ー ドリームウィーヴ ー 異世界という夢を見た。現実世界人と異世界人がお互いの夢を行き来しながら戦います!

Dr.カワウソ

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第一部 ふたつの世界

11.助けてくれた若者

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 2007年6月3日AM9:30

 昨夜のわたしは仕事が遅く午前様で帰ってきたので、今日は遅く出社することにした。
 
 起きた後ににあらためて気づく。

「あれ? わたし昨日見た夢のことをまだちゃんと覚えているわ……」

 夢の内容なんて、いつもはすぐに忘れてしまうはずなのにどうしてだろう?

 あの夢で見た特殊な力には興味が湧いてくる。よくファンタジーとかにでてくる魔法のようなものだけど、火や水とかを出すわけではなく、単純に物体に力を与えて、その物体を動かすことができるようだった。

 現実での電力のようなものだろうか。あの力でタービンを動かせれば発電が可能だろう。

 化石燃料じゃない正にクリーンエネルギー……。

「まぁ、夢の中の話だけどね」

 それに、あの『機人』とかいう虫みたいなロボット(?)のほうも気になる。

『パラムス』と呼んでいたのでそれが機体名だろう。虫の外殻が装甲だって言ってたけど、やっぱり構造が気になる。

 あの形状(骨格?)を支えるためには、中心軸に相応のフレームが必要だろうし、あの滑《なめ》らかな駆動を行うための関節部分の動きは、モーターでは厳しいだろう。

 あれ? 夢の中のことなのになにを真剣に考えているのだろう……。

 ええと……とりあえず、仕事にいかねば。

 準備をしている最中、ベッドの下に落ちているリングに目がいった。

 昨夜はまくらの横に置いていたはずだが、落としてしまったのだろう。

 昨日の朝、起きたら左腕の手首にはまっていた幅1センチほどのリング。シルバーらしき素材の中央には5ミリくらいの小さな宝石が付いているが、あらためてよく見てみると綺麗なブルーの石だった。

「家に置いていてもしょうがないか……」

 このリング、二日前までは付けていなかった。不思議だけど、もしかしたら持ち主に出会うかもしれない。

 わたしはそう感じ、リングを自分の左腕に付けた。



 研究所に到着した。

 いつもよりだいぶ遅れて到着したけど、途中の工事現場では、昨日見た青年をまた見ることができた。

 なんだか工事現場では、現場の人がもめていたみたいだけど、そのおかげなのか(?)お互いに顔を合わせることができた。やはり、なかなかのイケメンだった。

 バスが動きだす寸前に、青年もなにか叫ばれていたようだったけど大丈夫だろうか?

 研究所に到着してから、自分のデスクに座りバックから携帯を取りだす。

「あれ?兄さんから着信がはいってる」

 わたしと6歳違いの兄の将人《まさと》は、政治家である父の秘書をしている。

 年齢が離れているせいか、妹のわたしに対してそっけない兄。でも、別に仲が悪いわけではない。

 たま~にこうして電話をかけてくるので、妹を心配してはいるのだろう。たぶん(仮)。

 昼休み、兄に電話をかける。

「もしもし、兄さん。電話してくれたようだけど、これっていつもの定期連絡?」
『ハァ~』

 電話の向こうからため息が聞こえる……。

『沙也加。その感じなら特に問題はなさそうだが、最近父が心配しているので、そろそろ顔を見せに帰ってこい。俺も一応心配してやる。』
「……相変わらずで嬉しいわ兄さん……。今は研究が忙しいけれど、来月にはなんとか帰るから。そのときになったら連絡します。それよりも父さんは大丈夫? 忙しいんでしょう?」

 父は政治家で、しかも大臣職にある人だ。娘の目からみても政治能力はあり、昔から忙しくしている。今のところ世間からの評判は悪くない(はず……)

 今さらながら、政治の道へ背中を押した母の目に狂いはなかったのだと思う。

『忙しいのは間違いないが、体調は俺が管理しているから今のところは問題ないし、やばくなる前に手は打つから心配しなくてもいい。それでは父に伝えておくから、来月の帰る件はくれぐれも忘れるなよ』

 兄はそう言うと、一方的に電話を切った。

 相変わらずの人だ。クールな感じに見えるせいか女性にはモテるが、面倒になると簡単に別れるような兄なので、妹的には少々心配でもある。仕事はできるが冷たく見られる(※かなり見られる)ので誤解もされやすい。

 まぁ、そういう兄が好きな政治ファンもいるらしいが……。

 とりあえず、兄はしっかりしているので、父のことを心配しないで任せられる存在ではある。

 でも、将来的に父の地盤を引き継いで政治の世界にいくとなると、周りが振り回されるようで、かわいそうでならない。

 遅めのお昼を近所の定食屋で済ませる。ラーメンを食べたかったが、さすがに二日連続のラーメンは女子としてどうかと考えた……。一応、女子の標準体重をキープしてはいるが、生活環境のせいか食生活に少々問題がある。そのため、なるべくヘルシーな焼き魚定食にしました。

