23 / 30
中学時代のわたしとセンパイ①
しおりを挟む
中学二年生の四月、わたしは図書委員会に入った。自分から望んで入ったわけではない。当時のわたしは熱心な読書家ではなく、小説よりもマンガのほうが好きだったし、さらに言えば友達と遊ぶことのほうがもっと好きだった。だから図書室に籠って本の整理をするような活動になんら興味をもつことはなかった。
しかし中学校の方針でなにかしらの委員会に所属しなければならず、クラスでのくじ引きの結果、わたしは興味もないうえに、やりたくもない図書委員会に所属することになったと。そのときは本気で落ち込んだ。
図書委員会での活動は想像していたように退屈なものだった。昼休みと放課後に図書室へ赴き、本の貸出や返却の手続をしたり、返却された本を本棚に戻す作業をするというのが主な仕事。それほど広い図書室ではないこともあり、わたしはまるで狭い籠の中に閉じ込められた鳥のようだなと自虐的に思った。
このように仕事内容にわたしは不満があったが、もう一つ不満なことがあった。それは一緒に仕事をする図書委員がとても暗くて無表情な男子生徒だったということ。
図書委員会の仕事は二人で行うことになっている。誰とペアを組むのかは、委員会の初日に決められる。ペアは同級生同士では組むことはできず、慣例として上級生と下級生で組むこととされている。ペアはくじ引きで決められ、図書委員会の活動が終了するまで解消することはできない。図書委員会の活動は前期と後期に分けられていて前期が終了するのは十月。つまり約半年間同じ相手と仕事をしなければいけないということだ。
退屈な仕事であれば、せめてイケメンの先輩や話の面白い先輩とペアになりたいと願うのは当然のことだ。わたしはくじ引きの結果がでるまで祈った。話が面白くてイケメンの先輩とペアになりますように、と。
――しかし。わたしの願いは叶うことはなく、ペアになったのは前述のとても暗そうで無表情な眼鏡の先輩だった……。
こうしてわたしは、くじ引きで図書委員会に所属することになり、くじ引きで冴えない先輩とペアを組み活動をすることになった。よほど前世で徳を積んでこなかったんだろう。くじ運が悪すぎる……。せめて現世でしっかり徳を積んで来世に期待しようと、前向きだか後ろ向きだかよくわからないことをわたしは思った。
しかし図書委員会での活動が一カ月ほど過ぎると、わたしの図書委員会のイメージが少しずつ変化していった。
仕事自体は予想通り退屈ではあったものの、一緒に仕事をする眼鏡の先輩が予想とは違い面白い人だったからだ。
先輩は常にテンションが低いし、表情もほとんど変わらない。クラスメイトにもこの先輩と同じようなタイプの人がいる。こういうタイプの人は一人でいるほうが好きなのだと思うから、わたしはなるべく彼らの迷惑にならないように必要最低限のコミュニケーションをとるように努めている。だからもしも図書委員会で先輩とペアにならなかったら、話しかけることは絶対になかったと言い切れる。先輩も彼らと同じように一人でいるほうが好きなタイプだと思ったからだ。
たしかに先輩は一人でいることを好むタイプのようで、初対面で挨拶をしたきりわたしに話しかけてくることはなく、黙々と仕事をこなした。しかし三回目の図書委員会での活動のとき、仕事も一段落してなにげなく先輩に話しかけると――なにを話したのか忘れたけど、おそらく本が好きなのですか?などのたわいもない質問だったと思う――わたしの目をしっかりと見てはきはきと返答してくれた。
それはわたしにとって、とても意外なことだった。なぜなら先輩と同じタイプだと思っていたクラスメイトの男子は、わたしが話しかけると視線を合わせてくれなかったり、聞き取りにくい声で話すことが多かったからだ。だからわたしは先輩もクラスメイトの男子と同じように返答するとばかり思っていた。でも先輩はどうやらクラスメイトの男子とは違うタイプだということを、そのときわたしは理解したのだった。
それがきっかけとなり、わたしは積極的に先輩に話しかけるようになった。先輩は本が好きみたいで、本を読まないわたしが本に少しでも興味を持てるように昭和の文豪のゴシップ話とかを面白おかしく話してくれた。またわたしも自分が好きな音楽の話とか映画の話とか友達の話とかをたくさん先輩に話した。先輩は無表情なのでわたしの話に興味があるのかわかりにくかったけど、退屈そうなそぶりはなく、いつもわたしの目を真っ直ぐに見て話を聞いてくれた。
無表情な先輩だけど、よく見ると僅かながらも表情に変化があることに気づいた。彼は穏やかな性格なのか、喜びや嬉しさ、楽しさの感情を見せることが多かった。だけどたまに悲しみや苦しみの感情を見せることもあった。そうして観察しているうちに、わたしは他人から見るととても無表情な先輩の顔を可愛く思えるようになっていった。
そして夏休みが始まる頃には、わたしは先輩のそんな顔がとても好きになっていた。
このままずっと先輩と図書委員会で活動をしたいと思っていたけど、楽しい時間はあっという間に過ぎていき、やがて委員会活動の前期が終了する十月になっていた。
後期も図書委員会で先輩と一緒にペアになりたい気持ちはあったが、残念ながら先輩は受験を控える三年生なので委員会活動は前期までだ。せめて残された時間を大切にしようと思っていたのだが、ある事件が起こったせいでわたしと先輩の図書室での時間は突然幕が下りることになった。
しかし中学校の方針でなにかしらの委員会に所属しなければならず、クラスでのくじ引きの結果、わたしは興味もないうえに、やりたくもない図書委員会に所属することになったと。そのときは本気で落ち込んだ。
図書委員会での活動は想像していたように退屈なものだった。昼休みと放課後に図書室へ赴き、本の貸出や返却の手続をしたり、返却された本を本棚に戻す作業をするというのが主な仕事。それほど広い図書室ではないこともあり、わたしはまるで狭い籠の中に閉じ込められた鳥のようだなと自虐的に思った。
このように仕事内容にわたしは不満があったが、もう一つ不満なことがあった。それは一緒に仕事をする図書委員がとても暗くて無表情な男子生徒だったということ。
図書委員会の仕事は二人で行うことになっている。誰とペアを組むのかは、委員会の初日に決められる。ペアは同級生同士では組むことはできず、慣例として上級生と下級生で組むこととされている。ペアはくじ引きで決められ、図書委員会の活動が終了するまで解消することはできない。図書委員会の活動は前期と後期に分けられていて前期が終了するのは十月。つまり約半年間同じ相手と仕事をしなければいけないということだ。
退屈な仕事であれば、せめてイケメンの先輩や話の面白い先輩とペアになりたいと願うのは当然のことだ。わたしはくじ引きの結果がでるまで祈った。話が面白くてイケメンの先輩とペアになりますように、と。
――しかし。わたしの願いは叶うことはなく、ペアになったのは前述のとても暗そうで無表情な眼鏡の先輩だった……。
こうしてわたしは、くじ引きで図書委員会に所属することになり、くじ引きで冴えない先輩とペアを組み活動をすることになった。よほど前世で徳を積んでこなかったんだろう。くじ運が悪すぎる……。せめて現世でしっかり徳を積んで来世に期待しようと、前向きだか後ろ向きだかよくわからないことをわたしは思った。
しかし図書委員会での活動が一カ月ほど過ぎると、わたしの図書委員会のイメージが少しずつ変化していった。
仕事自体は予想通り退屈ではあったものの、一緒に仕事をする眼鏡の先輩が予想とは違い面白い人だったからだ。
先輩は常にテンションが低いし、表情もほとんど変わらない。クラスメイトにもこの先輩と同じようなタイプの人がいる。こういうタイプの人は一人でいるほうが好きなのだと思うから、わたしはなるべく彼らの迷惑にならないように必要最低限のコミュニケーションをとるように努めている。だからもしも図書委員会で先輩とペアにならなかったら、話しかけることは絶対になかったと言い切れる。先輩も彼らと同じように一人でいるほうが好きなタイプだと思ったからだ。
たしかに先輩は一人でいることを好むタイプのようで、初対面で挨拶をしたきりわたしに話しかけてくることはなく、黙々と仕事をこなした。しかし三回目の図書委員会での活動のとき、仕事も一段落してなにげなく先輩に話しかけると――なにを話したのか忘れたけど、おそらく本が好きなのですか?などのたわいもない質問だったと思う――わたしの目をしっかりと見てはきはきと返答してくれた。
それはわたしにとって、とても意外なことだった。なぜなら先輩と同じタイプだと思っていたクラスメイトの男子は、わたしが話しかけると視線を合わせてくれなかったり、聞き取りにくい声で話すことが多かったからだ。だからわたしは先輩もクラスメイトの男子と同じように返答するとばかり思っていた。でも先輩はどうやらクラスメイトの男子とは違うタイプだということを、そのときわたしは理解したのだった。
それがきっかけとなり、わたしは積極的に先輩に話しかけるようになった。先輩は本が好きみたいで、本を読まないわたしが本に少しでも興味を持てるように昭和の文豪のゴシップ話とかを面白おかしく話してくれた。またわたしも自分が好きな音楽の話とか映画の話とか友達の話とかをたくさん先輩に話した。先輩は無表情なのでわたしの話に興味があるのかわかりにくかったけど、退屈そうなそぶりはなく、いつもわたしの目を真っ直ぐに見て話を聞いてくれた。
無表情な先輩だけど、よく見ると僅かながらも表情に変化があることに気づいた。彼は穏やかな性格なのか、喜びや嬉しさ、楽しさの感情を見せることが多かった。だけどたまに悲しみや苦しみの感情を見せることもあった。そうして観察しているうちに、わたしは他人から見るととても無表情な先輩の顔を可愛く思えるようになっていった。
そして夏休みが始まる頃には、わたしは先輩のそんな顔がとても好きになっていた。
このままずっと先輩と図書委員会で活動をしたいと思っていたけど、楽しい時間はあっという間に過ぎていき、やがて委員会活動の前期が終了する十月になっていた。
後期も図書委員会で先輩と一緒にペアになりたい気持ちはあったが、残念ながら先輩は受験を控える三年生なので委員会活動は前期までだ。せめて残された時間を大切にしようと思っていたのだが、ある事件が起こったせいでわたしと先輩の図書室での時間は突然幕が下りることになった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~
kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ!
コバひろ
大衆娯楽
格闘技を通して、男と女がリングで戦うことの意味、ジェンダー論を描きたく思います。また、それによる両者の苦悩、家族愛、宿命。
性差とは何か?

女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』
コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ”
(全20話)の続編。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211
男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は?
そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。
格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる