ー ドリームウィーヴ ー 異世界という夢を見た。現実世界人と異世界人がお互いの夢を行き来しながら戦います!

Dr.カワウソ

文字の大きさ
上 下
38 / 62
第三部 鏡の表

38.さやかコーティングの効果

しおりを挟む
 アキトとさやかが一緒に整備倉庫へやってきたので、ケリーは挨拶する。

「おはようございます。隊長、さやかさん」
「おはようございますケリーさん。昨夜はいろいろとごめんなさい」

 さやかがケリーに対して頭をさげるが、彼は首を横に振って答えた。

「いえ。別に気にしないでください。おかげで、パラムスの出力を上げる方法が見つかりましたから」
「どういう意味だケリー!」

 ケリーがいきなり言った話で、アキトがさやかの前に出る。その声からは、期待する空気が伝わった。

「昨夜、さやかさんがオーラコーティングを施した配管と、素材を再利用します」
「再利用? でもコーティングしても、3時間程度しかオーラがもたないって……」

 ケリーの話に、彼女は首をかしげながら疑問符を付ける。

「そうです。たしかに塗ったオーラそのものは消えましたが……」

 ケリーは言いよどむ。どうやって説明しようかと考えているのだ。

「ケリー! 詳しく説明してくれ」

 アキトが我慢できず、矢継ぎ早に聞いてくる。その姿を見て、ケリーは思い切ったように口にした。
 
「さやかさんのオーラはたしかに消えましたが、実は素材自体の強度が上がっていたのです」
「「!!!」」
「強度って……薬品や、焼き入れなどで行う処理と同じような?」

 さやかが、興味深そうに聞いてくる。

「はい。一般的には素材の強化処理を行う段階で、オーラを部分的に利用した方法をよく使います。ですがそれと比べても、さやかさんのオーラコーティング後のほうが、段違いに効果が高かったのです。朝倉庫にきて、なにげに確認してみて気づいたのですがね……」

「素材を見せてちょうだい」

 彼女が、興奮したように言う。

「これです」

 さやかはケリーから素材を受け取ると、それをまじまじと見つめる。だが、わからないような顔つきで彼を見返した。

「昨日教えたオーラミラールで確認してみてください」

 ケリーの言葉に、さやかは「あっ!」と思い出したように素材を見直した。

「あっ、そうか……えぇと、自分の眼にオーラを薄ぅ~く流して……と、あっ!」

 さやかは素材を見て、その効果に気づいたようだ。

「ケリー……。お前はそんなもんまでさやかに教えてたのか……」

アキトがジト目で彼を見る。その視線を感じて、ケリーは両手を腰にあて「やれやれ」というしぐさでアキトに告げた。

「昨日言ったじゃないですか。オハジキを1機整備したって。使えなきゃ、整備なんてできませんよ」
「……あれ、冗談じゃなかったのかよ……」

 ケリーの言い返しにアキトは「まじか……」と声をあげる。それが聞こえていないかのように、さやかは口を開いた。

「ケリーさん。素材の表面にスジのようなものが見えます。これはわたしが昨日、コーティングした指の跡だと思いますが……」

 さやかの言葉にケリーはうなずくと、返事をする。

「僕もそう思います。僕がコーティングしてもそのスジ跡は付きません。たぶん、長時間さやかさんのコーティングが、素材表面に固定したせいでしょう」
「わたしもそう思います。これは発見ですね」

 彼女の興奮した声に、アキトは言う。

「そうなのか? でも、さやかのオーラじゃないとダメなんだろ? 誰にでも行えることじゃないのなら……」

 アキトは、さやかがこの世界の人間じゃないことを知っている。彼女が処理した特別なオーラのこともある。この世界の人間が行えないのなら、それは「異質」な発見なのだ。

 アキトの問いかけに対して、ケリーが代わりに説明をはじめる。

「それはそうです。ですが、要はコーティングを持続させればよいのです。ならば、さやかさん一人で行う必要はありません。個人が持つオーラの質の問題はあるでしょうが、交代で素材表面のコーティングを維持し続ければよいのです。もちろん実験は必要で、実用化までにどれだけの時間がかかるかはわかりません。ですが、大きな発見であることにはかわらないのです」

