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第一章 だらだら部活と部活動紹介
第14話 議論決着
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「えー。じゃあこれより部活動紹介でやる劇についての議論を再開していく」
昼休憩が終わり、議論の続きが始まる。
あの後、俺と増倉が同時に教室に戻ってきたことを怪しんだ椎名に軽く(きつく)尋問されたが、清廉潔白な俺はありのままを話した。
椎名はどこか納得しない様子だったが、なんとか矛先を引いてくれた。
「それじゃ、とりあえず話を続けたいって言った杉野、なんか議題を出してくれ」
「ああ、分かった」
みんなの視線が俺に集まる。
「俺考えたんだけどさ。今まではどっちの台本がいいかって、台本のことばかり考えてきただろ」
「当たり前だろ、台本のことなんだから」
大槻がつっこみ、みんなもそれに同調する。
「けどさ、自分たちにふさわしい台本かどうかを台本の良し悪しでしか見てないだろ? そうじゃなくて、自分たちが演じて最高のパフォーマンスになるのはどっちかで話をしてみないか?」
「……つまり台本の長所や短所じゃなくて、俺たちが演じた時どちらがより楽しくまたは感動させられるかって話か」
司会の樫田が、要点だけをうまくまとめてくれた。
つまりはそういうことだ。
「あー、なんとなく分かったぜ。今まで台本を中心に考えていたけど、俺たち、演じる側主体で考えるってことか」
他のみんなにも意図が伝わったらしく、各々考え始める。
どうやらうまく議題として持ち上がったようだ。
しかし、ここからどうなるかはおれにも分からない。
そして意外にも、一番初めに手を挙げたのは夏村だった。
「はい」
「お、はやいな夏村」
「私たちのパフォーマンスを最大限発揮できるのはやっぱり香菜の持ってきた台本だと思う。日頃やっている劇に近いからいつも通りの演技ができる」
どうやら夏村は変わらず、椎名の台本を勧めるらしい。
対して、今度は山路が手を挙げた。
「山路どうぞ」
「確かに夏村さんの言う通り、日頃やっている劇に近いのは椎名さんの方だと思う。でもそれって練習時間がたくさんある時だよね。今回はあまり練習出来ないし、ノリのいい増倉さんの台本の方がいいと思うんだ」
今一瞬、誰のせいで練習できないと思っているだよって視線がちらほら見えたぞ。しかも仲間であるはずの増倉も見ていたぞ。
でもまぁ、確かに練習日程はあまりない。質を求める椎名の劇は分が悪いかもしれない。
「それいうなら、俺も増倉の台本の方がパフォーマンス出ると思うぜ。結局ノリと勢いなんだよ。演劇ってのは」
大槻と山路も、変わらず増倉側につくようだ。
残る俺に再び視線が集まる。
「俺は椎名の台本の方がいいと思う。日頃やっているってのもあるが、やっぱりコメディって俺たちがやるには慣れてない気がするんだよ。そういう役は先輩たちがやってたし」
俺の言葉に、みんなどこか納得したような表情を見せる。
「そりゃ、先輩たちの方が上手いけど」
「あー、まぁ先輩たちと比べちゃうとねー」
大槻と山路がぼやくように言った。
そう、俺たちは増倉の台本のような劇を全くやってこなかったわけではない。しかしそういった劇の主要役は先輩たちがやっていた。
つまり経験がないのだ。
「でも、それって食わず嫌いって言うか、何事もやってみないと分かんないでしょ」
俺の意見に、増倉が真っ向から否定する。
「だとしても、今回の劇は今後の部活動を左右するもの、日頃やっていて慣れている劇の方がいいわ」
すかさず、椎名が反論を言う。
「だからそれじゃ、部活見学に来てくれないでしょ」
「それでいいじゃない。べつに大勢に来てもらう必要はないわ」
「どうしてそういうこと言うの? 大勢に来てもらえた方がいいじゃない」
「大勢来たところでまとまりがなくなるだけだわ。それに本気で演劇部に入りたい人なんて滅多にいるものじゃないわ」
「初めは軽い気持ちでもいいでしょ。そうやって入り口を狭くするのは良くないよ」
「別にいいじゃない――」
「はい、そこまでそこまで」
椎名と増倉の言い争いを、樫田が教卓をたたきながら止めた。
「二人とも意見を言うのはいいんだが、この議論はみんなで決めるものだから。白熱し過ぎて他の人を置いてかないように」
