魔王と配下の英雄譚

るちぇ。

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第1章 偽りの騎士

第22話 後日談 4

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 問題は女性陣。左右はウロボロスとカルマ、後ろからはフェンリスに揉みくちゃにされている。しかも全員、その手には何かしらの荷物を持っている。気を遣ってどけてくれているカルマ以外はもの凄く痛い。野菜がゴロゴロ入った袋が容赦なくめり込んできて涙が溢れそうになる。

「おかしな人たちだね」
「うん、本当に」

 これまで一番後ろで黙って見ていたアデルとルーチェだったが、遂に堪えきれなくなったようで、おかしそうに笑い出す。
 笑っていないで助けてくれ、とは言い難い。まとわりつく3人を引き剥がすのは勿論、それぞれの荷物を代わりに持つというのも無しだ。ウロボロスの視界から外したら最後、まるで「まだ買っていませんでしたね!」とでも言わん勢いで買い足される恐れがある。もっとも、アピールは空しくも届いていないようだが。

「あぁ、楽しくやっているよ……くそ」

 思わず毒を吐いてしまったが決して嫌という訳ではない。改めて周りを見ると、やっぱりここは活気づいていたから。
 あの戦いが終わって、アデルに取り込まれたと思われる人たちは戻ってきた。恐らくゼルエルのスキルで都合よく今を改変した影響だろう。そうは言っても一度は消滅したのだから混乱するかと思ったけど、予想外にたくましく、ご覧の通りの賑わいを見せている。
 ただ問題も生じている。俺は救いのヒーロー的な存在になったらしく、女の人から好意を寄せられる事があった。大抵はウロボロスが目力で追い払うものの、

「あ、あの! 魔王様!」

 ほら、ウロボロスの殺人的な睨みにも屈しなかった猛者がまた来た。ハートマークのシールで封をした手紙を突き付けられる。
 ここで断固として断れればいいんだけど、恋愛経験の無い俺からすればどうすればいいのかわからない。ただ断ればいいのか、謝ればいいのか、いっそ無視してしまえばいいのか。とにかく、どう扱えばいいのかわからず戸惑ってしまう。

「こ、これ、私の気持ちです! どうか読んでください!」

 そうこう考えている内に、ウロボロスの眼力に耐え抜いた猛者の娘は大体俺の胸に手紙を押し当てて来る。そして俺が何か言う前にいなくなってしまい、仕方なく手で持つしかなくなる。さっきからこの繰り返しだった。
受け取っただけだ、受け取っただけ。そう心の中で言い訳しながら、いや、そもそも心の中でさえ言い訳するなんておかしな話なんだが、それでもそうせざるを得ないくらいの恐怖が感じられる。殺されそうなくらい鋭い視線が向けられているのが嫌でもわかる。
 隣を見ると、やっぱりウロボロスが物凄い形相をしていた。そして、ほら、見てよ。さも当然というように両手を差し出している。

「我が君、お荷物をお持ちします」
「い、いや……手紙なんてポケットに入れればいいし、かさばるならアイテムストレージに……」
「わ、が、き、み?」

 せめて読んであげたい。持ち帰ることが許されないのなら、この場でもいいから。たぶん、いや絶対に良い返事はできないのだろうが、あの娘の気持ちも考えれば読むことはしてあげたい。
でも体が言うことを聞いてくれそうにない。開封したくても手が震えてしまい、そういった旨を言いたくても口が動いてくれなかった。
 完全に萎縮してしまっていると、カルマがとんでもない提案をしてくる。

「魔王様、あの女を捕らえて始末したいのじゃ」
「それは名案ですね。我が君の御心を惑わしうる危険因子は排除すべきかと」

 なんてトンデモ理論だ。ラブレターを渡しただけで殺される世界がどこにある。まして初対面だぞ。恨みも憎しみも持ちようが無い相手じゃないか。

「て……手紙を渡す。だ、だから……あの子は……あの子だけは……」

 聞きようによっては、まるであの名前も知らない娘と何らかの関係があると自白しているような内容になってしまったが、今の俺にはこれが限界だ。むしろよく頑張ったと褒めて欲しいくらいだ。
 何とか恐る恐る渡すと、受け取られたそばから粉々になるまで引き裂かれた。それでも足りないらしく、燃えカスひとつ残さない勢いで徹底的に燃やし尽くされた。

「では、参りましょうか、我が君?」
「う……は、はい」

 無駄と知りながら心の中で抵抗しておく。その手紙は預けただけだからね。預けたってことは後で返して貰えることも、中身を読むことも本当ならできるはずなんだからね。その辺わかっているのかな、うちのウロボロスさんは。なんて、そんな大それたことは実際には言えないけど。
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