日和見主義だった俺が揉めすぎる演劇部で全国大会を目指したら青春すぎた

溝野重賀

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第四章 悩める部活と猛練習

第92話 分からない失敗

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 俺は考える。

 これで良かったのかと。
 池本の不安は消えたかもしれない。
 ただ、それだけではないだろうか。
 問題の本質は何だった? 
 俺がすべきだったことは?
 そして増倉の言葉の真意は?
 色んな事が脳裏によぎりながら、俺は池本と話した。
 動き出した歯車は止まらなかった。
 その間、増倉は黙っていた。
 俺は直感的に理解した。

 これは失敗だ。


「先輩、ありがとうございました。話していたら少し楽になりました」

「……いいや、どういたしまして」

 池本がお辞儀をした。
 すでに泣き止み、穏やかな表情だった。
 内心落ち着かなかったが、きっと今の俺は笑顔だろう。

「さて、もう昼前だな…………池本、先に戻ってくれるか?」

 俺は何かを誤魔化すように急かした。
 対して池本は笑顔で頷く。

「はい、分かりました。先輩たちは?」

「私達は少し話してから行くよ。悪いんだけど樫田にそのこと伝えといてくれる?」

「分かりました」

 増倉が池本の質問に答えるのを見て俺の中で何かが騒めいた。
 けど、必死に抑え込み池本に悟られないように気を付けた。
 そして俺たちは池本が教室を出るのを見送った。
 扉の閉まる音を確認してから数秒、沈黙が続いた。
 お互い喋らずに、向き合わずにそこにいた。
 静寂を破ったのは増倉だった。

「話したいことがあるんじゃないの?」

「そっちこそ、言いたいことがあるんじゃないのかよ」

 俺は自分でも苛立っているのが分かった。
 増倉はため息をついた。

「はぁ、正直ああいう話に持っていくとは思ってなかった」

「仕方ないだろ」

「分かっているの? 結局状況は変わってないんだよ?」

 俺はすでに増倉の言いたいことを分かっていた。
 そう。池本の内側の問題は解消できたかもしれない。
 ただ、現実の外側の問題は解決に至れていないのだ。
 
 つまり、池本がオーディションで落ちること。
 
 そのどうしようもない問題の解決は出来ていない。
 俺は増倉の方を向いた。

「言いたいことは分かるよ。けど、増倉こそ何で俺が答えを持っているなんて言い方したんだよ。答えって何だったんだよ」

「今となっては証明できないことだよ。でも少なくとも答えは杉野の中にあったと思う」

「なんだよそれ」

 意味が分からなかった。
 俺にとっては、さっき出せる最大全の答えだったと思っている。
 それを違うと増倉はさも当然のごとく言った。

「別に間違っているとは言わない。けど、たぶんこのままじゃ池本は落ちるよ」

「それは……そうだけど」

「どうして杉野はさっき、もっと土足で心に踏み込まなかったの?」

「土足で? どういう意味だ?」

「だってそうでしょ。あんなのただ肯定しただけじゃない」

「……」

 増倉の言葉が嫌に響いた。
 核心を突かれた気がして、俺は恥ずかしくなった。

「必要なのは変化だったと思う」

「っ!」

「その顔ってことは、気づいてはいたんだ」

「まぁな……」

 つまり増倉も俺と同じことを感じたということだ。
 肯定してはいけなかった。
 変化を必要とするなら肯定し、現状を良しをするべきでなかった。
 今更、そんな後悔が襲う。

「それはさ、香奈の差し金?」

「椎名? どういう意味だ?」

「そっか……違うんだ」

 一人納得する増倉。
 俺は訳が分からなかった。

「だとしても、これからどうするの?」

「どうするって」

 どんどん話を進める増倉に俺はついていけなかった。
 気になることもあるが、今は池本のことに集中しよう。

「私は、今のままじゃダメだと思う」

「そうだな」

「確かに誰かはオーディションに落ちるけど、だからって助けない理由にはならないでしょ」

「ああ」

「それで、杉野はどうするの?」

「そりゃ、出来る限りサポートするさ」

「……そう」

 何が不服なのか、増倉は短く答えた。
 何なんだ一体。
 俺が増倉を睨みつけると、彼女はゆっくりと口を開いた。

「……私さ、香奈が何を目指しているのか。大体想像がついている」

「…………」

「その上で聞くけど、本気なの?」

「ああ本気だよ」

「何で? 杉野って穏やかに過ごしたい感じだったじゃん」

「そうだな。去年度の俺は平穏を望んでいたな。けどさ、それは別に悪いことじゃないだろ?」

「身の丈に合ったことがあると思うよ、私は」

 悪いとも良いとも、彼女は言わなかった。
 どう受け取ったものか。

「けどね。その道に進むってことは、たぶん今の杉野じゃ無理だよ」

「どういう意味だよ?」

「すぐに分かるよ」

 予言めいた増倉の言葉の意味を、俺はすぐに実感することになる。
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