の赤ちゃんが、欲しいのです」
そのとき確かにディアヴェルは、優しく笑う耳に心地よい声のこの魅力的な女性を、手に入れたいと思ったのだ。
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