ー ドリームウィーヴ ー 異世界という夢を見た。現実世界人と異世界人がお互いの夢を行き来しながら戦います!

Dr.カワウソ

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第三部 鏡の表

38.さやかコーティングの効果

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 アキトとさやかが一緒に整備倉庫へやってきたので、ケリーは挨拶する。

「おはようございます。隊長、さやかさん」
「おはようございますケリーさん。昨夜はいろいろとごめんなさい」

 さやかがケリーに対して頭をさげるが、彼は首を横に振って答えた。

「いえ。別に気にしないでください。おかげで、パラムスの出力を上げる方法が見つかりましたから」
「どういう意味だケリー!」

 ケリーがいきなり言った話で、アキトがさやかの前に出る。その声からは、期待する空気が伝わった。

「昨夜、さやかさんがオーラコーティングを施した配管と、素材を再利用します」
「再利用? でもコーティングしても、3時間程度しかオーラがもたないって……」

 ケリーの話に、彼女は首をかしげながら疑問符を付ける。

「そうです。たしかに塗ったオーラそのものは消えましたが……」

 ケリーは言いよどむ。どうやって説明しようかと考えているのだ。

「ケリー! 詳しく説明してくれ」

 アキトが我慢できず、矢継ぎ早に聞いてくる。その姿を見て、ケリーは思い切ったように口にした。
 
「さやかさんのオーラはたしかに消えましたが、実は素材自体の強度が上がっていたのです」
「「!!!」」
「強度って……薬品や、焼き入れなどで行う処理と同じような?」

 さやかが、興味深そうに聞いてくる。

「はい。一般的には素材の強化処理を行う段階で、オーラを部分的に利用した方法をよく使います。ですがそれと比べても、さやかさんのオーラコーティング後のほうが、段違いに効果が高かったのです。朝倉庫にきて、なにげに確認してみて気づいたのですがね……」

「素材を見せてちょうだい」

 彼女が、興奮したように言う。

「これです」

 さやかはケリーから素材を受け取ると、それをまじまじと見つめる。だが、わからないような顔つきで彼を見返した。

「昨日教えたオーラミラールで確認してみてください」

 ケリーの言葉に、さやかは「あっ!」と思い出したように素材を見直した。

「あっ、そうか……えぇと、自分の眼にオーラを薄ぅ~く流して……と、あっ!」

 さやかは素材を見て、その効果に気づいたようだ。

「ケリー……。お前はそんなもんまでさやかに教えてたのか……」

アキトがジト目で彼を見る。その視線を感じて、ケリーは両手を腰にあて「やれやれ」というしぐさでアキトに告げた。

「昨日言ったじゃないですか。オハジキを1機整備したって。使えなきゃ、整備なんてできませんよ」
「……あれ、冗談じゃなかったのかよ……」

 ケリーの言い返しにアキトは「まじか……」と声をあげる。それが聞こえていないかのように、さやかは口を開いた。

「ケリーさん。素材の表面にスジのようなものが見えます。これはわたしが昨日、コーティングした指の跡だと思いますが……」

 さやかの言葉にケリーはうなずくと、返事をする。

「僕もそう思います。僕がコーティングしてもそのスジ跡は付きません。たぶん、長時間さやかさんのコーティングが、素材表面に固定したせいでしょう」
「わたしもそう思います。これは発見ですね」

 彼女の興奮した声に、アキトは言う。

「そうなのか? でも、さやかのオーラじゃないとダメなんだろ? 誰にでも行えることじゃないのなら……」

 アキトは、さやかがこの世界の人間じゃないことを知っている。彼女が処理した特別なオーラのこともある。この世界の人間が行えないのなら、それは「異質」な発見なのだ。

 アキトの問いかけに対して、ケリーが代わりに説明をはじめる。

「それはそうです。ですが、要はコーティングを持続させればよいのです。ならば、さやかさん一人で行う必要はありません。個人が持つオーラの質の問題はあるでしょうが、交代で素材表面のコーティングを維持し続ければよいのです。もちろん実験は必要で、実用化までにどれだけの時間がかかるかはわかりません。ですが、大きな発見であることにはかわらないのです」

