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第二章 始まる部活と新入部員歓迎会
第36話 その景色の意味はまだ
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「どうして分かった?」
食べ終わり、焼き肉屋を出て駐車場で夏村が聞いてきた。
田島の時のことだろう。
「なんていうか、なんとなく?」
「説明になってない」
「まぁ、正直アイコンタクトは全然気づいてなかった」
「なら」
「たださ、自分の視野が狭いって気づいたから」
「そう」
夏村はそれだけ言って俺から視線を離す。
俺もつられて向くと、一年生たちと何人かの二年生が楽しそうに話していた。
大槻と椎名はトイレだろうか?
ちなみに先輩たちは中で会計をしている。
この歓迎会、すでにこの時点で俺には大きな収穫だった。
一年生たちについても、それに自分についても少し分かることができた。
「いい後輩だな」
何の気なしの言葉だった。
「ええ、でもそれ引き出したのは杉野」
「どうだろうな、いつか誰が聞いただろ」
「いつかじゃダメ。あのときあの場だったから本音になった」
「田島……いや、樫田が言っていたっていう『言ってほしい時に、言ってほしいように』ってやつか?」
「……きっと杉野の言う通り、いつか誰かが聞いていた。けどそこで本音を言えたとは限らない。一年生にとって今日この場で聞かれないと言う勇気はなかったと思う」
「勇気?」
「人って臆病だから」
その言葉が自虐のように聞こえたのは、内緒だ。
本当に周りが見えてないな、俺。
一年間、一緒に部活をしていたというのに今更夏村の本音を聞いたような気がした。
「なら」
「ん?」
「どうして、俺にアイコンタクトをしたんだ?」
人が臆病だというのなら、夏村はどうして勇気を出したのか。
あのとき、別に見ているだけでもよかったじゃないか。
「演劇嫌いなバカの気持ちが分かったから」
「演劇好きなバカなのにか?」
……睨まれた。悪かったよ。
それにしても、いったい誰のことを言ったのだろうか。
「今の杉野じゃ分からない」
「周りが見えてないのは重々承知しているよ」
「違う。きっとこれは演技の話」
「は? 演技?」
「そう役者の本当ができる杉野に、嘘の芝居は分からない」
「ちょ、ちょ何? どういうこと?」
戸惑う俺を気にせずに、夏村は続ける。
「私は自分が演劇狂いだと思うけど、杉野は違う。究極演劇がなくても生きていけるでしょ?」
「お、おう」
こっちの質問スルーじゃん。
「それは杉野の長所」
「ん? あ、ありがとう?」
何、褒められたの?
もう本当だの嘘だの分からんよ。
なぁぜなぁぜ? ぐらい簡単な話にしてくれよ。
「人は好き過ぎても嫌い過ぎても、壊れる」
夏村の目線の先の後輩たちは、楽しそうに話している。
なんて慈しむ目だろうか。
だが、同時に恋着のような深い何かを感じた。
全てが分かることはないかもしれない。
俺が平穏な部活を願うように、みんなそれぞれが願いを抱いている。
そんな当たり前が、ここに来て身に染みた。
「そんな彼女を見て、俺は守りたいと思った」
そんな彼女を見て、俺は……ん?
「うお! 轟先輩!」
「!」
振り返ると、俺の背後には轟先輩がいた。
げ、木崎先輩と津田先輩も!
「杉野んも佐恵んも若いねぇ~」
「いや~、おじさんには眩しいわ」
「……二人とも、ほどほどにね」
クソ! この三者三様のリアクション!
完全に楽しんでやがる!
