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世界で一番可愛い俺のカノジョ①
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栞梨が俺の家に泊まりに来る当日、俺は早朝から非常に緊張していた。栞梨は午後一時に来ることになっているから、そんなに早くから緊張することもないのかもしれない。だが、昨日の夜から心臓がバクバクと激しく音を立てていて、ほとんど寝られなかった。だから俺にとっては、早すぎるということは決してない。人生で初めて俺の家に女子がやってくるのだ。これで緊張しないのはラノベの鈍感系主人公くらいだ。
朝から落ち着かない気持ちだった俺は、自分の部屋の掃除を徹底的に行うことにした。昨日も掃除をしたから散らかっていないのだが、これからこの部屋に栞梨が来るんだと思うと、何度掃除をしてもしたりない気分だった。
だから俺は掃除機を三回かけて、本棚や机の埃を一つも見逃すことなく取り除き、部屋を照らす照明器具もとことん磨き上げた。
なかでもベッドメイクは気合いをいれて取り組んだ。シーツや枕カバーを洗濯したばかりのものに変え、枕元にはこっそりと避妊具をセットした。栞梨にその気があるか分からないが、念には念をいれて、いざそのときに焦らなくてもいいようにだ。備えあれば憂いなしである。
また自分の部屋以外にも、リビングやキッチン、お風呂、さらにはトイレまで、栞梨が足を踏み入れそうなところは、すべて掃除をした。正直なところ、自分の部屋以外はいつも母さんにまかせっきりで、自分でリビングやキッチンを掃除したのは初めてのことだ。だけど、少しでも俺の家が栞梨にとって居心地のいい空間なってほしいという一心だったから、まったく苦にはならなかった。
そうして日が昇る前の早朝から始めた掃除もすべて終わり、現在の時刻は一二時五〇分となっていた。栞梨が来るまであと一〇分だ。俺はもはや何をしても落ち着くことはないと悟り、玄関のドアの前で直立不動で待機することにした。まさに地蔵のように。客観的に見て奇行だと思う自分がいたが無視して、カノジョが到着するのを待ち続けた。
しばらくして「ピンポーン」とチャイムが鳴った。すぐさまドアを開けると、世界で一番可愛い女子が立っていた。
「ちょっと早く来すぎちゃったかな?」
栞梨は子犬のような丸い目を細めてはにかむ。五月初旬で少し汗ばむような気温だからだろうか、カノジョの服装はボーダーの七分丈のTシャツに、デニムのミニスカートという出で立ちだ。スカートの丈は膝上一五センチくらいで、かなり短い。栞梨の私服はこれまでに何度も見ているが、いつもよりも肌の露出が多く感じられる。
初夏の陽気のせいなのかもしれないが、もしかすると栞梨もその気なのかもしれないと、俺に淡い期待を抱かせた。心臓の鼓動が早くなった。
「ぜんぜん早すぎるなんてことないよ。遠慮せずにあがってよ」
俺は冷静さを装って、栞梨を家に招き入れるのだった。
「わー、右京くんの部屋だー!」
俺の部屋に入ると、栞梨はもの珍しそうにきょろきょろと部屋を見渡す。とくに代わり映えしない一般的な男子高校生の部屋だと自分では思っているのだが、栞梨は部屋に置いているものを見てはいちいち感嘆の声をあげている。
俺の私物に興味を持ってくれているようで嬉しいのだけど、なんだかくすぐったくなる。だけど俺が初めて栞梨の部屋を訪れたときの気持ちと同じだと感じられて、そのことが俺を心地良くさせた。
ひとしきり俺の部屋を観察して栞梨は満足したようで、ちょこんとクッションに腰をおろした。
「それにしても右京くんの部屋はキレイに片付いてるね」
栞梨は部屋を見渡しながら感心したように言う。何回も掃除した甲斐があったと俺は心の中でガッツポーズをした。
「いや、いつもはもっと散らかってるんだけどな。今日はほら、栞梨が来るからさ」
「私のために片付けてくれたの? もう、そんなに気をつかうことないのに」
とは言うものの、栞梨の顔はほころんでいる。
「でも普段からある程度は掃除してないと、ここまで片付けられないと思うよ。ほら、まーくんの部屋って、一日や二日でキレイにしようとしても無理でしょ」
「あー、たしかに正道の部屋はちょっとな……」
栞梨の家で勉強会をするときに何度か隣にある正道の家にも行ったことがある。親友の部屋は、普段部屋をあまり片付けない俺の目から見ても、ひどい有様だったことを思い出す。脱ぎ散らかした服が山のように重なり、漫画や文庫本が床の至る所に積み上げられていた。足の踏み場がないとは、まさに正道の部屋のような状態を言うのだろう。
勉強会を三人でしようとなったとき、女子の部屋に入るのに抵抗があったから、初めは栞梨の部屋ではなく正道の部屋で行おうと考えた。だけど栞梨に激しく反対されて、後日親友の部屋の惨状を見て俺は納得した。見た目はイケメンなだけに、汚部屋の住人であることが非常に悔やまれる。
