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第四部 鏡面の裏
54.シャンテウ空域会戦(4)怪獣の叫び声
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――向かってくる赤い機人――。
アーケームのフォルムが、だんだんと大きくなる。
だが、こちらへ向かってはいるが……俺たちにじゃない!
アーケームが狙っているのは……。
「レイカー!」
「わかってる!」
2体がかりで、ザッシュ機の正面に回った。
ザッシュ機に一直線で向かって来るアーケーム。
俺たちは、手に持つソードにオーラを集中させ、アーケームからの攻撃に備える。
アーケームは速度を落とさずに、俺たちに正面からぶつかった。
今までに味わったことのない力。ザッシュ副団長との立ち合いでも経験したことがない凄まじい衝撃だった。
アーケームが持つ片手ソードが、俺たち2体のソードに触れた瞬間。その衝撃により、俺たち2体のパラムスは左右に吹き飛ばされた。
その瞬間に声が響く。
「ハァ~ハッハッハ~! わかる、わかるよ~。お前らはあのときの二人だね~。感じ方が一緒だよ!」
『あの女』の声が聞こえる。近距離で戦闘する場合、お互いのオーラの質が合わさると、共鳴してスピーカーから意思疎通が可能になる場合があった。詳しくは解明されていないが、戦場ではよくあることだった。
「ハァ~。出てきてすぐに、目当ての3人に会えるなんてね~♪」
その言葉を聞いて、俺は以前、誰かから聞いた話を思い出した。
――アラゴの『狂い姫』は、なによりも闘いを望む。より強い相手との闘いを――。
(……やはり……まずいか)
吹き飛ばされた俺とレイカーは、再びザッシュ機への援護に回ろうとする。
アーケームの機体からは、溢れ出るオーラが見えた。通常ならありえない赤い色のオーラ。それだけオーラの質と、量が常軌を逸しているからなのだろう。
アーケームの特徴はもう一つある、それは指の本数だ。
機人の指の本数は、それだけで機人の『格』を表している。パラムス4本に対して、アーケームの指は6本。
『6本指』のその手にはソードが握られている。ソードからも立ち昇るオーラが見える。その色は……燃えるように赤い。
「「「!!!」」」
そのとき、一体のパラムスが、アーケームの下方向から割り込んできた。
そのパラムスのスピードは速く。打ち込むソードの角度はアーケームの背中、下方向からで死角になる。
(いける!)
そう感じた瞬間、アーケームがまるで子どもが遊ぶコマのように、横に半回転した。
「な……に」
俺の声ではなく、レイカーの声がスピーカーから漏れてきた。
アーケームはその一瞬の動きのあと、下からせりあがって来たパラムスをそのまま横に切断する。
「おいおい……こりゃ……なん……」
聞こえてきたのは、ゲセロ・リークン隊長の声だった……。
眼の前で、真っ二つに切断されたパラムスは、地上へ落下していく。
アーケームはそのまま横に反転して進み、ザッシュ機に向かってソードを振り下ろす。
「ナギっ……!」
俺は一瞬声を挙げたが、ザッシュ機は手に持つソードで、アーケームの打ち込みを受けていた。
「チッ! さっきの奴で、オーラが引っ張られて威力が落ちたのかね? でも……」
ザッシュ機が、急ぎアーケームから離れて距離を取る。
「どういうことだい? こんなのが噂の雪騎士? 拍子抜けもいいところさ」
アーケームから、落胆の声が聞こえてきた。
「いや、違うね。あんた……噂のザッシュ・マインじゃないね?」
「「「!!!」」」
