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第二章 始まる部活と新入部員歓迎会
第17話 面談前の密会
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「これはチャンスだわ」
開口一番、椎名はそう言った。
俺たちは部活終わりに駅前の大型ショッピングモールに来ていた。
この密会(?)ではおなじみの二階フードコートの隅に座っていた。
「チャンスって?」
「もちろん部長になるためのチャンスよ。話聞いてなかったの?」
相変わらずの毒舌だった。
椎名の言いたいことが、今日言われた部長との面談のことだとは分かっていた。
しかし――。
「でも轟先輩言ってただろ。あくまでもお喋りが目的で、面談で次の部長が決まることはないって。それなのにチャンスって」
「そんなの建前に決まっているじゃない。きっと面談は大きな意味を持つわ」
椎名は自信満々の様子だった。
けれども、はたしてそうだろうか。確かに先輩たちの意図が読めない以上、お喋りが目的と言われてそれを鵜呑みにはできない。
だからといって、それが建前であるとは断言できない。
「大きな意味って?」
「杉野はおかしいと思わなかったの」
「何が?」
はて、今日の部活でおかしいことなどあっただろうか。
轟先輩がややスベっていたが、あれはいつものことだろう。
「木崎先輩は『誰を部長にするかで揉めてね』って言っていたわ。つまり三年生たちで意見が分かれたってこと。なのに面談するのは轟先輩とだけ。不自然だと思わない?」
「あ」
言われてみれば、確かに不思議だ。なぜ轟先輩と一対一だけなのだろうか。意見が対立しているのなら、もう片方とも面談するのが自然だ。
「でも、部長が代表して面談して後で、三年生で情報共有するかもしれないだろ」
「なら情報共有のために聞きたい質問があるってことよね」
「つまり――」
「ただのお喋りなはずがないわけ」
椎名は断言した。
なるほど、確かにそう考えれば納得できる。
「いや、だとしても、その先輩たちが聞きたい質問ってなんだよ」
「問題はそこなのよね。部長になりたい意志があるのか、それとも部長になってほしい人を推薦させたいのか」
「でも立候補や推薦は無しって言ってただろ」
「なら、なおさら分からないわ」
お手上げといった様子の椎名。
現状、情報が少なすぎるのだ。これでは手の打ちようがなかった。
しかし椎名はあきらめてはいなかった。
「せっかく部長になる可能性を上げるチャンス……逃すわけにはいかないわ」
「そうは言ってもな」
「何かないかしら、先輩たちが知りたそうなこと」
「そうだなぁ」
そもそも、なぜこのタイミングで面談なのだろうか。五月に入れば春大会に向けて忙しくなるからだろうか。いや、轟先輩の思いつきな線もあるな。
うーん、ここは話を変えてみるか。
「先輩たち、誰を部長にするかで揉めたんだよな」
「ええ、そう言っていたわね」
「じゃあ、部長候補は誰と誰なんだろうな」
「……確かに、それも気になるわね」
誰を部長にするかで揉めたということは、少なくとも二人以上の部長候補がいるということになる。
「杉野は誰と誰だと思う?」
「そうだな。一人は樫田だと思うけど、もう一人は分かんないなぁ」
「そうよね。まとめ役としては樫田が一番だものね」
樫田の実力は椎名も認めるところであった。
現状において一番の部長候補は樫田だろう。
「他に候補者になりそうなのは、それこそ椎名と増倉ぐらいじゃないか」
「私と栞は同レベルなのね……」
椎名はどこか不満そうに呟いた。
いや、だってさー。
「先輩がない時、役者の中で指示出してんの二人じゃん」
「それは分かっているけど、栞と同列なのは嫌なの」
分かっていて嫌とか、そんな無茶苦茶な。
「じゃあ、聞くけど椎名は少なくとも誰と誰が部長候補だと思うんだよ」
「そうね。それもちろん樫田と私……って言いたいけど、正直分からないわ。栞かもしれないしそれに杉野、あなたの可能性もあるわ」
俺!?
