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第3章 「暗い影」
「反撃開始だ」
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時は来た。プリシア先生の協力もあって、校内の測量が完了。魔法式にも組み込んで、準備万端である。
俺は今、生徒会室にいる。ここにいながらにして、校内全ての状況を把握する事ができる。隣にはプリシア先生を初めとする魔力を提供してくれる先生方とシャノン。校内には先輩方がいて、俺が魔法で敵をあぶり出したら捕まえる算段だ。
「さて……始めよう。先生、魔力注入をお願いします」
「あぁ、任せろ」
目の前に膨大な情報が表示される。校内にいる全ての人間の動きが事細かに。この中に姿を消している奴がいるかもしれないし、いないかもしれない。でも、かもしれない、などという希望的な可能性はバッサリ切り捨てさせて貰う。
「いくぞ……名付けて、スターダスト・バニッシュ!」
対象はこの中にいる全員だ。一斉にあらゆる魔法、スキルを無効化する攻撃を受けて貰う。こいつの恐ろしいところは、魔法やスキルを使っていない場合、魔法を受けたと認識されない事だ。よって、普通に生活している人たちはここで除外できる。
ターゲットを絞り込む。目標は、今の一斉射で取り乱した奴だ。その心の動きをエッセンスで抽出、表示させる。いない。その場合はもっと大がかりな事をさせて貰おう。
「先生! 次はもっと大きくいきますよ!」
「人使いが荒いな! まぁ、任せておけ!」
俺は「人」を対象とした。結果、全て白。ならば次は「空間」そのものを対象とする。これで、例え敵がエッセンスへの対抗手段を身に付けていたとしても、問答無用で丸裸にできる。
「もう一度……スターダスト・バニッシュ!」
この影響で全ての施設が一時、機能不全に陥る。灯りは消え、水は出ず、テレビなどの魔法に頼る家電は使えなくなった。
ただ、俺の魔法は別だ。打ち消したものの中から、この学校内に存在しない事になっている部分を抽出する。見付けた。場所は第二図書館の地下3階。ここに、明らかな異常空間が存在していたようだ。
俺は全施設が復旧するのを待ってから、先輩たちに場所を伝える。
「先輩方! 敵は第二図書館の地下3階! 急行願います!」
さて、敵も慌て飛び出す事だろう。問題を挙げるとすれば、第二図書館にいる生徒たちが人質になる恐れがある事か。まぁ、さして問題ではないか。敵がどんな手段を取ろうとも、その全てを俺の魔法がオートで打ち消してやるから。
それよりも、問題はこちら側。敵も阿呆じゃない。犠牲になった生徒たちがここへ運び込まれているのは知っているだろう。そして、ここで対策を練っていた事にも気付いているに違いない。
「ゼノビア先輩、周辺の状況はどうですか?」
「今のところ問題はないね」
だからこそ、生徒会室は唯一攻め込まれうる場所だ。外はゼノビア先輩に、内は会長に守りをお願いしている。
「シン様、先輩方から連絡が入りました。敵を次々と捕獲していると」
「そうか。万事、現場判断に全て任せると伝えてくれ」
「畏まりました」
今、図書館では地獄絵図になっているだろうな。向こうは魔法やスキルを使おうとした瞬間、オートで打ち消される。一方、こちらは使いたい放題。個々の事情は知らないけど、先輩方の思いは凄まじい。さぞ盛り上がっている事だろう。
ここまで来るとこちらの勝ちは確定したようなもの、とはいかないらしい。予定外に、生徒会室の全ての電源が落とされる。
「な……何だ、これは。おい、少年。何か分かるか?」
「敵の奇襲だと思います。今、この建物全域を調査しています」
なるほど、敵は12人もいるらしい。生徒会役員や先生方を動かし過ぎてバレたと考えた方がいいな。そうなると向こうは雑兵、こっちは本命となる。
動きが速い。先輩や会長が動き出してくれているけど、抑えられるのはそれぞれ2、3人ずつ。最高で8人も真っ直ぐにこちらへ向かって来る。
「シャノン、剣を取ってくれ。敵が来る」
「畏まりました。先生方は?」
「まだ図書館の制圧が終わっていない。魔法を維持して貰う。俺たちだけで迎撃に出るぞ」
「待て、少年」
外へ出ようとした時、プリシア先生に呼び止められる。この一大事に何を、と振り返ると、不敵な笑みを浮かべていた。
「これはプレッシャーではなくエールだ。私たちの命、お前に託す」
「先生……はい! 行って来ます!」
外へ出て、ここへ至れる唯一の通路を前に陣取る。あいつらの動きから、流石に壁をすり抜ける事はできないらしいからな。ここで必ず鉢合わせる。
シャノンが前、俺が後ろ。お互いに位置に付いて、さぁ、後は待つだけ、とはいかない。
「シャノン、これは試合じゃなく実践だ。卑怯も糞もない。前もって色々と仕込ませて貰うぞ」
「はい、お願いします」
ヒールを5つ、属性攻撃に備えてエンチャントを3属性それぞれ、効果の程は不明だけどディスペルも忘れない。
「まだまだ。インパクト・カウンター・セット・マジック、バニッシュ」
「こ……この力は……?」
「あぁ、ちょっとチートっぽいけどな。でも、あいつらのしてくれた事への返礼としては、素敵だろう?」
「……はい、そうですね!」
こちらの準備が整うのを待ってくれていたようなタイミングで、足音が聞こえる。姿を隠せないなら物音に注意する必要はないって事だろう。なんとも潔い。
来た、7人の黒装束の奴らが軽快な動きで迫る。
「やらせません!」
俺には見えないが、シャノンは見切ったらしい。インパクト式による爆発が起こる。恐らく敵のナイフ攻撃に対して一振りしたのだろう。バニッシュが爆発的に発動し、その効果が拡散。カランカランと音を立ててナイフが落下したのが見えた。
撃ち落とせたという事は、予想通り、あのナイフには何らかの魔法、もしくはスキルが使われていたらしい。これで事件解決のピースは揃った事になる。後は、この状況を打破するだけ。
黒装束の奴らは一瞬だけ顔を見合わせると、剣を抜いて迫って来た。
「シャノン! 俺を信じて、敵を斬り捨ててくれ!」
「畏まりました!」
鮮血が飛ぶ。敵から、そしてシャノンからも。肩を、背中を、腹を、頭を斬られるシャノン。でも死なない。傷はすぐに塞がって、返す一刀を力強く振るう。
「ば……化け物か……っ!?」
ようやく敵から言葉が聞けた。驚きおののく言葉が。その気持ちには同意する。
戦いは攻めて、守っての繰り返し。一瞬の隙を狙い、防御を打ち崩しながら、やがて致命打を与えるやり取りだ。お生憎様、今は初めから相打ち狙い。
「あら、失礼ですよ。こんな可愛い侍女に向かって、その言い草は無いんじゃないですか!?」
しかも、シャノンは怒りに身を任せている。主を傷付けられるのを見せ付けられた。そんな辛酸を舐めさせられた相手を前にして、感情をむき出しにして攻めている。
普通なら頭に血の上った相手など恐くない。ただしそれは、殺せる場合だ。致命傷など存在しない。受けた側から傷が塞がる。そんな半ば錯乱状態の剣士が本気で殺しに来るのだ。その恐怖は、まさに化け物を前にした状況だろう。
「悪いな、お前ら」
シャノンは全身に返り血と自分の血を浴びて真っ赤に染まっている。そんな悪鬼羅刹かと見間違える状態で、残りの1人の首筋に剣を当てている。
子犬のように震え、腰が抜けてしまっているらしい男に向けて、俺は努めて高圧的な口調で語りかける。
「な……何が……だ?」
「相手が悪かった、と言っているんだ。俺を敵に回さなければ、こんな目に遭わずに済んだものを」
「ふ……ふざけるな! だ、大体、お前は何なんだよ!? 生徒会にこんな化け物がいるなんて知らなかったぞ!?」
「へぇ、これは面白い。生徒会役員を調べられる立場の人間か、お前は」
「ぐ……し、知らないな!」
この期に及んで白を切るつもりらしい。まぁ、その辺は追々聞いていけばいい。一番の問題は皆を助ける方法だ。
「なら、お前たちのナイフの謎を教えてくれ」
「ふ……ふん、誰が話すものか!」
「そうか、言いたくないか。まぁ、別にいいけどな」
既に事切れている奴らの服を漁り、ナイフを取り出す。こいつらはまだ効果が残っているだろう。バニッシュを受けていないし、何より未使用だ。ネイたちに使われたやつからは何も検出されなかったからな。こいつを解析すれば原因を特定できるだろう。
「シャノン、そいつは用無しだ」
「ま……待て! お前、もっと聞きたい事があるだろう!? ほら、言えよ。教えて下さいって言えよ! そうすれば……!」
「うるさいですよ、黙って下さい」
男が倒れる。シャノンは優しいな。首筋を殴って気絶させただけのようだ。
「さて……後はあっちの収拾が付くのを待つだけか」
「お疲れさまでした、シン様」
「シャノンこそ、色々とありがとうな」