背筋が寒くなるような女の声……。
「レイカー! 俺たち二人で止めるぞ!」
俺たち二人は、アーケームへ立ち向かう。
「ナギサは奴からもっと距離を取れ! 周囲の敵スペイゼにも警戒!」
「りょ……了解しました」
ナギサの悔しそうな声が聞こえる。
ザッシュ機には副団長の指示で、副団長の副官であるナギサ・ベイクが搭乗していた。
「どういうことだい? 噂の雪機士と殺るのを楽しみに、わざわざここまでやってきたってのに……」
「悪いが、あんたの相手は俺たちだ」
俺は言い放つ。
「お姫様相手に、ふたりがかりでマナーもなっちゃいないけどな」
レイカーが口にする。
「ハッハッハー!!!」
お姫様の笑い声が聞こえる。
「いいねいいね~。ふたりがかり大歓迎さ! 雪機士もいただきたいが、目の前の活きがいい機士も、ほおっておけないね~。ジャンタ、キャンダル。邪魔なのを近づけるんじゃないよ」
少し離れた場所には、アラゴのスペイゼであるカジスタが2機旋回していた。
「なめるな!」
スピーカーから聞こえてきたのはジャマールの声。一緒に同じアロンゾのオハジキであるライマ機。2機のオハジキが、アラゴのカジスタ2機へ向かっていく。
「ジャマール! ライマ! 深追いするなよ!」
「「はい!」」
先に、レイカーのパラムスが動いた。俺はその背に隠れてレイカーの動きに合わせる。
先にレイカーが打ち込み、タイムラグの連続攻撃を仕掛けると思わせる。
だが実は、俺のパラムスなら一瞬でそのタイムラグの距離を詰められる。それによって、ほぼ同時に左右からの攻撃を仕掛けるつもりだった。
レイカーはアーケームの左側を。俺は右から。俺たちふたりのソードを同時に打ち込む。タイミングはドンピシャだった。
だが、攻撃が入る瞬間、アーケームのソードが横一線に振られる。
パシィーン!
「くぅ……!」「おいおい……」
俺たちふたりの攻撃が、そのひと振りで弾かれた。
すぐに機人の体勢を整える。
「なんだい。あんたらもその程度かい? 確かに他の奴らに比べたら違うようだが……。あんたらの力と言うよりも、機体の力だね~。言っとくけど、そんなんであたしに勝てるなんて思っちゃいないだろうさ……。じゃないなら……もう終わらせるよ」
――もう終わらせるよ――。
その声が聞こえた瞬間、アーケームから溢れでる赤いオーラの色が濃くなる。
――化け物――。
俺は、自分のオーラを練り直して攻撃に備えた。
アーケームからの攻撃をレイカーと合わせて、2体がかりで同時に受ける。一人で受けていたなら間違いなく機人が持たない。だが、確かにお姫さんの言う通りだ。さやかが強化してくれたこの機体だからこそ、この攻撃を受けて耐えることができた。
レイカーのパラムスからは、オーラの光が漏れ出ている。
レイカーが単機で、ギリギリの所で距離を測りながらアーケームに近づく。相手を牽制しながらだ。もし、距離を間違えたら、一瞬で奴の間合いに入って切断されるだろう。
レイカーは、強化した機人を俺より上手く扱えていた。レイカーは間違いなくいつもより「やれている」いつもよりも集中して機体を動かせている。
情けないのは俺の方だ。本来ならこの機体の方が、さやかのコーティング効果が高いはずなのに......。
俺たちは、防御から攻撃に移ろうとするが、お姫さんはそんなスキすら与えてはくれない。
「そらよ!」
ムーン・ドレイク・アラゴ。
「はいやー!」
アラゴ帝国第四王女の掛け声が響く。
「ハッハッハー!」
ムーンの声は、叫びと笑い。雄叫び……。まさに、闘いを楽しんでいた……。