椎名の意外な指摘に驚きを隠せなかった。
しかし、椎名の表情からそれが冗談ではないことがうかがえた。
「いやいやいや、俺はないだろ!」
「いいえ、充分なりえるわ。大槻や山路みたくサボり癖ははなし、樫田みたく中立すぎて自分の意見を言わないわけじゃなく、私や栞みたく野心があるわけじゃない。それでいて演劇に対して真面目だもの、十分だわ」
いやまぁ、真面目に部活してきた自覚はあるけど。
なんか他の奴がなるよりマシって感じに聞こえなくもない。
「評価してくれるのはありがたいけど、先輩たちがそう思っているとは限らないだろ」
「評価しているわ、きっと」
なぜか確信を得ているかのように椎名は言った。
何か知っているのだろうか。
「部長候補はひとまず置いておくとして、問題は面談で何を聞かれるかだわ」
「それこそ、分かるはずないだろ」
「そこを考えるために集まったんじゃない」
「そう言われてもなー…………あ、じゃあこういうのはどうだ。俺が先に面談を受けた場合、その内容を椎名に教える」
「妥当な考えだわ。でも私が先に面談したらどうするの?」
「…………」
「はぁ」
あの、露骨にため息つくの止めてくれませんかね。すごく傷つくんですけど。
でも浮かぶ作戦なんてその程度だぞ。
「じゃあ、椎名は何か作戦あるのかよ」
「……まぁ、なくはないわ」
椎名は小さくそう言った。
何か考えはあるのだろう。しかしそれ以上、椎名は何も言わなかった。
おそらく俺を必要としない、自分の面談の時に何かしようと思っているのだろう。
言い出しづらいことをわざわざ聞く必要もないだろう。
「じゃあ、それに賭けるしかないんじゃねーの」
「……そうなのよね」
そう言いながらも、どこか不安げな椎名だった。
きっと確実さに欠ける作戦なのだろう。
無理もない。面談は今日言われたばかりで情報もそんなにない。
何か代案を出したいが、そんな案が浮かぶわけもなく。
「まぁ、なるようになるんじゃねーの? 先輩も言ってただろケセラ……えっと」
「ケ・セラ・セラね。確かにそういった考えもあるわ。でも私は何としても部長になって全国を目指したいの」
確固たる意志を持つ眼差しを向けてくる椎名。
どうしても部長になりたい。どうしても全国を目指したい。どうしてそこまで拘るのか、その明確な理由を俺はまだ椎名から聞いていない。
けれども、そんなこと聞かなくても俺は彼女を手伝う。これは老婆心だろうか。
「野心家なことだな。けど、こう言っちゃなんだが全国目指すなら辞めてく先輩たちより、入ってくる後輩たちの心配をすべきなんじゃないか」
「そっちの方こそ、なるようにしかならないじゃないかしら。私たちはやれるだけのことはやったわ」
「けど部活見学に来たの三人だけってのは……最悪入部者0人なんてことも」
「それも仕方ないことだわ」
さらっと言う椎名。まぁ、確かに今更慌てふためいたところでどうしようもないのだが。
それにしても腹をくくり過ぎだろう。
「上は何考えているか分からない面談で、下は入るか分からない入部者たち。前途多難とはこのことだな」
「入部者はどうにもならないけど、面談は自分の言葉でどうにかできるわ」
「どうにかってどうやって?」
「いい。次の部長は誰がいいか聞かれたら、こう答えるのよ『椎名がいいんじゃないですかね。ほら、役者で同学年だけの時とかいつもまとめ役やってくれてますし』って」
「八百長かよ。そんなことで上手くいくのか?」
「少しでも部長になる可能性が上がるならすべきでしょ。いい? 分かった?」
鬼気迫るものを感じた俺は、黙って頷いた。
そんなことで部長になる可能性が上がるとは思えなかったが。
その日は、それで解散になった。
開口一番、椎名はそう言った。
