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カノジョと親友②
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「よし、休憩もとったし、勉強を再開するか!」
栞梨と正道に声をかける俺。二人は「えー、もうちょっとだけ休もうよー」とか「もう今日はこのままお開きでいいんじゃね」などの不満を口にした。
だけど俺が「ふーん、俺は別にいいけど。だったらもう教えないからな」と怒った素振りを見せると、二人とも「さ、まーくん勉強しよっか」「そうだな、しぃ」と机に向かうのだった。
超ハイスペックな栞梨と正道だが、二人はともに勉強だけはあまり得意ではないのだ。とはいえ赤点を採るレベルまでではなく、成績の順位でいうと真ん中より下くらい。一方、俺は高校に入学してからの定期試験では常に学年五位以内には入っていた。つまりハイスペックなこの二人に唯一誇れるのが成績だけということである。他はすべて劣っていると言っても過言ではない。あれ、なんか目頭が熱くなってきた……。
そういうわけで、これまでに何度か栞梨の部屋で勉強会を開いてきたわけだ。そして俺の教え方がいいのか――は自分ではわからないのだが、二人とも少しずつ成績の順位は上がりつつあった。そのため春休み明けの試験でも結果を出したい二人は、俺の機嫌を損ねないように、勉強を再開したという次第だ。
ちなみに本音を言えば、もちろん栞梨と二人っきりで勉強をしたい気持ちもある。だけど正道に頼られていることも嬉しいし、恩返しのつもりもあるから、俺と栞梨が付き合い始めてからも勉強会は三人でしているのである。
勉強を再開してから数時間。窓の外は夕闇に包まれ始めている。三人とも徐々に集中力が切れ始めていた。そんなとき、栞梨は母親からお米を炊いておくように言われていたのを思い出したようで、「ちょっとキッチンに行ってくるね」と言い残し、部屋に再び正道と二人っきりになった。
正道はなにやらこのタイミングを待っていたようで、栞梨が部屋から出るとすぐに、俺の近くまで寄ってきて小声で話し始めた。
「で、右京はしぃとどこまでいったんだ?」
ゲスい顔で俺に尋ねてくる正道。
「ど、どこまでって」
急に聞かれたものだから、俺は焦った。
「いいだろ、教えろよー」
親友は肘で俺の頭をぐりぐりと擦ってくる。
「ていうか、幼なじみがどこまでいったとか興味あるものなのか?」
ふとそんな疑問が口に出る。正道も「ふむ」と顎をさすりながら考え込む。
「ほら、俺には幼なじみがいないからわからないけど、幼なじみって妹とか姉とか兄弟みたいなもんじゃねーの。妹とか姉に恋人ができたとして、どこまでいったとか聞くもんなのか」
一人っ子の俺にはそれもわからない。ただ、自分に妹や姉がいると想像してみても、恋人とどこまでいったとか興味が湧きそうには思えなかった。
「うーん、しぃはたしかに妹みたいだし家族の一人だとは思ってるけど、仲のいい友達という意識もあるかな。だから仲のいい女友達にカレシができたら興味もつことだってあると思う。右京もそうだろ?」
「……女友達がいたことないからわからん」
「すまん……」
ジト目で伝えると、正道は気まずそうに俺から目を逸らした。
親友がいきなり栞梨との関係がどこまで進んだのかを聞いてくるから、栞梨が俺と付き合い始めたことで、幼なじみに対する恋愛感情に正道が気づいたのではないかと一瞬考えてしまった。いや別に正道が前に言った栞梨への恋愛感情はないという言葉を疑っているわけではない。ラブコメでよくある展開の誰かのカノジョになってから、自分にとって実は大切な人だったと、後から気づくパターンなのかと思ってしまっただけだ。しかしそれは杞憂のようで、正道の口調や態度から、ただの興味本位の質問であると俺は察し、そして安堵した。
