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第2章 暁の竜神
第4話 竜神祭 前編 1
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なぜか待ち合わせ場所はテラスになってしまった。まぁ、テラスなんていっても椅子とテーブルが適当に並べてあるだけで、そんなオシャレな感じではないんだが。とりあえずオラクル・ラビリンスの外側の空きスペースに作りました、という具合の場所である。
ところで突然だが、喧嘩は外で。そんな格言を皆に送りたい。詳細はトラウマになりそうなので省くが第二次大戦が起こった。せっかく直した壁がまたしても木っ端微塵である。もうこの拠点のライフはゼロよ、とウロボロスに泣き付いて終戦したのだ。要はそれくらいボロボロになっている。本当なら修繕してから出たいところだが、そうも言っていられない。今日は約束の日。間もなく竜神祭にお呼ばれした時間になろうとしていたのだ。
「ふふ、我が君の隣は誰にも渡しません」
そうそう、第二次大戦のおおよその内容だが、このご満悦のウロボロスさんを見てくれれば大体の人はその原因も過程も察してくれるだろう。初めての祭りで誰が俺の隣にいるか。そんな些細なテーマで開かれた会議は、おっと、これ以上はいけない。血で血を洗う議論なんて思い出したくもない。大切なのは今。折角だ。祭りモード全開のウロボロスさんに話を聞いてみるか。
「ところで……それは何だ?」
それ、とはウロボロスの着ている浴衣だった。紫色の生地に朱色の蝶があちこちに刺繍されている。帯は赤いしっかりとした生地のもの。髪を後ろで結い上げ、赤と黄色の花の髪止めがよく似合っていた。
まぁ確かにね、祭りと聞けば自然と楽しい方を期待するだろう。俺だってそう思いたいよ。でもさ、忘れちゃいけない。実際はどうあれ行き先は敵地。しかもひょっとすると厳粛な雰囲気かもしれないというのに。
「浴衣で御座います。祭りというものは、こういった服を着るのではないのですか?」
「まぁ、間違いじゃあ無い……こともないか」
ただ、似合っているのは本当に間違いない。思わず目を反らしちゃう程に可愛い。これを脱げとは言いたくないし、仮に言えたとしても、肝心な部分を端折られて裸で押し倒される危険もある。そうだ、危険だ。それに、いくら敵地だからって祭りに全身武装で行く奴がどこにいるものか。だからこれは正装。潜入捜査と思えばむしろ正しい。
「どうですか、我が君。変じゃないですか?」
「あ……うん、可愛いと思うよ」
「可愛い……! あ、あの、もう一度、もう一度お願いします!」
「か、可愛いと……思う」
ウロボロスは満面の笑みを浮かべて涙を流しもした。そんなに嬉しいか。今回ばかりは恥ずかしいながらもきちんと可愛いと伝えて良かったと、心から思えた。
何ともいえない感じでウロボロスが落ち着くのを待っていると、後ろからカルマの声がする。振り返ってみたら、余りの光景に目玉が飛び出るかと思った。
「何を惚けておるのじゃ、祭りの正装はこっちじゃろうて」
カルマの恰好は異様だ。体のラインが隠れるモコモコしたつなぎを着ている。真っ黒なツルツルの生地に白と青の雷が走る柄が入っており、あれはどう見てもスキーウェアだ。もう一度言おう、スキーウェアだ。ご丁寧に黒と青のしましま模様のニット帽にゴーグル、両手には厚手の手袋と、スキーやスノーボードをするなら正しい装備までしている。
何かの冗談。そう信じて、ドッキリ成功とでも言われるのを待っていると、カルマが心底不思議そうな顔をして小首を傾げる。
「む、どうしたのじゃ、魔王様。ワシの衣装にどこか変なところがあるかのう?」
「え、えーと……その……可愛いのは……可愛いんだけど……」
「どこか問題があるかのう?」
いやいや、俺のことが好き過ぎて頭のネジが外れていそうなウロボロスでさえ正装をしているというのに、カルマがそれはないでしょ。ない、でしょ。嘘でしょ。嘘やん。その顔はマジらしいな。
問題、問題か。色々あるけど、とりあえずひとつ挙げるとすれば今が夏だということくらいか。冬に見たらね、もうね、自我を失いそうなくらいには可愛いよ。駆け寄って抱き付いてほっぺスリスリしたくなると思う。こんな可愛い子とゲレンデでラブストーリーを繰り広げるとか、もうね、死ね。リア充爆発しろ。でもさぁ、夏。夏なんだよなぁ。待てよ、夏という一点にのみ目を瞑れば万事解決じゃないのか。そうだ、そういうことにしておこう。
「いや、やっぱり可愛い! 最高だぜ、カルマ!」
「うむ、そうか。魔王様のお墨付きとあらば、これが正解じゃのう」
正解では絶対にないんだけど、まぁ、そこをごちゃごちゃ言っても誰も得なんてしない。それにイケメンに聞いた話によると、お洒落のためなら暑さ、寒さは二の次らしい。実際、都会の女の子というものは冬なのにヘソ出しファッション、ミニスカも身に着けると、とある文献で読んだことがある。今回はその逆。つまり夏に厚着をして何が悪い。だから正解。まごうことなき正解。ノーと言う輩はいないだろう。脱いでしまうぞ、カルマが。う、ヤバイ。それを想像したらヤバイ。とりあえずアザレアの裸でもイメージして仕切り直すか。
