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第3章 「暗い影」

「団結する力」

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 ネイは目を覚まさない。眠ったまま、体力を全く減らさないままに、ベッドの上で横たわっている。
 この学校の医療チーム、並びに生徒会の力を借りても状態は改善しなかった。どうやらこれは状態異常であるらしいが、全く未知のもののため、手の施しようがないのだという。
 俺たちは生徒会室にいた。犯人に狙われる恐れがあるため守ってくれるらしい。その上、この学校内で最高水準の治療まで受けられるという。とても有難い申し出で、遠慮なく甘えさせて貰っている。
 でも結果はこの通りだ。襲われはしないが、回復もしない。手詰まり状態が続いていて、何が出来る訳でもないけど、手を握って過ごしていた。

「……シン君、そろそろ休んだ方が良いよ?」
「先輩……」

 心配してくれているのだとはっきり分かる表情をされる。ここへ篭って、もう何日経ったのだろう。分からなかった。

「言っておくけど、これは気休めの言葉じゃないからね? ネイを助けたいなら、まずは休んで欲しいの」
「ネイを……助ける? もしかして、何か手立てが見付かったんですか!?」
「シン君なら薄々勘付いているんじゃない? この状況を打開する方法に」

 状況を打開。そう言われてしまうと、もうひとつしか思い付かない。

「捕まえて聞き出す訳ですね?」
「そう。でもね、それにはシン君の力がどうしても必要なの」
「俺の……力が?」
「うん。あいつらはね、姿を隠すスキルを使っている。でも情けない事に、生徒会には見破る方法が無くて、ネイにも聞いたけど分からなくて、困っていた矢先なんだ」

 そうだ、俺はあいつらの位置を特定できた。そのスキルを打ち消す事もできた。まさか、俺にしか出来ない事だったなんて。

「本当はもっと傍にいていいよって言えれば良いんだけどね……映像からシン君の使った魔法を分析しても、私たちには再現できなかったの。そうしている内に事態はどんどん悪化して……その、ノエルも倒れたんだ」
「の……ノエルが!?」

 信じられない。ただただ信じられない。俺たちは完全に油断していた。でも、あいつは別だ。黙っていれば常に周囲へ注意を向けていて、加えて、優秀なシャノンも付いている。これでどうして同じ目に遭うんだ。

「被害はどんどん増えている。狙いは決まって成績優秀者ばかり。動機は何となく想像付くけど捕まえる事ができないんだ。だからお願い。シン君、力を貸して欲しい」

 ネイを見る。俺はこいつの盾だ。出来ることならずっと傍にいてあげたい。でも怒られるだろうな。この状況に背を向けて篭っていたら。
 手を握る。強く、強く握る。行って来る、という挨拶の代わりに。

「俺、行きます。今すぐに」
「駄目だよ。まずは休んでからでないと……」
「ふざけないで下さいっ!」

 先輩なのに怒鳴ってしまう。でも止まらない。感情を止められない。

「ネイに続いてノエルまで……これでどうして、ゆっくり寝れるものですか!」
「よく言ったわね、シン」

 いつからいたのか、会長が部屋の隅に佇んでいた。ゆっくりと歩み寄って来ると、先輩を押し退けて、俺の手を取った。

「この馬鹿げた火遊びに翻弄されるのはもう御免よ。会長権限において命ずる。現時刻を持ってシンを生徒会役員に任命。この事件の早期解決に力を貸しなさい。それと、ネイとノエルの事は私に万事任せるように。貴方たちの言う魔法士としての矜持にかけて、何を置いても守り通すと誓うわ」
「……はい! ありがとうございます!」
「……分かった。でも、シン君。辛かったらいつでも言ってね?」
「ありがとうございます、先輩。さぁ、案内して下さい。あるんですよね、専用の部屋か何かが」
「流石はお見通しだね。こっち、付いて来て」

 案内された部屋には、いずれもテレビや学生新聞で見慣れた面々が揃っていた。この学園の力、頭脳が集結していると言っていい。

「シン様!」

 そして、中にはシャノンもいた。俺を見るや否や、駆け寄って来る。

「シャノン……聞いたよ。その、ノエルもなんだって?」
「はい。不甲斐なさ過ぎて気が狂いそうです。まさか私がお傍にいながら……あのような凶刃を……っ!」
「そうか……俺もだよ。ネイのすぐ傍にいたくせに、何もできなかった」
「いえ、そんな事はありません! シン様だけです! 大切な人を守り通せたのは! 私は……たまたま通りかかったゼノビア様に守られただけで……」

 そうか、悔しかっただろうな。その手に巻かれた包帯は、もしかすると戦闘によるものではなく拳を強く握り締めてできた傷なのかもしれない。

「お願いします、シン様。どうかノエル様を、そして犠牲になった生徒たちを……お救い下さい!」

 深く、深く頭を下げられる。その頬をとめどなく涙が伝い、こぼれ落ちていく。
 そして、それはシャノンだけではない。この場にいる全員が、揃って頭を下げてくれていた。

「頼む、シン!」
「私たちの大切な人を……助けたいの!」
「どうか皆を……この学校を、助けてくれ!」

 あれ、何だろう、この感覚は。まるでここが戦場のような気がして、支援魔法士として言うべき事がパッと浮かぶ。言うか、言ってしまうか。身の程知らずと笑われるかもしれない。でも、この場を支配する悲しみ、後悔、そういった感情を払拭するために。

「……敵は狡猾ですが、支援魔法の脅威とはなり得ません。まして今は先輩方がいる。これでどうして絶望する必要があるでしょう。今、この場において宣言します。俺の支配する戦場で、もうこれ以上の犠牲は出さないと」
「シン様……!」
「さぁ、始めましょうか。反撃を!」

 先輩たちは揃って頷いてくれると、

「やるぞ、シン!」
「あぁ、お前となら勝てる!」
「えぇ、協力は惜しまないわ!」

 室内の雰囲気は一転。闘志に火が点いた先輩たちは、立ち上がると俺を椅子へ座らせてくれる。部屋の一番奥の席へと。
 そして一斉に見つめられる。うん、想像以上の反響で正直に言うと驚いた。でも嬉しい誤算だ。この勢いのまま駆け抜けよう。一刻も早く解決するために。
 ただ、念には念を入れさせて貰う。

「シャノン、お前は隣にいてくれないか? 気心の知れた人が近くにいると心強い」
「畏まりました。如何様なサポートもさせて頂きます」
「さて、先輩方には早速ですが……」

 実は、もう具体的なプランは思い付いている。まず何を置いても優先すべきは被害の拡大防止。そのためには、あのフィールド・エッセンスが効果的だ。

「この中で、魔法式の開発に精通している方はいらっしゃいますか?」

 途端に静まり返ってしまう。マジか。いくら全員が魔法士ではないとはいえ、1人くらいはいて欲しかった。

「仕方ないな、少年。私が手伝ってやるよ」

 小さくて見えなかった、と言ったら拗ねられるので心の中にしまっておくが、プリシア先生も参加してくれていたようだ。

「先生!」
「喜ぶのは終わってからにしろ。それで、何をすればいい?」
「この魔法式を見て下さい」

 フィールド・エッセンスの式を渡すと、先生はじっと見つめて、静かに笑い出した。

「おいおい、こいつは……少年。まさかとは思うが、これを開発したのか?」
「は……はい、そうですけど?」
「これは傑作だ! この魔法式ひとつで学会が開けるレベルだぞ? で、この世紀の大発明をどうしたいと?」
「その……範囲をこの学校全てにしたいんですが、それには測量と魔力の確保が必要でして」
「分かった。おい、風紀委員。この学校の測量を直ちに始めるぞ。あぁ、安心しろよ、少年。きちんと16進数で計算してやる。魔力の方は暇そうな職員に声をかけるから心配するな」
「ありがとうございます。あの、残りの先輩方は魔法士を中心としてグループを組んで校内の見回りをお願いします。あ、魔法士の先輩はこの魔法式をこのまま使って周辺の警戒、狙撃をお願いします」

 魔法式を渡して、試用して貰って、驚かれて。これを何回か繰り返して、警備にあたって貰う。
 良し、これで当面の時間は稼げる。ここからは二通りのアプローチ方法があるけど、まぁ、ここは敵を捕まえるのが先決だ。草の根分けてでも見付けてやる。そして後悔させてやる。支援魔法士を敵に回した事を。
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