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第1章 偽りの騎士
第9話 まさかの戦い 4
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こいつは、この話に関しては嘘を言っていないことがハッキリしたのだ。バッサバッサと斬り捨てられたものの、ファントム・シーカーたちはまだたくさん残っている。周辺の索敵はもう済んでおり、結果、敵影は一切見当たらなかった。これが意味することはこうだ。周辺に敵影がいるかもしれない、だから私を殺したら大変なことになるかもしれないぞ、と脅しをかける材料を自ら投げ捨てた。そして、ひょっとすると俺はもう周辺の安全確認を終えていると考えて、信用を得るために正直に言ったのかもしれない、と。
「面白い奴だな、良い取引ができるかもしれない」
新興国とはいえ聖リリス帝国には母国も含まれるだろうに。ロアたちの生き方からは想像もできないほどの、悪く言うと自己中心的な、良く言うと自分に素直な奴だ。何をどう聞いてもその感想は変わりそうにない。変わりそうにはないが、馬鹿正直な真面目君よりはずっと信頼できる。色々と聞かせて貰おうかな、そう決めようとした時だった。
「我が君、この者は信用なりません」
ウロボロスが待ったをかけてくる。人のことを余り言えた立場ではないが、慎重な奴だな。まぁ、俺の身を何よりも優先して案じてくれているからだろうから文句も言えない。でもこれ以上ここで引っ張っても進展などしないのではないだろうか。
「じゃあ、どうする? 俺としてはこいつから色々と聞かせて貰いたいと思っているんだが」
「この者を捕らえて尋問すれば良いではありませんか」
尋問か。言われて思い出す。俺って、そういえば魔王を名乗っていたな。本来ならばそういう手段を真っ先に考えて実行するべきなのかもしれない。でも言われてもなお、その方法を選びたいとは思えない。むしろ拒絶したく思っている。それはウロボロス、お前も同じだろうに。その微妙とはいえ辛そうにしている顔を見ればわかるぞ。
「……なら、こういうのはどうだ? 俺の忠臣、ウロボロスと戦って買ったら望み通りにしてやるというのは?」
「ち……忠臣……! あぁ、そんなにも信頼してくださっているとは……感激です、我が君!」
横から抱き付かれて頬擦りされる。妙に痛い視線が刺さるが、さっき魔王と名乗りアピールした時に比べれば蚊に刺されたようなものである。気にしない、気にならない。それはいい。それはいいと強引に心を納得させて、こうすればウロボロスも納得してくれるだろう。
「見ての通り、俺のことを大好きで仕方のない奴だが、槍さばきは相当のものだ。まともに戦えばお前なんて瞬殺だろう。そこでハンデを付けてやる。こちらは一切の危害を加えないと約束しよう」
「それはありがたい話です。そちらが反撃に出たらこちらの勝利で宜しいですか?」
「あぁ、こちらは防御、回避のみ行う。更にそっちの敗北条件は、お前が諦めた時のみとする。心行くまで死力を尽くしてくれ」
舐めプだと思うだろうか。そう、完全な舐めプだ。でもこれにはちゃんと狙いがある。俺はまだこの世界の戦士たちの戦うところを観察できていない。数値だけ見て知った風になっているだけの一番危ない状態だ。だからあの神がかり的な槍術を思う存分見せて貰おうという算段だ。
「ウロボロス、反撃は一切無しだ。割れ物を扱うようにしてくれ」
「畏まりました。ご期待に応えてみせましょう。しかし……その前に、ひとつだけ確認させて頂いても宜しいでしょうか?」
頷いて見せるとウロボロスは顔を引き締めた。そういえばウロボロスの職業も騎士だったな。騎士を蔑ろにするあいつに一泡吹かせたいと思っていても不思議ではなく、その意気込みを話してくれるのかもしれない。こちらも自然と真剣に聞く姿勢になってしまう。
「私はフィアンセで忠臣ですから、揺らぐことのない愛で結ばれたと考えて――」
「――さ、早速始めようか! 日暮れ前には終わらせないと!」
「あぁん、我が君! 恥ずかしがらずとも良いではありませんか!」
真面目に対応した俺が馬鹿だった。仮にも戦いを前に何て余裕だよ。ま、どう転んでも勝敗は見えている以上、気持ちはわからないでもないけど。
「始める前に最後の確認だ。一戦交えてこちらが負けたらアデルと会う段取りを組もう。ただし組むだけだ。そこから先は自由意思。当然、アデルの意思を尊重する。会いたくないと言われたらそれで終わりだ。友達だって言うなら文句ないだろ?」
「ご配慮感謝します。反対に、私が負けた場合は何を望みますか?」
「情報だ。お前の持つ全てを聞かせて欲しい」
「異存ありません。では、よろしくお願い致します」
