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第2章 暁の竜神
第6話 2人の計画 2
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そういえば以前、工房を見に来ていた時にポツリと、「大変そうだ」と言っていた。その時に決意してくれたのだろう。あれから1週間程度。この地図によればイース・ディードの面積は1000キロ平方メートルを越えるらしい。これは魔王様の暮らしていた国の約3倍の面積になる。それだけ広大な土地の地図をたった1週間で仕上げてくれた。頭が上がらないとはこのことか。
「カルマ……その、ありがとう。大切に使わせて貰うよ」
「うむ、魔王様のために有効活用して欲しいのじゃ」
そうとわかればなおのこと早く戻って作業をと思ったのだが、魔王様のためと聞いて本来の目的を思い出す。思い出したはいいのだが、こんな大きなプレゼントを貰ってから切り出すのは少々気が引けてしまう。しかしここで引き返す訳にもいかなくて、仕方なく座り直して紅茶に口をつける。
「そういえば、まだお主の要件を聞いてなかったのう」
どこまで察してくれたのだろう。カルマの方から聞いてきてくれた。さぞ眠いのだろうに。あくびをかみ殺し、目に浮かぶ涙を擦りながらも、まだ話をしてくれるようだ。ならばこちらも引くことはできない。面と向かって頭を下げる。
「頼みがある。どうしてもカルマの力が必要なんだ。ウロボロスのために協力して欲しい」
「ウロボロスのために……じゃと?」
カルマの声色が変わった。これまでの高貴な感じから一変、興味津々といえばいいのか、はたまた鬼気迫る感じといえばいいのか。とにかく身を乗り出して続きを促してきた。
「ウロボロスの頑張りはもはや語るまでもない。一度倒れたお陰……というのは少々語弊があるかもしれないが、多少のブレーキをかけてくれてはいる。だが、それでもなお無理を重ねているのは明白だ」
「そうじゃのう。あやつめ、魔王様のこととなれば限度というものを知らぬ」
聞いた話ではあるが、以前、カルマはウロボロスと風呂に入りながら話をしたらしい。だが大した成果は上げられず、その思いの強さを再確認するに留まってしまったと。その後魔王様と一緒に入浴した形跡はなく、ウロボロスから言い出したはずのお風呂作戦は失敗に終わっている。あの人に休んで貰うのはとてつもなく難しい。
「難攻不落というべきかな? 彼女自身の希望に沿った方法でも駄目だったんだ。あの牙城を崩すのは容易ではない。でも、ここで大変参考になる童話があってね。北風と太陽というらしいんだが、知っているかい?」
「北風と太陽? 何じゃ、それは?」
「簡単に言うと、人にコートを脱がせるにはどうすればいいのか、という話さ」
それでもカルマはピンとこなかったようで、軽く内容を説明する。
北風と太陽が競うのだ。旅人からコートを脱がせるのはどちらか、と。北風は強い風を吹かせるが、旅人は余りの寒さにギュッとコートを握り締めて飛ばないようにしてしまう。一方で太陽はさんさんと照らしたところ、旅人は余りの暑さにコートを脱いでしまった。
「ここから物事に対して厳罰で臨む態度と、寛容的に対応する態度の対比になっているらしいね。でも今言いたいのは罰とかじゃない。そもそもの方法を変えてみようという訳だ」
「そもそもの方法を変える、とな?」
「そう。僕らは初め、ウロボロスが望んだことだからと浴場を作っただろう? 何もかも希望通りにした。本心に合わせた。ここがポイントさ」
ウロボロスは心の底から魔王様のためだけを考えて生きている。瞬き、吐く息、心臓の鼓動ですら、魔王様のために最善の動きをしている可能性すらあるくらいに。そんな本心に合わせてしまったらどうなるだろう。繰り返すに違いない。あんな悲しいことを、何度でも。
「……ではどうするのじゃ? まさかウロボロスが嫌がるようなことをする訳にはいくまい?」
「それは勿論だ。変えるのはそこじゃない。本心に合わせるのではなく、これでもかと本心を引き出す場を作ってあげたいんだ。ウロボロスはいわば風船みたいなものだよ。魔王様に対する愛が詰まりに詰まっていて吐き出し切れていないに違いない。一度、その欲求不満をぶちまけて貰えれば何か変わらないかと期待している」
「うーむ……かえって暴走する危険もある気がするのじゃが……」
そう、この提案にはかなりの危険もある。本心を引き出すとなると、ウロボロスが愛に飢えて暴走して、かえって事態が悪化するかもしれないのだ。だが正攻法では駄目だった。だからといって放置していてはまた倒れられるかもしれない。ならば足踏みしている場合ではない。
