日和見主義だった俺が揉めすぎる演劇部で全国大会を目指したら青春すぎた

溝野重賀

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第四章 悩める部活と猛練習

第89話 土曜稽古

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 土曜日。なんでも都市伝説によるとほとんどの公立高校は休みの日なんだとか。
 桑橋高校は、午前授業があり十一時前に終わる。
 よって部活は十一時から始まり、ストレッチや発声練習などをしてから昼休憩を一度とるというのが基本的な流れだ。
 が、昨日二年生で会議した通り、午前中俺と増倉は池本と話すことになった。
 樫田があの後三年生たちに報告したところ、二つ返事で許可が下りたとのこと。
 午後の使い方についても確認するみたいだ。
 そんなことを考えながら俺は扉を開けた。

「おはようございます」

『おはようございます』

 俺がいつもの空き教室に入り、挨拶をするとみんなが返事をする。
 いないのは樫田と山路、それと池本か。
 それ以外のみんなは既に部活の準備をしていた。
 俺がカバンを置くと、増倉が近づいてきた。

「おはよ、杉野」

「おう、おはよ。どうした?」

「別に。昨日あの後、何か浮かんだかなって」

「残念ながら」

 俺がそう言うと、「そう」と短く答えた。
 どこまで期待していたのか分からないが、少し不安そうに見えた。
 俺も何を話そうか迷っている。同じなのだろう。

「ふふふ、若人よ。迷っておるのじゃな」

「! 轟先輩!」

 いつの間にか、俺と増倉のそばに轟先輩がいた。
 その仙人みたいな口調は最近のブームなのだろうか。

「樫田っちから聞いたよ。腹切るって」

「違いますよ先輩、腹を割るんです。切ったら死にます」

「シャラップ! そんな細かいことはどうでもいい!」

 よくねーよ。死んでるってそれ。
 何しに近づいてきたんだ。と思っていると増倉が轟先輩に質問した。

「先輩。私たちは何を話せばいいんでしょうか?」

「栞っち。それは君たちが決めることだよ」

「それは……そうですけど」

「ただね。もし迷ったり詰まったりしたら真似てみたら?」

「真似る?」

「そう。私やコウ、津田んでもいいし他の尊敬できる人でもいい。自分よりすごいなって人を真似てみて。だって君たちはもう先輩なんだから」

 そう微笑む轟先輩を見ていると、なぜか肩の力が抜けていく。
 自然と穏やかな気持ちになっていく。
 ああ、敵わないな。

「「はい」」

「うむ。二人とも良い笑顔だ。私からは以上だ! では!」

 満面の笑みを浮かべて、轟先輩が去っていった。
 私からは? と疑問を持っていると、田島と金子が近づいてきた。

「どうした? 二人して」

「いえ、どうってこともないんですけど」

「っす……」

 二人とも煮え切らない様子だった。
 たぶん、二人なりに池本のことを気にしているのだろう。
 増倉と顔を見合わせる。小さく頷かれたので俺は二人に見て笑う。

「大丈夫だよ。午前中席外すかもしれないけど、午後はきっと大丈夫だ」

「杉野先輩…………分かりました。信じてますからね!」

「っす! お願いします!」

 俺の言葉を聞いて二人も軽く笑った。
 二人からどれだけ不安がなくなったかは分からないが、その笑顔に答えるべく俺は一人拳を強く握った。

「杉野先輩――」

 田島が何か言おうとしたとき、扉が開いて三人が入って来た。
 樫田と山路、そして池本だった。

「おはようございます」

『おはようございます』

 お決まりの挨拶をする。
 一瞬、目を奪われたが田島に視線を戻した。
 しかし田島は続きを言うことなく、小さく首を横に振った。
 言えないということなのだろう。
 俺もそれ以上は追及しなかった。
 田島と金子は自然に俺達から離れた。
 次に近づいてきたのは、樫田だった。
 樫田は俺に鍵を渡してきた。

「杉野、これ」

「鍵?」

「ああ、隣の教室の鍵だ。うまく使え」

「ありがとう」

「午後の練習については、どっちに転んでいいように考えておいたから、そんな気負いせずにな」

「ああ、分かっているよ」

 俺がそう言うと樫田は安心したのか少し笑い、今後は増倉の方を見た。

「増倉はまだ不安か?」

「正直ね、でもやる。私も先輩だから」

「そうか、分かった。じゃあ、そろそろ時間だな」

 短く答えると樫田は時計を見た。
 俺達も教室の壁にかかっている時計に目をやった。
 時間はちょうど十一時だった。

「はーい。時間になったので部活を始めます!」

 瞬時に轟先輩が元気よく集合をかけた。
 みんな集まり、轟先輩へ視線を向ける。

「今日は昨日言った通り、二年生に稽古内容を考えてもらいましたー! ということで説明を樫田んよろしく!」

「はい。じゃあ今日の稽古内容を、と言いたいところなんだが実はまだ確認が取れてないことがあってな。午後の練習は未定だ」

「未定? 確認が取れたら何をやるつもりなんですかぁ?」

「体育館での本番を想定した稽古を予定している」

「体育館っすか? この教室じゃなくてっすか?」

「ああ、春大会は大きなホールでやる。それの予行練習みたいなもんだ」

「体育館ってバスケ部が使っているんじゃないんですか?」

「そこを今確認中でな。遅くても二時には部活が終わるとは聞いているが、どうなるか分からないからな。ただ、体育館での練習ができるのは土日の稽古だけだ。それを考えるだけでも貴重な稽古だろ?」

 樫田の説明に、一年生たちは納得したようだった。
 そう、昨日俺が考えたのは体育館での声量確認や練習だった。
 本番のホールでの稽古はできないからな。
 空間の広いところでの練習は貴重だ。

「で、午前中の稽古だが、昨日と同じ各チームに分かれての練習だ。内容はそれぞれの二年生に伝えてある」

 こうして、貴重な土曜日稽古が始まったのだった。

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