日和見主義だった俺が揉めすぎる演劇部で全国大会を目指したら青春すぎた

溝野重賀

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第二章 始まる部活と新入部員歓迎会

第45話 その目映きに嘘はなく

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「おー! 杉野ん来たか! 遅いぞー!」

 公園に戻ると、轟先輩が手を振って近づいてきた。
 中心では線香花火をしており、みんなの方から独特の火薬臭さがあった。
 まだ始まって間もないのだろうか。

「先輩、もう線香花火落ちたんですか」

「いやはや、お恥ずかしながら…………それより他のみんなは? 樫田んはトイレって聞いたけど」

「それが大槻もトイレらしいんですよ」

「なんと! 最近の若いのは腹が弱いのぉ」

 他愛ない話なのに緊張して仕方ない。
 落ち着け俺。大丈夫。現状のまま花火して解散すればいいだけだ。

 ――数分前のこと。
 樫田は俺に、現状のまま花火を終わらせて解散にもっていくことは可能だと言った。
 それだけみんなのテンションは高く、時間的にも花火が終わったタイミングで解散の話をすればいいということだった。
 俺が了承すると、樫田は最後に『独りじゃない。大丈夫、周りを信じろ』と言い、すぐに夏村のところへ向かって行った。

 つまり、俺がすべきことはこのまま花火終わりまで大槻や夏村に連絡させないことだ。

「ちなちな、佐恵んもお手洗いでごわす?」

「……ごわす? えー、その多分、そうです」

「池本後輩が心配していたから、あとで説明するようにね」

「!」

 轟先輩が周りに聞こえないぐらい小さい声で言った言葉に、俺は顔に出そうになった驚きを必死に飲み込んだ。
 見透かされた気分だった。

 小さく頷くと、轟先輩は何もなかったようにみんなの方へ戻った。

「さぁ! 第三回戦も終わったね! 誰が勝ったかい!?」

「私が勝ちました! 結構楽しいですね! 線香花火大会!」

「ね! すっごい楽しいです!」

「っす! 次は負けないっす!」

 一年生たちが楽しそうに線香花火をしていた。
 少しだけ、胸が苦しくなった。

 罪悪感? 偽善に対する不快感? どれでも関係ない。
 それでも俺のやることは変わらない。

「杉野、大丈夫? はい、線香花火よ」

「おお椎名、ありがとう」

 いつの間にか近づいていた椎名から線香花火を手渡しされた。
 感謝を言うと、心配そうな顔をしていた。

「大丈夫?」

 そして再度、聞かれた。
 刹那に感じた衝撃が俺を弱くする。
 その弱さが吐露させた。

「……最悪だ」

 少し震えた言葉。
 椎名は一瞬苦い顔をしたが、すぐに真剣な表情になった。

「……そう、なのね。それでどうしたいのかしら?」

「せめて、せめて今だけでも最高で終わりたい」

「分かったわ」

 それだけを椎名は言った。

「え?」

 思わず、聞き返していた。
 椎名は真っ直ぐに俺を見て言う。

「大丈夫よ。栞も山路も分かっているわ。樫田がそっちに行ったことの意味を。だから、今だけでも演じましょう、最高を」

 樫田、俺が信じるより先に信じさせてくれたよ。
 俺は再び、みんなの方へ視線を向ける。
 胸の苦しさがなくなっていた。

「ああ、頼めるか」

「もちろんよ」

 ほんの少しの言葉だけ交わして、俺たちはみんなの方へ歩いて行く。
 ちょうど四回戦目が終わったところのようだった。

「遅いから先にやってたよー」

「調子はどう? 大丈夫?」

 山路と増倉がバケツに終わった線香花火を入れながら、話しかけてくる。

「悪いな。大槻と樫田が焼き肉屋で調子乗り過ぎたらしい」

「じゃあ今は向こうも激戦ってわけだー」

「まぁ、下品」

 そんなやり取りに笑う一年生たち。
 そんな中、池本が俺に近づいてきた。

「杉野先輩、夏村先輩は……」

「ああ、なんだその」

 俺が困り、椎名の方へ目を向ける。
 すると椎名は池本の手を掴み、俺から少し離れた。

「佐恵は…………の日で…………だから…………」

「ああ! …………すみません。私…………」

 聞こえるか聞こえないかぐらいの声で話す二人。
 ? よく分からんが何とかなったようだった。

「先輩ぃ~、早く先輩もやりましょうよー! 線香花火楽しいですよ!」

「めっちゃ真剣になるっす!」

 田島と金子がしゃがんで、線香花火をスタンバイ状態だった。
 なんか、ハマってんな。

 俺もしゃがみこんで線香花火を一本手に持つ。
 みんなで円のように座り込んで、その中心には百均で買ったロウソクが何本か並んでいた。

「盛り上がってんな。今誰が勝ってんだ?」

「春佳ちゃんが二勝してますね!」

「強いっす」

「へぇー、池本って線香花火得意だったんだな」

「た、たまたまです。真弓ちゃんだってさっき勝ったじゃない」

 池本がそう言いながら、俺の横にしゃがんだ。
 どうやら、今年のクイーンは彼女になりそうだ。

「ではでは、杉野んも加わっての五戦目行きますか。諸君、己が線香に火をつけよ!」

 轟先輩がそう言うと、みんなロウソクに線香花火を近づける。
 人数分のロウソクがないため、何人かで一つを使う。
 火に集まって、点けば手元へ。

 数秒の沈黙。

 それぞれの火が丸まっていく。
 静けさの中、線香花火が弾け出す。

 その燃ゆる輝きは、嘘偽りのない儚く眩い灯だった。
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