魔王と配下の英雄譚

るちぇ。

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第2章 暁の竜神

第10話 ユウとナディアの会談 2

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 でも、そんなことは口が裂けても言えない。心の中ですら思えない。平時でもウロボロスは俺の思考を読み取ってしまうのだから。特にこの状態ならば、きっと俺にとって大変に不都合な形にねじ曲がって伝わってしまうだろう。そんな気がする。だからこそグッと堪えた。
 そんな俺の戦いを知ってか、知らずか、カルマはそそくさと中へ入って来て一礼する。と、それでようやく気付いた。どうやらアザレアもいたらしい。やはり眠い時は駄目だな。大切な配下に気付かないなんて。

「では、僕も失礼しますよ」
「あぁ、どうぞ……って、あれ、この面子は……」

 ウロボロス、カルマ、それにアザレア。この3人が揃って大変な事態に発展した事が遂最近あったぞ。思い出したくもないけど、嫌でも脳裏に浮かび上がってくる。血で血を洗う物理言語による議論が。こんな時間に、こんなテンションで、ここで第三次大戦でも始めようというのか。
 血の気が引いていくのがはっきりわかった。頼む、それだけはやめてくれ。修復がやっと終わったばかりなんだ。このために俺は丸2日もかけて、ようやくチェックも終わりそうなんだ。頑張った。とにかくがむしゃらにやり遂げたんだ。だから頼む、荒らさないでくれ。
 そんな祈りが通じたのかどうなのか、カルマは真剣な顔付きをしている。

「初めに言っておこうかのう。真面目な要件じゃ」

 念のためアザレアも見ると神妙な面持ちで頷いた。やはりただ事じゃないらしい。落ち着いて聞くべき話のようだ。
 困ったな。真面目な話なら今すぐではなく、一度寝てから聞きたいところ。だが、傲慢かもしれないけどさ、カルマたちが俺の行動を把握していないとは思えない。俺が寝ていないとわかっていながら、それでも持ってきた要件なのだろう。そうに違いない。よし、すぐに聞こうと決めて、気持ちを入れ換えるためにひとつ深呼吸してから2人を見据えた。

「……何があった?」
「以前、紅竜同盟の使節団が来た時の事を覚えておるかのう?」
「あぁ、確か交渉がどうのって言っていたな。まさか、その日時の連絡が届いたか?」

 なるほど、その日時が今日の昼とかなら、これから爆睡したんじゃきっと起きられない。止めに来たか、はたまた目覚ましを買って出てくれるのか。なんて、そんな楽観的な想像をしていたが、どうやらそんなレベルの話ではないらしい。

「いや、そのものが来たのじゃ」

 そのもの。はて、そのもとは何ぞや。使節団がまた来た、という感じではない。そうなってしまうと、もうピンとこないな。ただ確実に言えることは、この雰囲気からして予想の斜め上をいくのだろう。聞かなくてはならないか。そのものについて。

「そのものって……何?」
「紅竜同盟の代表者ナディアが来ておる」

 両目を擦る。両耳を叩いてみる。うん、正常だ。眠気が強いだけで、どちらも問題なく働いてくれている。それじゃあさ、え、カルマが言った言葉は本当って事になってしまうんだが。
 時計を見る。今は朝4時を回る頃。おいおい、冗談きついぜ。でもカルマやアザレアの表情は、確かに来ていると言っている。

「……一応、聞いておく。直接ここに、ご本人様がもう来ていると?」
「うむ、その通りじゃ」

 待って、え、頼むから待ってくれ。まぁ、そりゃあさ、いずれはさ、何かしらの形で対面することにはなったと思うよ。だから竜神祭にも行ってさ、これから話し合いがあるからって情報収集したり、建物を直したりしたんだよ。準備していたんだよ。それなのに、何なの、その何もかもぶち壊してくれる渾身のストレートは。物事には順序ってものがあろうだろうが、畜生。でも、来てしまったものを追い返す訳にはいかない。

「い……行くか。こんな状態でも行くしかないよな。ウロボロスも来てくれ」
「畏まりました。カルマとアザレアは如何が致しますか?」

 2人も来てくれ、と言い掛けて思い直す。こんなあり得ない事態だ。何かを仕かけて来ないとも限らない。ウロボロスと違い、カルマとアザレアはちゃんと寝ていたらしい。目が血走っておらず、至って健康的だ。俺が気付けないもの、見落とすものでも、2人ならきっとひとつ残らず把握して対処してくれるだろう。それなら周囲でスタンバって貰った方がいい。俺自身が頼りにならないのだから万全の体制を取るべきだ。

「2人は周辺の警備を頼む。話がどう転ぶかわからない以上、安心して臨める環境にしたい。フェンリスとムラクモも出してくれ」
「うむ、任されたのじゃ」

 カルマは頷いてくれたが、アザレアはすぐには首を縦に振らなかった。何か思うところがあるらしい。でも、だからといって反対ということでもないらしい。「忠告がある」と前置きしてから、アザレアは言葉を続ける。

「あちらはどう見ても穏やかな様子ではありませんでした。どこか狂気にも似た、常軌を逸した覚悟のようなものが感じられます。用心してください」
「あ……あぁ、忠告ありがとう」

 敵の大将が出向いての直接対談だ。アポなし、しかも初対面。更に穏やかな様子じゃないときたか。これで警戒するなと言う方がどうかしている。ひょっとして、この来訪自体が宣戦布告か、それとも降伏勧告なのだろうか。
 いや、待て。この思考に意味はない。そもそも紅竜同盟が俺たちとどういう関係を取りたがっているのかすらわからないのだ。加えて、アデルやルーチェたち以外から情報収集する暇も無かった。そこにこの眠気。考えるだけ無駄。
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