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第1章 偽りの騎士
第21話 決戦 4
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どうしたものか。まぁ、試すにしても試さないにしても、とりあえずアデルと話はしておくか。
「行きますっ! エアリアル・ストライク!」
なんて考えていると、予想だにしない方から声がする。振り返ると、風に乗ったルーチェがランスロットを生成しながら飛び上がり、勢い良く突進して行ってしまう。まさか、あいつ、アデルに引導を渡すつもりじゃないだろうな。残念ながらそのまさからしい。一直線に槍を振り被りながら突っ込みやがる。
「待て、ルーチェ!」
俺はおろかウロボロスたちですら全くの予想外過ぎて反応できなかったらしい。素通りさせてしまい、攻撃を許してしまう。7本の槍を使った渾身の攻撃が叩き込まれた。
あんな仰々しいシールドを張っていたのだ。ひょっとすると装甲は紙なんじゃないかと危惧したけど、どうやら大丈夫らしい。貫くどころか傷ひとつ付かずに済んだ。思わずホッと胸を撫で下ろしてしまう。
「……妙ですね」
本当に妙な話だ。ルーチェの奇行としか思えない攻撃は他に何て表現すればいいものか。俺はそうとしか思えなかったが、ウロボロスは違う感想を抱いたらしい。視線はルーチェではなくアデルの装甲へ向いている。あれに何か気になるところでもあるのだろうか。
「我が君、あの装甲は少々特殊なようですね」
特殊。特殊、特殊。言われてよく考えてみると、まだあんな硬い装甲があったことが引っかかる。ルーチェの攻撃がこの世界でどの程度なのか正確にはわからないものの、決して温いとは思えない。それを完全に弾く程の装甲を持っているのなら、あんな手の込んだシールドなんて必要ないだろうに。一体何を想定した装甲なのだろう。
「うーん、少し気にはなるな」
「はい。ルーチェとの一戦を思い出せば、如何にステータス差があろうとも、外観上かすり傷程度は付くはずです。しかしあの装甲には汚れすら付いておりません」
あ、あぁ、その話か。目を凝らしてよくよく観察すると、ルーチェが風の槍で攻撃した所は、周辺と比べても遜色ないくらいに綺麗なままである。これはおかしい。
以前、ルーチェはウロボロスの鋼の肉体にかすり傷を負わせている。ダメージはどうあれ、どれだけステータスが隔絶していても多少は傷が付いていた。ではあの装甲はといえばご覧の通り。ここから考えられるのはひとつ。あの装甲は装甲ではなく、魔法を弾くシールドだったのだ。
よく考えてみればわかりそうなものだった。流動性、即時再生、高い物理耐性。そのどれもが物理的な攻撃を受けることに特化していて、魔法への備えが無かったじゃないか。魔法に対する絶対的な耐性があるからこそ、物理面に特化したシールドばかり用意したのだろう。
「ルーチェの槍は魔法で編まれている。だから完全に弾かれたんだろうな」
「加えて、そう考えると私の一撃に対してビットをぶつけてきたのも頷けます。あれだけ自信過剰なのに、あの大層な装甲で受けなかった事が気がかりでした」
そうか、ヒントはまだまだ転がっていたじゃないか。反省だ。今後は注意していかなくちゃな。
「ふん、暢気に分析するのも結構だが!」
効かないとわかっていながらも、なおも攻撃を続けていたルーチェの前にそれは現れる。見覚えのある闇色の魔法陣だ。魔力が収束していくことからも、まず間違いないだろう。
これまた考えてみると恥ずかしい話だ。ウロボロスはアデルの魔法をことごとく弾いて見せた。攻撃手段が全く効かないと知らしめたのだ。普通ならそこで負けを認めてくれたり、逃走を図ってくれたりするだろう。だが実際にはここまで戦いを引っ張られた。何か理由がある。そう考えるのが自然だったのに、完全に舐めてかかってしまったようだ。これまた反省だ。
「はははっ! 如何に魔王といえど、禁呪エグゾダスに対処などできまい! 忌まわしき力をその身で受けよ!」
「くっ!」
ルーチェはすぐに退避行動に出るが、残念ながら無駄な抵抗だ。広域を消失させる魔法を前にして逃げるなど論外。発動前に術者を止めるか、その魔法陣を打ち消すのが常套手段である。
