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第二部 異世界の戦争
23.オーラ
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――アキトは突然叫ぶと、怖い表情のままで椅子から立ち上がった……。
彼は険しい表情をしながらさやかを見下ろしている。そしてそのまま彼女に近寄りしゃがみ込むと、自分の両手でさやかの両手をつかんだ。
「ひゃう!」
突然の行動に彼女は声をだす。
「アキトさん、いったい……」
「静かにさやか。大きく一回深呼吸して」
アキトは彼女の眼を見ながらそう言ったので、さやかは黙って従い、大きく深呼吸をした。
「息を止めて」
アキトにそう言われて彼女が息を止めた瞬間、彼の握ったさやかの手の平から、見えない何かが流れ込んでくる。
さやかは感じていた。「これは……アキトさんの『オーラ』だ」彼のオーラが彼女の両手から肩を通って胸から腰、下半身と全身のすみずみまで、通過していくのを感じたのだ。そして「これって、なんか……」と心の中で叫びたくなる。
「よし! ゆっくり……落ち着いて呼吸して」
アキトの声は少し高揚していた。
「はい……!!!」
彼に言われてさやかはゆっくり呼吸をしたが、それに合わせるように、彼女の体温が上がりはじめる。
さやかは自分の顔が、なんだか熱いと感じていた。嫌な感じではないが「これってやばい感覚なのでは?」とも思う……。
彼女の心の中はざわめく。「……あの経験はないけど。この感覚って、もぅ……」と感じたときに、アキトのオーラはさやかの両手から抜け出て行った。
「よし、大丈夫だ」
彼の声にさやかは「なにが? なにが? なにが! なにが大丈夫だっていうのぉ~~」と、顔を真っ赤にしながらも心の奥底で叫んだ。
「ふぅ~」
アキトは大きく一回息を吐くと顔を上に向け、真っ赤になってる彼女の顔を見た。
さやかの赤くなっている顔を見て、アキトの眼が急に左右に泳ぎはじめる。
アキトは「スクッ」と立ち上がると、腰が直角に曲がるほどの勢いで、さやかに向かって頭を下げた。
「すまんさやか! 独身の女性に対してあるまじきことを……なにぶん慌ててしまって……」
アキトは、何度も高速で頭を下げる。
彼が本当に謝っているのはよくわかったし、さやかは本気で怒ってなどいない。恥ずかしくはあったが……。
「もういいので、さっきの行動の意味を教えてください!」
さやかは、真っ赤な顔の状態でアキトを問い詰める。彼はゆっくりと、自分を落ち着かせるように話しだした。
「……ええと……。体内でオーラを生成して展開した場合では、必ず体外へ、外に放出しないといけないんだ」
「そうなのですか? もし、体外への放出を忘れた場合は?」
彼女はアキトの顔をジッと見ながら、続けざまに聞いてくる。
「体内にとどまり溜り続ける。これを『オーラ溜り』と呼び、時間の経過とともに身体へ悪影響を及ぼす。及ぼす影響と、かかる時間は人によって異なるが、最悪死ぬことも珍しくない」
「!!!」
アキトの話を聞いて、ことの重要さにさやかは気づいた。
「そ、そうなのですね。それはとっても危ないですね……」(汗)
「あぁ……本当ならちゃんとした医師にさやかを見せねばならないが、なにぶん焦ってしまい、身体が先に動いてしまった。本当にすまない……。たいへん失礼なことをした」
さやかは微笑みながら、アキトに首を振る。
「そう言うことでしたら、なおさらアキトさんが謝る必要はありません。わたしを助けようとしてくれたのですから……。あのときとおなじように」
さやかの脳裏に、自分の世界でアキトが誘拐から救い出してくれた場面が浮かんだ。
「あぁ……」
アキトは声を出し、まだ申し訳なさそうな表情をしている。顔も真っ赤になっている。
「それで、わたしの中にアキトさんの『オーラ』を流して確認したのですね?」
「…………」(アキト)
さやかは自分でそう言いながら、自分の発した言葉に違和感を感じた。「ん? わたしの中にアキトさんの? 今なんか自分でかなりやばい発言してないか?」と……。
「ええとだな……」
なぜかアキトは、表情を取り繕いながら話をはじめた。
「通常、他人のオーラが自分の体内へ侵入した場合、身体は異物と感知してなにがしかの反応、反発をする。それでさやかの体内に俺のオーラを流して確認したが、何の反応もなかった。だから『オーラ溜り』にはなっていないと思う。オーラクター駆動ためにオーラの生成を行ったが、同時に機械へ定着させるための体外放出を行ったせいだろう」
アキトはそう言って納得したが、実はさやかの生成したオーラは、敵との戦闘でも使われていたのだ。結果的に問題はないようだったので、さやかは「その話」をするのはやめておく。
「質問させてください。もしオーラを体内で生成して一定量の『オーラ溜り』ができたとします。その際、体外の物体へオーラを放出して定着させた場合の残量、バランス関係はどうなりますか?」
「その場合、一般的に体外へ放出したオーラの量が、体内にあるオーラ溜りの量より多ければ全て放出される」
「なるほど。単純な足し算と引き算ですね。機械への定着ではなく、身体の強化などに展開した場合でもおオーラ溜りはおきますか?」
さやかはオーラ使用のロジックが知りたくなり、アキトに続けて質問した。
「その場合でもオーラを使用したことによって、体内のオーラは消費されて無くなる」
アキトの答えにさやかはうなずきながら「そうなるのですね」と納得した。
彼女は当初、黒装束と戦ったときに相手を吹き飛ばしたが、あれは体内で生成し、展開した結果なのだろう。でもさやかは思った。「左腕のリングが光っていたのは、オーラがリングに定着した証だった気がするし……」まだ不明な点が多く、何か理由がありそうだと……。
「オーラ機器を使う際にオーラが必要なことはわかりましたが、それではオーラが使えない、生成できない人の場合では、オーラ機器を使えないということになりますよね」
さやかは首をかしげて「ん?」という顔つきをしながら聞いた。
「まぁ、そうなる。さやかのいうとおりだ」
アキトの回答を聞いて、さやかは腕を前に組んで考えるしぐさをとった。
「その辺は考える必要がありますね。技術的に使いやすくするために、どうにかならないものでしょうか?」
さやかは研究者といっても、民間企業に勤めるエンジニアでもあるので、一般の人が使うことを前提にした考え方をもっている。
その問いかけに対して、アキトも彼女と同じように手を前に組む。
「う~ん。簡易的な方法で、他人が使える方法もあるにはあるが……。でもそうなると困る連中がいるからなぁ。街中では使えない奴の代わりに、オーラを供給して食ってるやつもいるし……。大っぴらにやると彼らともめそうだ」
さやかはそれを聞いて「あぁ~そう言うこともあるのか」と困った顔つきをする。
「困る人ですか……。既得権益者はどこの世界にもいますからね。わかりました。話をオーラ機器に戻しましょう。前回、機人やオハジキをまじかで見ました。ジャマールさんに機人の装甲は虫の外殻だと聞きましたが……」
さやかは組んだ腕をといて、自分の膝の上においた。
「それはジャマールが適当に言っただけだな。主に虫の外殻というだけで、全てという意味じゃない。虫にもいろいろな種類がいるし、オーラ船やスペイゼでは皮や木材、金属も使われている」
「オーラ船や、スペイゼではというと『機人』は違うのですか?」
「機人に関してはさらに複雑だな。この世界の技術の頂点と言えるのが『機人』と言っていいだろう。さやかは興味があるのか?」
