日和見主義だった俺が揉めすぎる演劇部で全国大会を目指したら青春すぎた

溝野重賀

文字の大きさ
上 下
89 / 130
第四章 悩める部活と猛練習

第77話 重大発表

しおりを挟む
 それは発声練習を終え、小休憩をしている時だった。
 黒板側の扉が思いっきり開かれて、天真爛漫な声が教室内に響き渡る。

「いえーい! 後輩たち、盛り上がっているかい!」

『…………』

 突然のことに誰もが面を食らった。
 なんかいつぞや似たようなことがあったような……。

「い、いえーい! 盛り上がっていますよ! 轟先輩!」

 最初に動いたのは田島だった。
 突然登場した轟先輩のハイテンションになんとか合わせる。
 すごいな、こいつ。

「おお~! 田島後輩は素晴らしいね! ね!」

「轟ちゃんのこのノリについて来れるだけで優秀だな」

「……将来有望だね」

 津田先輩、木崎先輩と三年生たちが入ってきた。
 これで演劇部全員勢ぞろいである。
 何気に珍しいことだ(いつもなら津田先輩か大槻、山路の誰かがサボるから)。
 そんなことを考えていると、樫田が先輩たちに近づきながら話す。

「一通り発声練習とか終わりましたよ。どうします? 台本持って集まります?」

「樫田んはいつもクールに進めるね。まぁ今日は度肝ぬ――」

「……ネタバラシはダメだよ未来」

「そうだよ轟ちゃん。なんてったって重大発表なんだから」

 そういって木崎先輩と津田先輩が両サイドから轟先輩の口を押さえる。
 轟先輩が苦しそうにその手を叩くと二人は手を放す。

「ぬぬぬ……は! そうだったそうだった。ごめんごめん」

「?」

 俺達と後輩全員の頭にクエスチョンマークが浮かぶ。
 なんだ? 本当に重大発表なのか(轟先輩の冗談半分だと思っていた)。

 轟先輩が黒板の方に行き、教壇に上る。
 教卓と黒板の間に立ち、上からこちらを見る。

「台本は必要ないです。皆さん集まってくださーい!」

 教室中に響く声。
 よっぽど早く言いたいのか、轟先輩はそわそわしていた。
 俺達はそれぞれ教壇の近くに寄った。

「はーい、では注目! これから春大会に向けての重大発表をします!」

『!』

 春大会。その一言で空気が変わった。
 緊張感と真剣さが入り交じったような重い空気。
 そんな空気になっても轟先輩は態度を変えない。

「ふふ、知りたいか若人たち。いいだろう! 求めよさらば与えられん! …………コウ! コウ!」

「……ドゥルルルルルルルル……」

 木崎先輩が口でドラムロールを鳴らす。
 しかし、みんなの視線は轟先輩から離れない。
 それほどまでに、みんなの意識は春大会に向いていた。

「……デデーン! 今回の春大会なんと! オーディションを開催します!」

『オーディション……!』

『オーディション……?』

「…………」

 発表を受け、反応は大きく二つに分かれた。
 俺達二年生は驚き、一年生たちはいまいちピンと来ていない様子だった。
 そして一人、樫田だけが沈黙して何かを考えていた。
 轟先輩は笑顔でその反応を教壇の上から見ていた。

「あの、質問いいですか?」

 衝撃が走る中、恐る恐るという感じで田島が手を上げた。
 みんなの視線が田島へと集まる。

「いいよ、田島後輩」

「えっと。オーディションって重大発表になるほど珍しいことなんですか? それとも何か特別なオーディションってことですか?」

「お、良い質問だね」

 一年生たちからしてみれば、どういう意味を持つか分からないか。
 実際、池本と金子もあまり分かっていない様子だった。

「簡単に説明します。一般的に役決めには二パターンあります。一つはやりたい役に立候補してオーディションをする形。もう一つは演出家が配役を決めるパターンです。まぁ、細かいことを言えば混合パターンやオーディションも色んな形があるのですが……それは置いといて、我が演劇部というか私たちの代は今まで演出家が役を決めていたんだよね」

「なるほど、それが今回はオーディションをするわけですね。でもそんな重大発表って感じがしないですね」

 田島は轟先輩の説明が納得する反面、だからこそ重大発表っていうほどかと思ったのだろう。
 けど、重大なのはここからだ。

「オーディションの重要なことは誰にでもチャンスがあるってことだよ」

「チャンス……?」

「そう! 一年生のみんなは、主役は無理だろうなぁとかこの役やりたいけど先輩たちいるから駄目だろうなぁとか思ったりしていないかい!」

『!』

 轟先輩が高らかに言うと、一年生たちは驚きそして何かに気づく。
 そう、オーディションとは即ち実力主義であり一年生が主役になることもあるのだ。

「なるほど……」

「主役……!」

「っす……!」

 三者三様が何かを考え始める一年生。
 その様子が俺達二年生に緊迫感を抱かせた。
 まぁそりゃ、一年生たちも興味あるわな、主役。

「いいねいいいね。二年生たちも気が引き締まったんじゃない?」

「私も質問いいですか。轟先輩」

「いいよ、栞ん」

「どうして、オーディションをやろうって思ったんですか?」

 ここで増倉が、そもそもの疑問をぶつけた。
 確かにその理由は知りたい。
 すると、考えこむ轟先輩。
 しばらくしてちらっと津田先輩と木崎先輩の方を見てから、こちらを向いた。

「正直、理由はいくつかあります。ただここで詳細に説明するつもりもありません。しいて言うなら私たち三年生が皆さんに必要なことだと判断したからです」

 真剣な口調で話す轟先輩の言葉に、俺達は何も言葉が出なかった。
 詳しく理由を掘り下げたい気持ちもあったが、それ以上に俺には、簡単には語れないとても重い言葉に感じてならなかった。
 きっとこれは――。

「まぁ、難しいことは考えないで劇を楽しんでね!」

 轟先輩が軽くそうまとめた。
 少しだけ雰囲気が和らいだが、みんなそれぞれ思うことがあるのだろう。
 みんなその場から動かず、何かを考えこんでいた。
 そんな中、津田先輩が轟先輩に話しかける。

「轟ちゃん、アレ言ってないぞ」

「ああ、ごめんごめん」

 アレ? 何のことだ? てかまだあるのか?
 再び、注目が轟先輩に集まった。

「ここから見るとみんなの顔がよく見えてね。当人が自覚してそうだったからうっかりしてた」

 そう言いながら轟先輩の視線が樫田へと向けられていた。
 つられて樫田を見ると、真剣な顔をしていた。
 樫田?
 俺がそう思っていると次の瞬間、轟先輩が鮮明に言った。


「樫田ん。今回の演出家は君に決めた!」

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

乙男女じぇねれーしょん

ムラハチ
青春
 見知らぬ街でセーラー服を着るはめになったほぼニートのおじさんが、『乙男女《おつとめ》じぇねれーしょん』というアイドルグループに加入し、神戸を舞台に事件に巻き込まれながらトップアイドルを目指す青春群像劇! 怪しいおじさん達の周りで巻き起こる少女誘拐事件、そして消えた3億円の行方は……。 小説家になろうは現在休止中。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

転校して来た美少女が前幼なじみだった件。

ながしょー
青春
 ある日のHR。担任の呼び声とともに教室に入ってきた子は、とてつもない美少女だった。この世とはかけ離れた美貌に、男子はおろか、女子すらも言葉を詰まらせ、何も声が出てこない模様。モデルでもやっていたのか?そんなことを思いながら、彼女の自己紹介などを聞いていると、担任の先生がふと、俺の方を……いや、隣の席を指差す。今朝から気になってはいたが、彼女のための席だったということに今知ったのだが……男子たちの目線が異様に悪意の籠ったものに感じるが気のせいか?とにもかくにも隣の席が学校一の美少女ということになったわけで……。  このときの俺はまだ気づいていなかった。この子を軸として俺の身の回りが修羅場と化すことに。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話

水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。 そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。 凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。 「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」 「気にしない気にしない」 「いや、気にするに決まってるだろ」 ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様) 表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。 小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。

処理中です...