一瞬とはいえ、恩義のある親友を勘ぐってしまったことを反省し、せめて正道の好奇心を満たしてあげようと、俺は栞梨とどこまでいったのかを伝える。
「正道、えーと、その、キ、キス」
「は? なに。俺が恋愛禁止なの知ってんだろ。だから、その、ごめん。右京とはキスできないから」
正道は、心から申し訳なさそうに俺に両手を合わせくる。その姿に俺の頬は引き攣った。
「マジメに謝ってんじゃねーよ! ちょっと傷ついたわ! ていうか誰もお前とキスしたくなんかねーし!」
「わかってるって。さっきの話の続きだろ」
楽しそうに笑いながら、俺の肩をばんばんと叩いてくる。そして正道は心底嬉しそうに言った。
「そっかー、ついこの間、手をつないだってあんなにはしゃいでたのに、もうキスまでいったか」
「お、おう」
改めて確認されると、栞梨とキスした日のことを想い出してしまい顔が熱くなる。栞梨との関係は本当に順調に進んでいて、付き合って一カ月記念を二人でお祝いした日に初めてのキスをした。そのあとも人目のつかない場所で、もう何度目か数えられないほどキスをしていた。思い返すだけで、胸の鼓動が早くなる。
ふと視線を感じ顔をあげると、正道がにやにやしながら俺のことを見ていた。
「あ、あんまり俺のカノジョがキスしてるとこ想像すんなよな」
おおかた俺の親友は、幼なじみである女友達が俺とキスしているところでも想像してにやついているのだろう。そんな正道を半目で睨みつけ抗議する。
「え? そんなの想像しねーし。俺はただ右京がキスしてるとこ想像してただけだけど」
「それもやめろー!」
そんな親にも見せられないような恥ずかしい姿を想像されるのは、親友といえど本気で嫌だと絶叫する。そんな俺の反応がおかしかったのか、正道は楽しそうに腹を抱えて笑っていた。
念のために言っておくが、右京×正道のカップリングは、この世界線には存在しないので期待しないでください。……いったい俺は誰に断りを入れているのだろう。
栞梨と正道に声をかける俺。二人は「えー、もうちょっとだけ休もうよー」とか「もう今日はこのままお開きでいいんじゃね」などの不満を口にした。
だけど俺が「ふーん、俺は別にいいけど。だったらもう教えないからな」と怒った素振りを見せると、二人とも「さ、まーくん勉強しよっか」「そうだな、しぃ」と机に向かうのだった。
超ハイスペックな栞梨と正道だが、二人はともに勉強だけはあまり得意ではないのだ。とはいえ赤点を採るレベルまでではなく、成績の順位でいうと真ん中より下くらい。一方、俺は高校に入学してからの定期試験では常に学年五位以内には入っていた。つまりハイスペックなこの二人に唯一誇れるのが成績だけということである。他はすべて劣っていると言っても過言ではない。あれ、なんか目頭が熱くなってきた……。
そういうわけで、これまでに何度か栞梨の部屋で勉強会を開いてきたわけだ。そして俺の教え方がいいのか――は自分ではわからないのだが、二人とも少しずつ成績の順位は上がりつつあった。そのため春休み明けの試験でも結果を出したい二人は、俺の機嫌を損ねないように、勉強を再開したという次第だ。
ちなみに本音を言えば、もちろん栞梨と二人っきりで勉強をしたい気持ちもある。だけど正道に頼られていることも嬉しいし、恩返しのつもりもあるから、俺と栞梨が付き合い始めてからも勉強会は三人でしているのである。
勉強を再開してから数時間。窓の外は夕闇に包まれ始めている。三人とも徐々に集中力が切れ始めていた。そんなとき、栞梨は母親からお米を炊いておくように言われていたのを思い出したようで、「ちょっとキッチンに行ってくるね」と言い残し、部屋に再び正道と二人っきりになった。
正道はなにやらこのタイミングを待っていたようで、栞梨が部屋から出るとすぐに、俺の近くまで寄ってきて小声で話し始めた。
「で、右京はしぃとどこまでいったんだ?」
ゲスい顔で俺に尋ねてくる正道。
「ど、どこまでって」
急に聞かれたものだから、俺は焦った。
「いいだろ、教えろよー」
親友は肘で俺の頭をぐりぐりと擦ってくる。
「ていうか、幼なじみがどこまでいったとか興味あるものなのか?」
ふとそんな疑問が口に出る。正道も「ふむ」と顎をさすりながら考え込む。
「ほら、俺には幼なじみがいないからわからないけど、幼なじみって妹とか姉とか兄弟みたいなもんじゃねーの。妹とか姉に恋人ができたとして、どこまでいったとか聞くもんなのか」
一人っ子の俺にはそれもわからない。ただ、自分に妹や姉がいると想像してみても、恋人とどこまでいったとか興味が湧きそうには思えなかった。
「うーん、しぃはたしかに妹みたいだし家族の一人だとは思ってるけど、仲のいい友達という意識もあるかな。だから仲のいい女友達にカレシができたら興味もつことだってあると思う。右京もそうだろ?」
「……女友達がいたことないからわからん」
「すまん……」
ジト目で伝えると、正道は気まずそうに俺から目を逸らした。
親友がいきなり栞梨との関係がどこまで進んだのかを聞いてくるから、栞梨が俺と付き合い始めたことで、幼なじみに対する恋愛感情に正道が気づいたのではないかと一瞬考えてしまった。いや別に正道が前に言った栞梨への恋愛感情はないという言葉を疑っているわけではない。ラブコメでよくある展開の誰かのカノジョになってから、自分にとって実は大切な人だったと、後から気づくパターンなのかと思ってしまっただけだ。しかしそれは杞憂のようで、正道の口調や態度から、ただの興味本位の質問であると俺は察し、そして安堵した。
一瞬とはいえ、恩義のある親友を勘ぐってしまったことを反省し、せめて正道の好奇心を満たしてあげようと、俺は栞梨とどこまでいったのかを伝える。
「正道、えーと、その、キ、キス」
「は? なに。俺が恋愛禁止なの知ってんだろ。だから、その、ごめん。右京とはキスできないから」
正道は、心から申し訳なさそうに俺に両手を合わせくる。その姿に俺の頬は引き攣った。
「マジメに謝ってんじゃねーよ! ちょっと傷ついたわ! ていうか誰もお前とキスしたくなんかねーし!」
「わかってるって。さっきの話の続きだろ」
楽しそうに笑いながら、俺の肩をばんばんと叩いてくる。そして正道は心底嬉しそうに言った。
「そっかー、ついこの間、手をつないだってあんなにはしゃいでたのに、もうキスまでいったか」
「お、おう」
改めて確認されると、栞梨とキスした日のことを想い出してしまい顔が熱くなる。栞梨との関係は本当に順調に進んでいて、付き合って一カ月記念を二人でお祝いした日に初めてのキスをした。そのあとも人目のつかない場所で、もう何度目か数えられないほどキスをしていた。思い返すだけで、胸の鼓動が早くなる。
ふと視線を感じ顔をあげると、正道がにやにやしながら俺のことを見ていた。
「あ、あんまり俺のカノジョがキスしてるとこ想像すんなよな」
おおかた俺の親友は、幼なじみである女友達が俺とキスしているところでも想像してにやついているのだろう。そんな正道を半目で睨みつけ抗議する。
「え? そんなの想像しねーし。俺はただ右京がキスしてるとこ想像してただけだけど」
「それもやめろー!」
そんな親にも見せられないような恥ずかしい姿を想像されるのは、親友といえど本気で嫌だと絶叫する。そんな俺の反応がおかしかったのか、正道は楽しそうに腹を抱えて笑っていた。
念のために言っておくが、右京×正道のカップリングは、この世界線には存在しないので期待しないでください。……いったい俺は誰に断りを入れているのだろう。
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