彼女はアキトの問いかけに、鋭い眼差しで答える。
このとき彼は、さやかに愚かな質問をしたと後悔した。
「あります! 聞きたいです!」(少し前のめり)
「おぉ……」(アキトさんはまたもや少し引き気味……)
彼はあきらめるように説明をはじめる。
「……まず機人は『メインフレーム』と呼ばれる部分から成り立っている。人間で言うところの骨格だな」
「素材はなんですか!」
さやかはさらに前のめりの体勢で、素早く聞いてきた。
「それは話すと長くなるし、俺も専門家じゃないので詳しくはわからない。もし機会があったらケリーでも捕まえて聞いてみるがいい……。間違いなく俺よりわかりやすく教えてくれるだろう」
「はい♪」
アキトにそう言われはしたが、言われなくてもさやかはそうするつもりだった。
「機人には、ありとあらゆる貴重な素材。虫素材でも使われるのは外殻だけじゃない。内臓や血管、体液も使われる。それに金属や宝石もだ。しかもただ使うだけじゃなく素材を強化したり、改良したりと専門知識のオンパレードだな」
「それはそそられますね!」(じゅるり♪)
「…………」(アキトがこの子はかなりやばいんじゃないかと思っている表情)
「機人のエンジニアは、かなり優秀な人じゃないとなるのは難しそうですね」
さやかは前のめりだった体勢を、元の位置に戻しながら聞いてきた。
「あぁそうだ。機人の設計者は『サージア』と呼ばれる。トップクラスのサージアは、国の中でも大臣なみの権威と発言力を持っているが、まぁそれくらい機密が多いという意味だ。ケリーは最終的にそっちの方向へ進むんじゃないかと俺はみている」
アキトのケリーに対する評価は、本当に高いのだとさやかは認識した。
「空を飛んでいるオハジキですが、出力機関のようなもので飛ぶというか、浮いているように見えました。対して機人は背中にバーニアのようなものがあり、羽のような物も見えました。どのような原理なのでしょうか?」
さやかの質問に、アキトは気まずそうに答える。
「う~ん。それを詳しく説明するのは俺には無理だ。ただ言えるのは『オーラ機関』があるからだな」
さやかの表情は「キターーーーーー! なぞの出力機関!」とテンションMAXになる。
「オーラ機関とは!」(目がギラギラ)
彼女は、さらなる展開を期待するように聞いてきた。
「さやかの世界で言うところのエンジンやモーターみたいなものかな? オーラを送り込み、定着させることで起動する。200年ほど前に、突然この世界に現れたオーラ機関だ」
「それは......凄い発明家がいたものですね」
「あぁ、でも発明者の名前に関しては伝わっていないんだ」
「えぇ! なんででしょうか? 大発明なのに!」
さやかは両手を上にあげて「なぜ!」と態度で示しながら言う。
「そうなんだが、伝わってないのだからどうしようもない。どっちみち、俺が今説明できるのはこれくらいだから、これ以上は勘弁してくれ……」
さやかから見て、アキトは疲れているように見えた。さすがにこれ以上聞くのは失礼だろうと彼女は感じる。それにこの世界は戦争をしているのだ。これ以上アキトの時間を奪うのはやめておいたほうがいいだろうとも。
「はい……。では最後に一点だけ」(ごめんなさいの表情)
さやかは最後に一つだけ聞いて終わることにした。
「あぁ、なんだ?」
アキトは「本当に最後だろうな……」と思いながら「ビクッ」と震える。
「機人の各駆動部を制御するところのシステム、人間でいうところの『脳』にあたる部分を聞きたいのですが……」
「それは……『オーラ核』が行っている。機士団内では単純に『核』とだけ呼んでいるが、その『核』が機人の動きを制御して、機士が操るのを助けてくれる」
「オーラ核! それも設計者が作成しているのですか?」(また来た、なぞのアイテム!)
