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序章:悪魔と手を結んだ日
ちゃっかり悪魔契約されていた件
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誰もいない野原で2人、ルークとイブリースは安堵の息を漏らしていた。
「大変な目に遭った……」
「そうですね。私にご奉仕させるとか言っていましたね」
「どうしてそうなった? というか、どこでその話になった?」
「朝はおはようから夜はおやすみまでご奉仕三昧とか言っていたじゃないですか」
「そこかよ、自意識過剰だな――って、どうしてここにいる!?」
ようやく不自然だと気付き、ルークは飛び退いた。
<黄金の虎>から熱烈な歓迎を受ける間、イブリースは人の波に阻まれていたはず。
「ふっふっふ、私にはこれがありますから」
イブリースの影が手を伸ばして見せた。
遠くの木へ向かったと思うと、リンゴのような赤い果実をもいでくる。
つまり、テレポートの瞬間に影を使って触れていて、また一緒に飛ばされたのだった。
「お前……ストーカーの素質があるよ。うちのギルド長を紹介してやろうか?」
「何か納得できないので、謹んで遠慮します」
「仲良くなれるぞ、きっと」
「よして下さい。愛の剣で滅せよとか言われて、どれだけ痒い思いをしたか――うぅ……思い出しただけでも鳥肌が」
「でも、お前は<宵闇の竜>に殴り込むんだろ?」
「そ……それはそうなんですが……」
イブリースは指先を合わせていじいじしながら、言いにくそうにする。
「じゃあ、帰れよ。悪魔なんだろ? 人間たちにバレたら普通は殺されるぞ?」
「そうなんですよね、えぇ、だから困っていたのです」
「どういう意味だ?」
「実は……もう帰れないんです。玉座に座って勘違いさせた罰で、あいつらを始末するまでご飯抜きだと追放されまして」
「あぁ、それで空腹だったのか。それならなおの事、早く<宵闇の竜>に行けばいいじゃないか」
「そうもいかないんですよねぇ。私、一瞬でやられたじゃないですか? どうしたら勝てると思います?」
「それは流石に知るか」
「私も知りません。だからこそ、貴方と過ごす事にしました」
ルークは考えた。
言葉の意味を必死に考えた。
結果、聞き返すしかなかった。
「悪いが、全く意味がわからない」
「おや、まだ理解できませんか? 貴方、困っている人は放っておかないと言いましたね?」
「あぁ、言ったな」
「私、全力で困っています。にっちもさっちもいきません」
「まぁ、そうだろうな」
「だから助けて下さい。お願いします」
「お断りなんだが?」
「ふっふっふ、そうはいきませんよ! 契約は既に交わされています!」
イブリースは一枚の羊皮紙を取り出した。
そこには悪魔的な契約内容が書かれており、要約すると以下の通りだ。
ルークはイブリースの食事を保証する代わりに、その力を借りる権利を持つ。
契約完了はお互いの要望が通った場合とする。
「な、何だ、これはっ!?」
ルークは思い出した。
グリズリーと戦ったとき、イブリースが「契約完了」とか言っていた事を。
「いやぁ、幸運ですよ、貴方。私のような美少女と一緒にいられるんです。本当はお金を払ってもいいところ――って、何ですかその恐い目は?」
「お前……これは詐欺だろ!? 俺の署名欄、明らかに俺の筆跡じゃないぞ!?」
「でも契約に従い、私は貴方のために力を振るい、食事を貰いました。既成事実はあるのです。認知しなさい、男らしく!」
「通るかそんなの! この悪魔め!」
「私、悪魔です! 忘れたんですか!?」
「そうだったね、こん畜生が!」
悪魔的な契約が交わされた以上、お互いに魂まで束縛される。
両者合意の上で破棄されれば別だが、イブリースは絶対に拒み続けるだろう。
つまり、ルークに逃れる術はない。
「……はぁ、これからどうしたものか」
「そんなの、決まっているじゃないですか。ルークも<宵闇の竜>に戻れず、かといって他のギルドに入るつもりはないんですよね?」
「あんな熱烈過ぎる勧誘を受けたら……無理に決まっているだろ。まともな生活が送れそうにない」
<黄金の虎>は少々過剰だったかもしれないが、どこのギルドも人手不足だ。
特に支援魔法士は自分じゃ戦えず、レベル上げが困難で、ただ強いだけで引っ張りだこだ。
ここに魔王を倒した勇者ご一行の元メンバーという肩書きが加わる上に――
「それに、お前もいるしなぁ」
――悪魔であるイブリースのおまけ付きだ。
文句なしの八方塞がりである。
「だったら決まりじゃないですか。創るんですよ、自分だけのギルドを」
「自分のギルドを創る? 何を馬鹿な事を……」
言いながら、ルークは考えた。
突拍子もない話に思えて、実は中々に悪くない提案だと。
「最低限の前衛、後衛は揃っている。不可能じゃないな」
「はい。やってやりましょうよ、ルーク。言った私も、なんかワクワクしてきました!」
イブリースは満面の笑みで手を差し伸べて来た。
「……あぁ、どうせなら世界一のギルドを創るぞ、イブ!」
ルークはそれに応えた。
これが幕開けであった。
千年先まで語り継がれる伝説の、
人間と悪魔という相入れないはずの、追放された2人が織り成す物語が始まる。
「ところで、私をイブって呼びましたね? 可愛いから認めましょう。あぁ、これで私の美少女っぷりが更に上昇し――って、イタタタッ!? 痛い痛い! つ、強過ぎますから! 玉のような美肌に傷が付きますから! て、手を離せーっ!」