 ケリーが言い終わると、さやかが嬉しそうに口を開く。

「先の話しはともかく、このパラムスの力がアップするのね……それなら」
 
 彼女は手に持っている素材に対して、自分の指を当てていきなりオーラコーティングをはじめた。

「さやか、なにを……」

 すでにコーティングの効果が表れている素材なのに、さやかが再度コーティングを行おうとした。なのでアキトはそう言ったのだ。それを聞いて彼女は、素材からは目を離さずに口を開く。

「この状態ですと、素材表面に見えるスジとスジの間の部分、そこの強度が薄いのです。これだと、表面が波打ってオーラを流したときに抵抗が生じます。抵抗を少なくするために重要なのは、素材表面が平らであること。平面度を上げるために、間の部分にもコーティングを行う必要があります」

 さやかが、決心したかのように言い切る。

「さやか、なにもそこまで……」

 アキトが彼女の腕をつかむが、彼女と目が合った瞬間に動きが止まる。その眼には、硬い決意が見て取れたからだ。

「大丈夫ですアキトさん……。もうコーティングのコツはつかみました。こんなの、ミクロン単位の調整に比べたら大したことはありません」

 さやかの言い分を横で横で聞いていたケリーは「ミクロン単位の調整作業って、どんな単位のことだろう」と疑問に思う。それと同時に、彼女のあの眼の決意を跳ね返すことは、アキトでも無理だろうとも感じた。それくらいの目力めじからだったのだ。

 アキトはゆっくりと、彼女の腕から手を離す。

「すまないさやか……」
「気にしないでください。わたしは、自分ができることを見つけられて嬉しいんです」

 ケリーは、一歩離れた距離からふたりを見る。言い出しにくい、そのふたりだけの世界で「ゴホン」と口にした。

「あの……邪魔して申し訳ないのですが……」
「「あっ!」」

 ケリーの咳払いに、やっとふたりがケリーのほうを見た。

「あの……僕よりも」

 ケリーは、ふたりからは見えない背中のうしろ側、倉庫入口に立っている人に目を向けてた。その者は、三人の目線が自分に集まると口を開いた。

「アキト……いくらなんでも、整備倉庫でイチャつくのは隊長として如何なものだろうか」

 そこにはレイカーが立ち、面白そうにニヤついていた。

「レイカー! いつからそこにいたんだ?」

 そう言うアキトの顔は赤くなっている。

「いつからって、その彼女のオーラが特別で、パラムスの力がアップうんぬんからだよ♪」
「あぁぁ~」

 アキトが、レイカーの側に近寄り話しかける。

「おいレイカー」
「なにかねアキト隊長」

 レイカーのアキトを見る目はいたずらっ子のようで、対してアキトは気まずそうな顔つきでレイカーをにらみつけている。

「まず、お前に言いたいことは……」

 バッ!

 レイカーが、右手を前に出しながらアキトに「待て」の動作を取る。

「彼女のことは、俺の深い心の奥に埋めてしまってもよい」
「ふぇ?」

 彼の言葉に、アキトの表情が一瞬で呆けたようになった。 

「隠したいんだろ?」
「お……おぅ……。マジか? そうしてくれるとありがたい……」

 続けて言ったレイカーの言葉に、アキトは安心したような表情になる。

「たぁだ~しぃ。もちろん条件がある」
「!!!」

 その言葉に、アキトはビクついた態度を取った。普段のレイカーは実直な性格で、アキト以外ではこんな砕けた口調にはならない。

「条件?」

 アキトはそう口にした。レイカーは彼から目をそらし、そのままさやかに目線を移していた。そして要求を口にする。

「あぁ、要はその素材の強化を俺のパラムスにも行って欲しい。それをしてくれたら俺は君のことを見なかったことにするし、なんの詮索もしない」
「おい、レイカーそれは……」

 アキトもレイカーからさやかに目線を移した。

 さやかは、二人のやり取りをなぜか微笑むように見ている。そして承諾する旨の返事をした。

「はい、承知しました。ですが、わたしがレイカーさんのパラムスを強化しにそちらの整備倉庫に行くと、ふくざつに面倒なことになるので、強化する部分の素材をここへ持ってきてくださいますか?」