 ケリーが言い終わると、さやかが嬉しそうに口を開く。

「先の話しはともかく、このパラムスの力がアップするのね……それなら」
 
 彼女は手に持っている素材に対して、自分の指を当てていきなりオーラコーティングをはじめた。

「さやか、なにを……」

 すでにコーティングの効果が表れている素材なのに、さやかが再度コーティングを行おうとした。なのでアキトはそう言ったのだ。それを聞いて彼女は、素材からは目を離さずに口を開く。

「この状態ですと、素材表面に見えるスジとスジの間の部分、そこの強度が薄いのです。これだと、表面が波打ってオーラを流したときに抵抗が生じます。抵抗を少なくするために重要なのは、素材表面が平らであること。平面度を上げるために、間の部分にもコーティングを行う必要があります」

 さやかが、決心したかのように言い切る。

「さやか、なにもそこまで……」

 アキトが彼女の腕をつかむが、彼女と目が合った瞬間に動きが止まる。その眼には、硬い決意が見て取れたからだ。

「大丈夫ですアキトさん……。もうコーティングのコツはつかみました。こんなの、ミクロン単位の調整に比べたら大したことはありません」

 さやかの言い分を横で横で聞いていたケリーは「ミクロン単位の調整作業って、どんな単位のことだろう」と疑問に思う。それと同時に、彼女のあの眼の決意を跳ね返すことは、アキトでも無理だろうとも感じた。それくらいの目力めじからだったのだ。

 アキトはゆっくりと、彼女の腕から手を離す。

「すまないさやか……」
「気にしないでください。わたしは、自分ができることを見つけられて嬉しいんです」

 ケリーは、一歩離れた距離からふたりを見る。言い出しにくい、そのふたりだけの世界で「ゴホン」と口にした。

「あの……邪魔して申し訳ないのですが……」
「「あっ!」」

 ケリーの咳払いに、やっとふたりがケリーのほうを見た。

「あの……僕よりも」

 ケリーは、ふたりからは見えない背中のうしろ側、倉庫入口に立っている人に目を向けてた。その者は、三人の目線が自分に集まると口を開いた。

「アキト……いくらなんでも、整備倉庫でイチャつくのは隊長として如何なものだろうか」

 そこにはレイカーが立ち、面白そうにニヤついていた。

「レイカー! いつからそこにいたんだ?」

 そう言うアキトの顔は赤くなっている。

「いつからって、その彼女のオーラが特別で、パラムスの力がアップうんぬんからだよ♪」
「あぁぁ~」

 アキトが、レイカーの側に近寄り話しかける。

「おいレイカー」
「なにかねアキト隊長」

 レイカーのアキトを見る目はいたずらっ子のようで、対してアキトは気まずそうな顔つきでレイカーをにらみつけている。

「まず、お前に言いたいことは……」

 バッ!

 レイカーが、右手を前に出しながらアキトに「待て」の動作を取る。

「彼女のことは、俺の深い心の奥に埋めてしまってもよい」
「ふぇ?」

 彼の言葉に、アキトの表情が一瞬で呆けたようになった。 

「隠したいんだろ?」
「お……おぅ……。マジか? そうしてくれるとありがたい……」

 続けて言ったレイカーの言葉に、アキトは安心したような表情になる。

「たぁだ~しぃ。もちろん条件がある」
「!!!」

 その言葉に、アキトはビクついた態度を取った。普段のレイカーは実直な性格で、アキト以外ではこんな砕けた口調にはならない。

「条件?」

 アキトはそう口にした。レイカーは彼から目をそらし、そのままさやかに目線を移していた。そして要求を口にする。

「あぁ、要はその素材の強化を俺のパラムスにも行って欲しい。それをしてくれたら俺は君のことを見なかったことにするし、なんの詮索もしない」
「おい、レイカーそれは……」

 アキトもレイカーからさやかに目線を移した。

 さやかは、二人のやり取りをなぜか微笑むように見ている。そして承諾する旨の返事をした。

「はい、承知しました。ですが、わたしがレイカーさんのパラムスを強化しにそちらの整備倉庫に行くと、ふくざつに面倒なことになるので、強化する部分の素材をここへ持ってきてくださいますか?」

 パチン♪

 さやかの返事に、レイカーは心地よく指を鳴らした。

「よし、問題ない! 交渉締結だ。今すぐに素材を持ってこさせる」

 レイカーは連絡するために、一旦倉庫の外へ出る。部下に素材をもってくるように、指示しにいったのだ。

 それからさやかは、ケリーと素材の選別に入る。その作業のうしろで見ていたアキトが、彼女の背中に向かって言う。

「すまんさやか……」

 アキトは、申し訳なさそうな表情でさやかにあやまった。彼にとっては、この世界の人間でない彼女に、そこまでさせる必要があるのか。それが申し訳ないと思ったからだ。でもさやかは「大丈夫です」と笑顔でうなずいた。

 レイカーはすぐに戻ってきた。

「アキト」

 レイカーは彼を呼ぶ。その目は先ほどとは違い、友人であるアキトに対して厳しい目つきだった。

「お前のパラムス1体が強化されたとしても、それだけで『アーケーム』に勝てるなんて思っちゃいないだろう?」

 レイカーの言葉を聞き、アキトは悔しそうな表情で彼を見返した。

 それを聞いたケリーは思う。レイカーの言っていることは正しい。いくらアキト隊長のパラムスが強化されたとしても『アーケーム』の性能には遠く及ばない。機体の性能差にはそれくらいの開きがあるのだ。わが師『ゲルマリック・プレイル』が、その生涯で作り上げた最高傑作、ゲルマリックシリーズ6体のうちの1体。師は僕に教えてくれた。あの機人のオーラ核は『赤龍』だと……。

 ケリーの目の前で、アキトとレイカーは話を続けている。

「アキト。苦労だろうが手柄だろうが、それは俺たちふたりで分けるべきだ。お前一人でやる必要はないし、手柄を独占させたくもない」
「……お前」

 レイカーはアキトにそう言った。それでもケリーは、強化したパラムス2体がかりでも、アーケームに相対するのは難しいと感じている。

「レイカー隊長」

 ケリーがその名を呼ぶと、レイカーは振り向いた。

「時間的にさやかさんにはアロンゾの中で処理を行ってもらいます。なので、素材はアロンゾに運んでください。アキト隊長も、自分のパラムスを先に積み込んでください。団長たちと、出立前の打合せがあるのでしょう?」
「あぁわかった」
「アロンゾ?」

 アキトの返事のあと、さやかは「アロンゾ」と口にする。知らない単語が出てきたからだ。その彼女の問いかけにケリーが答えた。

「アロンゾは我が隊のオーラ船で、駆逐船くちくせんです」
駆逐船くちくせんって……もしかしてわりと小さい感じ? それよりも大きな船もあるのかしら?」

 さやかはさらに問いかける。その呼び名が、彼女の世界での軍艦を表す呼び名に似ていたからだ。その質問にも同じくケリーが答える。

「ええと……。『駆逐船くちくせん』よりも大型の船を『巡洋船じゅんようせん』、さらに大きな船は『戦船せんせん』と呼びます」
「……う~ん。なんかその辺の呼び方は、『船』と『艦』が違うだけで同じなんだよね」

 さやかのつぶやきにケリーは不思議なものを感じたが、そういう彼女の姿は昨夜も同じだったので、今は気にしないことにした。さやかは「う~ん」と首をかしげながら続けて話す。

「なんでしたっけ……下海げかいで漁を行う『海船うみぶね』でしたっけ? それらの民間のオーラ船と戦闘に使う船の違いは武装かしら?」
「はいそうですね。戦闘に使う船は総じて『軍船ぐんせん』や『武装船ぶそうせん』などと呼ばれます。主にショットボムや、オーラキャノンなどを船体に装備していますね」
「う~ん。オーラで使う大砲か。仕組みが気になる(じゅるり♪)」

 さやかはなんにでも興味を持つ。その様子を見て、アキトは彼女に声をかけた。

「さやか、あれだよ」

 アキトはそう言って外を指差す。

 彼女は彼が指差した方向を見た。そこでは、上空から3隻の駆逐船が、基地へ向かい垂直に降下してきている。

『船の中でも整備や調整は可能ですので……」

 ケリーの言葉に、さやかは満面の笑顔だった。彼は知っている。これは新しい玩具オモチャを見つけたときの表情だと……。

 ケリーは以前師が、幼い彼を見つけたときの表情を思い出していた。

「オーラ船~♪ あ~ろんぞ~♪」

 さやかはご機嫌で歌っていた……。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...