俺たちは部活終わりに駅前の大型ショッピングモールに来ていた。
この密会(?)ではおなじみの二階フードコートの隅に座っていた。
「チャンスって?」
「もちろん部長になるためのチャンスよ。話聞いてなかったの?」
相変わらずの毒舌だった。
椎名の言いたいことが、今日言われた部長との面談のことだとは分かっていた。
しかし――。
「でも轟先輩言ってただろ。あくまでもお喋りが目的で、面談で次の部長が決まることはないって。それなのにチャンスって」
「そんなの建前に決まっているじゃない。きっと面談は大きな意味を持つわ」
椎名は自信満々の様子だった。
けれども、はたしてそうだろうか。確かに先輩たちの意図が読めない以上、お喋りが目的と言われてそれを鵜呑みにはできない。
だからといって、それが建前であるとは断言できない。
「大きな意味って?」
「杉野はおかしいと思わなかったの」
「何が?」
はて、今日の部活でおかしいことなどあっただろうか。
轟先輩がややスベっていたが、あれはいつものことだろう。
「木崎先輩は『誰を部長にするかで揉めてね』って言っていたわ。つまり三年生たちで意見が分かれたってこと。なのに面談するのは轟先輩とだけ。不自然だと思わない?」
「あ」
言われてみれば、確かに不思議だ。なぜ轟先輩と一対一だけなのだろうか。意見が対立しているのなら、もう片方とも面談するのが自然だ。
「でも、部長が代表して面談して後で、三年生で情報共有するかもしれないだろ」
「なら情報共有のために聞きたい質問があるってことよね」
「つまり――」
「ただのお喋りなはずがないわけ」
椎名は断言した。
なるほど、確かにそう考えれば納得できる。
「いや、だとしても、その先輩たちが聞きたい質問ってなんだよ」
「問題はそこなのよね。部長になりたい意志があるのか、それとも部長になってほしい人を推薦させたいのか」
「でも立候補や推薦は無しって言ってただろ」
「なら、なおさら分からないわ」
お手上げといった様子の椎名。
現状、情報が少なすぎるのだ。これでは手の打ちようがなかった。
しかし椎名はあきらめてはいなかった。
「せっかく部長になる可能性を上げるチャンス……逃すわけにはいかないわ」
「そうは言ってもな」
「何かないかしら、先輩たちが知りたそうなこと」
「そうだなぁ」
そもそも、なぜこのタイミングで面談なのだろうか。五月に入れば春大会に向けて忙しくなるからだろうか。いや、轟先輩の思いつきな線もあるな。
うーん、ここは話を変えてみるか。
「先輩たち、誰を部長にするかで揉めたんだよな」
「ええ、そう言っていたわね」
「じゃあ、部長候補は誰と誰なんだろうな」
「……確かに、それも気になるわね」
誰を部長にするかで揉めたということは、少なくとも二人以上の部長候補がいるということになる。
「杉野は誰と誰だと思う?」
「そうだな。一人は樫田だと思うけど、もう一人は分かんないなぁ」
「そうよね。まとめ役としては樫田が一番だものね」
樫田の実力は椎名も認めるところであった。
現状において一番の部長候補は樫田だろう。
「他に候補者になりそうなのは、それこそ椎名と増倉ぐらいじゃないか」
「私と栞は同レベルなのね……」
椎名はどこか不満そうに呟いた。
いや、だってさー。
「先輩がない時、役者の中で指示出してんの二人じゃん」
「それは分かっているけど、栞と同列なのは嫌なの」
分かっていて嫌とか、そんな無茶苦茶な。
「じゃあ、聞くけど椎名は少なくとも誰と誰が部長候補だと思うんだよ」
「そうね。それもちろん樫田と私……って言いたいけど、正直分からないわ。栞かもしれないしそれに杉野、あなたの可能性もあるわ」
俺!?
