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第1章 出会いと経験
第10話 登録テスト2
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3つの登録テストのうち、1つ目を突破することができたジュンタ。よく体を休めたジュンタ一行は、次のテストの内容を聞くべく、再びギルドへやってきた。
ギルドマスター「早速2つ目の内容を伝える。最初にも言ったように、難易度は上がるぞい?」
ジュンタ「はい!」
ギルドマスター「2つ目のクエストは………」
ギルドマスター「『戦闘』じゃ。」
ハルド「戦闘?誰かと模擬戦でもすんのか?」
ギルドマスター「うむ、そうじゃ。お主は魔法もスキルも使えぬ故、実感がなく、どういったものかイマイチピンと来てない。そうじゃな?」
ジュンタ「はい。」
ギルドマスター「冒険者は魔法とスキルを活用して戦闘をするのが鉄板じゃが、お主の場合そうはいかん。更に、魔物も種類によっては魔法やスキルを使ってくる者もおる。幸いメルン町周辺にはそういった奴はおらんが。」
ジュンタ「なるほど。」
ギルドマスター「とにかく、魔法やスキルを少しでも知るべきじゃ。お主、魔法やスキルを誰かが使っている所を見たことはあるかのう?」
ジュンタ「はい。以前、こちらのハルドと1度だけ模擬戦をしたことがありました。」
ギルドマスター「どうだったのじゃ?」
ジュンタ「勝負には負けました。魔法やスキルという存在は、かなり強力だと感じましたね。今の私では手も足も出なかったです。」
ギルドマスター「ほう。では、ハルドよ。ジュンタの戦いぶりはどうじゃったか?」
ハルド「勝負には勝ったものの、コイツの戦闘技術には驚かされたぜ。そもそも、俺が勝ったのは魔法やスキルのアドバンテージがあったからだ。素の力だけは駆け出しのペーペーにしちゃあ高い。俺よりも上だろう。」
ギルドマスター(なるほど。1つ目のテストの実績と今の話を聞く限り、此奴はある程度の力があるようじゃ。が、どちらにせよ能力がないのは危険じゃ。まだ安心はできん。)
ギルドマスター「勝負での敗北が実戦で起こったら、最悪死ぬからのう。模擬戦を通じて、魔法とスキルについて身をもって実感するのじゃ。」
ジュンタ「わかりました。」
ギルドマスター「それでは改めて試験内容を伝える。」
ジュンタ(ごくり………)
ギルドマスター「『1分間戦い抜くこと』じゃ。」
ギルドマスター「準備ができたら魔法場へ移動せい。あそこは訓練場としても利用されるからそこでテストじゃ。」
ジュンタ「はい。」
ギルドマスター「準備はいいかのう?」
ジュンタ「はい………」
ジュンタ(いや、待てよ………)
ジュンタは何か思いついた様子でギルドマスターに言う。
ジュンタ「ギルドマスター。少し時間をください。」
ギルドマスター「別に構わんぞい。何か必要なものでもあるのか?」
ジュンタ「はい。少しテストの準備をしに戻ります。」
ギルドマスター「そうか。なるべく早く魔法場へ来るんじゃぞ。」
ジュンタ「わかりました。ハルド、ちょっとこっち来て。」
ハルド「お、おう。」
2人はギルドから出て人気のない所で話をする。
ジュンタ「俺ちょっと外出してくるよ。」
ハルド「外出?どこ行くんだよ?」
ジュンタ「そんな遠くには行かないよ。あ、そうだ。ハルド、ちょっとだけお金借りてもいい?」
ハルド「いいけど、何に使うんだよ?」
ジュンタ「もちろん、テストに必要なものだよ。」
ハルド「武器を買うわけでも無さそうだな。じゃあ………200ℳなら貸せるが足りるか?」
ジュンタ「うん、十分だよ。じゃあ、行ってくるね。」
町の周辺を周り、ハルドから受け取ったお金を使ってジュンタは“必要なもの”を準備し、魔法場へと足を運ぶ。そこでは既にギルドマスターとハルドが待機していた。
ギルドマスター「ようやく来たのう。」
ハルド「遅かったじゃねえか。」
ジュンタ「まあ、思ったよりも時間かかってね。」
ハルド(ん?アイツ、あんなの着てたっけ?)
ハルドはジュンタの格好に違和感を覚えた。それもそのはず、何故かジュンタは先程まで着ていなかったジャケット(30ℳ)を羽織っていた。
ハルド(あんなジャケット持ってなかったよな?はっ!まさか、俺の金で買ったのか?でも、何のために?)