だが、今に限ってはそんなオードソックスな方法では失礼か。これまで見せてくれた魔法のレベルを思えばあれは別次元の領域。どうして使えるのか全く理解できないくらいだ。あれに応えるためにはこうするしかないだろう。
「良いものを見せてくれた礼だ。思う存分、絶望してくれ。スキル発動、クリスタル・バニッシュEx」
エグゾダスが放たれたのを確認してから最上級スキルを使用する。
これは魔法、スキル、アイテムの発動と効果を凍てつかせることで無効化する。その対象レベルに制限はない。つまり、本来ならば高ランクでそうそう止められないはずの、しかも既に発動した闇すらも凍結させ、亀裂を走らせ、そして崩壊させてしまう。これで終わりである。
「ば……馬鹿な……この規格外の魔法を……!?」
「あ、あの魔法を……こんな簡単に……!?」
アデルが驚いたのは狙い通りなんだが、助けたはずのルーチェまで驚くとは少しショックだ。結構強い風に振舞っていたつもりなのに、そう思われていなかったのかもしれない。まぁ、物は考えようだ。ギャップもあって、これでよくよく理解してくれただろう。俺たちに不可能なことなんて無いのだと。
「余り見下してくれるな。俺は魔王と呼ばれた男だ。その程度の魔法、打ち消すなんて造作もないんだよ」
俺なりに目いっぱい恰好も付けてみた。これでバッチリ。痛いイメージも持たれたかもしれないが、それ以上に俺の強さを覚えてくれただろう。これでいい。これでルーチェが、自分だけで何とかしなくては、という気持ちが少しでも弱まってくれたらいい。
行動を見たからはっきりしたが、ルーチェはもう諦めている。アデルの生還を。無理もないか、あんな状態だ。きっと肉体はもう無くて、魂や意識といったスピリチュアル的な部分だけを繋ぎ留められているのだろうから。
「だからさ、ルーチェ。もっと最高の形に仕上げてやる。もう少しだけ待っていてくれ」
「魔王様……でも、どうするつもりなんですか?」
「まぁ、見ておけって。さてと……」
俺の周りに、霊魂のような黒い球体が現れて旋回し始める。エグゾダスで駄目なんだから、そっちは諦めてくれればいいものを。
「行きますっ! エアリアル・ストライク!」
なんて考えていると、予想だにしない方から声がする。振り返ると、風に乗ったルーチェがランスロットを生成しながら飛び上がり、勢い良く突進して行ってしまう。まさか、あいつ、アデルに引導を渡すつもりじゃないだろうな。残念ながらそのまさからしい。一直線に槍を振り被りながら突っ込みやがる。
「待て、ルーチェ!」
俺はおろかウロボロスたちですら全くの予想外過ぎて反応できなかったらしい。素通りさせてしまい、攻撃を許してしまう。7本の槍を使った渾身の攻撃が叩き込まれた。
あんな仰々しいシールドを張っていたのだ。ひょっとすると装甲は紙なんじゃないかと危惧したけど、どうやら大丈夫らしい。貫くどころか傷ひとつ付かずに済んだ。思わずホッと胸を撫で下ろしてしまう。
「……妙ですね」
本当に妙な話だ。ルーチェの奇行としか思えない攻撃は他に何て表現すればいいものか。俺はそうとしか思えなかったが、ウロボロスは違う感想を抱いたらしい。視線はルーチェではなくアデルの装甲へ向いている。あれに何か気になるところでもあるのだろうか。
「我が君、あの装甲は少々特殊なようですね」
特殊。特殊、特殊。言われてよく考えてみると、まだあんな硬い装甲があったことが引っかかる。ルーチェの攻撃がこの世界でどの程度なのか正確にはわからないものの、決して温いとは思えない。それを完全に弾く程の装甲を持っているのなら、あんな手の込んだシールドなんて必要ないだろうに。一体何を想定した装甲なのだろう。
「うーん、少し気にはなるな」
「はい。ルーチェとの一戦を思い出せば、如何にステータス差があろうとも、外観上かすり傷程度は付くはずです。しかしあの装甲には汚れすら付いておりません」
あ、あぁ、その話か。目を凝らしてよくよく観察すると、ルーチェが風の槍で攻撃した所は、周辺と比べても遜色ないくらいに綺麗なままである。これはおかしい。