 足早に研究所に戻って作業を続ける。

 今、研究しているロボットの駆動部分を調整したが、夢の中で見た『機人』の滑らかな動きと異なり比較をしてしまう。

 そういえば、ジャマールとか言う名の少年が「血管はチューブや配線」とか言ってたなぁ……。

 虫の血管って意味だろうけど、血管の中にエアーでも流すのだろうか? だとしたら、あの『機人』の中にエアーの供給源となるコンプレッサーのようなものが必要になるけど……。

 う~ん、無理だ。

 コンプレッサーを動かすにも電気がいるし、あったとしてもあの滑らかな動きにはならない。なにか別の構造と素材を考えよう……って、わたしはまた何を考えているんだ。とりあえず目の前の研究に専念せねば。そう思い、気持ちを切り替えて作業に没頭した。



 気が付くと18時をまわっていた。

 このまま続けてもよいが、切りのいいところで止めないと帰りが遅くなる。

 周りにはまだ仕事をしている同僚もいたが、向こうもこちらを気にしないで作業を続けていた。

 わたしを含めた社畜ども……。

 わたしは机の上を綺麗に片付ける。別にそれほど綺麗好きというわけではないが、同僚の机の上はまるで空爆の跡かと思うような酷すぎる惨状……。

 ここでのわたしは清楚(仮)なイメージをキープしているはず(仮)なので、机の上は、女性として守らねばならない絶対防衛線だ。

 わたしは研究所を出ると帰りのバス停に向かう。

 途中までの経路をショートカットしていくために『根津神社』を通ることにした。

 普通の女子なら夜の神社は怖いと感じるかもしれないが、この根津神社は京都の伏見稲荷のように小さい鳥居が連続してつらなっており、神聖な感じで怖くは感じなかった。

 神社の境内、石階段を上りあえてその鳥居の中を進むと、悩んでいる研究の考えもまとまることがよくあるのだ。

 しばらく鳥居の中を進み、なかばまできたとき、ふと後ろのほうで何かの気配を感じた。
 
 わたしは振り向かずに足早に前へ進む。

 そうすると、前に人影が現れた。

 前に3人……。闇夜なので顔はよく見えないが、シルエットで男性が2人と、女性が1人だとわかる。

 来た道を戻ろうと思い後ろを振り向くと、一人が道を塞ぐように鳥居の中央に立っていた。これも男性だとわかる。

 状況を確認するためにもとりあえず、声をかけることにした。

「あの……。通してほしいのですけど、何か御用でしょうか?」

 冷静に言葉をかけても返事が返ってこない。4人の中に女性がいることを考えると、性的な目的とは思われない。

「あの~。お金でしょうか?」
「「「…………」」」

 この問いかけにも返事は返ってこない。これは強盗などではなく誘拐の線が濃厚かもしれない。父親が父親なので、日ごろから注意するようには言われているが、現実的に遭遇するところまでは考えてなかったな……。

 4人は前後からさやかをはさむように近づいてくる。

 本当ならこんな場面では「怖い」と感じるのだろう。でも、母が亡くなったときの絶望に比べたら大したことではない。

 4人に捕まるその瞬間、わたしは躊躇ためらわずに大声をあげた。

「やめてください!!!」

 そう叫んだ瞬間に頭に何かをかぶせられる。そこで誰かがしゃべった。

「いそいで!」

 それは、若い女性の声だった。

 目の前は、かぶり物のせいでよく見えないが、男性2人に抱えられた感じがしたので暴れてみる。

「ゴフっ!」

 その瞬間にお腹に激痛が走る。

 どうやらわたしは、こぶしで殴られたようだ。

「大人しくしてくれたら手荒なことはしない」

 もう、されてますけど!

 女性の声にパンチだが、呼吸が一瞬苦しくなるくらいには威力があった。

「おい! 手荒なことはするなと……」

 わたしを抱えてはいない、もうひとりの男性が声を出す。

「こんなの手荒なうちには入らないわ」

 女性が答えた。

 この場合は大人しくするべきなのだろうが、殴られて頭にきたのでさらに暴れてみた。

 バシッ!

 暴れた脚が何かに当たった。

「コイツっ! 早く大人しくさせて!」

 あっ、なんか女性の顔に当たったっぽい……。

 女性の声は怒っている感じで、男性たちに命令しているように聞こえる。

「薬で大人しくさせるか」

 先ほど話した男性と同じ声だった。

 薬は嫌だなぁ……。

 そう感じた瞬間、何かこちらへ向かってくる石畳を蹴る音がした。

 わたしはかぶり物のせいで周りが見えないが、とても素早い音と何かを蹴飛ばすような音、それが何かにぶつかり落ちるような音もした。

 バキッ!

 続いて誰かが殴られるような音。それと同時にわたしを抱えていた男が、何かの衝撃で吹き飛ばされたように感じた。わたしは一瞬無重力状態になり頭から「落ちる!」と感じたが、誰かの手で優しく支えられて上手く足から着地ができた。

 わたしは顔にかぶさっていた物を自分の手で取り外す。

 そこでやっと周りの状況を確認することができた。

 眼の前には、わたしを守るように青年が背中を見せて立っている。

 暗闇の中だが、近距離だったのと月明かりのおかげで、その青年の横顔を見ることができた。

 その顔だちは、日本人というより東南アジア系の顔立ちで、わたし好みのイケメン。

 っていうか……。工事現場とラーメン屋さんで見た青年でした……。

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