ところで突然だが、喧嘩は外で。そんな格言を皆に送りたい。詳細はトラウマになりそうなので省くが第二次大戦が起こった。せっかく直した壁がまたしても木っ端微塵である。もうこの拠点のライフはゼロよ、とウロボロスに泣き付いて終戦したのだ。要はそれくらいボロボロになっている。本当なら修繕してから出たいところだが、そうも言っていられない。今日は約束の日。間もなく竜神祭にお呼ばれした時間になろうとしていたのだ。
「ふふ、我が君の隣は誰にも渡しません」
そうそう、第二次大戦のおおよその内容だが、このご満悦のウロボロスさんを見てくれれば大体の人はその原因も過程も察してくれるだろう。初めての祭りで誰が俺の隣にいるか。そんな些細なテーマで開かれた会議は、おっと、これ以上はいけない。血で血を洗う議論なんて思い出したくもない。大切なのは今。折角だ。祭りモード全開のウロボロスさんに話を聞いてみるか。
「ところで……それは何だ?」
それ、とはウロボロスの着ている浴衣だった。紫色の生地に朱色の蝶があちこちに刺繍されている。帯は赤いしっかりとした生地のもの。髪を後ろで結い上げ、赤と黄色の花の髪止めがよく似合っていた。
まぁ確かにね、祭りと聞けば自然と楽しい方を期待するだろう。俺だってそう思いたいよ。でもさ、忘れちゃいけない。実際はどうあれ行き先は敵地。しかもひょっとすると厳粛な雰囲気かもしれないというのに。
「浴衣で御座います。祭りというものは、こういった服を着るのではないのですか?」
「まぁ、間違いじゃあ無い……こともないか」
ただ、似合っているのは本当に間違いない。思わず目を反らしちゃう程に可愛い。これを脱げとは言いたくないし、仮に言えたとしても、肝心な部分を端折られて裸で押し倒される危険もある。そうだ、危険だ。それに、いくら敵地だからって祭りに全身武装で行く奴がどこにいるものか。だからこれは正装。潜入捜査と思えばむしろ正しい。
「どうですか、我が君。変じゃないですか?」
「あ……うん、可愛いと思うよ」
「可愛い……! あ、あの、もう一度、もう一度お願いします!」
「か、可愛いと……思う」
ウロボロスは満面の笑みを浮かべて涙を流しもした。そんなに嬉しいか。今回ばかりは恥ずかしいながらもきちんと可愛いと伝えて良かったと、心から思えた。
何ともいえない感じでウロボロスが落ち着くのを待っていると、後ろからカルマの声がする。振り返ってみたら、余りの光景に目玉が飛び出るかと思った。
「何を惚けておるのじゃ、祭りの正装はこっちじゃろうて」
カルマの恰好は異様だ。体のラインが隠れるモコモコしたつなぎを着ている。真っ黒なツルツルの生地に白と青の雷が走る柄が入っており、あれはどう見てもスキーウェアだ。もう一度言おう、スキーウェアだ。ご丁寧に黒と青のしましま模様のニット帽にゴーグル、両手には厚手の手袋と、スキーやスノーボードをするなら正しい装備までしている。
何かの冗談。そう信じて、ドッキリ成功とでも言われるのを待っていると、カルマが心底不思議そうな顔をして小首を傾げる。
「む、どうしたのじゃ、魔王様。ワシの衣装にどこか変なところがあるかのう?」
「え、えーと……その……可愛いのは……可愛いんだけど……」
「どこか問題があるかのう?」
いやいや、俺のことが好き過ぎて頭のネジが外れていそうなウロボロスでさえ正装をしているというのに、カルマがそれはないでしょ。ない、でしょ。嘘でしょ。嘘やん。その顔はマジらしいな。
問題、問題か。色々あるけど、とりあえずひとつ挙げるとすれば今が夏だということくらいか。冬に見たらね、もうね、自我を失いそうなくらいには可愛いよ。駆け寄って抱き付いてほっぺスリスリしたくなると思う。こんな可愛い子とゲレンデでラブストーリーを繰り広げるとか、もうね、死ね。リア充爆発しろ。でもさぁ、夏。夏なんだよなぁ。待てよ、夏という一点にのみ目を瞑れば万事解決じゃないのか。そうだ、そういうことにしておこう。
「いや、やっぱり可愛い! 最高だぜ、カルマ!」
「うむ、そうか。魔王様のお墨付きとあらば、これが正解じゃのう」
正解では絶対にないんだけど、まぁ、そこをごちゃごちゃ言っても誰も得なんてしない。それにイケメンに聞いた話によると、お洒落のためなら暑さ、寒さは二の次らしい。実際、都会の女の子というものは冬なのにヘソ出しファッション、ミニスカも身に着けると、とある文献で読んだことがある。今回はその逆。つまり夏に厚着をして何が悪い。だから正解。まごうことなき正解。ノーと言う輩はいないだろう。脱いでしまうぞ、カルマが。う、ヤバイ。それを想像したらヤバイ。とりあえずアザレアの裸でもイメージして仕切り直すか。
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