 パチン♪

 さやかの返事に、レイカーは心地よく指を鳴らした。

「よし、問題ない! 交渉締結だ。今すぐに素材を持ってこさせる」

 レイカーは連絡するために、一旦倉庫の外へ出る。部下に素材をもってくるように、指示しにいったのだ。

 それからさやかは、ケリーと素材の選別に入る。その作業のうしろで見ていたアキトが、彼女の背中に向かって言う。

「すまんさやか……」

 アキトは、申し訳なさそうな表情でさやかにあやまった。彼にとっては、この世界の人間でない彼女に、そこまでさせる必要があるのか。それが申し訳ないと思ったからだ。でもさやかは「大丈夫です」と笑顔でうなずいた。

 レイカーはすぐに戻ってきた。

「アキト」

 レイカーは彼を呼ぶ。その目は先ほどとは違い、友人であるアキトに対して厳しい目つきだった。

「お前のパラムス1体が強化されたとしても、それだけで『アーケーム』に勝てるなんて思っちゃいないだろう?」

 レイカーの言葉を聞き、アキトは悔しそうな表情で彼を見返した。

 それを聞いたケリーは思う。レイカーの言っていることは正しい。いくらアキト隊長のパラムスが強化されたとしても『アーケーム』の性能には遠く及ばない。機体の性能差にはそれくらいの開きがあるのだ。わが師『ゲルマリック・プレイル』が、その生涯で作り上げた最高傑作、ゲルマリックシリーズ6体のうちの1体。師は僕に教えてくれた。あの機人のオーラ核は『赤龍』だと……。

 ケリーの目の前で、アキトとレイカーは話を続けている。

「アキト。苦労だろうが手柄だろうが、それは俺たちふたりで分けるべきだ。お前一人でやる必要はないし、手柄を独占させたくもない」
「……お前」

 レイカーはアキトにそう言った。それでもケリーは、強化したパラムス2体がかりでも、アーケームに相対するのは難しいと感じている。

「レイカー隊長」

 ケリーがその名を呼ぶと、レイカーは振り向いた。

「時間的にさやかさんにはアロンゾの中で処理を行ってもらいます。なので、素材はアロンゾに運んでください。アキト隊長も、自分のパラムスを先に積み込んでください。団長たちと、出立前の打合せがあるのでしょう?」
「あぁわかった」
「アロンゾ?」

 アキトの返事のあと、さやかは「アロンゾ」と口にする。知らない単語が出てきたからだ。その彼女の問いかけにケリーが答えた。

「アロンゾは我が隊のオーラ船で、駆逐船くちくせんです」
駆逐船くちくせんって……もしかしてわりと小さい感じ? それよりも大きな船もあるのかしら?」

 さやかはさらに問いかける。その呼び名が、彼女の世界での軍艦を表す呼び名に似ていたからだ。その質問にも同じくケリーが答える。

「ええと……。『駆逐船くちくせん』よりも大型の船を『巡洋船じゅんようせん』、さらに大きな船は『戦船せんせん』と呼びます」
「……う~ん。なんかその辺の呼び方は、『船』と『艦』が違うだけで同じなんだよね」

 さやかのつぶやきにケリーは不思議なものを感じたが、そういう彼女の姿は昨夜も同じだったので、今は気にしないことにした。さやかは「う~ん」と首をかしげながら続けて話す。

「なんでしたっけ……下海げかいで漁を行う『海船うみぶね』でしたっけ? それらの民間のオーラ船と戦闘に使う船の違いは武装かしら?」
「はいそうですね。戦闘に使う船は総じて『軍船ぐんせん』や『武装船ぶそうせん』などと呼ばれます。主にショットボムや、オーラキャノンなどを船体に装備していますね」
「う~ん。オーラで使う大砲か。仕組みが気になる(じゅるり♪)」

 さやかはなんにでも興味を持つ。その様子を見て、アキトは彼女に声をかけた。

「さやか、あれだよ」

 アキトはそう言って外を指差す。

 彼女は彼が指差した方向を見た。そこでは、上空から3隻の駆逐船が、基地へ向かい垂直に降下してきている。

『船の中でも整備や調整は可能ですので……」

 ケリーの言葉に、さやかは満面の笑顔だった。彼は知っている。これは新しい玩具オモチャを見つけたときの表情だと……。

 ケリーは以前師が、幼い彼を見つけたときの表情を思い出していた。

「オーラ船~♪ あ~ろんぞ~♪」

 さやかはご機嫌で歌っていた……。

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