さやかは先ほど自分で思ったアキトへの気遣いすら忘れ、興奮のあまり立ち上がりながら聞いてきた。
「あぁそうだ、サージアが作る。でも元となる素材は生物の『核』だ」
「生物の核?」
「『核』は、このムーカイラムラーヴァリーの世界、生きとし生けるもの全てに存在している。虫や動物、それこそ植物や人間にもだ。そう言えば、生きているものの『核』を使わないと、動きがあそこまで自然にはならないのだとケリーが言っていたな」
アキトは話の途中で思い出したかのように、ケリーの名前を口にした。
「そ、それは、どうやって採取するのでしょう……。虫や動物はともかく、まさかそのために人間を殺したりとかは……」
さやかは思う。「それってもしかして魂とか? そうなると、かなりホラーな展開だわね」と……。
彼は険しい表情をしながらさやかを見下ろしている。そしてそのまま彼女に近寄りしゃがみ込むと、自分の両手でさやかの両手をつかんだ。
「ひゃう!」
突然の行動に彼女は声をだす。
「アキトさん、いったい……」
「静かにさやか。大きく一回深呼吸して」
アキトは彼女の眼を見ながらそう言ったので、さやかは黙って従い、大きく深呼吸をした。
「息を止めて」
アキトにそう言われて彼女が息を止めた瞬間、彼の握ったさやかの手の平から、見えない何かが流れ込んでくる。
さやかは感じていた。「これは……アキトさんの『オーラ』だ」彼のオーラが彼女の両手から肩を通って胸から腰、下半身と全身のすみずみまで、通過していくのを感じたのだ。そして「これって、なんか……」と心の中で叫びたくなる。
「よし! ゆっくり……落ち着いて呼吸して」
アキトの声は少し高揚していた。
「はい……!!!」
彼に言われてさやかはゆっくり呼吸をしたが、それに合わせるように、彼女の体温が上がりはじめる。
さやかは自分の顔が、なんだか熱いと感じていた。嫌な感じではないが「これってやばい感覚なのでは?」とも思う……。
彼女の心の中はざわめく。「……あの経験はないけど。この感覚って、もぅ……」と感じたときに、アキトのオーラはさやかの両手から抜け出て行った。
「よし、大丈夫だ」
彼の声にさやかは「なにが? なにが? なにが! なにが大丈夫だっていうのぉ~~」と、顔を真っ赤にしながらも心の奥底で叫んだ。
「ふぅ~」
アキトは大きく一回息を吐くと顔を上に向け、真っ赤になってる彼女の顔を見た。
さやかの赤くなっている顔を見て、アキトの眼が急に左右に泳ぎはじめる。
アキトは「スクッ」と立ち上がると、腰が直角に曲がるほどの勢いで、さやかに向かって頭を下げた。
「すまんさやか! 独身の女性に対してあるまじきことを……なにぶん慌ててしまって……」
アキトは、何度も高速で頭を下げる。
彼が本当に謝っているのはよくわかったし、さやかは本気で怒ってなどいない。恥ずかしくはあったが……。
「もういいので、さっきの行動の意味を教えてください!」
さやかは、真っ赤な顔の状態でアキトを問い詰める。彼はゆっくりと、自分を落ち着かせるように話しだした。
「……ええと……。体内でオーラを生成して展開した場合では、必ず体外へ、外に放出しないといけないんだ」
「そうなのですか? もし、体外への放出を忘れた場合は?」
彼女はアキトの顔をジッと見ながら、続けざまに聞いてくる。
「体内にとどまり溜り続ける。これを『オーラ溜り』と呼び、時間の経過とともに身体へ悪影響を及ぼす。及ぼす影響と、かかる時間は人によって異なるが、最悪死ぬことも珍しくない」
「!!!」
アキトの話を聞いて、ことの重要さにさやかは気づいた。
「そ、そうなのですね。それはとっても危ないですね……」(汗)
「あぁ……本当ならちゃんとした医師にさやかを見せねばならないが、なにぶん焦ってしまい、身体が先に動いてしまった。本当にすまない……。たいへん失礼なことをした」
さやかは微笑みながら、アキトに首を振る。
「そう言うことでしたら、なおさらアキトさんが謝る必要はありません。わたしを助けようとしてくれたのですから……。あのときとおなじように」
さやかの脳裏に、自分の世界でアキトが誘拐から救い出してくれた場面が浮かんだ。
「あぁ……」
アキトは声を出し、まだ申し訳なさそうな表情をしている。顔も真っ赤になっている。
