66 / 119
第三章 揉める部活と失恋大騒動
第61話 彼もまた、何かに答える
しおりを挟む
公園に入っても大槻は気づいていないのか、こっちを向かずにベンチに座ったまま地面を見ていた。
俺と山路は静かに近づく。
ゆっくりと大槻の方へ。
だが、それがよくなかったのかもしれない。
不自然な足音に違和感を覚えたのか、大槻が顔を上げこっちを向いた。
「……!」
「よ、よう」
片手をあげて軽く挨拶する。
沈黙。
そして無表情だった大槻の顔に生気が宿り始めた。
次の瞬間、大槻は俺たちが入った方と逆の出入口へ走った。
「なっ! ちょっと待てって! 大槻!」
「追うよ!」
急な行動に反応が遅れる。
俺と山路は急いで大槻の後を追う。
線路沿いの細い一本道には誰もおらず、大槻は全速力だった。
すでに数十メートルは離されていた。
「くそ! 早い!」
「はぁ、はぁ……ごめん、先行って……っ!」
山路がすぐに息切れをする。
俺は後ろを振り返らずに言う。
「了解!」
俺は足のギアを上げる。
大槻の距離が少しずつ近づいていく。
ふざけんな! 絶対逃がすか!
心の中で叫ぶ。
大槻は駅の方へと進んでいく。このまま突き当たりの角を曲がられれば見失ってしまう。
とにかく遮二無二に走る。
だが、数十メートル先の大槻は角を曲がり見えなくなった。
気にせず俺も突き当たりまで全力で走る。
おそらく五、六秒は差が開いている。
俺は迷わずに大槻が曲がった方に行くが、そこの通りを見ても大槻の姿はなかった。
「はぁ、はぁ、どこ行った…………?」
呼吸を整え、歩きながら一本一本曲がり角を覗く。
ダメだ。これじゃ時間の無駄だ。
駅の方か? それとも逆か?
みんなを待つか? いや、もし家に帰られたらもう駄目だ。
決め打ちするしかなかった。
だが、決め手がなかった。
あるとしたら、公園にいたことぐらいだ。
…………………………よし。
俺は覚悟を決め、走り出した。
――――――――――――――――――――――――――――――
「はぁ、はぁ」
「…………追いついたぞ」
「な、何で分かったんだよ、はぁ、はぁ」
「知るか、直感だ」
「なんだそれ、ずりーだろ」
「うるせ」
「ちょ、分かった、分かった! 逃げたりしないから! ちょっと休ませて」
「本当だな?」
「ああ」
そういうと大槻はその場にしゃがみこんだ。
息を整えるように、何回も呼吸する。
「おい、こんなところでしゃがむなよ」
「いいだろ。今の俺はこれぐらい気にしないんだよ……」
俺の注意に大槻が軽口を叩く。
皮肉に笑う彼に俺は何も言わず、ただ横にいた。
――ここは駅前のショッピングモールの入り口近くの街頭の下。
花火の買い出しの時の集合場所。
そしておそらく、大槻が夏村にフラれた場所だ。
何の因果か。大槻が逃げ込んだのはここだった。
あの時と違い、まだ日のある今はそれなりに人が通っていた。
なぜ俺が大槻の居場所が分かったのか。
それは俺自身も分からなかった。
駅の方に行って家に帰ろうとするのが自然と思ったのか、それとも公園にいたことを考えて大槻自身何かを思っていることにかけたのか。
まぁ、答えは定かではないが大槻を捕まえたのだ。
これからどうするかを考えるべきだ。
みんなに連絡するか? いや、大槻は現状を分かっていないだろうからその説明からか?
「なぁ、杉野」
「ん?」
俺が次の動きを考えていると、大槻が街行く人を見ながら言った。
「すまなかった」
…………………………。
俺は拳を強く握る。
これは怒りじゃない。悲しみじゃない。同情じゃない。
バカヤローが、そんな感情だった。
「……それは、俺だけに言う言葉じゃないだろ」
「ああそうだな。でも一番迷惑かけたのお前だから」
俺が言うと、寂しそうな声でそんな答えが返ってきた。
大槻は不真面目だ。
だが、決してバカではなく自分のしたことがどういうことか分かっている。
たぶんある程度は今の状況を察しているのかもしれない。
まるで悟ったかのような横顔に、俺は苛立ちを覚えた。
「お前分かってんのか。俺への迷惑なんてどうでもいいだろ」
「よくねーよ」
睨みつけるように座りながら大槻はこちらを見上げ、はっきりと言った。
その迫力に、気圧される。
「どうせ、椎名とか増倉が色々言って揉めたりとかしたんだろ?」
「それは……」
「杉野のことだから、まーた間に入ってなんとかしようとしたんだろ? まぁ樫田や山路もそうかもしれないけど。二人にも謝んないとな。歓迎会もぶち壊しちまったし。ああ、あと部活に恋愛持ち込んだことも悪かったな。俺の今後を心配してんなら気にすんなよ。まぁ元々テキトーにやってきたんだ――」
「待て待て! 待てって!」
何かをまとめるように話す大槻を俺は止めた。
なんだ? なんかこの先を聞いてはいけない気がする。
大槻は立ち上がり、ジーパンについて汚れを叩く。
そして、真っ直ぐに俺を見る。
ドクンと心臓が高鳴った。
背筋が痺れて、嫌な予感がした。
「まぁ、なんだ――」
ああ、まずい。
あのときの危険信号のように世界が赤くなる。
夏村の時は一瞬だった赤が今回は永遠に思えるほど長い。
そんな赤い世界で、大槻は不器用な笑顔を作りながら言った。
「俺、部活辞めるわ」
俺と山路は静かに近づく。
ゆっくりと大槻の方へ。
だが、それがよくなかったのかもしれない。
不自然な足音に違和感を覚えたのか、大槻が顔を上げこっちを向いた。
「……!」
「よ、よう」
片手をあげて軽く挨拶する。
沈黙。
そして無表情だった大槻の顔に生気が宿り始めた。
次の瞬間、大槻は俺たちが入った方と逆の出入口へ走った。
「なっ! ちょっと待てって! 大槻!」
「追うよ!」
急な行動に反応が遅れる。
俺と山路は急いで大槻の後を追う。
線路沿いの細い一本道には誰もおらず、大槻は全速力だった。
すでに数十メートルは離されていた。
「くそ! 早い!」
「はぁ、はぁ……ごめん、先行って……っ!」
山路がすぐに息切れをする。
俺は後ろを振り返らずに言う。
「了解!」
俺は足のギアを上げる。
大槻の距離が少しずつ近づいていく。
ふざけんな! 絶対逃がすか!