「人は好き過ぎても嫌い過ぎても…………壊れる」
「よ! 名女優!」
轟先輩が夏村のマネをして、津田先輩が茶化す。
「…………いつから聞いていたんですが、先輩たちは」
うわぁ。夏村さんマジで怒っているじゃないですか……。
「さ、佐恵んお、落ち着いて。まあ待て、まあ待て! 話せばわかる!」
それ、銃殺されない? 確かに今五月だけど。
木崎先輩と津田先輩を盾にする轟先輩。
着実に追い詰める夏村。
「どいてください先輩」
「……まぁまぁ、落ち着いて」
「そ、そうだよ佐恵ちゃん。怒ったら美人が台無しだよ」
夏村は先輩たちの言葉が届いていないのか。視線は完全に轟先輩を捉えていた。
獲物を見定めた肉食獣が如く。
「こ、こうなれば、逃げるは恥だが役に立つはハンガリーのことわざ!」
謎の言葉を言って一年生たちの方へ走っていく。
そんな轟先輩を追いかけて、夏村も向こうへ行った。
へー、ハンガリーのことわざなんだ。
「……二人で反省会かい?」
「まぁ、そんなところですかね」
「聞いたぞ杉野。女泣かせたんだってな!」
ニヤニヤと笑いながら肩を組んでくる津田先輩。
会計しながら三年生たちで話し合ったのだろうか。
「正確には夏村が泣かせたんですよ」
「何言ってんだ。どうせまた土足で人の心に入ってったんだろ」
「え、それ通説なんですか」
部内共通認識? そんな俺無神経野郎なん?
津田先輩の顔がげんなりとしていた。
あ、もう常識扱いなんですね。
木崎先輩の方を見て俺を指さす津田先輩。
対して、頭を横に振る木崎先輩。
そして二人のため息。
「酷すぎません!?」
思わずそう言ってしまった。
「おめぇな。どっちが酷いんだよ。ちょっとは成長したんじゃないかって思った俺の期待を返せ」
「……珍しく夏村とは意思疎通できていたのに」
今日の俺は厄日かな?
誰と話しても言われたい放題なんだが。
「てか、木崎先輩気づいていたんですか。アイコンタクト」
「……別に気づいていたわけじゃないよ。注文終わりのあのタイミングで夏村から切り出していた。きっと二人で何か意思の疎通をしたんだろうって分かるよ」
「いや大したもんだ。少しは周りが見れるようになったってことだ」
俺の頭をポンポン叩く津田先輩。
なんか上機嫌だな。
二人とも、どこか嬉しそうだった。
「ん? 何不思議そうにしてんだ? 褒められ慣れてない思春期か?」
「違いますよ。先輩たちがやけに嬉しそうだなって」
二人して固まった。そんなおかしいこと言ったか?
だが、次の瞬間には笑いだしていた。
「はは、違いない。よく分かってんじゃん」
「……そうだね。これほど嬉しいこともないよ」
俺はますます訳が分からなくなった。
そんな俺を見かねたのか、木崎先輩が言った。
「……杉野も、もうすぐ分かるよ。これの正体が」
「ああ、違いない」
これ? 嬉しい理由のことか?
何のことか聞こうとしたが、二人は轟先輩が逃げた先、一年生たちの方を見ていた。
俺も首を動かし、みんなの方を向く。
声は聞こえないが、始めに目に入ったのは樫田が夏村を宥めている様子だった。
轟先輩は池本と田島に何か話していて、山路と金子は笑顔でその様子を見ていた。
先輩たちと俺は黙ってその様子を見ていた。
ほんの数秒のこと。
「ま、杉野の成長があって良かったってことだよ」
まとめるように津田先輩はそう言い、俺の背中を軽く叩く。
「はぁ、どうも。そういえば、津田先輩のテーブルの方はどうだったんですか?」
「お、それ聞く?」
「え、そりゃ気になりますし」
やれやれ、という様子の津田先輩。
「俺からは酷かったとしか言えんよ」
「え」
「ああ、勘違いするなよ。別にあいつらも一年生たちも楽しいそうだったぞ」
「???」
酷かったけど楽しそうだった??
何それ。一休さん?
このはし渡るべからず。みたいな話か?
