ー ドリームウィーヴ ー 異世界という夢を見た。現実世界人と異世界人がお互いの夢を行き来しながら戦います!

Dr.カワウソ

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第三部 鏡の表

45.原子力教団(2)メルトダウン

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 ――原子炉で……一番起こしてはならないのは……メルトダウンだ。それをここで起こすとしたら?――。

 遠藤が、唐突にそう言った。

「メルトダウンだと……本気か?」

 代田は遠藤をにらみつける。教団に潜入する前、ある程度の原子力に関する知識は頭に入れていた。メルトダウンとは、炉心ろしんの温度が上昇して核燃料が融解ゆうかい。圧力容器の底に溜まること。その結果による放射能漏れは、多大な被害を付近一帯に及ぼすことになるのだ。

「こんなところで……。都心でそんなことになってみろ。日本はとんでもないことになるぞ」
「クククッ」

 代田がそう言うと、横で見ていた蛭間がこらえきれないように笑った。

「いくらなんでも、本気でやるわきゃねぇだろう」
「そ、そうなのか……。てめぇ!」

 代田は、蛭間の言葉に半分ホッとしながら、半分頭にきていた。

「たしかに冗談だ」

 遠藤も、蛭間の言葉に追随するが、それに付け加えるように口を開いた。

「だが……こんな場所で小型とはいえども、原子炉を作るような新興宗教の教団は、とても普通とは思われないだろう。違うか?」

 それはそうだ。今の時点でこいつらは、十分異常だと代田も思う。

 遠藤は、小型の原子炉が貯蔵されている建屋を見下ろしながら、話を続ける。

「そんな連中が『メルトダウンを起こすぞ』と言えば、この現場だけでなく、政府も混乱する。しばらくは手出しできんさ。その状況下、この場から逃げ出すのも不可能な話じゃない」
「お前ら……本気で言っているのか?」

 だとしても、国はメンツにかけてこいつらを追い続けるだろう。逃げ切るのは難しいと、代田は思った。

「面白い奴を連れてきたじゃねぇか」

 下からカン高い声がして、タラップを上がってきた男がいた。

 それは、高い声で長髪の金髪。前回代田がここに潜り込んだとき、遠藤と話をしていたトモーラ側近の一人、益富ますとみだった。トモーラとは大学の同期で同じ学部。教団では原子力研究の責任者。なので、実質的な原子炉製造にたずさわっている。

「益富。こいつはトモーラが殺さなかった男だ。それにトモーラのオーラも見ている。どうやら、こちら側の人間のような気がするな」

 遠藤がそう言った。

「だからここに連れてきたのか?」

 益富は、呆れたような顔つきをしてそう言う。

「あぁそうだ。それにマリーが、なぜか興味を持っていただろう。思い出したので連れてきた」

 遠藤は代田のいるほうを向いている気がしたが、実は見ているのは彼のうしろ側だった。代田もそれに気づいて、うしろに振り向く。

 そこには、前回この同じ場所で出会った、緑色の瞳をした女が立っていた。

 いつの間にいたのか、代田にはまるで気がつかなかったのだ。

「マリー。こいつはお前にやるから好きにしろ」

 蛭間がそう言い放った。

 ――なぜ、お前が言う……。と、代田は心の中で蛭間に突っ込む。

「益富。終わったのか?」

 遠藤が低い声で益富に問いかけると、彼はスッキリした表情で話しだす。

「あぁ……もうここですることは何もない。あとはこの国の連中が、好きかってに帳尻合わせをするだろうさ。とは言っても……都心の原発だからな。想像するだけでも面白いことになる」

 それを言って、益富はニヤ笑いをした。

「てめぇ!」

 代田は、楽しそうに話す益富に対して怒りを覚える。彼の怒る姿を見て、益富はさらに笑う。

「ハハハッ。知らないようだから教えといてやる。この原子炉の設備は、世界中にあるどの原子炉よりも安全だ。細かい説明は、面倒だから省くがね。とにかく、あんたが怒鳴るほどの危険性はないから安心しなよ」
「そういう問題じゃねぇ!」
「黙って……」

 代田は、突然聞こえたその声の方向に顔を向ける。

「あなたがこの原子炉をどうとらえるかは、私たちには関係ないのよ」

 緑色の瞳を持つ女性……前回出会ったときには、顔立ちからハーフだと感じたが、声をよく聞くと日本語のイントネーションはネイティブだ。その表情は、不自然なほど無表情に感じる。

「さて……それでは、終わりにするか」

 遠藤はそう言うと、壁際に向かう。その遠藤の歩く背中を見ながら、蛭間が口を開く。

「益富。手筈てはずはどうだ?」

 話しかけられた益富は、いたずらっ子のような目つきになった。

「完璧だ。原子力規制庁のやつらが呆れるくらい、安定した状態で渡してやる。内藤を送り込んだ奴らも、それで安心するだろう。まぁそれもあいつの計画だからな……」

 ガーガーガガ――♪

 益富の話が終わった瞬間、どこかでスピーカーの音が鳴った。

 周りを見ると皆の目が、壁際にいる遠藤のほうを向いている。遠藤の手にはマイクが握られていた。そのマイクは旧式に見える。まるで学校でそのまま使われていたような、古いマイクだった。

 遠藤は、マイクに向かって話しだす。

『……我が教団周辺にいる国家権力及び、マスコミ、それと周辺の方々に告げる……』

 遠藤の低い声は、マイクを通じて館内スピーカーからも聞こえてくる。代田が推測するに、この声は校舎どころか屋外にも、校庭のスピーカーを通じて聞こえているだろう。

『……我ら、光のバシュタ教団は、教義に従って原子力エネルギーの研究を行った。そのため、秘密裏にこの場所に原子炉を建設し、現在は稼働状態にある。我々の研究は、この先人類の未来を考える上で、必要不可欠なものだった。だが……残念ながらこの国の権力者にとっては、面白いものではなかったらしい。……我々は本日、この国によって潰される。とは言え、あまりにも無抵抗では、援助してくれた方々にも申し訳がたたない。そこで……今より原子炉の冷却機能を停止させることにした』
「おまえら……」

 代田はそうつぶやき、益富や蛭間、マリーと呼ばれた女を順番ににらみつけた。マリーは無表情だったが、益富と蛭間は、遠藤の演説を楽しそうに聞いている。

『冷却が止まるとどうなるのか……。ぜひ、政府の方々には想像力を働かせてもらいたい。我らとしては、周囲の民間人を避難させることからはじめるべきだと推奨する。ぜひ国民を守る政府を見せてほしい。それでは……』

 ブツッ!

 スピーカーから、音が切れる音がした。

 益富が、笑い顔のまま話し出す。

「よし! それでは終了だ。楽しかったけど辛かったな。悲しいこともあったが、達成感もある」

 四人は、向かい合って微笑んでいる。マリーの表情にも、幾分かの笑みが見て取れた。代田は、違和感を感じながらそれを見ている。

 ――なんだ? 4人を囲むこの雰囲気は? これではまるで……。

 代田は息をのむ。政府に対して宣言したセリフは、テロリストのものになんら変わりない。だが、彼らが醸し出すこの雰囲気は、まるで……。

 ――まるで……正義の味方のようではないか。

「これで……この国は免れるだろう」

 さらに益富が口にする。

「おい待てよ! お前ら何を言ってやがる」

 代田は「正義は自分たちのはずだ」と思っている。だが自分の心で感じた違和感を、4人に向かって叩きつけるように叫んでいた。

「この国が助かるだと? お前たちのやってることはメチャクチャだろう? 人を殺して教団を作って、国家権力に逆らって、都心に原子炉作って大臣暗殺して、その挙句が……メルトダウンだと! ふざけやがって!」

 もう……何が何だかわからなくなるほど、代田の頭は混乱していた。それでも自分を見る、4人の表情は冷静だった。

「あぁ~。そりゃそうだよなぁ~。やっぱり、部外者から見たらそうなるよな。でも、まぁ……なぁ……」

 益富の代田を見る表情は、しょうがないものを見るような顔つきだった。その顔を見て代田は気づく。

 ――まて? こいつらの目的●●はいったいなんだったんだ?

 代田は周りの4人を一人ずつ、順に見つめながら考える。

 トモーラが、騒ぎの中心となっているのは間違いない。トモーラとこいつらは同じ大学だ。そこで北畠恵から原子力工学を学んでいた。その結果がこの原子炉だ。そこは繋がる。だが……トモーラは恩師である北畠恵を殺し、その夫である大臣まで殺した可能性がある。

 原子炉を作るのに邪魔だから殺した? それとも、何か知られてはならないことを知られたから? いや、そうだとしたら課長が何かつかんでいるはずだ。

 代田は、瞬時に自分の頭の中で考えた疑問を口にする。

「お前らの……『本当の目的』はなんだ? これほどの期間と、事件を起こしてでもやる必要があった本当の目的だ!」

 代田の言葉に、4人の目線が彼に集まる。

 彼にとっては謎が多すぎた。だが一番の謎はトモーラ自身なのだ。「オーラなんて、わけのわからないもので人を殺せる存在……」代田はそう心の中でつぶやいた。

 そして、再度口に出してつぶやく。

「オーラで人を殺せるあいつ……。!!!」

 代田はその瞬間、昨日病院の屋上で聞いた、アキトとトモーラの会話を思い出した。

 ――あんたが本当に神官なのだとしたら、この『飛ばせるオーラ』の理屈がわかる――。

 そして代田は、アキトとトモーラが消えた光景と、頭のスミに放り込んだ遠藤の言葉……も思い出す。

 ――やめろ蛭間。お前もトモーラから聞いたはずだ。加治をやった男はオーラが使える『あの世界』の住人だと)――。

 彼は、地面を見つめながら考える。

 そして代田は、自然と一つの結論を口にした。

「そもそも奴は……この世界の人間じゃない……のか……」

 彼はそう言葉にしていたのだ……。

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