日和見主義だった俺が揉めすぎる演劇部で全国大会を目指したら青春すぎた

溝野重賀

文字の大きさ
上 下
115 / 130
第四章 悩める部活と猛練習

第100話 らしく、ではなく

しおりを挟む
 俺は椎名と話を終えると、一人で体育館を出て購買部の方へ向かった。
 喉が渇いたので飲み物を買いに行く。
 てか勢いで話進めて昼食べ損ねたから、今腹が減っている。
 残り三時間の練習、乗り越えられるか。

 何やるんだろう。
 一年生たちに色々教えるんだろうけど、俺は先輩としてどう立ち回るべきだろうか。
 そして、何を教えるべきだろうか。
 俺は自販機に小銭を入れながら、そんなことを考える。

「お疲れだねぇ、杉野ん」

「そうなんですよ、分かります? …………って、轟先輩!?」

 いつもの間にか、俺の横に轟先輩がいた。
 神出鬼没すぎるだろ。

「私、スポドリがいいー」

「いや、奢りませんよ?」

「えー、ケチー」

 そう言いながらも、轟先輩は自分で小銭を入れる。
 俺は買った炭酸を取り出す。

「杉野ん、よく練習あるのに炭酸飲めるね」

「まぁ、実質今日の山場は乗り越えたんで」

「お、というとうまくいったんだね」

「ええ、まぁ……先輩たちは何していたんですか?」

「ちょっとコバセンと打合せ」

 そう言うとスポドリを飲む轟先輩。
 どうやら春大会のことで、顧問と話していたようだ。
 俺もプシュっと音を出して、ペットボトルを開ける。
 喉を通る炭酸。その優しい痛みを実感する。

「では、無事にオーディションで戦えそうなんだね」

「戦うって……そうですけど、相手一年生ですよ?」

「関係ないよ、勝ったものが正義さ」

 何の漫画のセリフかと思ったが、言っていることは間違っていない。
 オーディションとは実力主義。
 楽しそうに笑う轟先輩を見ると、ああさすが先輩だなと今更に思う。
 だから、思わず言ってしまった。

「先輩はすごいですね」

「ん? どうしたんだい杉野ん。らしくないね」

「らしくないですか?」

「うむ。杉野んはもっと気楽に、能天気いたでしょ」

「能天気って……」

 まぁ、去年の俺を考えるとそうなのかもしれない。
 平和主義で、穏便になればそれでいいって感じだったし。
 けど二年生になって変わったのだろう。

「心境の変化でもあったのかい?」

「そりゃ、俺も二年生ですからね。いつまでも能天気ではいられませんよ」

「バッキャロー!」

 突然、右ストレートが俺の腹にめり込む。
 ! なぜ!?

「ぐはっ!」

 状況が呑み込めす、轟先輩を見る。
 先輩は腕を組み、仁王立ちをする。

「杉野ん! 君は能天気であるべきだ!」

 その堂々たる様子に俺は開いた口が塞がらなかった。
 え、何で今殴ったん?

「いいかい? 君は自分の長所が分かっていない」

「長所ですか……?」

「そう! 君は君の出来ることをすればいい。君が考えて分からないことは、君より頭のいい人に投げてしまいなさい!」

「…………」

「先輩らしくとか! そういう難しいことは樫田んや椎名んがやってくれるんだよ。だから難しいことは考えない!」

「でも! それじゃあ先輩として!」

「シャラップ! 二年生とか先輩とか関係ない! 君は君だ!」

 俺の言葉を遮り、轟は高らかに言った。
 なぜだろうか。その言葉がやけに響いた。
 ……やっぱり先輩はすごい。

「でも、先輩が言ったんじゃないですか」

「ん?」

「ほら、稽古始まる前に『迷ったり詰まったりしたら真似してみたら』って、だから俺は先輩らしく」

「杉野ん……私はこうも言ったはずだよ。『だって君たちはもう先輩なんだから』って。なろうじゃないんだよ。もうなっているんだよ」

 轟先輩は、そう俺に微笑みかけた。
 ああ、そうだ。確かに言われた。
 励ましの言葉だと思っていたけど、そうじゃないんだ。
 なんとなく、今ならその言葉の意味を理解できる。
 先輩らしくとか先輩としてとかじゃない。俺はもう先輩なんだ。
 だからそう思うのは、ただのかっこつけだ。
 俺は俺として、みんなと向き合うべきなんだ。

「轟先輩。ありがとうございます」

「よせやい。照れくさい」

「ところで、何でさっき殴ったんですか?」

「ノリ」

 このやろう。
 俺が睨みつけると、轟先輩が慌てて弁解する。

「に、肉体言語も時には必要かと!」

「はぁ、まあいいです。俺、能天気が長所なんで」

「おお、いいね」

 轟先輩がサムアップをする。
 その親指折ってやろうかと思った。
 手のひら返しすぎだろこの人。

「とにかく先輩とかそういう難しいことは杉野んは考えなくていいの」

「言いたいことは分かりましたけど、それでも先輩として動かないといけない時が出てくるじゃないですか」

「そりゃあるよ。でも先輩らしいとかは後輩たちが勝手に決めることだからね。杉野んが決めることじゃないでしょ」

「確かに」

 こっちから、イメージで先輩らしさを押し付けるは、先輩面というやつになってしまう。
 あまりいい印象ではない。

「杉野んは能天気なくせに、重要なときに刺す言葉を言うから面白いんだよ。それがなくなったら個性ゼロだよ?」

 そこまで!?
 てか新入部員歓迎会のときもみんなに言われたけど、俺の評価って……。
 でも、肩の力が抜けているのを感じた。

「お、良い感じだね。少しは柔らかくなったかい?」

「そうですね。おかげさまで能天気になれました」

「うむ、それでいい……じゃあ、残りの稽古も頑張ろっか」

「はい」

 俺と轟先輩は体育館へと向かった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~

kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

切り札の男

古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。 ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。 理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。 そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。 その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。 彼はその挑発に乗ってしまうが…… 小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。

パラメーターゲーム

篠崎流
青春
父子家庭で育った俺、風間悠斗。全国を親父に付いて転勤引越し生活してたが、高校の途中で再び転勤の話が出た「インドだと!?冗談じゃない」という事で俺は拒否した 東京で遠い親戚に預けられる事に成ったが、とてもいい家族だった。暫く平凡なバイト三昧の高校生活を楽しんだが、ある日、変なガキと絡んだ事から、俺の人生が大反転した。「何だこれ?!俺のスマホギャルゲがいきなり仕様変更!?」 だが、それは「相手のパラメーターが見れる」という正に神ゲーだった

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

処理中です...