少女は一礼して、槍を低く構えた。真面目に相手をしてくれるのだろう。なんて健気なんだ。言い合いならいざ知らず、刃を交えることになったら勝敗は確定的に明らかだ。こんな完全に舐め切っているハンデ戦ですら余りにも一方的な出来レースになるだろう。でもまぁ、向こうが納得してくれたんだ。後はルールに則って正々堂々と戦って貰おう。
「面白い奴だな、良い取引ができるかもしれない」
新興国とはいえ聖リリス帝国には母国も含まれるだろうに。ロアたちの生き方からは想像もできないほどの、悪く言うと自己中心的な、良く言うと自分に素直な奴だ。何をどう聞いてもその感想は変わりそうにない。変わりそうにはないが、馬鹿正直な真面目君よりはずっと信頼できる。色々と聞かせて貰おうかな、そう決めようとした時だった。
「我が君、この者は信用なりません」
ウロボロスが待ったをかけてくる。人のことを余り言えた立場ではないが、慎重な奴だな。まぁ、俺の身を何よりも優先して案じてくれているからだろうから文句も言えない。でもこれ以上ここで引っ張っても進展などしないのではないだろうか。
「じゃあ、どうする? 俺としてはこいつから色々と聞かせて貰いたいと思っているんだが」
「この者を捕らえて尋問すれば良いではありませんか」
尋問か。言われて思い出す。俺って、そういえば魔王を名乗っていたな。本来ならばそういう手段を真っ先に考えて実行するべきなのかもしれない。でも言われてもなお、その方法を選びたいとは思えない。むしろ拒絶したく思っている。それはウロボロス、お前も同じだろうに。その微妙とはいえ辛そうにしている顔を見ればわかるぞ。
「……なら、こういうのはどうだ? 俺の忠臣、ウロボロスと戦って買ったら望み通りにしてやるというのは?」
「ち……忠臣……! あぁ、そんなにも信頼してくださっているとは……感激です、我が君!」
横から抱き付かれて頬擦りされる。妙に痛い視線が刺さるが、さっき魔王と名乗りアピールした時に比べれば蚊に刺されたようなものである。気にしない、気にならない。それはいい。それはいいと強引に心を納得させて、こうすればウロボロスも納得してくれるだろう。
「見ての通り、俺のことを大好きで仕方のない奴だが、槍さばきは相当のものだ。まともに戦えばお前なんて瞬殺だろう。そこでハンデを付けてやる。こちらは一切の危害を加えないと約束しよう」
「それはありがたい話です。そちらが反撃に出たらこちらの勝利で宜しいですか?」
「あぁ、こちらは防御、回避のみ行う。更にそっちの敗北条件は、お前が諦めた時のみとする。心行くまで死力を尽くしてくれ」
舐めプだと思うだろうか。そう、完全な舐めプだ。でもこれにはちゃんと狙いがある。俺はまだこの世界の戦士たちの戦うところを観察できていない。数値だけ見て知った風になっているだけの一番危ない状態だ。だからあの神がかり的な槍術を思う存分見せて貰おうという算段だ。
「ウロボロス、反撃は一切無しだ。割れ物を扱うようにしてくれ」
「畏まりました。ご期待に応えてみせましょう。しかし……その前に、ひとつだけ確認させて頂いても宜しいでしょうか?」
頷いて見せるとウロボロスは顔を引き締めた。そういえばウロボロスの職業も騎士だったな。騎士を蔑ろにするあいつに一泡吹かせたいと思っていても不思議ではなく、その意気込みを話してくれるのかもしれない。こちらも自然と真剣に聞く姿勢になってしまう。
「私はフィアンセで忠臣ですから、揺らぐことのない愛で結ばれたと考えて――」
「――さ、早速始めようか! 日暮れ前には終わらせないと!」
「あぁん、我が君! 恥ずかしがらずとも良いではありませんか!」
真面目に対応した俺が馬鹿だった。仮にも戦いを前に何て余裕だよ。ま、どう転んでも勝敗は見えている以上、気持ちはわからないでもないけど。
「始める前に最後の確認だ。一戦交えてこちらが負けたらアデルと会う段取りを組もう。ただし組むだけだ。そこから先は自由意思。当然、アデルの意思を尊重する。会いたくないと言われたらそれで終わりだ。友達だって言うなら文句ないだろ?」
「ご配慮感謝します。反対に、私が負けた場合は何を望みますか?」
「情報だ。お前の持つ全てを聞かせて欲しい」
「異存ありません。では、よろしくお願い致します」
少女は一礼して、槍を低く構えた。真面目に相手をしてくれるのだろう。なんて健気なんだ。言い合いならいざ知らず、刃を交えることになったら勝敗は確定的に明らかだ。こんな完全に舐め切っているハンデ戦ですら余りにも一方的な出来レースになるだろう。でもまぁ、向こうが納得してくれたんだ。後はルールに則って正々堂々と戦って貰おう。
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