一撃一撃が、速く鋭く。そして重い。終わらせると言っておきながらも、俺たち相手に手を抜いているのがわかった。
「ハァっ! なぜ……手を抜く……」
俺の声ではなく、レイカーの声だった。
その声でわかる。レイカーは心の底から怒りを感じている。
アーケームが攻撃を止めて距離を取った。
「勘違いするんじゃないよ」
静かなムーンの声がした。
「あたしはね、素材を一番美味しくいただく主義なんだよ」
「なん……だと……」
俺は声を出す。
「あんたたちは、あたしが打ち込むたびに強くなってるじゃないか。そうじゃないと、あたしの打ち込みにここまで耐えきれるもんじゃない。この先に美味しくいただける男たちがいる。叩けば叩くほど美味くなる男さ」
「ふざけてんじゃねぇ!」
俺は言い放つ。
「ハッハッハー! でも、これくらいが限界かね。それじゃ……本気で終わらせるよ」
ムーンがそう言うと、アーケームから溢れ出るオーラが収縮していく。だが、オーラの色は益々濃くなり細い線のように変化した。
(なんだ? このオーラの濃度は……。攻撃を受けきれるか……)
――大丈夫――。
さやかの声が聞こえたような気がした。
落ち着け……。今までのオーラの練り方じゃ、この機人の性能を生かしきれない。俺はレイカーのように、器用にオーラを使えはしない。レイカーのマネをしようとするな。一回全て忘れろ……。
俺は、機人に対して生成していたオーラを一旦解除する。
「なんだい? やる気をなくしたのかい……」
「アキト!」
俺のパラムスから、オーラが消えたように感じたのだろう。レイカーの叫び声が聞こえた。
機人を巡っている配管を意識しろ! さやかが強化してくれた、さやかがコーティングしたオーラの跡を感じるんだ。1本1本薄くでいい。さやかのオーラに乗せて、繋ぎ合わせて接続するんだ。それに……。
(俺のオーラを流すんだ!)
「アキトー!」
また、レイカーの叫ぶ声がした。
「買い被り過ぎたか……」
ムーンが口に出し、アーケームが俺に向かってくる。
レイカーのパラムスが、それを止めようと間に入り、ソードをアーケームに打ち込む。
ケリーのソードは、アーケームの頭部に当たったかに見えた。だが、それはアーケームの残像ですぐに消え去る。
アーケームはレイカーの背中、お互いに背中を合わせるような位置に再び現れていた。
「まだだ!」
レイカーのパラムスが横に半回転する。
「あたしのマネかい? 一回見ただけでよくできたね!」
今度はレイカーのソードがアーケームの背名を襲う。レイカーの一撃がアーケームの背に迫る……。
「でも、まだだね」
レイカーのソードが空を切る。またしても、残像だった。
「いいよいいよ~。あんたに関しては予想以上だ!」
ムーンが歓喜の声を挙げる。
アーケームは、残像を作りながら俺に迫ってくる。
「でも……あんたに関しちゃガッカリだよ……」
眼の前に現れたアーケーム。そしてすぐに消える残像。
どこから来るのか? 左右じゃない……。
(……上だ!)
ソードを頭部の上へもっていく。
「アキト!」
レイカーが叫ぶ。
ガチーン!
「なんだって!」
次にムーンの声が聞こえた。
俺は、上空から振り下ろされたアーケームのソードを受けていた。
そして、自分のオーラを開放して、限界まで練ったオーラをさらにソードへ流し込む。
俺のオーラと、ムーンのオーラが、ソード上で当たり反発する。
そのオーラはまるでオーロラのような流れを作り、周囲へと流れた。
「ハッハッハッ……。あんた......あたしのこの攻撃を受けたね。驚いたさ……」
「まだだ!」
この瞬間、俺のオーラが俺の全身から零れでたように感じた。
(まだここから……!)
「ギイィァァーーー!!!」
突然、怪獣が鳴くような音が響いた。
「「「!!!」」」
「やめな! それ以上は! あたしはあんたを殺したくは……」
俺のオーラが止まらなく流れる。さやかのオーラ。いや何かに吸い出されそうに……。
「キイィァァーーー!!!」
また、怪獣の鳴く声がする。さっきよりかん高い声......。
アーケームの頭部、口が開いている。機人の叫ぶ声。さっき聞こえたのは俺のパラムスの声だったのだろう……。まるで……怪獣が謳うような……。
「「ギ(キ)イィァァーーー!!!」」
2体の機人が謳いあっている......。
「チッ! アーケーム! あんた!いい加減におし!」
――パリーン!――。
今、俺の身体の中で、ガラスが割れるような音がした。だが、俺から零れ出るオーラは止まらない。
「アキト!」
レイカーの声とともに、俺のパラムスはアーケームから強引に引き離された。
眼の前のアーケームも後方へ下がる。
レイカーのパラムスが、俺に体当たりをしてアーケームから強引に引き離したのだ。
「正気になれアキト!」
「大丈夫だ……レイカー……俺は……」
俺は、半分朦朧としながらも返事をする。
「大丈夫じゃない! 自分のパラムスを良く見ろ!」
レイカーの言葉に、俺は自分の機人を見た。
いたる所の装甲が剥がれている。残っている装甲にも損傷が見えた。
何よりもソードの損傷が酷い。今にも折れそうだった。
俺は、前方の離れた位置にいるアーケームを見る。
「クソっ!」
俺は、悔し気に声を出した。
「嘆くんじゃないよ。あたしは十分満足だ。少なくともこの空域に、わたしと戦える奴がいるとわかったからね。それも二人もだよ……」
ムーンが優しく呟く。
「あとは……。ん?」
ムーンの話しが途中で止まる。
(なんだ?)
そのとき……戦場の空気が変わったのを感じた。
ムーンの「それ」を悟ったかのように、アーケームの頭部も左右に振られる。
「なんだい。これは?」
俺も、つられるように周囲を見た。
「これは......いったい」
レイカーの声だった。
空域の中で次々と被弾している敵船。
シャルメチア・アラゴの両船隊が混乱している。
いつのまにか……アルパチア軍が攻勢に転じていたからだった。
アーケームのフォルムが、だんだんと大きくなる。
だが、こちらへ向かってはいるが……俺たちにじゃない!
アーケームが狙っているのは……。
「レイカー!」
「わかってる!」
2体がかりで、ザッシュ機の正面に回った。
ザッシュ機に一直線で向かって来るアーケーム。
俺たちは、手に持つソードにオーラを集中させ、アーケームからの攻撃に備える。
アーケームは速度を落とさずに、俺たちに正面からぶつかった。
今までに味わったことのない力。ザッシュ副団長との立ち合いでも経験したことがない凄まじい衝撃だった。
アーケームが持つ片手ソードが、俺たち2体のソードに触れた瞬間。その衝撃により、俺たち2体のパラムスは左右に吹き飛ばされた。
その瞬間に声が響く。
「ハァ~ハッハッハ~! わかる、わかるよ~。お前らはあのときの二人だね~。感じ方が一緒だよ!」
『あの女』の声が聞こえる。近距離で戦闘する場合、お互いのオーラの質が合わさると、共鳴してスピーカーから意思疎通が可能になる場合があった。詳しくは解明されていないが、戦場ではよくあることだった。
「ハァ~。出てきてすぐに、目当ての3人に会えるなんてね~♪」
その言葉を聞いて、俺は以前、誰かから聞いた話を思い出した。
――アラゴの『狂い姫』は、なによりも闘いを望む。より強い相手との闘いを――。
(……やはり……まずいか)
吹き飛ばされた俺とレイカーは、再びザッシュ機への援護に回ろうとする。
アーケームの機体からは、溢れ出るオーラが見えた。通常ならありえない赤い色のオーラ。それだけオーラの質と、量が常軌を逸しているからなのだろう。
アーケームの特徴はもう一つある、それは指の本数だ。
機人の指の本数は、それだけで機人の『格』を表している。パラムス4本に対して、アーケームの指は6本。
『6本指』のその手にはソードが握られている。ソードからも立ち昇るオーラが見える。その色は……燃えるように赤い。
「「「!!!」」」
そのとき、一体のパラムスが、アーケームの下方向から割り込んできた。
そのパラムスのスピードは速く。打ち込むソードの角度はアーケームの背中、下方向からで死角になる。
(いける!)
そう感じた瞬間、アーケームがまるで子どもが遊ぶコマのように、横に半回転した。
「な……に」
俺の声ではなく、レイカーの声がスピーカーから漏れてきた。
アーケームはその一瞬の動きのあと、下からせりあがって来たパラムスをそのまま横に切断する。
「おいおい……こりゃ……なん……」
聞こえてきたのは、ゲセロ・リークン隊長の声だった……。
眼の前で、真っ二つに切断されたパラムスは、地上へ落下していく。
アーケームはそのまま横に反転して進み、ザッシュ機に向かってソードを振り下ろす。
「ナギっ……!」
俺は一瞬声を挙げたが、ザッシュ機は手に持つソードで、アーケームの打ち込みを受けていた。
「チッ! さっきの奴で、オーラが引っ張られて威力が落ちたのかね? でも……」
ザッシュ機が、急ぎアーケームから離れて距離を取る。
「どういうことだい? こんなのが噂の雪騎士? 拍子抜けもいいところさ」
アーケームから、落胆の声が聞こえてきた。
「いや、違うね。あんた……噂のザッシュ・マインじゃないね?」
「「「!!!」」」
背筋が寒くなるような女の声……。
「レイカー! 俺たち二人で止めるぞ!」
俺たち二人は、アーケームへ立ち向かう。
「ナギサは奴からもっと距離を取れ! 周囲の敵スペイゼにも警戒!」
「りょ……了解しました」
ナギサの悔しそうな声が聞こえる。
ザッシュ機には副団長の指示で、副団長の副官であるナギサ・ベイクが搭乗していた。
「どういうことだい? 噂の雪機士と殺るのを楽しみに、わざわざここまでやってきたってのに……」
「悪いが、あんたの相手は俺たちだ」
俺は言い放つ。
「お姫様相手に、ふたりがかりでマナーもなっちゃいないけどな」
レイカーが口にする。
「ハッハッハー!!!」
お姫様の笑い声が聞こえる。
「いいねいいね~。ふたりがかり大歓迎さ! 雪機士もいただきたいが、目の前の活きがいい機士も、ほおっておけないね~。ジャンタ、キャンダル。邪魔なのを近づけるんじゃないよ」
少し離れた場所には、アラゴのスペイゼであるカジスタが2機旋回していた。
「なめるな!」
スピーカーから聞こえてきたのはジャマールの声。一緒に同じアロンゾのオハジキであるライマ機。2機のオハジキが、アラゴのカジスタ2機へ向かっていく。
「ジャマール! ライマ! 深追いするなよ!」
「「はい!」」
先に、レイカーのパラムスが動いた。俺はその背に隠れてレイカーの動きに合わせる。
先にレイカーが打ち込み、タイムラグの連続攻撃を仕掛けると思わせる。
だが実は、俺のパラムスなら一瞬でそのタイムラグの距離を詰められる。それによって、ほぼ同時に左右からの攻撃を仕掛けるつもりだった。
レイカーはアーケームの左側を。俺は右から。俺たちふたりのソードを同時に打ち込む。タイミングはドンピシャだった。
だが、攻撃が入る瞬間、アーケームのソードが横一線に振られる。
パシィーン!
