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第1章 偽りの騎士
第4話 ウロボロスの強い思い 2
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カルマが固唾をのんで続きを待っていると、
「我が君はコーヒーが好きだったと記憶していますが、間違いないでしょうか?」
「こ……こーひー……とな?」
拍子抜けしてしまう質問が飛び出した。緊張感から一気に解放されたためか、ちょっと間抜けな声で聞き返してしまう。こーひー。あぁ、コーヒーのことかと、言ってしまってからようやく気付く程であった。
「はい、コーヒーです。私の記憶ではまず間違いなく我が君の嗜好品であるはずなのですが、万が一にでも違えば失礼ですので確認を、と思いまして」
言われて思い出そうとしてみる。コーヒーか。そういえばドミニオンズ時代、魔王様は何かをすすりながらプレイしていた。それはお茶や水だろうと、言うなれば水分補給だろうと思っていたが、具体的にそれが何だったのかしっかり思い出そうとする。
「……何やらカタカナを口にしておった気がしてきたのう。ブラックがどうとか、メーカーがどうとか」
コーヒー通になっていくと、コーヒーが飲みたいとは言わず、どのメーカーのブラックが飲みたい、と言うようになっていく人は身近にいないだろうか。まして独り言で、思わずボソッと呟くようなレベルでは。少なくともユウはそのタイプであり、プレイ中にコーヒーという単語を口にしたことは余り無かった。
「他にも、びとう、みるく、らて、などというワードも耳にしたことがあります。これらの情報から推測するに、コーヒーこそ我が君の嗜好品であると考えています。念のために文献を読み漁りましたが、一致するワードは他にありませんでした」
「……何じゃと?」
この世界について調べ上げているのかと思いきや、そんな欲望が色濃く紛れ込んでいたとは。完全に雲の上の存在と思っていただけに、少しだけウロボロスを身近に感じた。それでも熱意はやはり常軌を逸しているのだが。
「そこで、この本の登場という訳です」
そう言って引っ張り出されたのは料理の本であった。他の本よりもいささか読み込まれているらしく、背に折り目がくっきりと付いており、しかもあちこち擦れている。ここまでくると流石に一晩だけでは済まないだろうなと推測しながら手に取ってパラパラとめくる。
「至って普通の本のようじゃのう」
中にはドミニオンズにも出てくる一般的な料理に関する情報が載っていた。カレー、ステーキ、サラダなどの幅広い料理について、その食材の選び方から下ごしらえの仕方、勿論調理方法まで細かく書かれている。果ては作ると喜ばれやすい季節や見栄えのする食器の選び方といった心遣い溢れる一文まである。
「……普通、なのかのう」
その辺はもはや好みの領域ではないのか。普通の範疇を超えているな、なんて考えながら本を返すと、すぐさまとあるページを開いて突き返される。コーヒーの淹れ方と書かれていた。
「ここ、ここが大切なページです」
「……その前に思い出したのじゃが、コーヒーには専用の機械や道具が要るのではなかったかのう?」
私の言っているものはコーヒーメーカーやフィルターと呼ばれる紙のことだ。前者は言うまでもない。コーヒーを美味しく淹れるためのものだ。後者は馴染みの無い人には必要性がわからないだろう。その原理から言うと長くなるので省くが、要は、淹れる過程でどうしても発生する不純物を取り除くために必要不可欠な使い捨ての紙切れである。
「えぇ、その通りです。我が君にご賞味頂くため、初めはアザレアにコーヒーメーカーを作って貰おうと思いましたが……ここを見てください」
コーヒーを作るために必要なもの。鍋と茶こし、と書かれていた。どうやら機械なんて上等なものが無くとも淹れる方法はあるようだ。
「ほぉ……これは興味深いのう」
「そうでしょう、そうでしょう! 我が君の隣で添い寝するという特権を放棄して徹夜したかいがありました!」
それは特権ではない。私も周囲も、なんなら魔王様本人もまた認めるはずがない。しかし強気で権利を主張するウロボロスを誰が止められるだろう。また、今この場でどうして自分1人に制することができるだろう。無理だ。無理だからあえてそこには触れず、コーヒーの方へ興味を向けてみせる。
「なるほど、原理としては紅茶に近いものがあるのじゃな」
茶こし、という道具を使うことから紅茶に繋がる。というのも、私の設定文には紅茶を好む、という一文が添えられている。具体的にどの程度なのか、例えばただ飲むだけなのか、作るところまでできるのか、道具にまで拘るのかといったところまでは記されていない。
しかし、ウロボロスを見てみて欲しい。ユウを愛しているという一文からここまで頑張れるのだ。好きならとことん好きになってしまうらしく、自分もまた、紅茶に関してはアデルから本を借りて既に読んでしまっていた。当然作り方まで学んでおり、その過程で茶こしのことは知っている。
「ふむ……魔王様のためにのう」
嗜好品がコーヒーであるかどうか確認するために多種多様な文献を読み漁り、作り方までしっかり調べ上げているとは。スケールが大きいというか、大袈裟というか。
「我が君はコーヒーが好きだったと記憶していますが、間違いないでしょうか?」
「こ……こーひー……とな?」
拍子抜けしてしまう質問が飛び出した。緊張感から一気に解放されたためか、ちょっと間抜けな声で聞き返してしまう。こーひー。あぁ、コーヒーのことかと、言ってしまってからようやく気付く程であった。
「はい、コーヒーです。私の記憶ではまず間違いなく我が君の嗜好品であるはずなのですが、万が一にでも違えば失礼ですので確認を、と思いまして」
言われて思い出そうとしてみる。コーヒーか。そういえばドミニオンズ時代、魔王様は何かをすすりながらプレイしていた。それはお茶や水だろうと、言うなれば水分補給だろうと思っていたが、具体的にそれが何だったのかしっかり思い出そうとする。
「……何やらカタカナを口にしておった気がしてきたのう。ブラックがどうとか、メーカーがどうとか」
コーヒー通になっていくと、コーヒーが飲みたいとは言わず、どのメーカーのブラックが飲みたい、と言うようになっていく人は身近にいないだろうか。まして独り言で、思わずボソッと呟くようなレベルでは。少なくともユウはそのタイプであり、プレイ中にコーヒーという単語を口にしたことは余り無かった。
「他にも、びとう、みるく、らて、などというワードも耳にしたことがあります。これらの情報から推測するに、コーヒーこそ我が君の嗜好品であると考えています。念のために文献を読み漁りましたが、一致するワードは他にありませんでした」
「……何じゃと?」
この世界について調べ上げているのかと思いきや、そんな欲望が色濃く紛れ込んでいたとは。完全に雲の上の存在と思っていただけに、少しだけウロボロスを身近に感じた。それでも熱意はやはり常軌を逸しているのだが。
「そこで、この本の登場という訳です」
そう言って引っ張り出されたのは料理の本であった。他の本よりもいささか読み込まれているらしく、背に折り目がくっきりと付いており、しかもあちこち擦れている。ここまでくると流石に一晩だけでは済まないだろうなと推測しながら手に取ってパラパラとめくる。
「至って普通の本のようじゃのう」
中にはドミニオンズにも出てくる一般的な料理に関する情報が載っていた。カレー、ステーキ、サラダなどの幅広い料理について、その食材の選び方から下ごしらえの仕方、勿論調理方法まで細かく書かれている。果ては作ると喜ばれやすい季節や見栄えのする食器の選び方といった心遣い溢れる一文まである。
「……普通、なのかのう」
その辺はもはや好みの領域ではないのか。普通の範疇を超えているな、なんて考えながら本を返すと、すぐさまとあるページを開いて突き返される。コーヒーの淹れ方と書かれていた。
「ここ、ここが大切なページです」
「……その前に思い出したのじゃが、コーヒーには専用の機械や道具が要るのではなかったかのう?」
私の言っているものはコーヒーメーカーやフィルターと呼ばれる紙のことだ。前者は言うまでもない。コーヒーを美味しく淹れるためのものだ。後者は馴染みの無い人には必要性がわからないだろう。その原理から言うと長くなるので省くが、要は、淹れる過程でどうしても発生する不純物を取り除くために必要不可欠な使い捨ての紙切れである。
「えぇ、その通りです。我が君にご賞味頂くため、初めはアザレアにコーヒーメーカーを作って貰おうと思いましたが……ここを見てください」
コーヒーを作るために必要なもの。鍋と茶こし、と書かれていた。どうやら機械なんて上等なものが無くとも淹れる方法はあるようだ。
「ほぉ……これは興味深いのう」
「そうでしょう、そうでしょう! 我が君の隣で添い寝するという特権を放棄して徹夜したかいがありました!」
それは特権ではない。私も周囲も、なんなら魔王様本人もまた認めるはずがない。しかし強気で権利を主張するウロボロスを誰が止められるだろう。また、今この場でどうして自分1人に制することができるだろう。無理だ。無理だからあえてそこには触れず、コーヒーの方へ興味を向けてみせる。
「なるほど、原理としては紅茶に近いものがあるのじゃな」
茶こし、という道具を使うことから紅茶に繋がる。というのも、私の設定文には紅茶を好む、という一文が添えられている。具体的にどの程度なのか、例えばただ飲むだけなのか、作るところまでできるのか、道具にまで拘るのかといったところまでは記されていない。
しかし、ウロボロスを見てみて欲しい。ユウを愛しているという一文からここまで頑張れるのだ。好きならとことん好きになってしまうらしく、自分もまた、紅茶に関してはアデルから本を借りて既に読んでしまっていた。当然作り方まで学んでおり、その過程で茶こしのことは知っている。
「ふむ……魔王様のためにのう」
嗜好品がコーヒーであるかどうか確認するために多種多様な文献を読み漁り、作り方までしっかり調べ上げているとは。スケールが大きいというか、大袈裟というか。
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