ギルドマスター「今回は、彼奴に相手してもらおうかの。ほれ、出てこい。」
奥から誰かがやってきた。自前の戦闘服に身を包んだ男が佇んでいる。
???「どうやら私の出番ですね。マスター。」
ギルドマスター「今訳あって彼をテストしててな。相手してやってくれ。」
ジュンタ「あのう、その方は?」
ギルドマスター「此奴はラルス。ギルドの戦闘教官じゃ。新米冒険者は魔法場でよく鍛えてもらっとるんじゃよ。」
ラルス「初めまして。ラルスと申します。貴方が未登録の新人ですね?話はマスターから聞きました。」
ジュンタ「ジュンタです。」
ラルス「今回は、この少年との模擬戦ですか。」
ギルドマスター「うむ。魔法やスキルを彼に実感してもらいたくてのう。ほれ、模擬戦用の木刀じゃ。」
ジュンタ「短いのはありませんか?」
ギルドマスター「あるぞい。」
ラルスは木刀をジュンタは木製ナイフを受け取った。
ラルス「では、ジュンタ。早速始めましょう。準備はいいですか?」
ジュンタ「はい、よろしくお願いします。」
ジュンタと戦闘教官ラルスは魔法場の訓練フィールドで互いに対峙する形で立った。
それぞれ自分の構えで臨戦態勢をとる。そして互いを観察している。
ジュンタ(解る。この人は強い。伊達に戦闘教官と名乗っている訳ではなさそうだ。俺の体術がどこまで通用するかは分からない。やはり“準備”して正解だったな。)
ラルス(この人、本当に新米か?それにしては隙のない構えだ。何かしらの訓練を受けていたように思える。)
ギルドマスター「ワシが審判を務めよう。今より、模擬戦を開始する。ジュンタはラルスの攻撃を1分間耐えたらクリアじゃ。」
ギルドマスター「それでは………始め!」
ジュンタ「早速行かせてもらいますよ!」
まずはジュンタが素早い踏み込みを見せる。
ラルス(速い!モタモタしてると懐に入られるな。)
ラルス「《フレア・弾丸》!」
《フレア》
→炎の初級魔法。小さな火の玉を発射したり、手に炎を纏ったりすることなどができる。
ラルスは指先から小さな炎の弾を発射した。
ジュンタ「読める。」
しかし、ジュンタはそれを右に避けて、外してみせた。それと同時にラルスがジュンタに距離を詰める。
ラルス「ハアッ!」
ラルスが木刀を袈裟に落としたがジュンタはそれを受け止める。
ラルス(やけに落ち着いている。新人は大概武器を持った相手が襲ってくると萎縮してしまう。なのにこの子は冷静に捌いているではないか。)
そのまま両者は斬り合いに移り、互いの武器を乱れ打つ。己の技量のみに頼る単純な斬り合いでは、ジュンタに分があるようだ。
ジュンタ「フウッ!」
ラルス「チィッ!」
ラルス(私が押されているだと………!この正確無比な動き、この子の戦闘技術は本物だ。だが、それだけに惜しい。)
ハルド「スゲェ!アイツ戦闘教官を押してるぞ!」
ギルドマスター「うむ。じゃが、魔法やスキルの使い方もまた戦闘技術。それで彼が劣勢に陥ったら話にならん。」
ラルス「ホォッ!」
ラルスは正面からの斬り合いは不利だと判断し、一旦距離をとる。
ラルス「実に素晴らしい。君の戦闘技術は見事だ。」
ジュンタ「それはどうも。」
ラルス「だが、もうまともに斬り合うことはないですよ!」
ジュンタ「っ!」
ラルスは即座に炎の弾を発射した。ジュンタはすかさず回避する。
ジュンタ(魔法は唱えなくても使えるのか?速攻性があって厄介だな。)
ラルス「ハアアアアアアッ!」
ラルスは炎の弾を連射した。ジュンタは躱すのに精一杯でなかなか間合いを詰めることができない。そして、再びラルスが突撃する。
ラルス「《フレア・三弾》!」
ラルスは距離を詰めながら炎の弾を3発撃つ。それでもジュンタは紙一重で躱す。そして、ラルスが一足一刀の間合いで斬りかかろうとしたその時………
グラッ………
ラルス「うおっ!?」
なんと、突然ラルスの体勢が崩れた。ジュンタはその隙を見逃さない。
ジュンタ「《ワンインチパンチ》!」
ラルス「グッフォォッ!」
ジュンタの拳がラルスにまともに入った。
ハルド「マジか!」
ギルドマスター「なぁぁぁにぃぃぃ!?」