心の中で叫ぶ。
大槻は駅の方へと進んでいく。このまま突き当たりの角を曲がられれば見失ってしまう。
とにかく遮二無二に走る。
だが、数十メートル先の大槻は角を曲がり見えなくなった。
気にせず俺も突き当たりまで全力で走る。
おそらく五、六秒は差が開いている。
俺は迷わずに大槻が曲がった方に行くが、そこの通りを見ても大槻の姿はなかった。
「はぁ、はぁ、どこ行った…………?」
呼吸を整え、歩きながら一本一本曲がり角を覗く。
ダメだ。これじゃ時間の無駄だ。
駅の方か? それとも逆か?
みんなを待つか? いや、もし家に帰られたらもう駄目だ。
決め打ちするしかなかった。
だが、決め手がなかった。
あるとしたら、公園にいたことぐらいだ。
…………………………よし。
俺は覚悟を決め、走り出した。
――――――――――――――――――――――――――――――
「はぁ、はぁ」
「…………追いついたぞ」
「な、何で分かったんだよ、はぁ、はぁ」
「知るか、直感だ」
「なんだそれ、ずりーだろ」
「うるせ」
「ちょ、分かった、分かった! 逃げたりしないから! ちょっと休ませて」
「本当だな?」
「ああ」
そういうと大槻はその場にしゃがみこんだ。
息を整えるように、何回も呼吸する。
「おい、こんなところでしゃがむなよ」
「いいだろ。今の俺はこれぐらい気にしないんだよ……」
俺の注意に大槻が軽口を叩く。
皮肉に笑う彼に俺は何も言わず、ただ横にいた。
――ここは駅前のショッピングモールの入り口近くの街頭の下。
花火の買い出しの時の集合場所。
そしておそらく、大槻が夏村にフラれた場所だ。
何の因果か。大槻が逃げ込んだのはここだった。
あの時と違い、まだ日のある今はそれなりに人が通っていた。
なぜ俺が大槻の居場所が分かったのか。
それは俺自身も分からなかった。
駅の方に行って家に帰ろうとするのが自然と思ったのか、それとも公園にいたことを考えて大槻自身何かを思っていることにかけたのか。
まぁ、答えは定かではないが大槻を捕まえたのだ。
これからどうするかを考えるべきだ。
みんなに連絡するか? いや、大槻は現状を分かっていないだろうからその説明からか?
「なぁ、杉野」
「ん?」
俺が次の動きを考えていると、大槻が街行く人を見ながら言った。
「すまなかった」
…………………………。
俺は拳を強く握る。
これは怒りじゃない。悲しみじゃない。同情じゃない。
バカヤローが、そんな感情だった。
「……それは、俺だけに言う言葉じゃないだろ」
「ああそうだな。でも一番迷惑かけたのお前だから」
俺が言うと、寂しそうな声でそんな答えが返ってきた。
大槻は不真面目だ。
だが、決してバカではなく自分のしたことがどういうことか分かっている。
たぶんある程度は今の状況を察しているのかもしれない。
まるで悟ったかのような横顔に、俺は苛立ちを覚えた。
「お前分かってんのか。俺への迷惑なんてどうでもいいだろ」
「よくねーよ」
睨みつけるように座りながら大槻はこちらを見上げ、はっきりと言った。
その迫力に、気圧される。
「どうせ、椎名とか増倉が色々言って揉めたりとかしたんだろ?」
「それは……」
「杉野のことだから、まーた間に入ってなんとかしようとしたんだろ? まぁ樫田や山路もそうかもしれないけど。二人にも謝んないとな。歓迎会もぶち壊しちまったし。ああ、あと部活に恋愛持ち込んだことも悪かったな。俺の今後を心配してんなら気にすんなよ。まぁ元々テキトーにやってきたんだ――」
「待て待て! 待てって!」
何かをまとめるように話す大槻を俺は止めた。
なんだ? なんかこの先を聞いてはいけない気がする。
大槻は立ち上がり、ジーパンについて汚れを叩く。
そして、真っ直ぐに俺を見る。
ドクンと心臓が高鳴った。
背筋が痺れて、嫌な予感がした。
「まぁ、なんだ――」
ああ、まずい。
あのときの危険信号のように世界が赤くなる。
夏村の時は一瞬だった赤が今回は永遠に思えるほど長い。
そんな赤い世界で、大槻は不器用な笑顔を作りながら言った。
「俺、部活辞めるわ」
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
『別れても好きな人』
設樂理沙
ライト文芸
大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。
夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。
ほんとうは別れたくなどなかった。
この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には
どうしようもないことがあるのだ。
自分で選択できないことがある。
悲しいけれど……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
登場人物紹介
戸田貴理子 40才
戸田正義 44才
青木誠二 28才
嘉島優子 33才
小田聖也 35才
2024.4.11 ―― プロット作成日
💛イラストはAI生成自作画像
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる