魔王と配下の英雄譚

るちぇ。

文字の大きさ
上 下
41 / 176
第1章 偽りの騎士

第8話 緊急速報 1

しおりを挟む
 人が溶けた謎の現象から3日。カルマを中心として調査しているが、まだ有力な手がかりは掴めていない。今日も進展が無かったという報告をウロボロス、アザレアから受けていた。

「必ずや吉報をお持ちします。もう少々お待ちください、我が君」
「でもなぁ……」

 溶けた者の武装や服はおろか、髪の毛一本さえも残っておらず、なんならあの液体の染みすら見当たらない。まさに手がかりは皆無。八方塞がりも良いところだ。俺を引きずり出すための罠と考えられなくもないが、その可能性は極めて低い気がする。
 俺はこの世界に来てまだ数日。変な話、華々しいデビューを飾ったのはエグゾダスを放った時だ。魔王を討つためと言って地域一帯ごと消滅させようとしてくるのも、まぁ、あり得ないこともないだろう。でもまだ数日なんだ。あんな大規模な反抗作戦を企画、準備、実行できるなんて現実的に考えてあり得ない。
 仮にそのような強硬手段を即座に取ることができたとすれば、もっと直接的に攻める手段を持っているんじゃなかろうか。例えば、俺と同じくドミニオンズ出身の猛者が相手なら、そんな回りくどいことをする意味なんてない。

「もうさ、俺も直接出向いてみようかと思うんだけど」

 だから俺は提案する。俺たちが被害を受ける可能性は低いと思えるし、何より、そろそろ出なくては手遅れになるかもしれないと考えたから。
 まず、この数日間、ファントム・シーカーをランダム配置しているが、どの個体にも異常は発生していない。あいつらに影響がないのなら、俺たちにも直ちに影響があるとは考えにくい。
 そして、なぜ手遅れになるかもしれないと思うのか。俺が危惧しているのは時限爆弾だ。時間経過で自動発動するタイプなのだとすれば、こうして引き篭もっているのは返って危険である。早々に原因を究明して対処するべきだ。
そういう理由があっての提案なのだが、案の定、ウロボロスから強く止められる。

「それは駄目です! 御身に万が一の事があったら……っ!」
「あれから3日、何も起こっていないじゃないか」
「それはゼルエル様のスキルがあってこそです!」

 まぁ、全ての魔法、スキル、アイテム効果の発動を無効にし、効果を打ち消す最上級スキル、クリスタル・バニッシュExの加護があれば確かに安心だ。しかしさっきも言ったように、その恩恵を受けていないファントム・シーカーたちが大丈夫なのだ。そこまで警戒する意味もないと思うんだが。

「ただなぁ……このままって訳にもいかないんだよ。敵にただ時間を与えているだけかもしれないだろ?」

 そう、敵の狙いはきっと別にある。前々から何か良からぬ計画を企てていて、その準備が整ったのか、もしくは何かきっかけがあって実行したに違いない。だが、カルマの調査によれば何も異常は見付かっていないらしい。ならば、まだ完遂されていないと言える。人を溶かすような真似をする奴だ。このまま放置すればどんな大惨事が起こるかわかったものじゃない。今はまだ影響が出ていないが、いずれは俺たちも同じ末路を辿るかもしれないのだ。

「我が君の危惧されていることはわかります。しかし万が一にでも、我が君を誘い出す罠であってはならないのです」
「まぁ……それを言われたら反論はできないが」

 そう、何も痕跡が見付からない以上、ここまでの話全ては憶測に過ぎないのだ。こういう自然現象です、という結論で終わってしまうかもしれない状況である。万が一にでも危険があれば、と言われては何も言い返せるはずがない。
 だが、そうやって3日も平穏無事に過ごして来たのは事実で、未だにこんな議論をしているのは完全に後手に回っている証拠だ。肝心な時に足をすくわれてしまう場合も考慮すれば、ここはもう、現地調査に乗り出して何がなんでも情報を得なければならないだろう。

「そうだ、アザレア」

 案はある。それには少し時間が必要で、実際には3日も経ってしまった訳だ。それでもこの袋小路の状況を打開するためには、この方向で話を進めるしかなかったのだ。さぁ、始めさせて貰おうか。説得を。

「アデルの村の復興状況を教えてくれ」

 さて、こんな事態ではあるが、むしろこんな事態だからこそ、無理を言って村の復興は続けて貰っていた。村の喪失に加えて村人まで溶けたのだ。生き残った村人たちは相当なプレッシャーにさらされている。ここで復興まで止めてしまえばもう希望は一切無くなってしまうだろう。逆に復興を続けていれば、俺の力がまだ及んでいるという安心感を持って貰えるんじゃないか、希望を捨てないでいてくれるんじゃないか、そんな期待をしてのことだ。これにはアデルも同意してくれていて、念のために俺と会わないでいるものの、アザレアとはコンタクトを取りながら復興を続けてくれている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

英雄の平凡な妻

矢野りと
恋愛
キャサリンは伯爵であるエドワードと結婚し、子供にも恵まれ仲睦まじく暮らしていた。その生活はおとぎ話の主人公みたいではないが、平凡で幸せに溢れた毎日であった。だがある日エドワードが『英雄』になってしまったことで事態は一変し二人は周りに翻弄されていく…。 ※設定はゆるいです。 ※作者の他作品『立派な王太子妃』の話も出ていますが、読まなくても大丈夫です。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...