《ワンインチパンチ》
→截拳道で使用される突き。相手の体と自分の拳に指1本分の隙間があれば、相手を強打することができる。カンフーでは《寸勁》と呼ばれている。
と、思いきや、ジュンタは思いのほか手応えを感じず、ラルスは今の一撃を受けても膝を着くことはなかった。
ジュンタ(なるほど。俺の拳に合わせて腹筋を固め、更に腹を後ろに下げることによって衝撃を緩和したか。あの体勢からよくそれができるな。)
ラルス「やるな………グフッ」
両者はここからが本番だと言わんばかりに再び構え出した。そして互いに踏み込もうとしたその時………
ギルドマスター「そこまで!」
ギルドマスターの合図で模擬戦が終了した。
ラルス「時間切れで君の勝ちだ。」
ジュンタ「ありがとうございました。」
ギルドマスター(彼奴、戦闘技術が高いとは言ってたがまさかこれほどとは………。)
ハルド「す………スゲェよお前!本当に戦闘教官に勝っちまったのか!?」
ジュンタ「いや、たまたまだよ。クリアの条件は1分間戦い抜くことだから。俺も途中魔法で押されたし、ラルスさんはまだスキル使ってなかったしね。それに、ギルドマスターが勝負を止めたから、実戦だったらどっちが死んでたか分からないよ。」
ラルスがジュンタの方へ向かう。
ラルス「凄まじいパンチだったよ。まさか、攻撃が当たってしまうとは思わなかったな。それにあの石、搦手か。全く気づかなかった。凄いよ。」
搦手
→相手にとっての意識外の一手のこと。罠を仕掛けたり、伏兵を忍ばせたりなど場面によって様々である。今回は、ラルスの足元に石が置かれたことが搦手となった。
ジュンタ「恐縮です。」
ハルド「あの時の準備ってのはこれが狙いだったんだな。」
ジュンタ「まあね。」
ハルド「じゃあ、そのジャケットは?」
ジュンタ「石を仕込むためだよ。それに、石は1個だけじゃないんだ。ほら。」
ジュンタは床に隠し持ってた石を並べた。
ハルド「うわっ、こんなにあるのかよ!」
ジュンタ「暗器を携帯すれば何かと役に立つからね。」
暗器
→懐に隠し持つ小型の武器や罠のこと。搦手としてよく使用される。
ハルド「用意周到だな。」
ラルス「なるほど。準備に抜かりがないという訳だね。」
ジュンタ「はい。」
ギルドマスター「ウォッホン。これにて、2つ目のテストはクリアじゃ!」
ハルド「よし!」
ジュンタ「ありがとうございます!」
ラルス「ジュンタの戦闘勘は本当に素晴らしいですよ。この調子なら冒険者になれる日もそう遠くはない。今日の所はゆっくり休んでください。」
ジュンタ「はい!最後まで頑張ります!」
ハルド「よーし!また次回に向けて英気を養おうぜ!」
ジュンタ「うん。」
こうして、戦闘教官すらも驚かせるセンスを見せつけたジュンタは、最後のテストに向けて体を休めるのであった。
To be continued
ギルドマスター「早速2つ目の内容を伝える。最初にも言ったように、難易度は上がるぞい?」
ジュンタ「はい!」
ギルドマスター「2つ目のクエストは………」
ギルドマスター「『戦闘』じゃ。」
ハルド「戦闘?誰かと模擬戦でもすんのか?」
ギルドマスター「うむ、そうじゃ。お主は魔法もスキルも使えぬ故、実感がなく、どういったものかイマイチピンと来てない。そうじゃな?」
ジュンタ「はい。」
ギルドマスター「冒険者は魔法とスキルを活用して戦闘をするのが鉄板じゃが、お主の場合そうはいかん。更に、魔物も種類によっては魔法やスキルを使ってくる者もおる。幸いメルン町周辺にはそういった奴はおらんが。」
ジュンタ「なるほど。」
ギルドマスター「とにかく、魔法やスキルを少しでも知るべきじゃ。お主、魔法やスキルを誰かが使っている所を見たことはあるかのう?」
ジュンタ「はい。以前、こちらのハルドと1度だけ模擬戦をしたことがありました。」
ギルドマスター「どうだったのじゃ?」
ジュンタ「勝負には負けました。魔法やスキルという存在は、かなり強力だと感じましたね。今の私では手も足も出なかったです。」
ギルドマスター「ほう。では、ハルドよ。ジュンタの戦いぶりはどうじゃったか?」
ハルド「勝負には勝ったものの、コイツの戦闘技術には驚かされたぜ。そもそも、俺が勝ったのは魔法やスキルのアドバンテージがあったからだ。素の力だけは駆け出しのペーペーにしちゃあ高い。俺よりも上だろう。」
ギルドマスター(なるほど。1つ目のテストの実績と今の話を聞く限り、此奴はある程度の力があるようじゃ。が、どちらにせよ能力がないのは危険じゃ。まだ安心はできん。)
ギルドマスター「勝負での敗北が実戦で起こったら、最悪死ぬからのう。模擬戦を通じて、魔法とスキルについて身をもって実感するのじゃ。」
ジュンタ「わかりました。」
ギルドマスター「それでは改めて試験内容を伝える。」
ジュンタ(ごくり………)
ギルドマスター「『1分間戦い抜くこと』じゃ。」
ギルドマスター「準備ができたら魔法場へ移動せい。あそこは訓練場としても利用されるからそこでテストじゃ。」
ジュンタ「はい。」
ギルドマスター「準備はいいかのう?」
ジュンタ「はい………」
ジュンタ(いや、待てよ………)
ジュンタは何か思いついた様子でギルドマスターに言う。
ジュンタ「ギルドマスター。少し時間をください。」
ギルドマスター「別に構わんぞい。何か必要なものでもあるのか?」
ジュンタ「はい。少しテストの準備をしに戻ります。」
ギルドマスター「そうか。なるべく早く魔法場へ来るんじゃぞ。」
ジュンタ「わかりました。ハルド、ちょっとこっち来て。」
ハルド「お、おう。」
2人はギルドから出て人気のない所で話をする。
ジュンタ「俺ちょっと外出してくるよ。」
ハルド「外出?どこ行くんだよ?」
ジュンタ「そんな遠くには行かないよ。あ、そうだ。ハルド、ちょっとだけお金借りてもいい?」
ハルド「いいけど、何に使うんだよ?」
ジュンタ「もちろん、テストに必要なものだよ。」
ハルド「武器を買うわけでも無さそうだな。じゃあ………200ℳなら貸せるが足りるか?」
ジュンタ「うん、十分だよ。じゃあ、行ってくるね。」
町の周辺を周り、ハルドから受け取ったお金を使ってジュンタは“必要なもの”を準備し、魔法場へと足を運ぶ。そこでは既にギルドマスターとハルドが待機していた。
ギルドマスター「ようやく来たのう。」
ハルド「遅かったじゃねえか。」
ジュンタ「まあ、思ったよりも時間かかってね。」
ハルド(ん?アイツ、あんなの着てたっけ?)
ハルドはジュンタの格好に違和感を覚えた。それもそのはず、何故かジュンタは先程まで着ていなかったジャケット(30ℳ)を羽織っていた。
ハルド(あんなジャケット持ってなかったよな?はっ!まさか、俺の金で買ったのか?でも、何のために?)
ギルドマスター「今回は、彼奴に相手してもらおうかの。ほれ、出てこい。」
奥から誰かがやってきた。自前の戦闘服に身を包んだ男が佇んでいる。
???「どうやら私の出番ですね。マスター。」
ギルドマスター「今訳あって彼をテストしててな。相手してやってくれ。」
ジュンタ「あのう、その方は?」
ギルドマスター「此奴はラルス。ギルドの戦闘教官じゃ。新米冒険者は魔法場でよく鍛えてもらっとるんじゃよ。」
ラルス「初めまして。ラルスと申します。貴方が未登録の新人ですね?話はマスターから聞きました。」
ジュンタ「ジュンタです。」
ラルス「今回は、この少年との模擬戦ですか。」
ギルドマスター「うむ。魔法やスキルを彼に実感してもらいたくてのう。ほれ、模擬戦用の木刀じゃ。」
ジュンタ「短いのはありませんか?」
ギルドマスター「あるぞい。」
ラルスは木刀をジュンタは木製ナイフを受け取った。
ラルス「では、ジュンタ。早速始めましょう。準備はいいですか?」
ジュンタ「はい、よろしくお願いします。」
ジュンタと戦闘教官ラルスは魔法場の訓練フィールドで互いに対峙する形で立った。
それぞれ自分の構えで臨戦態勢をとる。そして互いを観察している。
ジュンタ(解る。この人は強い。伊達に戦闘教官と名乗っている訳ではなさそうだ。俺の体術がどこまで通用するかは分からない。やはり“準備”して正解だったな。)
ラルス(この人、本当に新米か?それにしては隙のない構えだ。何かしらの訓練を受けていたように思える。)