樫田が優しく注意をする。
この議論、おそらく椎名か増倉、どっちかを納得させた方に決めるだろう。
しかし、どう納得させたものか。
そう考えている間も議論は進む。
「このままじゃ埒が明かないぜ、いっそのこと多数決にしない?」
「大槻、全会一致を目標にしているんだ。多数決はない」
「でもさぁ。どっちかが折れない限り議論が終わらねぞ」
「そうだねー。このまま平行線ってわけにもいかないよねー」
「ちょっと! だからってさっきみたいに急に香菜の味方するのはなしよ」
「別に味方したわけじゃないって、俺は本当にどっちの劇でもいいんだって」
「まぁ、僕も」
「だから、そういうどっちつかずな態度止めてよ」
増倉が大槻と山路と揉め始める。
大槻は完全にこの議論に飽きているようだ。
「はいはい、そこ揉めない。他、言いたいことある人いるか?」
そう訊きながら樫田は俺の方を見ていた。
完全に俺に何か言えと言っているな。
ここは少し、違う切り口から入るか。
「じゃあ、はい。椎名と増倉に質問なんだが、どうしても相手の劇じゃ嫌なのか? そりゃ自分の劇の方がいいのは分かるが、相手の劇じゃ絶対に嫌な理由でもあるのか?」
俺の質問に先に答えたのは椎名だった。
「私は嫌よ。だって栞が持ってきた台本、私たちが日頃やっている劇じゃないし、ああいう笑いだけを取るような劇はやりたくないわ」
言われた増倉は鬼の形相になりながら答える。
「私だって嫌。香菜の持ってきた台本じゃ誰も部活見学に来てくれないから。それにああいう熱血ものって十分ちょっとでやるには時間が短すぎるんじゃない?」
ばちばちと火花散らすかのように睨みあう二人。
ここで俺は増倉の答えを掘り下げる。
「なぁ増倉、確かに椎名の劇はちょっと難しいところがあるが、誰も部活見学に来なくなるってのは言い過ぎじゃないか?」
「どうして?」
「だってそうだろ。それは増倉の憶測でしかないんだから」
「それは」
そう言って口の止まる増倉。
「それに仮に増倉の台本をやったとして、大勢の部活見学者が来る保証はどこにもないだろ?」
「それでも、香菜の台本よりはマシなはず!」
「だから、そんなのやってみなきゃわからないだろ」
「……」
あえて語尾を強めに言うと、増倉は黙ってしまった。
静寂が生まれる。破ったのは大槻だった。
「でもさ、やってみないと分からないのはどっちも一緒だろ?」
「ああ、だから今回の議論で部活見学者が大勢来るかどうかは重要じゃないと思っている」
「じゃあ、何が重要なんだよ」
「俺たちが俺たちなりに、最高の演技をすることだと思う」
俺は言い切った。
結局のところ、人前で演技をする以上、これより大切なことなんてないんじゃないだろうか。
確かに多くの人に部活見学に来てほしいとは思うが、だからといって自分たちの演技を変えるのは、何か違う気がする。
みんな、それぞれ考える仕草をする。
だが、特に反論はなかった。
樫田が増倉に確認する。
「何か異論や反論はあるか?」
「……確かに部活見学に大勢来るかどうかはやってみないと分からないね。でも、だからって香菜の台本の方がいいとは限らないでしょ!」
必死に否定する増倉。
どうやら簡単には納得してくれないらしい。
「けど、日頃やっている劇にジャンルが近いのは椎名の方だし、それに笑いを取るような劇はやっぱり俺たち向きじゃない気がするんだ」
人に向き不向きがあるように、集団にも向き不向きがある。
俺たち七人だから出せる個性ってやつが今は重要なのではないだろうか。
「それは……だから、やっぱりやってみないと分からないじゃない」
それでも否定する増倉。しかし先ほどと違って声は弱々しかった。
あと一押し。何か増倉を説得させられる材料はないだろうか。
「ねえ、なんで栞は大勢の人に部活見学に来てほしいの?」
そんなとき、椎名が増倉に尋ねた。
「なんでって多いに越したことはないでしょ」
「少数じゃダメなのかしら?」
「ダメ……じゃないけど、寂しいよ」
「そうね私たちは七人もいるものね。少ないと寂しいと思うわ。でも少ないからと言って楽しくできないわけじゃないでしょ」
「それは……」
「本来、演劇部なんて珍しい部活に入る人は滅多にいるものじゃないわ。たとえどっちの劇をしたところでね」
「………………」
椎名の言葉を聞いて、増倉は下を向いて考えこむ。
そしてしばらくしてため息をつきながら、増倉は顔を上げた。
「わかった。香菜の台本でいいよ」
こうして、俺たちが部活動紹介でやる劇が決まったのだった。
昼休憩が終わり、議論の続きが始まる。
あの後、俺と増倉が同時に教室に戻ってきたことを怪しんだ椎名に軽く(きつく)尋問されたが、清廉潔白な俺はありのままを話した。
椎名はどこか納得しない様子だったが、なんとか矛先を引いてくれた。
「それじゃ、とりあえず話を続けたいって言った杉野、なんか議題を出してくれ」
「ああ、分かった」
みんなの視線が俺に集まる。
「俺考えたんだけどさ。今まではどっちの台本がいいかって、台本のことばかり考えてきただろ」
「当たり前だろ、台本のことなんだから」
大槻がつっこみ、みんなもそれに同調する。
「けどさ、自分たちにふさわしい台本かどうかを台本の良し悪しでしか見てないだろ? そうじゃなくて、自分たちが演じて最高のパフォーマンスになるのはどっちかで話をしてみないか?」
「……つまり台本の長所や短所じゃなくて、俺たちが演じた時どちらがより楽しくまたは感動させられるかって話か」
司会の樫田が、要点だけをうまくまとめてくれた。
つまりはそういうことだ。
「あー、なんとなく分かったぜ。今まで台本を中心に考えていたけど、俺たち、演じる側主体で考えるってことか」
他のみんなにも意図が伝わったらしく、各々考え始める。
どうやらうまく議題として持ち上がったようだ。
しかし、ここからどうなるかはおれにも分からない。
そして意外にも、一番初めに手を挙げたのは夏村だった。
「はい」
「お、はやいな夏村」
「私たちのパフォーマンスを最大限発揮できるのはやっぱり香菜の持ってきた台本だと思う。日頃やっている劇に近いからいつも通りの演技ができる」
どうやら夏村は変わらず、椎名の台本を勧めるらしい。
対して、今度は山路が手を挙げた。
「山路どうぞ」
「確かに夏村さんの言う通り、日頃やっている劇に近いのは椎名さんの方だと思う。でもそれって練習時間がたくさんある時だよね。今回はあまり練習出来ないし、ノリのいい増倉さんの台本の方がいいと思うんだ」
今一瞬、誰のせいで練習できないと思っているだよって視線がちらほら見えたぞ。しかも仲間であるはずの増倉も見ていたぞ。
でもまぁ、確かに練習日程はあまりない。質を求める椎名の劇は分が悪いかもしれない。
「それいうなら、俺も増倉の台本の方がパフォーマンス出ると思うぜ。結局ノリと勢いなんだよ。演劇ってのは」
大槻と山路も、変わらず増倉側につくようだ。
残る俺に再び視線が集まる。
「俺は椎名の台本の方がいいと思う。日頃やっているってのもあるが、やっぱりコメディって俺たちがやるには慣れてない気がするんだよ。そういう役は先輩たちがやってたし」
俺の言葉に、みんなどこか納得したような表情を見せる。
「そりゃ、先輩たちの方が上手いけど」
「あー、まぁ先輩たちと比べちゃうとねー」
大槻と山路がぼやくように言った。
そう、俺たちは増倉の台本のような劇を全くやってこなかったわけではない。しかしそういった劇の主要役は先輩たちがやっていた。
つまり経験がないのだ。
「でも、それって食わず嫌いって言うか、何事もやってみないと分かんないでしょ」
俺の意見に、増倉が真っ向から否定する。
「だとしても、今回の劇は今後の部活動を左右するもの、日頃やっていて慣れている劇の方がいいわ」
すかさず、椎名が反論を言う。
「だからそれじゃ、部活見学に来てくれないでしょ」
「それでいいじゃない。べつに大勢に来てもらう必要はないわ」
「どうしてそういうこと言うの? 大勢に来てもらえた方がいいじゃない」
「大勢来たところでまとまりがなくなるだけだわ。それに本気で演劇部に入りたい人なんて滅多にいるものじゃないわ」
「初めは軽い気持ちでもいいでしょ。そうやって入り口を狭くするのは良くないよ」
「別にいいじゃない――」
「はい、そこまでそこまで」
椎名と増倉の言い争いを、樫田が教卓をたたきながら止めた。
「二人とも意見を言うのはいいんだが、この議論はみんなで決めるものだから。白熱し過ぎて他の人を置いてかないように」
樫田が優しく注意をする。
この議論、おそらく椎名か増倉、どっちかを納得させた方に決めるだろう。
しかし、どう納得させたものか。
そう考えている間も議論は進む。
「このままじゃ埒が明かないぜ、いっそのこと多数決にしない?」
「大槻、全会一致を目標にしているんだ。多数決はない」
「でもさぁ。どっちかが折れない限り議論が終わらねぞ」
「そうだねー。このまま平行線ってわけにもいかないよねー」
「ちょっと! だからってさっきみたいに急に香菜の味方するのはなしよ」
「別に味方したわけじゃないって、俺は本当にどっちの劇でもいいんだって」
「まぁ、僕も」
「だから、そういうどっちつかずな態度止めてよ」
増倉が大槻と山路と揉め始める。
大槻は完全にこの議論に飽きているようだ。
「はいはい、そこ揉めない。他、言いたいことある人いるか?」
そう訊きながら樫田は俺の方を見ていた。
完全に俺に何か言えと言っているな。
ここは少し、違う切り口から入るか。
「じゃあ、はい。椎名と増倉に質問なんだが、どうしても相手の劇じゃ嫌なのか? そりゃ自分の劇の方がいいのは分かるが、相手の劇じゃ絶対に嫌な理由でもあるのか?」
俺の質問に先に答えたのは椎名だった。
「私は嫌よ。だって栞が持ってきた台本、私たちが日頃やっている劇じゃないし、ああいう笑いだけを取るような劇はやりたくないわ」
言われた増倉は鬼の形相になりながら答える。
「私だって嫌。香菜の持ってきた台本じゃ誰も部活見学に来てくれないから。それにああいう熱血ものって十分ちょっとでやるには時間が短すぎるんじゃない?」
ばちばちと火花散らすかのように睨みあう二人。
ここで俺は増倉の答えを掘り下げる。
「なぁ増倉、確かに椎名の劇はちょっと難しいところがあるが、誰も部活見学に来なくなるってのは言い過ぎじゃないか?」
「どうして?」
「だってそうだろ。それは増倉の憶測でしかないんだから」
「それは」
そう言って口の止まる増倉。
「それに仮に増倉の台本をやったとして、大勢の部活見学者が来る保証はどこにもないだろ?」
「それでも、香菜の台本よりはマシなはず!」
「だから、そんなのやってみなきゃわからないだろ」
「……」
あえて語尾を強めに言うと、増倉は黙ってしまった。
静寂が生まれる。破ったのは大槻だった。
「でもさ、やってみないと分からないのはどっちも一緒だろ?」
「ああ、だから今回の議論で部活見学者が大勢来るかどうかは重要じゃないと思っている」
「じゃあ、何が重要なんだよ」
「俺たちが俺たちなりに、最高の演技をすることだと思う」
俺は言い切った。
結局のところ、人前で演技をする以上、これより大切なことなんてないんじゃないだろうか。
確かに多くの人に部活見学に来てほしいとは思うが、だからといって自分たちの演技を変えるのは、何か違う気がする。
みんな、それぞれ考える仕草をする。
だが、特に反論はなかった。
樫田が増倉に確認する。
「何か異論や反論はあるか?」
「……確かに部活見学に大勢来るかどうかはやってみないと分からないね。でも、だからって香菜の台本の方がいいとは限らないでしょ!」
必死に否定する増倉。
どうやら簡単には納得してくれないらしい。
「けど、日頃やっている劇にジャンルが近いのは椎名の方だし、それに笑いを取るような劇はやっぱり俺たち向きじゃない気がするんだ」
人に向き不向きがあるように、集団にも向き不向きがある。
俺たち七人だから出せる個性ってやつが今は重要なのではないだろうか。
「それは……だから、やっぱりやってみないと分からないじゃない」
それでも否定する増倉。しかし先ほどと違って声は弱々しかった。
あと一押し。何か増倉を説得させられる材料はないだろうか。
「ねえ、なんで栞は大勢の人に部活見学に来てほしいの?」
そんなとき、椎名が増倉に尋ねた。
「なんでって多いに越したことはないでしょ」
「少数じゃダメなのかしら?」
「ダメ……じゃないけど、寂しいよ」
「そうね私たちは七人もいるものね。少ないと寂しいと思うわ。でも少ないからと言って楽しくできないわけじゃないでしょ」
「それは……」
「本来、演劇部なんて珍しい部活に入る人は滅多にいるものじゃないわ。たとえどっちの劇をしたところでね」
「………………」
椎名の言葉を聞いて、増倉は下を向いて考えこむ。
そしてしばらくしてため息をつきながら、増倉は顔を上げた。
「わかった。香菜の台本でいいよ」
こうして、俺たちが部活動紹介でやる劇が決まったのだった。
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