「くぅ……!」「おいおい……」
俺たちふたりの攻撃が、そのひと振りで弾かれた。
すぐに機人の体勢を整える。
「なんだい。あんたらもその程度かい? 確かに他の奴らに比べたら違うようだが……。あんたらの力と言うよりも、機体の力だね~。言っとくけど、そんなんであたしに勝てるなんて思っちゃいないだろうさ……。じゃないなら……もう終わらせるよ」
――もう終わらせるよ――。
その声が聞こえた瞬間、アーケームから溢れでる赤いオーラの色が濃くなる。
――化け物――。
俺は、自分のオーラを練り直して攻撃に備えた。
アーケームからの攻撃をレイカーと合わせて、2体がかりで同時に受ける。一人で受けていたなら間違いなく機人が持たない。だが、確かにお姫さんの言う通りだ。さやかが強化してくれたこの機体だからこそ、この攻撃を受けて耐えることができた。
レイカーのパラムスからは、オーラの光が漏れ出ている。
レイカーが単機で、ギリギリの所で距離を測りながらアーケームに近づく。相手を牽制しながらだ。もし、距離を間違えたら、一瞬で奴の間合いに入って切断されるだろう。
レイカーは、強化した機人を俺より上手く扱えていた。レイカーは間違いなくいつもより「やれている」いつもよりも集中して機体を動かせている。
情けないのは俺の方だ。本来ならこの機体の方が、さやかのコーティング効果が高いはずなのに......。
俺たちは、防御から攻撃に移ろうとするが、お姫さんはそんなスキすら与えてはくれない。
「そらよ!」
ムーン・ドレイク・アラゴ。
「はいやー!」
アラゴ帝国第四王女の掛け声が響く。
「ハッハッハー!」
ムーンの声は、叫びと笑い。雄叫び……。まさに、闘いを楽しんでいた……。
一撃一撃が、速く鋭く。そして重い。終わらせると言っておきながらも、俺たち相手に手を抜いているのがわかった。
「ハァっ! なぜ……手を抜く……」
俺の声ではなく、レイカーの声だった。
その声でわかる。レイカーは心の底から怒りを感じている。
アーケームが攻撃を止めて距離を取った。
「勘違いするんじゃないよ」
静かなムーンの声がした。
「あたしはね、素材を一番美味しくいただく主義なんだよ」
「なん……だと……」
俺は声を出す。
「あんたたちは、あたしが打ち込むたびに強くなってるじゃないか。そうじゃないと、あたしの打ち込みにここまで耐えきれるもんじゃない。この先に美味しくいただける男たちがいる。叩けば叩くほど美味くなる男さ」
「ふざけてんじゃねぇ!」
俺は言い放つ。
「ハッハッハー! でも、これくらいが限界かね。それじゃ……本気で終わらせるよ」
ムーンがそう言うと、アーケームから溢れ出るオーラが収縮していく。だが、オーラの色は益々濃くなり細い線のように変化した。
(なんだ? このオーラの濃度は……。攻撃を受けきれるか……)
――大丈夫――。
さやかの声が聞こえたような気がした。
落ち着け……。今までのオーラの練り方じゃ、この機人の性能を生かしきれない。俺はレイカーのように、器用にオーラを使えはしない。レイカーのマネをしようとするな。一回全て忘れろ……。
俺は、機人に対して生成していたオーラを一旦解除する。
「なんだい? やる気をなくしたのかい……」
「アキト!」
俺のパラムスから、オーラが消えたように感じたのだろう。レイカーの叫び声が聞こえた。
機人を巡っている配管を意識しろ! さやかが強化してくれた、さやかがコーティングしたオーラの跡を感じるんだ。1本1本薄くでいい。さやかのオーラに乗せて、繋ぎ合わせて接続するんだ。それに……。
(俺のオーラを流すんだ!)