椎名の意外な指摘に驚きを隠せなかった。
しかし、椎名の表情からそれが冗談ではないことがうかがえた。
「いやいやいや、俺はないだろ!」
「いいえ、充分なりえるわ。大槻や山路みたくサボり癖ははなし、樫田みたく中立すぎて自分の意見を言わないわけじゃなく、私や栞みたく野心があるわけじゃない。それでいて演劇に対して真面目だもの、十分だわ」
いやまぁ、真面目に部活してきた自覚はあるけど。
なんか他の奴がなるよりマシって感じに聞こえなくもない。
「評価してくれるのはありがたいけど、先輩たちがそう思っているとは限らないだろ」
「評価しているわ、きっと」
なぜか確信を得ているかのように椎名は言った。
何か知っているのだろうか。
「部長候補はひとまず置いておくとして、問題は面談で何を聞かれるかだわ」
「それこそ、分かるはずないだろ」
「そこを考えるために集まったんじゃない」
「そう言われてもなー…………あ、じゃあこういうのはどうだ。俺が先に面談を受けた場合、その内容を椎名に教える」
「妥当な考えだわ。でも私が先に面談したらどうするの?」
「…………」
「はぁ」
あの、露骨にため息つくの止めてくれませんかね。すごく傷つくんですけど。
でも浮かぶ作戦なんてその程度だぞ。
「じゃあ、椎名は何か作戦あるのかよ」
「……まぁ、なくはないわ」
椎名は小さくそう言った。
何か考えはあるのだろう。しかしそれ以上、椎名は何も言わなかった。
おそらく俺を必要としない、自分の面談の時に何かしようと思っているのだろう。
言い出しづらいことをわざわざ聞く必要もないだろう。
「じゃあ、それに賭けるしかないんじゃねーの」
「……そうなのよね」
そう言いながらも、どこか不安げな椎名だった。
きっと確実さに欠ける作戦なのだろう。
無理もない。面談は今日言われたばかりで情報もそんなにない。
何か代案を出したいが、そんな案が浮かぶわけもなく。
「まぁ、なるようになるんじゃねーの? 先輩も言ってただろケセラ……えっと」
「ケ・セラ・セラね。確かにそういった考えもあるわ。でも私は何としても部長になって全国を目指したいの」
確固たる意志を持つ眼差しを向けてくる椎名。
どうしても部長になりたい。どうしても全国を目指したい。どうしてそこまで拘るのか、その明確な理由を俺はまだ椎名から聞いていない。
けれども、そんなこと聞かなくても俺は彼女を手伝う。これは老婆心だろうか。
「野心家なことだな。けど、こう言っちゃなんだが全国目指すなら辞めてく先輩たちより、入ってくる後輩たちの心配をすべきなんじゃないか」
「そっちの方こそ、なるようにしかならないじゃないかしら。私たちはやれるだけのことはやったわ」
「けど部活見学に来たの三人だけってのは……最悪入部者0人なんてことも」
「それも仕方ないことだわ」
さらっと言う椎名。まぁ、確かに今更慌てふためいたところでどうしようもないのだが。
それにしても腹をくくり過ぎだろう。
「上は何考えているか分からない面談で、下は入るか分からない入部者たち。前途多難とはこのことだな」
「入部者はどうにもならないけど、面談は自分の言葉でどうにかできるわ」
「どうにかってどうやって?」
「いい。次の部長は誰がいいか聞かれたら、こう答えるのよ『椎名がいいんじゃないですかね。ほら、役者で同学年だけの時とかいつもまとめ役やってくれてますし』って」
「八百長かよ。そんなことで上手くいくのか?」
「少しでも部長になる可能性が上がるならすべきでしょ。いい? 分かった?」
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その日は、それで解散になった。
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