ー ドリームウィーヴ ー 異世界という夢を見た。現実世界人と異世界人がお互いの夢を行き来しながら戦います!

Dr.カワウソ

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第三部 鏡の表

42.天核珠

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 ――さやかは……自分の心に詰まっていた思いを言い切ったのだ――。

 さやかの思いを聞いた代田は、優しい声で彼女に告げる。

『……なぁに、あんなことがあったんだ。忘れてしまいたいと思うのは当然のことだろう。俺こそ……大臣を守れなくてすまない』
「いえ……それこそ代田さんのせいではありません……。ちゃんとお会いしてお礼を言いたいのですけど、今はどちらに?」
『――――』

 さやかの問いかけに、代田の声は一瞬途切れたが、すぐに返事が返ってくる。

『……あぁすまないが、実は慌ただしくてそれどころじゃないんだ』
「えっ、慌ただしい?」

 代田のその声に、さやかはたしかに電話の向こうがなにか騒がしいと感じる。

『ん? そうだな……病室にテレビがあったろう。つけてみてくれ』
「はい……」

 代田のお願いにさやかは答えると、棚に置いてあるテレビのリモコンを手に取った。そして首をかしげながら、テレビに向かってスイッチを押す。

 テレビがついた瞬間、画面の中で大勢の警官隊や、機動隊と思われる集団が映し出された。その様子は、大きな敷地の周囲を取り囲んでいるようだった。

「代田さん……これって?」

 さやかは驚き、電話越しに聞く。

 ガチャ!

 病室の扉が開く音がした。アキトが振り向くと将人が立っており、病室に入ってくる。たしかに機嫌が悪そうに見えた。

「兄さん」

 さやかも振り返りながら、そう口にした。

『もしもし? 将人さんが来たんだな。実は今からバシュタ教団本部へ突入だ』
「えっ! 突入って? ちょっと代田さん!」

 代田の発言に、さやかはあっけにとられるが、彼は続けて言い放つ。

『詳細はお兄さんから聞いてくれ! 終わったら会いに行くよ。それじゃ』

 ブツッ♪

 電話が切れたようだ。

 代田の声は、携帯から漏れてアキトにも聞こえていた。

 さやかの表情は、まだあっけに取られていたが、将人に向かって口を開く。

「兄さん。代田さん今から突入するって……」

 将人は、テレビをにらみつけながら言う。

「見てのとおりだ。バシュタ教団に対する、警視庁の強制捜査がこれから行われる。罪状は、北畠総務大臣暗殺容疑と……」

 将人がそう言ったとき、テレビ画面の端のほうに何か全身を包むような、白い服を着た集団が目に入った。それを見てさやかはつぶやく。

「兄さん。あれって……。まさか、防護服……」
「そうだ。代田さんが潜入してつかんだ小型原子炉の情報、それによる原子力規制法違反の容疑だ」

 将人は不機嫌な顔のままで、そう言った。

「じゃ、叔父さんも?」
「もちろんだ。それと……さやかには、話しておかなければならないことがある」

 将人はさやかをジッとにらみつけたあと、アキトのほうも見た。

「さやか、俺は外に出ていよう」
「あっ、えぇと……」

 さやかは、躊躇している様子を見せた。妹の姿を見て将人は言う。

「アキトだったな。貴様もここに居ろ。叔父や代田さんからは、ある程度聞いている。貴様はこの事件の重要なファクターだとな。それと……」
「それと?」

 アキトは、将人の視線から目を離さずに聞き返した。

「貴様は敵ではないとな」
「兄さん……」

 将人の言葉に、さやかは「ホッ」としたようにつぶやく。

「いくらなんでも妹と叔父。そして、妹を助けた過去をもつ、代田さんの命を助けた人間を信用しないわけにはいくまい。だから……貴様はここにいてくれていいんだ」

 将人は相変わらず、機嫌が悪そうな表情をしていたが、自分に言い聞かせるようにそう言った。

 ――不器用な人だな。この人は……。

 アキトは、心の中でそうつぶやく。

「はい。わかりました」

 そして、微笑みながら素直に答えた。

「兄さん……」

 さやかの安心したような声が、また病室にこだました……。



「トモーラが屋敷から逃走した際、書斎からあるものだけが持ち去られている」

 将人は、アキトとさやかから少し離れた場所に座り、話しはじめた。

「ある物? あの部屋には、昔から家にある書物くらいしかないけど、母関係の物だってあの部屋にはないわ」
「神棚があっただろう」

 将人の言った「神棚」に、さやかが「ん?」という表情をした。

「たしかにあったわね。昔から見ていたから、特に不自然には感じなかったけど……それがなにか?」

 アキトも神棚を知っている。この国の神に対して、感謝を伝える場所だったはずだ。以前仕事でお世話になった親方の家にもあった。お邪魔した際に、神棚に向かって大きく柏手かしわでを打っていたのを覚えている。

 将人は話を続ける。その表情には、いつもの不機嫌さが表れていた。

「神棚には、これくらいの箱が二つ置いてあっただろう」
 
 将人は自分の手で、箱の大きさを表している。おにぎりくらいの大きさだ。

 それを見てさやかは、思い出したように答える。

「そう言えば、あったような……。でも、あの神棚はお祖父じい様が生きていた頃から、触れるのを禁じられていたから……」
「そうだ。俺は子供の頃に触れて、こっぴどくじじぃに叱られた覚えがある。だが俺は18歳のとき、母が亡くなる前にだが、見せてもらったことがある」
「えっ! でも、すでにお祖父様は亡くなっているわよね。父に?」