「……コウジ。杉野が混乱しているよ」
「おお、悪い悪い。まぁ細かいことは当事者に聞いてくれ」
店の入り口の方に目をやる津田先輩。
そこにはちょうど店から出てきた椎名と大槻がいた。
食べ終わり、焼き肉屋を出て駐車場で夏村が聞いてきた。
田島の時のことだろう。
「なんていうか、なんとなく?」
「説明になってない」
「まぁ、正直アイコンタクトは全然気づいてなかった」
「なら」
「たださ、自分の視野が狭いって気づいたから」
「そう」
夏村はそれだけ言って俺から視線を離す。
俺もつられて向くと、一年生たちと何人かの二年生が楽しそうに話していた。
大槻と椎名はトイレだろうか?
ちなみに先輩たちは中で会計をしている。
この歓迎会、すでにこの時点で俺には大きな収穫だった。
一年生たちについても、それに自分についても少し分かることができた。
「いい後輩だな」
何の気なしの言葉だった。
「ええ、でもそれ引き出したのは杉野」
「どうだろうな、いつか誰が聞いただろ」
「いつかじゃダメ。あのときあの場だったから本音になった」
「田島……いや、樫田が言っていたっていう『言ってほしい時に、言ってほしいように』ってやつか?」
「……きっと杉野の言う通り、いつか誰かが聞いていた。けどそこで本音を言えたとは限らない。一年生にとって今日この場で聞かれないと言う勇気はなかったと思う」
「勇気?」
「人って臆病だから」
その言葉が自虐のように聞こえたのは、内緒だ。
本当に周りが見えてないな、俺。
一年間、一緒に部活をしていたというのに今更夏村の本音を聞いたような気がした。
「なら」
「ん?」
「どうして、俺にアイコンタクトをしたんだ?」
人が臆病だというのなら、夏村はどうして勇気を出したのか。
あのとき、別に見ているだけでもよかったじゃないか。
「演劇嫌いなバカの気持ちが分かったから」
「演劇好きなバカなのにか?」
……睨まれた。悪かったよ。
それにしても、いったい誰のことを言ったのだろうか。
「今の杉野じゃ分からない」
「周りが見えてないのは重々承知しているよ」
「違う。きっとこれは演技の話」
「は? 演技?」
「そう役者の本当ができる杉野に、嘘の芝居は分からない」
「ちょ、ちょ何? どういうこと?」
戸惑う俺を気にせずに、夏村は続ける。
「私は自分が演劇狂いだと思うけど、杉野は違う。究極演劇がなくても生きていけるでしょ?」
「お、おう」
こっちの質問スルーじゃん。
「それは杉野の長所」
「ん? あ、ありがとう?」
何、褒められたの?
もう本当だの嘘だの分からんよ。
なぁぜなぁぜ? ぐらい簡単な話にしてくれよ。
「人は好き過ぎても嫌い過ぎても、壊れる」
夏村の目線の先の後輩たちは、楽しそうに話している。
なんて慈しむ目だろうか。
だが、同時に恋着のような深い何かを感じた。
全てが分かることはないかもしれない。
俺が平穏な部活を願うように、みんなそれぞれが願いを抱いている。
そんな当たり前が、ここに来て身に染みた。
「そんな彼女を見て、俺は守りたいと思った」
そんな彼女を見て、俺は……ん?
「うお! 轟先輩!」
「!」
振り返ると、俺の背後には轟先輩がいた。
げ、木崎先輩と津田先輩も!
「杉野んも佐恵んも若いねぇ~」
「いや~、おじさんには眩しいわ」
「……二人とも、ほどほどにね」
クソ! この三者三様のリアクション!
完全に楽しんでやがる!