栞梨といつもと同じように楽しく会話をしているうちに、俺の部屋にカノジョと二人きりだという状況にもだいぶ慣れてきた。それでも自分の部屋に、いつもはいない栞梨がいるという非日常感に、心臓だけはバクバクと落ち着くことなく激しく鳴っていた。
俺と栞梨はそれから小一時間ほど談笑してから、ゴールデンウィーク明けの試験に向けての勉強を始めた。
朝から落ち着かない気持ちだった俺は、自分の部屋の掃除を徹底的に行うことにした。昨日も掃除をしたから散らかっていないのだが、これからこの部屋に栞梨が来るんだと思うと、何度掃除をしてもしたりない気分だった。
だから俺は掃除機を三回かけて、本棚や机の埃を一つも見逃すことなく取り除き、部屋を照らす照明器具もとことん磨き上げた。
なかでもベッドメイクは気合いをいれて取り組んだ。シーツや枕カバーを洗濯したばかりのものに変え、枕元にはこっそりと避妊具をセットした。栞梨にその気があるか分からないが、念には念をいれて、いざそのときに焦らなくてもいいようにだ。備えあれば憂いなしである。
また自分の部屋以外にも、リビングやキッチン、お風呂、さらにはトイレまで、栞梨が足を踏み入れそうなところは、すべて掃除をした。正直なところ、自分の部屋以外はいつも母さんにまかせっきりで、自分でリビングやキッチンを掃除したのは初めてのことだ。だけど、少しでも俺の家が栞梨にとって居心地のいい空間なってほしいという一心だったから、まったく苦にはならなかった。
そうして日が昇る前の早朝から始めた掃除もすべて終わり、現在の時刻は一二時五〇分となっていた。栞梨が来るまであと一〇分だ。俺はもはや何をしても落ち着くことはないと悟り、玄関のドアの前で直立不動で待機することにした。まさに地蔵のように。客観的に見て奇行だと思う自分がいたが無視して、カノジョが到着するのを待ち続けた。
しばらくして「ピンポーン」とチャイムが鳴った。すぐさまドアを開けると、世界で一番可愛い女子が立っていた。
「ちょっと早く来すぎちゃったかな?」
栞梨は子犬のような丸い目を細めてはにかむ。五月初旬で少し汗ばむような気温だからだろうか、カノジョの服装はボーダーの七分丈のTシャツに、デニムのミニスカートという出で立ちだ。スカートの丈は膝上一五センチくらいで、かなり短い。栞梨の私服はこれまでに何度も見ているが、いつもよりも肌の露出が多く感じられる。
初夏の陽気のせいなのかもしれないが、もしかすると栞梨もその気なのかもしれないと、俺に淡い期待を抱かせた。心臓の鼓動が早くなった。
「ぜんぜん早すぎるなんてことないよ。遠慮せずにあがってよ」
俺は冷静さを装って、栞梨を家に招き入れるのだった。
「わー、右京くんの部屋だー!」
俺の部屋に入ると、栞梨はもの珍しそうにきょろきょろと部屋を見渡す。とくに代わり映えしない一般的な男子高校生の部屋だと自分では思っているのだが、栞梨は部屋に置いているものを見てはいちいち感嘆の声をあげている。
俺の私物に興味を持ってくれているようで嬉しいのだけど、なんだかくすぐったくなる。だけど俺が初めて栞梨の部屋を訪れたときの気持ちと同じだと感じられて、そのことが俺を心地良くさせた。
ひとしきり俺の部屋を観察して栞梨は満足したようで、ちょこんとクッションに腰をおろした。
「それにしても右京くんの部屋はキレイに片付いてるね」
栞梨は部屋を見渡しながら感心したように言う。何回も掃除した甲斐があったと俺は心の中でガッツポーズをした。
「いや、いつもはもっと散らかってるんだけどな。今日はほら、栞梨が来るからさ」
「私のために片付けてくれたの? もう、そんなに気をつかうことないのに」
とは言うものの、栞梨の顔はほころんでいる。
「でも普段からある程度は掃除してないと、ここまで片付けられないと思うよ。ほら、まーくんの部屋って、一日や二日でキレイにしようとしても無理でしょ」
「あー、たしかに正道の部屋はちょっとな……」
栞梨の家で勉強会をするときに何度か隣にある正道の家にも行ったことがある。親友の部屋は、普段部屋をあまり片付けない俺の目から見ても、ひどい有様だったことを思い出す。脱ぎ散らかした服が山のように重なり、漫画や文庫本が床の至る所に積み上げられていた。足の踏み場がないとは、まさに正道の部屋のような状態を言うのだろう。
勉強会を三人でしようとなったとき、女子の部屋に入るのに抵抗があったから、初めは栞梨の部屋ではなく正道の部屋で行おうと考えた。だけど栞梨に激しく反対されて、後日親友の部屋の惨状を見て俺は納得した。見た目はイケメンなだけに、汚部屋の住人であることが非常に悔やまれる。
栞梨といつもと同じように楽しく会話をしているうちに、俺の部屋にカノジョと二人きりだという状況にもだいぶ慣れてきた。それでも自分の部屋に、いつもはいない栞梨がいるという非日常感に、心臓だけはバクバクと落ち着くことなく激しく鳴っていた。
俺と栞梨はそれから小一時間ほど談笑してから、ゴールデンウィーク明けの試験に向けての勉強を始めた。
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