以前、ルーチェはウロボロスの鋼の肉体にかすり傷を負わせている。ダメージはどうあれ、どれだけステータスが隔絶していても多少は傷が付いていた。ではあの装甲はといえばご覧の通り。ここから考えられるのはひとつ。あの装甲は装甲ではなく、魔法を弾くシールドだったのだ。
よく考えてみればわかりそうなものだった。流動性、即時再生、高い物理耐性。そのどれもが物理的な攻撃を受けることに特化していて、魔法への備えが無かったじゃないか。魔法に対する絶対的な耐性があるからこそ、物理面に特化したシールドばかり用意したのだろう。
「ルーチェの槍は魔法で編まれている。だから完全に弾かれたんだろうな」
「加えて、そう考えると私の一撃に対してビットをぶつけてきたのも頷けます。あれだけ自信過剰なのに、あの大層な装甲で受けなかった事が気がかりでした」
そうか、ヒントはまだまだ転がっていたじゃないか。反省だ。今後は注意していかなくちゃな。
「ふん、暢気に分析するのも結構だが!」
効かないとわかっていながらも、なおも攻撃を続けていたルーチェの前にそれは現れる。見覚えのある闇色の魔法陣だ。魔力が収束していくことからも、まず間違いないだろう。
これまた考えてみると恥ずかしい話だ。ウロボロスはアデルの魔法をことごとく弾いて見せた。攻撃手段が全く効かないと知らしめたのだ。普通ならそこで負けを認めてくれたり、逃走を図ってくれたりするだろう。だが実際にはここまで戦いを引っ張られた。何か理由がある。そう考えるのが自然だったのに、完全に舐めてかかってしまったようだ。これまた反省だ。
「はははっ! 如何に魔王といえど、禁呪エグゾダスに対処などできまい! 忌まわしき力をその身で受けよ!」
「くっ!」
ルーチェはすぐに退避行動に出るが、残念ながら無駄な抵抗だ。広域を消失させる魔法を前にして逃げるなど論外。発動前に術者を止めるか、その魔法陣を打ち消すのが常套手段である。
だが、今に限ってはそんなオードソックスな方法では失礼か。これまで見せてくれた魔法のレベルを思えばあれは別次元の領域。どうして使えるのか全く理解できないくらいだ。あれに応えるためにはこうするしかないだろう。
「良いものを見せてくれた礼だ。思う存分、絶望してくれ。スキル発動、クリスタル・バニッシュEx」
エグゾダスが放たれたのを確認してから最上級スキルを使用する。
これは魔法、スキル、アイテムの発動と効果を凍てつかせることで無効化する。その対象レベルに制限はない。つまり、本来ならば高ランクでそうそう止められないはずの、しかも既に発動した闇すらも凍結させ、亀裂を走らせ、そして崩壊させてしまう。これで終わりである。
「ば……馬鹿な……この規格外の魔法を……!?」
「あ、あの魔法を……こんな簡単に……!?」
アデルが驚いたのは狙い通りなんだが、助けたはずのルーチェまで驚くとは少しショックだ。結構強い風に振舞っていたつもりなのに、そう思われていなかったのかもしれない。まぁ、物は考えようだ。ギャップもあって、これでよくよく理解してくれただろう。俺たちに不可能なことなんて無いのだと。
「余り見下してくれるな。俺は魔王と呼ばれた男だ。その程度の魔法、打ち消すなんて造作もないんだよ」
俺なりに目いっぱい恰好も付けてみた。これでバッチリ。痛いイメージも持たれたかもしれないが、それ以上に俺の強さを覚えてくれただろう。これでいい。これでルーチェが、自分だけで何とかしなくては、という気持ちが少しでも弱まってくれたらいい。
行動を見たからはっきりしたが、ルーチェはもう諦めている。アデルの生還を。無理もないか、あんな状態だ。きっと肉体はもう無くて、魂や意識といったスピリチュアル的な部分だけを繋ぎ留められているのだろうから。
「だからさ、ルーチェ。もっと最高の形に仕上げてやる。もう少しだけ待っていてくれ」
「魔王様……でも、どうするつもりなんですか?」
「まぁ、見ておけって。さてと……」
俺の周りに、霊魂のような黒い球体が現れて旋回し始める。エグゾダスで駄目なんだから、そっちは諦めてくれればいいものを。
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