「人は好き過ぎても嫌い過ぎても…………壊れる」
「よ! 名女優!」
轟先輩が夏村のマネをして、津田先輩が茶化す。
「…………いつから聞いていたんですが、先輩たちは」
うわぁ。夏村さんマジで怒っているじゃないですか……。
「さ、佐恵んお、落ち着いて。まあ待て、まあ待て! 話せばわかる!」
それ、銃殺されない? 確かに今五月だけど。
木崎先輩と津田先輩を盾にする轟先輩。
着実に追い詰める夏村。
「どいてください先輩」
「……まぁまぁ、落ち着いて」
「そ、そうだよ佐恵ちゃん。怒ったら美人が台無しだよ」
夏村は先輩たちの言葉が届いていないのか。視線は完全に轟先輩を捉えていた。
獲物を見定めた肉食獣が如く。
「こ、こうなれば、逃げるは恥だが役に立つはハンガリーのことわざ!」
謎の言葉を言って一年生たちの方へ走っていく。
そんな轟先輩を追いかけて、夏村も向こうへ行った。
へー、ハンガリーのことわざなんだ。
「……二人で反省会かい?」
「まぁ、そんなところですかね」
「聞いたぞ杉野。女泣かせたんだってな!」
ニヤニヤと笑いながら肩を組んでくる津田先輩。
会計しながら三年生たちで話し合ったのだろうか。
「正確には夏村が泣かせたんですよ」
「何言ってんだ。どうせまた土足で人の心に入ってったんだろ」
「え、それ通説なんですか」
部内共通認識? そんな俺無神経野郎なん?
津田先輩の顔がげんなりとしていた。
あ、もう常識扱いなんですね。
木崎先輩の方を見て俺を指さす津田先輩。
対して、頭を横に振る木崎先輩。
そして二人のため息。
「酷すぎません!?」
思わずそう言ってしまった。
「おめぇな。どっちが酷いんだよ。ちょっとは成長したんじゃないかって思った俺の期待を返せ」
「……珍しく夏村とは意思疎通できていたのに」
今日の俺は厄日かな?
誰と話しても言われたい放題なんだが。
「てか、木崎先輩気づいていたんですか。アイコンタクト」
「……別に気づいていたわけじゃないよ。注文終わりのあのタイミングで夏村から切り出していた。きっと二人で何か意思の疎通をしたんだろうって分かるよ」
「いや大したもんだ。少しは周りが見れるようになったってことだ」
俺の頭をポンポン叩く津田先輩。
なんか上機嫌だな。
二人とも、どこか嬉しそうだった。
「ん? 何不思議そうにしてんだ? 褒められ慣れてない思春期か?」
「違いますよ。先輩たちがやけに嬉しそうだなって」
二人して固まった。そんなおかしいこと言ったか?
だが、次の瞬間には笑いだしていた。
「はは、違いない。よく分かってんじゃん」
「……そうだね。これほど嬉しいこともないよ」
俺はますます訳が分からなくなった。
そんな俺を見かねたのか、木崎先輩が言った。
「……杉野も、もうすぐ分かるよ。これの正体が」
「ああ、違いない」
これ? 嬉しい理由のことか?
何のことか聞こうとしたが、二人は轟先輩が逃げた先、一年生たちの方を見ていた。
俺も首を動かし、みんなの方を向く。
声は聞こえないが、始めに目に入ったのは樫田が夏村を宥めている様子だった。
轟先輩は池本と田島に何か話していて、山路と金子は笑顔でその様子を見ていた。
先輩たちと俺は黙ってその様子を見ていた。
ほんの数秒のこと。
「ま、杉野の成長があって良かったってことだよ」
まとめるように津田先輩はそう言い、俺の背中を軽く叩く。
「はぁ、どうも。そういえば、津田先輩のテーブルの方はどうだったんですか?」
「お、それ聞く?」
「え、そりゃ気になりますし」
やれやれ、という様子の津田先輩。
「俺からは酷かったとしか言えんよ」
「え」
「ああ、勘違いするなよ。別にあいつらも一年生たちも楽しいそうだったぞ」
「???」
酷かったけど楽しそうだった??
何それ。一休さん?
このはし渡るべからず。みたいな話か?
「……コウジ。杉野が混乱しているよ」
「おお、悪い悪い。まぁ細かいことは当事者に聞いてくれ」
店の入り口の方に目をやる津田先輩。
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