「よく考えたら、全面的にお前のせいじゃないかっ!」
「は、はぎゃーーーっ!? 折れたーーーっ!?」
もっともそれは、単に面白おかしいからなのかもしれない。
「大変な目に遭った……」
「そうですね。私にご奉仕させるとか言っていましたね」
「どうしてそうなった? というか、どこでその話になった?」
「朝はおはようから夜はおやすみまでご奉仕三昧とか言っていたじゃないですか」
「そこかよ、自意識過剰だな――って、どうしてここにいる!?」
ようやく不自然だと気付き、ルークは飛び退いた。
<黄金の虎>から熱烈な歓迎を受ける間、イブリースは人の波に阻まれていたはず。
「ふっふっふ、私にはこれがありますから」
イブリースの影が手を伸ばして見せた。
遠くの木へ向かったと思うと、リンゴのような赤い果実をもいでくる。
つまり、テレポートの瞬間に影を使って触れていて、また一緒に飛ばされたのだった。
「お前……ストーカーの素質があるよ。うちのギルド長を紹介してやろうか?」
「何か納得できないので、謹んで遠慮します」
「仲良くなれるぞ、きっと」
「よして下さい。愛の剣で滅せよとか言われて、どれだけ痒い思いをしたか――うぅ……思い出しただけでも鳥肌が」
「でも、お前は<宵闇の竜>に殴り込むんだろ?」
「そ……それはそうなんですが……」
イブリースは指先を合わせていじいじしながら、言いにくそうにする。
「じゃあ、帰れよ。悪魔なんだろ? 人間たちにバレたら普通は殺されるぞ?」
「そうなんですよね、えぇ、だから困っていたのです」
「どういう意味だ?」
「実は……もう帰れないんです。玉座に座って勘違いさせた罰で、あいつらを始末するまでご飯抜きだと追放されまして」
「あぁ、それで空腹だったのか。それならなおの事、早く<宵闇の竜>に行けばいいじゃないか」
「そうもいかないんですよねぇ。私、一瞬でやられたじゃないですか? どうしたら勝てると思います?」
「それは流石に知るか」
「私も知りません。だからこそ、貴方と過ごす事にしました」
ルークは考えた。
言葉の意味を必死に考えた。
結果、聞き返すしかなかった。
「悪いが、全く意味がわからない」
「おや、まだ理解できませんか? 貴方、困っている人は放っておかないと言いましたね?」
「あぁ、言ったな」
「私、全力で困っています。にっちもさっちもいきません」
「まぁ、そうだろうな」
「だから助けて下さい。お願いします」
「お断りなんだが?」
「ふっふっふ、そうはいきませんよ! 契約は既に交わされています!」
イブリースは一枚の羊皮紙を取り出した。
そこには悪魔的な契約内容が書かれており、要約すると以下の通りだ。
ルークはイブリースの食事を保証する代わりに、その力を借りる権利を持つ。
契約完了はお互いの要望が通った場合とする。
「な、何だ、これはっ!?」
ルークは思い出した。
グリズリーと戦ったとき、イブリースが「契約完了」とか言っていた事を。
「いやぁ、幸運ですよ、貴方。私のような美少女と一緒にいられるんです。本当はお金を払ってもいいところ――って、何ですかその恐い目は?」
「お前……これは詐欺だろ!? 俺の署名欄、明らかに俺の筆跡じゃないぞ!?」
「でも契約に従い、私は貴方のために力を振るい、食事を貰いました。既成事実はあるのです。認知しなさい、男らしく!」
「通るかそんなの! この悪魔め!」
「私、悪魔です! 忘れたんですか!?」
「そうだったね、こん畜生が!」
悪魔的な契約が交わされた以上、お互いに魂まで束縛される。
両者合意の上で破棄されれば別だが、イブリースは絶対に拒み続けるだろう。
つまり、ルークに逃れる術はない。
「……はぁ、これからどうしたものか」
「そんなの、決まっているじゃないですか。ルークも<宵闇の竜>に戻れず、かといって他のギルドに入るつもりはないんですよね?」
「あんな熱烈過ぎる勧誘を受けたら……無理に決まっているだろ。まともな生活が送れそうにない」
<黄金の虎>は少々過剰だったかもしれないが、どこのギルドも人手不足だ。
特に支援魔法士は自分じゃ戦えず、レベル上げが困難で、ただ強いだけで引っ張りだこだ。
ここに魔王を倒した勇者ご一行の元メンバーという肩書きが加わる上に――
「それに、お前もいるしなぁ」
――悪魔であるイブリースのおまけ付きだ。
文句なしの八方塞がりである。
「だったら決まりじゃないですか。創るんですよ、自分だけのギルドを」
「自分のギルドを創る? 何を馬鹿な事を……」
言いながら、ルークは考えた。
突拍子もない話に思えて、実は中々に悪くない提案だと。
「最低限の前衛、後衛は揃っている。不可能じゃないな」
「はい。やってやりましょうよ、ルーク。言った私も、なんかワクワクしてきました!」
イブリースは満面の笑みで手を差し伸べて来た。
「……あぁ、どうせなら世界一のギルドを創るぞ、イブ!」
ルークはそれに応えた。
これが幕開けであった。
千年先まで語り継がれる伝説の、
人間と悪魔という相入れないはずの、追放された2人が織り成す物語が始まる。
「ところで、私をイブって呼びましたね? 可愛いから認めましょう。あぁ、これで私の美少女っぷりが更に上昇し――って、イタタタッ!? 痛い痛い! つ、強過ぎますから! 玉のような美肌に傷が付きますから! て、手を離せーっ!」
「よく考えたら、全面的にお前のせいじゃないかっ!」
「は、はぎゃーーーっ!? 折れたーーーっ!?」
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