日和見主義だった俺が揉めすぎる演劇部で全国大会を目指したら青春すぎた

溝野重賀

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第四章 悩める部活と猛練習

EX13 情熱の灯

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 先輩たちの劇に私は圧倒された。
 部活動紹介の時に見た劇の何倍もの、すごさ。
 静かな体育館に響く先輩たちの声は私の胸に突き刺してきた。
 空気が、雰囲気が、熱が、全てが洗礼されていた。
 胸打つ震動が私に訴えてくる。

 ああ、これだ。
 これこそ私が望んだ、私の願いだ。
 今まで、漠然として分からなかった私の渇望の形を示されているようだった。

『……孤独とは相対の感情か』

 杉野先輩が主人公を演じていた。
 それは日常で見る優しい先輩ではなかった。
 孤独を抱え、考える一人の青年。

 私は思う。
 劇を感じ、見入ってしまいながらも心の裏では自分のことを考えていた。
 私はなぜ過去を引き合いに出していたのだろうか。
 私はなぜ未来に自分を想像しなかったのだろうか。
 杉野先輩と話したことに嘘はない。
 私は自分が過去にすぐ部活を辞めたことを心のどこかで悔やんでいた。
 けど、本当にそれが今焦っている理由だったのだろうか。

 今この劇を見ながら感じるこの熱は違うと言っている。
 イメージしてなかったのだ。
 私は自分が舞台に立つイメージが出来ていなかった。
 だから不安で、だから怯えて、だから焦っていた。
 体の全身が痺れる。
 劇から放たれるエネルギーが私の心を奮い立たせる。

 私もあの場に立ちたい。
 ただ見ているだけなんて耐えられない。
 私の頬が濡れていることに気づく。
 たぶん感情の濁流が溢れたのだろう。
 これは悔しさ?
 分からない。
 けど、悪い気分ではなかった。

 そして泣いていることを自覚すると、少しだけ周りが見えた。
 私の横から、すすり泣く声が聞こえた。
 なんと真弓ちゃんも静かに泣いていた。
 それを感じ取った瞬間、私の中で何かが和らぐ。

 そうか。
 そうだったのか。
 何を私は勘違いをしていたのだろう。
 彼女もまた、私と同じじゃないか。
 演劇経験者だからって私は何に劣等感を抱いていたのだろう。
 私は、真弓ちゃんの涙の意味を知らない。
 けど今この時私と彼女は同じ劇を見て、同じ涙を流した。
 それだけで私は何かを通じ合えた気がした。
 
『ねぇ、ロベルト。孤独は寂しいだけじゃないわ。他者の存在こそが孤独の象徴なのよ』

 劇が進む。
 増倉先輩が杉野先輩に投げかける。
 私の中で欲が生まれる。
 半ば諦めかけていたのが、馬鹿らしくなるぐらい。
 なぜ私が演劇部に入ろうとしたのかを思い出す。
 ここなら楽しいと思ったからだ。
 ここなら送れると感じたからだ。
 私の、私だけの青春を。
 
 ああ、そうだ。
 一番下手なのは分かっている。
 先輩たちが何とかしようとしてくれたのも。
 真弓ちゃんと金子君が心配してくれたのも。
 この劇の真意だって私は分かっているんだ!

 だからこそ。
 ここまでされた自分が不甲斐なくて。
 それでいて、悔しくて悔しくて。
 手に力が入る。
 涙が止まらない。
 劇に集中したいのに、目が霞む。
 それでも、私は劇を見続けた。
 私達だけのための朗読劇。
 私の中に確かに宿った。
 情熱の灯が。
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