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俺の能力が異世界でチート過ぎる
05.暗褐色の召喚~ショコラ・サマンス~
しおりを挟む【“俺の能力が異世界でチート過ぎる”(2/6話)】
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我ら一行は、小さな女の子と行き会った……と、怒らないで聞いて欲しい。
この、中身はアレだが見た目は美少女二人との道行きに辟易している俺だが、実を言いますと、ヤノマコ村に戻ると、ちょっと面倒くさい系の女の子が、まだ何人か、いたり……して。
はいはい、ハーレムハーレム。
異世界転生すると、いきなり恋愛運が振り切れるアレですよ。
や、待って。
俺が何を言いたいかってっと、自慢じゃなくて、我が面倒くさいガールズには当然妹系もいる訳ね。ああ? そりゃいるよ、標準装備だよ! ああ? お兄ちゃんって呼ばせてるよ、悪いかよ? ぶっちゃけ一番の攻略対象だよ!
違う。違うの。
あのね、何が言いたいかって言うと、いたのは攻略対象にならない、一般的な意味での小さい女の子なのね。JS低学年くらいの、さすがにシャルマ・ゾーンに入らない子どもね。OK?
そんな訳で賢者シャルマ様、賢者タイムの純粋なる親切心で身を屈め、その女の子に声を掛けた。
「こんにちは、小さなお嬢さん。僕で良ければ君の、話し相手になりたい」
きょとん、とされてしまった。紳士な感じで接したつもりなのに。
神官と姫騎士が、変態紳士を押し退けた。
コーナはもちろん、クーシュまで優しい顔で、子ども目線まで身を屈める。
「どーしたのかな、お嬢ちゃん? こんな村外れまで一人で来ちゃったの?」
「狼でも出るといけない。早々に村へ戻るが良かろうな」
そうか、アレだな。男一人で幼女に声掛けるから通報されるんだ。今日はちゃんと神官と騎士、身元確かな女性がいるから、身構える必要はない。
「……おねえちゃんたち、だあれ?」
「私か? 私は聖十字騎士団が団員にして、由緒正しきオランジナ家の……」
「お姉さん達はねえ、カジン村のモンストロ退治にヤノマコから来ましたの」
クーシュの名乗りを流して、コーナが慈愛に満ちた微笑みを浮かべた。
「そしてあちらのお兄さんが、魔獣をやっつけてくれた大賢者様ですのよ」
うん、大層なご紹介痛み入るが、幼女あんまり理解ってない顔してる。ガキめ。
……――かくなる上は、禁断の秘術だ。
「コーナ、クーシュ。ちょっと待ってて」
「え、シャルマ様?」
「あ、シャルマ! 貴公、また例の……」
またぞろ何か言われる前に、俺はさっさと“扉の法”を行使してしまう。客観的には、ただ俺の姿がふっと消えたとしか見えないだろう。
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……――そして数分後、またぱっと現れたとしか思うまい。
だが俺は既に、カルーシア広しと言えど二つとない珍品、金持ちだろうが王様だろうが、千金を積もうと贖えぬ品を手にしている。銀紙を、お馴染みの赤いパッケージで包んだやつだ。
「ほら、お嬢ちゃん。チョコレートだよ」
俺は少女の前にしゃがみ込み、ロ●テのガ●ナチョコレートを差し出した。しかし自分で言うのもなんだが、健全な青年が女児にお菓子を渡す、絵面の悪さったら何なのだろう。全部世の中が悪いんや。
幼女が目をぱちくりしてるので、銀紙を剥き、手に握らせてやる。少女はしばし矯めつ眇めつしていたが、意を決して、かり、齧り取った。その顔の真ん中から、
「やあっ、あまーい……おいしー……っ!」
ぱあっと明るく輝きが広がる。
天使や。天使がおるでえ。
ああ、可愛え。
心の底から、純粋に、邪な気持ちの入り込む余地なく、可愛え。何か、俺もう賢者やめて、異世界で幼女にチョコレート配り歩く怪人とかになろうかな?