「あぁ、全くその通りだよ。だけどこのまま放っておくこともできまい?」
「それはそうじゃが……まぁ、いい。それよりも具体的なところを聞かせてくれないかのう?」
「あぁ、実はもう設計図は完成していてね」
言いながらウィンドウを表示して、そこに設計図を映し出す。加えて完成予想図も。
「カルマ……その、ありがとう。大切に使わせて貰うよ」
「うむ、魔王様のために有効活用して欲しいのじゃ」
そうとわかればなおのこと早く戻って作業をと思ったのだが、魔王様のためと聞いて本来の目的を思い出す。思い出したはいいのだが、こんな大きなプレゼントを貰ってから切り出すのは少々気が引けてしまう。しかしここで引き返す訳にもいかなくて、仕方なく座り直して紅茶に口をつける。
「そういえば、まだお主の要件を聞いてなかったのう」
どこまで察してくれたのだろう。カルマの方から聞いてきてくれた。さぞ眠いのだろうに。あくびをかみ殺し、目に浮かぶ涙を擦りながらも、まだ話をしてくれるようだ。ならばこちらも引くことはできない。面と向かって頭を下げる。
「頼みがある。どうしてもカルマの力が必要なんだ。ウロボロスのために協力して欲しい」
「ウロボロスのために……じゃと?」
カルマの声色が変わった。これまでの高貴な感じから一変、興味津々といえばいいのか、はたまた鬼気迫る感じといえばいいのか。とにかく身を乗り出して続きを促してきた。
「ウロボロスの頑張りはもはや語るまでもない。一度倒れたお陰……というのは少々語弊があるかもしれないが、多少のブレーキをかけてくれてはいる。だが、それでもなお無理を重ねているのは明白だ」
「そうじゃのう。あやつめ、魔王様のこととなれば限度というものを知らぬ」
聞いた話ではあるが、以前、カルマはウロボロスと風呂に入りながら話をしたらしい。だが大した成果は上げられず、その思いの強さを再確認するに留まってしまったと。その後魔王様と一緒に入浴した形跡はなく、ウロボロスから言い出したはずのお風呂作戦は失敗に終わっている。あの人に休んで貰うのはとてつもなく難しい。
「難攻不落というべきかな? 彼女自身の希望に沿った方法でも駄目だったんだ。あの牙城を崩すのは容易ではない。でも、ここで大変参考になる童話があってね。北風と太陽というらしいんだが、知っているかい?」
「北風と太陽? 何じゃ、それは?」
「簡単に言うと、人にコートを脱がせるにはどうすればいいのか、という話さ」
それでもカルマはピンとこなかったようで、軽く内容を説明する。
北風と太陽が競うのだ。旅人からコートを脱がせるのはどちらか、と。北風は強い風を吹かせるが、旅人は余りの寒さにギュッとコートを握り締めて飛ばないようにしてしまう。一方で太陽はさんさんと照らしたところ、旅人は余りの暑さにコートを脱いでしまった。
「ここから物事に対して厳罰で臨む態度と、寛容的に対応する態度の対比になっているらしいね。でも今言いたいのは罰とかじゃない。そもそもの方法を変えてみようという訳だ」
「そもそもの方法を変える、とな?」
「そう。僕らは初め、ウロボロスが望んだことだからと浴場を作っただろう? 何もかも希望通りにした。本心に合わせた。ここがポイントさ」
ウロボロスは心の底から魔王様のためだけを考えて生きている。瞬き、吐く息、心臓の鼓動ですら、魔王様のために最善の動きをしている可能性すらあるくらいに。そんな本心に合わせてしまったらどうなるだろう。繰り返すに違いない。あんな悲しいことを、何度でも。
「……ではどうするのじゃ? まさかウロボロスが嫌がるようなことをする訳にはいくまい?」
「それは勿論だ。変えるのはそこじゃない。本心に合わせるのではなく、これでもかと本心を引き出す場を作ってあげたいんだ。ウロボロスはいわば風船みたいなものだよ。魔王様に対する愛が詰まりに詰まっていて吐き出し切れていないに違いない。一度、その欲求不満をぶちまけて貰えれば何か変わらないかと期待している」
「うーむ……かえって暴走する危険もある気がするのじゃが……」
そう、この提案にはかなりの危険もある。本心を引き出すとなると、ウロボロスが愛に飢えて暴走して、かえって事態が悪化するかもしれないのだ。だが正攻法では駄目だった。だからといって放置していてはまた倒れられるかもしれない。ならば足踏みしている場合ではない。
「あぁ、全くその通りだよ。だけどこのまま放っておくこともできまい?」
「それはそうじゃが……まぁ、いい。それよりも具体的なところを聞かせてくれないかのう?」
「あぁ、実はもう設計図は完成していてね」
言いながらウィンドウを表示して、そこに設計図を映し出す。加えて完成予想図も。
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