こうして、黒装束の集団は一部死亡した者を除いて捕らえ、ひとまずは安寧な学校生活が戻って来た。後の処理は生徒会に一任し、俺はナイフの解析に取り組むのだった。
俺は今、生徒会室にいる。ここにいながらにして、校内全ての状況を把握する事ができる。隣にはプリシア先生を初めとする魔力を提供してくれる先生方とシャノン。校内には先輩方がいて、俺が魔法で敵をあぶり出したら捕まえる算段だ。
「さて……始めよう。先生、魔力注入をお願いします」
「あぁ、任せろ」
目の前に膨大な情報が表示される。校内にいる全ての人間の動きが事細かに。この中に姿を消している奴がいるかもしれないし、いないかもしれない。でも、かもしれない、などという希望的な可能性はバッサリ切り捨てさせて貰う。
「いくぞ……名付けて、スターダスト・バニッシュ!」
対象はこの中にいる全員だ。一斉にあらゆる魔法、スキルを無効化する攻撃を受けて貰う。こいつの恐ろしいところは、魔法やスキルを使っていない場合、魔法を受けたと認識されない事だ。よって、普通に生活している人たちはここで除外できる。
ターゲットを絞り込む。目標は、今の一斉射で取り乱した奴だ。その心の動きをエッセンスで抽出、表示させる。いない。その場合はもっと大がかりな事をさせて貰おう。
「先生! 次はもっと大きくいきますよ!」
「人使いが荒いな! まぁ、任せておけ!」
俺は「人」を対象とした。結果、全て白。ならば次は「空間」そのものを対象とする。これで、例え敵がエッセンスへの対抗手段を身に付けていたとしても、問答無用で丸裸にできる。
「もう一度……スターダスト・バニッシュ!」
この影響で全ての施設が一時、機能不全に陥る。灯りは消え、水は出ず、テレビなどの魔法に頼る家電は使えなくなった。
ただ、俺の魔法は別だ。打ち消したものの中から、この学校内に存在しない事になっている部分を抽出する。見付けた。場所は第二図書館の地下3階。ここに、明らかな異常空間が存在していたようだ。
俺は全施設が復旧するのを待ってから、先輩たちに場所を伝える。
「先輩方! 敵は第二図書館の地下3階! 急行願います!」
さて、敵も慌て飛び出す事だろう。問題を挙げるとすれば、第二図書館にいる生徒たちが人質になる恐れがある事か。まぁ、さして問題ではないか。敵がどんな手段を取ろうとも、その全てを俺の魔法がオートで打ち消してやるから。
それよりも、問題はこちら側。敵も阿呆じゃない。犠牲になった生徒たちがここへ運び込まれているのは知っているだろう。そして、ここで対策を練っていた事にも気付いているに違いない。
「ゼノビア先輩、周辺の状況はどうですか?」
「今のところ問題はないね」
だからこそ、生徒会室は唯一攻め込まれうる場所だ。外はゼノビア先輩に、内は会長に守りをお願いしている。
「シン様、先輩方から連絡が入りました。敵を次々と捕獲していると」
「そうか。万事、現場判断に全て任せると伝えてくれ」
「畏まりました」
今、図書館では地獄絵図になっているだろうな。向こうは魔法やスキルを使おうとした瞬間、オートで打ち消される。一方、こちらは使いたい放題。個々の事情は知らないけど、先輩方の思いは凄まじい。さぞ盛り上がっている事だろう。
ここまで来るとこちらの勝ちは確定したようなもの、とはいかないらしい。予定外に、生徒会室の全ての電源が落とされる。
「な……何だ、これは。おい、少年。何か分かるか?」
「敵の奇襲だと思います。今、この建物全域を調査しています」
なるほど、敵は12人もいるらしい。生徒会役員や先生方を動かし過ぎてバレたと考えた方がいいな。そうなると向こうは雑兵、こっちは本命となる。
動きが速い。先輩や会長が動き出してくれているけど、抑えられるのはそれぞれ2、3人ずつ。最高で8人も真っ直ぐにこちらへ向かって来る。
「シャノン、剣を取ってくれ。敵が来る」
「畏まりました。先生方は?」
「まだ図書館の制圧が終わっていない。魔法を維持して貰う。俺たちだけで迎撃に出るぞ」
「待て、少年」
外へ出ようとした時、プリシア先生に呼び止められる。この一大事に何を、と振り返ると、不敵な笑みを浮かべていた。
「これはプレッシャーではなくエールだ。私たちの命、お前に託す」
「先生……はい! 行って来ます!」
外へ出て、ここへ至れる唯一の通路を前に陣取る。あいつらの動きから、流石に壁をすり抜ける事はできないらしいからな。ここで必ず鉢合わせる。