そんな俺の崇高な野望を押し退けて――
「な、何ですの? そのカリカリで甘々でいい匂いのそれは?!」
「シャルマ・ティラーノ……これは、また貴公の言う“別の世界”の……?」
大人げないお姉さん達が、チョコを齧る幼女をゼロ距離で見つめている。クッコロさん、口から涎が垂れていますよ。いかん。このままでは幼女の笑顔が奪われてしまう。
そこで俺は懐から第二のアイテムをドロー、二人に差し出した。白地に赤の箱型パッケージ、明●アーモンドチョコレート。
「何これ!? 甘いのの中に、木の実が入ってて、美味しい……」
「う……旨い。こんなの、王都にいた時も、食べたことない……」
おう……修道女と姫騎士が闇落ちしたぞ。
まあ、確かにクッコロの言う通り、こちらの世界では貴族の娘とて、口にすることはできないからな。俺なら、ちょいとコンビニで買ってくるだけなんだが。
……おっと、口が滑ったようだ。
そう、お察しの通りだ。
俺が異世界転生で獲得したスキル、まず魔法の力だけをとっても、控えめに言ってチート性能以外の何ものでもない。この世界に魔王と呼ばれる存在がいるがどうかは知らないが、正直一撃で消し飛ばす自信はある。
或いは、魔王自体になる自信さえも。
だが、この俺をより特異な存在に押し上げた“能力”、魔法使いでも魔導士でもなく賢者《ソフォス》と呼ばしめる理由、凡百の異世界転移者との決定的な違い、それは――
俺が異世界と元の世界を、自由に行き来できることだ。
つまり――……
俺の能力が異世界でチート過ぎる。
***********************************
異世界転生する前の自分のことは、正直あまり思い出したくない。
控えめに表現して、スクールカーストは低かった、と言っておく。
そもそも俺は、元の世界は価値のない場所だったと思う。それは俺にとってだけじゃなくて、俺を指差して笑っていた“あいつら”にとっても。元の世界は、そう、代償に対価が見合っていない、頑張ったところで報われない世界《オルト》だった。
普通はだいたい、中学生になったらある程度勉強に身を入れるだろ。
高校、大学と必死になって必死になって頑張って、何を手に入れる?
“働く権利”だろ。
それからまた何十年、一生懸命汗水垂らして、リザルトは何だ? マンションのひと部屋も買えるか?
嫌なことをしている時間が長くない?
好きなことをしている時間が短くない?
生きているだけで幸せなことだ、という価値観を俺は採用しない。例えば難病で苦しんでいる奴とかに、それ言えるの? 俺に、それを言うの?
“幸せ”とは、生きている人間のステータス値だ。死者に幸せも不幸せもない、死んでいるだけだ。生きているのは前提だよ。そこがゼロ基準だよ。そこから足したり引いたりするんだよ。
足して、引いて、それでマイナスになるのなら、いっそ――……
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ああ、はいはい。言うと思ったよ。
世界には恵まれない人がー、とは、もっと貧しい国ではー、ってアレだろ。いるよな、お前だけが辛いんじゃないって言う奴。
例えばさあ、俺が指切ったとして、お前が足折ったとして、そりゃ比較的には俺の方が痛くないけど、主観的な痛みは全く変わらないって、理解る?
気づいてる? お前の言ってることって、自分と同じか自分より不幸な人間がいると嬉しい、ってことなんだぜ?
言いたいことは理解るよ。でもさ、地獄と地獄比べてどうすんだって話だよ。あっちの地獄はもっと悲惨なんで、あなたの地獄はまだマシです、ってことだろ、要は。違うんだよ。他人の不幸で安心してんなよ。
俺に言わせりゃあ、お前らの世界は、搾り滓だ。
大昔、海の向こうが全て未知の領域だった時代があったよな。今じゃ大概が踏破されちゃって、どこでも衛星写真から神の視点で眺められる。空の下で夢を見るには遅過ぎて、空の向こうに夢を見るのは早過ぎて、皿の上の食い残しの骨を突いている、それが今の世界だ。
夢がない分、豊かになったと言うかもしれないけど、それも本当か? だって今のお前らの国って、何世代か前のバカが浮かれて、後先考えず、好き勝手やった挙句の果てだろ。その世代の奴ら、今じゃ会社の上の方にいるんだろ?
よく勝ち組負け組って言うよな?
お前らの勝ちってなんだ?
いい大学入って、いい会社に入ることか? お前らが10年近く必死こいて、やることは精々、自分達だけいい目見た連中の尻拭いだぞ。
あの世代の奴らは、本当、一回お前らの前で死ねばいいと思うよ。
俺の持論だが、お前らの世界のどんなものも、それを手に入れるためにする努力には見合わないと思う。アメリカ大統領になることに、アメリカ大統領になる努力をするほどの価値が、あるとは思えない。
それは努力しない者の言い訳? 逃げ?
あー……そういうのいいから。価値観が違うから。
お前らは『七つの習慣』でも読んで、黙って欲しいモノに見合うと思ってる努力でもしてろ。
俺は違う。
本当の勝ちって何だ?
真実の価値って何だ?
俺にとっては、いい大学でもいい会社でもなく、いい“世界”に行くことだった。
***********************************
断言する。異世界転移は誰にでも起きる。
異世界生活の先達として、ひとつ有益なアドバイスをしよう。異世界転移は誰にでも起きる。ただし、いつどこで起きるかは判らない。
だから、「準備は怠るな」。少なくとも、「異世界|に転移した自分、欲しい能力を、できる限り具体的にイメージしておけ」、これだけは忘れるな。
俺のスキルは“真言”だ。
マントラは“イメージを・言霊を介して・世界に具現化する”という方式の魔法、乱暴に言ってしまえば、“口にしたことが、その通りになる”魔法、回数制限なしのアラジンのランプだと理解してくれればいい。
真言が他の魔法と根本的に異なる点は、“世界を成り立たせている構文”を“直接書き換えてしまう”術式であることだ。
“死んでいる”を“生きている”に書き直せば死者の蘇生も可能だし、何なら“死んだという事実”を過去に遡って改竄……なかったことにさえできる。
世界の法則内で、現象を起こすのとは違う。世界の構造そのものを改編する、つまり真言は、世界に対して上位に在る術式だ。
俺がこれほどの壊れ能力を取得したのには、ちょっとした秘密がある。さっき自分の能力をイメージしろと言っておいた、あれに話が繋がるのさ。
真言の原理を頭に置いて聞いてくれ。正しい方法さえ用いれば、世界に自分のイメージを投影することは、割と可能だ。
俺が見たところ、異世界転移ではその逆の現象が起きる。
異世界転移では、転移者の中にある“イメージ”を“能力”に昇華し、“世界”の構文に書き込んでしまう。これがスキルを獲得するということだ。
だから不用意だったり、漠然とした自己イメージしか持たない者は、自ずとたいしたことのないスキルが身に付く。果ては“呼び寄せる側”のイメージに絡め取られて、“自分には制御できないスキル”――“呪い”を背負うことさえある。
俺は違う。当然だ。
俺ほど異世界に行きたいと、望んでいた奴はいないからだ。
そんなことで、授業中退屈だったら“僕の考えた最強能力”をノートに書き留めておいてもいいんじゃないかな。できるだけ具体的にな。備えあれば憂いなしと言うからさ。
おかげで俺の方は足して引いて、前の世界じゃだいぶ過払い気味だった幸せ残高も、こっちで結構戻ってきているよ。
俺は前の世界と異世界と等価交換した。
それでやっと、対価と代償が釣り合ったと思う。
ま、人生、足して引いてマイナスなら、いっそゼロにしちまった方がマシだろう。“死んでやり直し”なんて、よく言ったもんだよ。それにプラスが出ればこそ、買い直せるものだってあるのだから。
あっちの世界で奪われて、こっちの世界で取り戻した、それは例えば――……
天使たんと愉快なポンコツ達のカリカリしてる、前の世界のチョコレートがそうだ。彼女らの幸せそうな顔は、買い直したと言っていいのかな?
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