魔王と配下の英雄譚

るちぇ。

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第1章 偽りの騎士

第5話 怪現象だ 6

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 それはそうと敵さんは、このファントム・シーカーの大群には何の反応も見せてくれないらしい。こいつを放置したらどこに潜んでいても絶対に見付けてしまえるというのに。例えあらゆる探知から逃れているのだとしても、周囲に散らばる魔法やスキルを強制的に解除する呪いが届かない範囲があれば、そこに潜んでいるとわかってしまう。まぁ、それすら対策されていたらお手上げではあるが。

「魔王様、見付かったのじゃ」
「そうか、いたか」

 何も描かれていない地図がウィンドウに表示され、一部分が赤く点滅する。この地図の中央が俺たちの現在地だから、辿ってみると、ここから西北西に50キロの所に星はいるということになる。
 50キロか。随分と離れているが何か理由があるのだろうか。勿論、昨日の今日だ。俺の魔法を見て遠くに離れた可能性もあるが、何か別の目的があって距離を置いているのかもしれない。そんな風に思えた、この距離からは。
 現実世界で考えてみろ。魔法はあるかもしれないが、通信機器や高速で移動する機械的な手段が無い世界で50キロも本陣を離すだろうか。あり得ない。連携が取れないではないか。

「魔王様、こちらが現地の映像じゃ」

 ウィンドウに映し出されたのは絵に描いたような砦であった。白っぽい石煉瓦造りの建物であり、どうやら3階建てらしい。くり抜かれたような窓が規則的に並んでおり、そこから騎士の恰好をした者の姿がちらほら見える。よく見ると外周にも警備兵が何人も立っている。とても厳重だ。カルマの言う通り、ここが本命なのだろう。
 どうやって攻略したものか。とにかく殲滅するだけならば砦の上空から大規模魔法を一発放って終わりだが、できれば事情を聞きたい。そうなると選択肢は二つ。釣り出すか、乗り込むか、だ。
 現実的に考えると、釣り出すのは無しだな。食いついてくれるような餌なんて無いし、あぶり出すのは時間がかかり過ぎる。余計な抵抗を受けるだろうが、乗り込むのが一番手っ取り早いだろう。

「ありがとう、カルマ。後は俺たちがやる。フェンリスと戻ってくれ」
「存分に楽しめたのじゃ。後は見物させて貰うぞ、魔王様」

 カルマはそう言うと、全くためらう素振りすら見せずにケルベロスを走らせて行ってしまう。この世界に来てまだ2日目だが、つい思ってしまう。あっさりだなぁ、と。でも落ち着いて考えてみれば、主の命令なのだから素直に聞くのが普通なのかもしれない。これまでがおかしかったんだ。俺を取り合って喧嘩して、俺と一緒にいたいと駄々をこねられていた今までがさ。でも、まぁ、今に限ってはそうなる心配はない。特に顕著な人は同伴して貰う予定だから。

「如何なさいました?」
「い、いや、何でも?」

 しまった。ウロボロスが妙に嬉しそうに鼻歌を歌っているものだから、ついつい横顔を見てしまっていた。しかしそれ以上はしてこなさそうだから少しホッとする。これで抱き着いてこられようものなら俺はどうすればいいんだ。
話が脱線したな。早速、敵のアジトに乗り込もうかなと考えていると、目に付いてしまった。涙目になっているフェンリスに。

「……フェンリス?」
「つ、次こそは! 必ず戦わせて下さいね!」

 あぁ、そうか。フェンリスも帰ってくれと言ったから悲しくなってしまったのか。しかし、うーん、これがカルマだったら一緒に行ってもいいんだけど、フェンリスに限れば難しい。なにせ、この子は戦闘が大好きだ。敵を見かけたら片っ端から倒して回るだろう。それが例え敵の大将だろうと、いや、むしろ大将だからこそ喜々として倒しに行く可能性がある。だからごめん、と心の中で謝りながら返答する。

「あぁ、いつかフェンリスに相応しい舞台を用意する。ここは俺に任せてくれ」
「わかりました! その時まで一生懸命待っています!」

 一生懸命待つってどういうことだろう。忠犬ハチ公みたいに、じっと座って待っているとでも言うつもりか。そんな風に突っ込みそうになったが、ここで聞いてしまえば泥沼にはまってしまいそうだ。折角、自分なりに納得してくれたんだ。その気持ちを大切にして見送ろうではないか。
 フェンリスも無事に帰って貰って、ウロボロスと2人になる。敵に勘付かれる前に、そしてウロボロスが変な気を起こさない内に、目的を果たしに行こうかな。
 戦闘になることも考えて装備や準備を整えて来たからこのまま転移の魔法で飛んでも問題はない。善は急げとも言うしすぐに出発しよう。転移の魔法陣を足下に描き、ウロボロスを手招きする。

「お隣、失礼しますね、我が君」

 慎ましく言ってくれたが、その顔は獰猛な肉食動物みたいだ。目がギラギラ光ってて、食われちゃうかもって恐怖を覚える。昔、動物園に行った時に、檻越しとはいえ熊に襲われそうになった事があるけど、あの時とは比べものにならないほどの恐ろしさだ。

「……と、とにかく、まずは敵だ。行くぞ、ウロボロス」
「はい、どこまでもお供致します」

 若干別の意味が篭っている気がしなくもないが、それを聞いたら藪蛇なんて話では済まない。アナコンダの巣穴にどうぞ食べてくださいと手を突っ込むようなものだ。約束された貞操の危機などごめんである。
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