「アキトー!」
また、レイカーの叫ぶ声がした。
「買い被り過ぎたか……」
ムーンが口に出し、アーケームが俺に向かってくる。
レイカーのパラムスが、それを止めようと間に入り、ソードをアーケームに打ち込む。
ケリーのソードは、アーケームの頭部に当たったかに見えた。だが、それはアーケームの残像ですぐに消え去る。
アーケームはレイカーの背中、お互いに背中を合わせるような位置に再び現れていた。
「まだだ!」
レイカーのパラムスが横に半回転する。
「あたしのマネかい? 一回見ただけでよくできたね!」
今度はレイカーのソードがアーケームの背名を襲う。レイカーの一撃がアーケームの背に迫る……。
「でも、まだだね」
レイカーのソードが空を切る。またしても、残像だった。
「いいよいいよ~。あんたに関しては予想以上だ!」
ムーンが歓喜の声を挙げる。
アーケームは、残像を作りながら俺に迫ってくる。
「でも……あんたに関しちゃガッカリだよ……」
眼の前に現れたアーケーム。そしてすぐに消える残像。
どこから来るのか? 左右じゃない……。
(……上だ!)
ソードを頭部の上へもっていく。
「アキト!」
レイカーが叫ぶ。
ガチーン!
「なんだって!」
次にムーンの声が聞こえた。
俺は、上空から振り下ろされたアーケームのソードを受けていた。
そして、自分のオーラを開放して、限界まで練ったオーラをさらにソードへ流し込む。
俺のオーラと、ムーンのオーラが、ソード上で当たり反発する。
そのオーラはまるでオーロラのような流れを作り、周囲へと流れた。
「ハッハッハッ……。あんた......あたしのこの攻撃を受けたね。驚いたさ……」
「まだだ!」
この瞬間、俺のオーラが俺の全身から零れでたように感じた。
(まだここから……!)
「ギイィァァーーー!!!」
突然、怪獣が鳴くような音が響いた。
「「「!!!」」」
「やめな! それ以上は! あたしはあんたを殺したくは……」
俺のオーラが止まらなく流れる。さやかのオーラ。いや何かに吸い出されそうに……。
「キイィァァーーー!!!」
また、怪獣の鳴く声がする。さっきよりかん高い声......。
アーケームの頭部、口が開いている。機人の叫ぶ声。さっき聞こえたのは俺のパラムスの声だったのだろう……。まるで……怪獣が謳うような……。
「「ギ(キ)イィァァーーー!!!」」
2体の機人が謳いあっている......。
「チッ! アーケーム! あんた!いい加減におし!」
――パリーン!――。
今、俺の身体の中で、ガラスが割れるような音がした。だが、俺から零れ出るオーラは止まらない。
「アキト!」
レイカーの声とともに、俺のパラムスはアーケームから強引に引き離された。
眼の前のアーケームも後方へ下がる。
レイカーのパラムスが、俺に体当たりをしてアーケームから強引に引き離したのだ。
「正気になれアキト!」
「大丈夫だ……レイカー……俺は……」
俺は、半分朦朧としながらも返事をする。
「大丈夫じゃない! 自分のパラムスを良く見ろ!」
レイカーの言葉に、俺は自分の機人を見た。
いたる所の装甲が剥がれている。残っている装甲にも損傷が見えた。
何よりもソードの損傷が酷い。今にも折れそうだった。
俺は、前方の離れた位置にいるアーケームを見る。
「クソっ!」
俺は、悔し気に声を出した。
「嘆くんじゃないよ。あたしは十分満足だ。少なくともこの空域に、わたしと戦える奴がいるとわかったからね。それも二人もだよ……」
ムーンが優しく呟く。
「あとは……。ん?」
ムーンの話しが途中で止まる。
(なんだ?)
そのとき……戦場の空気が変わったのを感じた。
ムーンの「それ」を悟ったかのように、アーケームの頭部も左右に振られる。
「なんだい。これは?」
俺も、つられるように周囲を見た。
「これは......いったい」
レイカーの声だった。
空域の中で次々と被弾している敵船。
シャルメチア・アラゴの両船隊が混乱している。
いつのまにか……アルパチア軍が攻勢に転じていたからだった。
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2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
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