シャノンが前、俺が後ろ。お互いに位置に付いて、さぁ、後は待つだけ、とはいかない。
「シャノン、これは試合じゃなく実践だ。卑怯も糞もない。前もって色々と仕込ませて貰うぞ」
「はい、お願いします」
ヒールを5つ、属性攻撃に備えてエンチャントを3属性それぞれ、効果の程は不明だけどディスペルも忘れない。
「まだまだ。インパクト・カウンター・セット・マジック、バニッシュ」
「こ……この力は……?」
「あぁ、ちょっとチートっぽいけどな。でも、あいつらのしてくれた事への返礼としては、素敵だろう?」
「……はい、そうですね!」
こちらの準備が整うのを待ってくれていたようなタイミングで、足音が聞こえる。姿を隠せないなら物音に注意する必要はないって事だろう。なんとも潔い。
来た、7人の黒装束の奴らが軽快な動きで迫る。
「やらせません!」
俺には見えないが、シャノンは見切ったらしい。インパクト式による爆発が起こる。恐らく敵のナイフ攻撃に対して一振りしたのだろう。バニッシュが爆発的に発動し、その効果が拡散。カランカランと音を立ててナイフが落下したのが見えた。
撃ち落とせたという事は、予想通り、あのナイフには何らかの魔法、もしくはスキルが使われていたらしい。これで事件解決のピースは揃った事になる。後は、この状況を打破するだけ。
黒装束の奴らは一瞬だけ顔を見合わせると、剣を抜いて迫って来た。
「シャノン! 俺を信じて、敵を斬り捨ててくれ!」
「畏まりました!」
鮮血が飛ぶ。敵から、そしてシャノンからも。肩を、背中を、腹を、頭を斬られるシャノン。でも死なない。傷はすぐに塞がって、返す一刀を力強く振るう。
「ば……化け物か……っ!?」
ようやく敵から言葉が聞けた。驚きおののく言葉が。その気持ちには同意する。
戦いは攻めて、守っての繰り返し。一瞬の隙を狙い、防御を打ち崩しながら、やがて致命打を与えるやり取りだ。お生憎様、今は初めから相打ち狙い。
「あら、失礼ですよ。こんな可愛い侍女に向かって、その言い草は無いんじゃないですか!?」
しかも、シャノンは怒りに身を任せている。主を傷付けられるのを見せ付けられた。そんな辛酸を舐めさせられた相手を前にして、感情をむき出しにして攻めている。
普通なら頭に血の上った相手など恐くない。ただしそれは、殺せる場合だ。致命傷など存在しない。受けた側から傷が塞がる。そんな半ば錯乱状態の剣士が本気で殺しに来るのだ。その恐怖は、まさに化け物を前にした状況だろう。
「悪いな、お前ら」
シャノンは全身に返り血と自分の血を浴びて真っ赤に染まっている。そんな悪鬼羅刹かと見間違える状態で、残りの1人の首筋に剣を当てている。
子犬のように震え、腰が抜けてしまっているらしい男に向けて、俺は努めて高圧的な口調で語りかける。
「な……何が……だ?」
「相手が悪かった、と言っているんだ。俺を敵に回さなければ、こんな目に遭わずに済んだものを」
「ふ……ふざけるな! だ、大体、お前は何なんだよ!? 生徒会にこんな化け物がいるなんて知らなかったぞ!?」
「へぇ、これは面白い。生徒会役員を調べられる立場の人間か、お前は」
「ぐ……し、知らないな!」
この期に及んで白を切るつもりらしい。まぁ、その辺は追々聞いていけばいい。一番の問題は皆を助ける方法だ。
「なら、お前たちのナイフの謎を教えてくれ」
「ふ……ふん、誰が話すものか!」
「そうか、言いたくないか。まぁ、別にいいけどな」
既に事切れている奴らの服を漁り、ナイフを取り出す。こいつらはまだ効果が残っているだろう。バニッシュを受けていないし、何より未使用だ。ネイたちに使われたやつからは何も検出されなかったからな。こいつを解析すれば原因を特定できるだろう。
「シャノン、そいつは用無しだ」
「ま……待て! お前、もっと聞きたい事があるだろう!? ほら、言えよ。教えて下さいって言えよ! そうすれば……!」
「うるさいですよ、黙って下さい」
男が倒れる。シャノンは優しいな。首筋を殴って気絶させただけのようだ。
「さて……後はあっちの収拾が付くのを待つだけか」
「お疲れさまでした、シン様」
「シャノンこそ、色々とありがとうな」
こうして、黒装束の集団は一部死亡した者を除いて捕らえ、ひとまずは安寧な学校生活が戻って来た。後の処理は生徒会に一任し、俺はナイフの解析に取り組むのだった。
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