 将人の告白に、さやかが驚く声をあげた。

「いや……母にだ」

 さやかは続けて、驚くような表情を見せた。

「どうしてお母さんが……。待って、意味がわからないわ。なぜ他家から北畠に嫁いで来た母が、北畠の神棚を? 父ならまだわかるけど……」
「ふぅー……」

 さやかがそう言うと、将人は口から大きく息を吐いたが、一瞬考え深い表情をしたあと話しだした。

「あのときの事は忘れられない。父が家にいないときに書斎に入ると、母が一人でそこにいて、神棚から二つの箱を降ろしていたところだった。俺はその光景に驚いたが、母は俺の方を見ると「フッ」と笑ったんだ」
「笑った?」

 さやかは「なぜ?」という感じで言った。

「あぁ。そのときの母の顔ははじめて見る表情だった。まるで俺を......他人の子どもでも見るように笑ったんだ……」
「他人の子を見るようにって?」

 さやかは「まさか……」という感じでつぶやく。

「あぁ……。俺はその母の雰囲気に呑まれて、何も言えなかった。母は、俺の見てる前で箱を開けた」
「中身を見たの?」

 さやかは、興味深そうに兄に聞く。

「あぁ、二つの箱の中には、両方とも水晶に似た透明な塊が入っていた。何より目に焼き付いているのは、水晶の中心から放射状に光を放っていたことだ。その光は水晶の中だけで広がり、外には漏れず、弾けるように光り輝いていた」
「それは……何なの?」

 将人の説明に、さやかは答えを求める。

「俺にもわからん。だが母は……間違いなく本当に母だったのだが……なぜか話す口調だけは、いつもと違った。」
「口調って?」

 将人は思い出すような口調で、当時のやり取りを話しだした。



 光り輝く塊を見ながら二人は会話をはじめる……。

「あの家では、昔からこの石を『宝珠』と呼んでいた」(恵)
「母さん......あの家ってどういう意味?」(将人)
「北畠と楠木、両方の家のことだ。片方は私が家から持ってこさせられた物だ」(恵)
「持ってこさせられたって……どうして同じ物が?」(将人)
「600年以上前に、両家の者が護良もりよし親王しんのうからたまわったのだそうだ」(恵)
「護良親王……」(将人)
「それよりも、この宝珠の本当の呼び名を教えてやろう。私もある者から教えてもらっただけだが」(恵)
「本当の呼び名?」(将人)
「『天核珠てんかくじゅ』」(恵)
「『天核珠てんかくじゅ』?」(将人)



「ふぅー……」

 将人は話を終えると疲れたのか、また口から息を大きく吐いた。

「その後、母は宝珠を神棚に戻して書斎を出ていった。言えるのはここまでだ」

 病室の中は、一瞬の静寂に包まれていた。だがそのとき、アキトの心の中は混乱していた。

 ――ちょっと待て! 『天核珠てんかくじゅ』今、天核珠って言ったか?

 彼はそのとき、頭の中で聞いた呼び名を繰り返す。

 その横で、さやかはまだ意味がわからないように、将人に問いかけた。

「いったい母さんはなにを……でも、その宝珠をトモーラが持ち去ったのね……ん?」

 さやかはアキトのおかしな様子に気づいた。そして彼に問いかける。

「アキトさん、どうかしたの?」

 さやかにそう問いかけられても、彼はまだ固まっている。

 ――なぜだ、どうして……。

「アキトさん!」
「あっ……」

 さやかの強い声に、アキトは「ハッ」と気づく。そして口を開いた。

「将人さん。お母上は、たしかに『天核珠てんかくじゅ』と言ったのですね?」

 アキトは、将人に強く問いただす。

「あぁ……間違いないが……」

 将人は答えると、不思議そうな顔でアキトを見た。

「アキトさん、何か知っているの?」

 さやかは自分で聞いてから「ハッ!」と気づく。彼が知っているとなると……。

 アキトは小さく「ボソッ」とつぶやいた。

「オーラ核だ……」

 さやかは彼の言葉を聞いて、一瞬固まる。

「えっ! オーラ核ってたしか、機人を制作する上で最重要な制御パーツじゃ……」

 さやかは、アキトの世界で聞いたことを思い出していた。

 ――機人の各駆動部を制御するところのシステム、人間でいうところの『脳』にあたる部分――元となる素材は生物の『核』だ――。

 さやかは将人には聞こえづらい小さな声で、アキトに聞いてくる。

「そうだ。だが……まさか、ありえない……」
「おい! 俺にも聞こえるように話せ」

 アキトの驚くような声に、将人は椅子から立ち上がり大きな声で叫ぶが、彼は心の中でつぶやいていた。

 ――そんな、天核珠なんて昔話の中だけで、実際に存在するのかもわからないものだ……。

「アキトさん?」

 さやかは、心配するように彼の名を呼ぶ。それくらいアキトの様子はいつもと違って見えたのだ。

「天核珠とは……」

 アキトは、将人が近くにいるのも忘れて口走る。

「天核珠とは『天帝』のオーラ核のことだ……」

 彼は力なく、説明するように告げる。

 ――天命によって生を終えた生物にだけ表れる物――。

 さやかはその意味を知り、驚きを隠せなかった……。
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