「それで、わたしの中にアキトさんの『オーラ』を流して確認したのですね?」
「…………」(アキト)
さやかは自分でそう言いながら、自分の発した言葉に違和感を感じた。「ん? わたしの中にアキトさんの? 今なんか自分でかなりやばい発言してないか?」と……。
「ええとだな……」
なぜかアキトは、表情を取り繕いながら話をはじめた。
「通常、他人のオーラが自分の体内へ侵入した場合、身体は異物と感知してなにがしかの反応、反発をする。それでさやかの体内に俺のオーラを流して確認したが、何の反応もなかった。だから『オーラ溜り』にはなっていないと思う。オーラクター駆動ためにオーラの生成を行ったが、同時に機械へ定着させるための体外放出を行ったせいだろう」
アキトはそう言って納得したが、実はさやかの生成したオーラは、敵との戦闘でも使われていたのだ。結果的に問題はないようだったので、さやかは「その話」をするのはやめておく。
「質問させてください。もしオーラを体内で生成して一定量の『オーラ溜り』ができたとします。その際、体外の物体へオーラを放出して定着させた場合の残量、バランス関係はどうなりますか?」
「その場合、一般的に体外へ放出したオーラの量が、体内にあるオーラ溜りの量より多ければ全て放出される」
「なるほど。単純な足し算と引き算ですね。機械への定着ではなく、身体の強化などに展開した場合でもおオーラ溜りはおきますか?」
さやかはオーラ使用のロジックが知りたくなり、アキトに続けて質問した。
「その場合でもオーラを使用したことによって、体内のオーラは消費されて無くなる」
アキトの答えにさやかはうなずきながら「そうなるのですね」と納得した。
彼女は当初、黒装束と戦ったときに相手を吹き飛ばしたが、あれは体内で生成し、展開した結果なのだろう。でもさやかは思った。「左腕のリングが光っていたのは、オーラがリングに定着した証だった気がするし……」まだ不明な点が多く、何か理由がありそうだと……。
「オーラ機器を使う際にオーラが必要なことはわかりましたが、それではオーラが使えない、生成できない人の場合では、オーラ機器を使えないということになりますよね」
さやかは首をかしげて「ん?」という顔つきをしながら聞いた。
「まぁ、そうなる。さやかのいうとおりだ」
アキトの回答を聞いて、さやかは腕を前に組んで考えるしぐさをとった。
「その辺は考える必要がありますね。技術的に使いやすくするために、どうにかならないものでしょうか?」
さやかは研究者といっても、民間企業に勤めるエンジニアでもあるので、一般の人が使うことを前提にした考え方をもっている。
その問いかけに対して、アキトも彼女と同じように手を前に組む。
「う~ん。簡易的な方法で、他人が使える方法もあるにはあるが……。でもそうなると困る連中がいるからなぁ。街中では使えない奴の代わりに、オーラを供給して食ってるやつもいるし……。大っぴらにやると彼らともめそうだ」
さやかはそれを聞いて「あぁ~そう言うこともあるのか」と困った顔つきをする。
「困る人ですか……。既得権益者はどこの世界にもいますからね。わかりました。話をオーラ機器に戻しましょう。前回、機人やオハジキをまじかで見ました。ジャマールさんに機人の装甲は虫の外殻だと聞きましたが……」
さやかは組んだ腕をといて、自分の膝の上においた。
「それはジャマールが適当に言っただけだな。主に虫の外殻というだけで、全てという意味じゃない。虫にもいろいろな種類がいるし、オーラ船やスペイゼでは皮や木材、金属も使われている」
「オーラ船や、スペイゼではというと『機人』は違うのですか?」
「機人に関してはさらに複雑だな。この世界の技術の頂点と言えるのが『機人』と言っていいだろう。さやかは興味があるのか?」
彼女はアキトの問いかけに、鋭い眼差しで答える。
このとき彼は、さやかに愚かな質問をしたと後悔した。
「あります! 聞きたいです!」(少し前のめり)
「おぉ……」(アキトさんはまたもや少し引き気味……)
彼はあきらめるように説明をはじめる。
「……まず機人は『メインフレーム』と呼ばれる部分から成り立っている。人間で言うところの骨格だな」
「素材はなんですか!」
さやかはさらに前のめりの体勢で、素早く聞いてきた。
「それは話すと長くなるし、俺も専門家じゃないので詳しくはわからない。もし機会があったらケリーでも捕まえて聞いてみるがいい……。間違いなく俺よりわかりやすく教えてくれるだろう」
「はい♪」
アキトにそう言われはしたが、言われなくてもさやかはそうするつもりだった。
「機人には、ありとあらゆる貴重な素材。虫素材でも使われるのは外殻だけじゃない。内臓や血管、体液も使われる。それに金属や宝石もだ。しかもただ使うだけじゃなく素材を強化したり、改良したりと専門知識のオンパレードだな」
「それはそそられますね!」(じゅるり♪)
「…………」(アキトがこの子はかなりやばいんじゃないかと思っている表情)
「機人のエンジニアは、かなり優秀な人じゃないとなるのは難しそうですね」
さやかは前のめりだった体勢を、元の位置に戻しながら聞いてきた。
「あぁそうだ。機人の設計者は『サージア』と呼ばれる。トップクラスのサージアは、国の中でも大臣なみの権威と発言力を持っているが、まぁそれくらい機密が多いという意味だ。ケリーは最終的にそっちの方向へ進むんじゃないかと俺はみている」
アキトのケリーに対する評価は、本当に高いのだとさやかは認識した。
「空を飛んでいるオハジキですが、出力機関のようなもので飛ぶというか、浮いているように見えました。対して機人は背中にバーニアのようなものがあり、羽のような物も見えました。どのような原理なのでしょうか?」
さやかの質問に、アキトは気まずそうに答える。
「う~ん。それを詳しく説明するのは俺には無理だ。ただ言えるのは『オーラ機関』があるからだな」
さやかの表情は「キターーーーーー! なぞの出力機関!」とテンションMAXになる。
「オーラ機関とは!」(目がギラギラ)
彼女は、さらなる展開を期待するように聞いてきた。
「さやかの世界で言うところのエンジンやモーターみたいなものかな? オーラを送り込み、定着させることで起動する。200年ほど前に、突然この世界に現れたオーラ機関だ」
「それは......凄い発明家がいたものですね」
「あぁ、でも発明者の名前に関しては伝わっていないんだ」
「えぇ! なんででしょうか? 大発明なのに!」
さやかは両手を上にあげて「なぜ!」と態度で示しながら言う。
「そうなんだが、伝わってないのだからどうしようもない。どっちみち、俺が今説明できるのはこれくらいだから、これ以上は勘弁してくれ……」
さやかから見て、アキトは疲れているように見えた。さすがにこれ以上聞くのは失礼だろうと彼女は感じる。それにこの世界は戦争をしているのだ。これ以上アキトの時間を奪うのはやめておいたほうがいいだろうとも。
「はい……。では最後に一点だけ」(ごめんなさいの表情)
さやかは最後に一つだけ聞いて終わることにした。
「あぁ、なんだ?」
アキトは「本当に最後だろうな……」と思いながら「ビクッ」と震える。
「機人の各駆動部を制御するところのシステム、人間でいうところの『脳』にあたる部分を聞きたいのですが……」
「それは……『オーラ核』が行っている。機士団内では単純に『核』とだけ呼んでいるが、その『核』が機人の動きを制御して、機士が操るのを助けてくれる」
「オーラ核! それも設計者が作成しているのですか?」(また来た、なぞのアイテム!)
さやかは先ほど自分で思ったアキトへの気遣いすら忘れ、興奮のあまり立ち上がりながら聞いてきた。
「あぁそうだ、サージアが作る。でも元となる素材は生物の『核』だ」
「生物の核?」
「『核』は、このムーカイラムラーヴァリーの世界、生きとし生けるもの全てに存在している。虫や動物、それこそ植物や人間にもだ。そう言えば、生きているものの『核』を使わないと、動きがあそこまで自然にはならないのだとケリーが言っていたな」
アキトは話の途中で思い出したかのように、ケリーの名前を口にした。
「そ、それは、どうやって採取するのでしょう……。虫や動物はともかく、まさかそのために人間を殺したりとかは……」
さやかは思う。「それってもしかして魂とか? そうなると、かなりホラーな展開だわね」と……。
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