ギルドマスター「ワシが審判を務めよう。今より、模擬戦を開始する。ジュンタはラルスの攻撃を1分間耐えたらクリアじゃ。」
ギルドマスター「それでは………始め!」
ジュンタ「早速行かせてもらいますよ!」
まずはジュンタが素早い踏み込みを見せる。
ラルス(速い!モタモタしてると懐に入られるな。)
ラルス「《フレア・弾丸》!」
《フレア》
→炎の初級魔法。小さな火の玉を発射したり、手に炎を纏ったりすることなどができる。
ラルスは指先から小さな炎の弾を発射した。
ジュンタ「読める。」
しかし、ジュンタはそれを右に避けて、外してみせた。それと同時にラルスがジュンタに距離を詰める。
ラルス「ハアッ!」
ラルスが木刀を袈裟に落としたがジュンタはそれを受け止める。
ラルス(やけに落ち着いている。新人は大概武器を持った相手が襲ってくると萎縮してしまう。なのにこの子は冷静に捌いているではないか。)
そのまま両者は斬り合いに移り、互いの武器を乱れ打つ。己の技量のみに頼る単純な斬り合いでは、ジュンタに分があるようだ。
ジュンタ「フウッ!」
ラルス「チィッ!」
ラルス(私が押されているだと………!この正確無比な動き、この子の戦闘技術は本物だ。だが、それだけに惜しい。)
ハルド「スゲェ!アイツ戦闘教官を押してるぞ!」
ギルドマスター「うむ。じゃが、魔法やスキルの使い方もまた戦闘技術。それで彼が劣勢に陥ったら話にならん。」
ラルス「ホォッ!」
ラルスは正面からの斬り合いは不利だと判断し、一旦距離をとる。
ラルス「実に素晴らしい。君の戦闘技術は見事だ。」
ジュンタ「それはどうも。」
ラルス「だが、もうまともに斬り合うことはないですよ!」
ジュンタ「っ!」
ラルスは即座に炎の弾を発射した。ジュンタはすかさず回避する。
ジュンタ(魔法は唱えなくても使えるのか?速攻性があって厄介だな。)
ラルス「ハアアアアアアッ!」
ラルスは炎の弾を連射した。ジュンタは躱すのに精一杯でなかなか間合いを詰めることができない。そして、再びラルスが突撃する。
ラルス「《フレア・三弾》!」
ラルスは距離を詰めながら炎の弾を3発撃つ。それでもジュンタは紙一重で躱す。そして、ラルスが一足一刀の間合いで斬りかかろうとしたその時………
グラッ………
ラルス「うおっ!?」
なんと、突然ラルスの体勢が崩れた。ジュンタはその隙を見逃さない。
ジュンタ「《ワンインチパンチ》!」
ラルス「グッフォォッ!」
ジュンタの拳がラルスにまともに入った。
ハルド「マジか!」
ギルドマスター「なぁぁぁにぃぃぃ!?」
《ワンインチパンチ》
→截拳道で使用される突き。相手の体と自分の拳に指1本分の隙間があれば、相手を強打することができる。カンフーでは《寸勁》と呼ばれている。
と、思いきや、ジュンタは思いのほか手応えを感じず、ラルスは今の一撃を受けても膝を着くことはなかった。
ジュンタ(なるほど。俺の拳に合わせて腹筋を固め、更に腹を後ろに下げることによって衝撃を緩和したか。あの体勢からよくそれができるな。)
ラルス「やるな………グフッ」
両者はここからが本番だと言わんばかりに再び構え出した。そして互いに踏み込もうとしたその時………
ギルドマスター「そこまで!」
ギルドマスターの合図で模擬戦が終了した。
ラルス「時間切れで君の勝ちだ。」
ジュンタ「ありがとうございました。」
ギルドマスター(彼奴、戦闘技術が高いとは言ってたがまさかこれほどとは………。)
ハルド「す………スゲェよお前!本当に戦闘教官に勝っちまったのか!?」
ジュンタ「いや、たまたまだよ。クリアの条件は1分間戦い抜くことだから。俺も途中魔法で押されたし、ラルスさんはまだスキル使ってなかったしね。それに、ギルドマスターが勝負を止めたから、実戦だったらどっちが死んでたか分からないよ。」
ラルスがジュンタの方へ向かう。
ラルス「凄まじいパンチだったよ。まさか、攻撃が当たってしまうとは思わなかったな。それにあの石、搦手か。全く気づかなかった。凄いよ。」
搦手
→相手にとっての意識外の一手のこと。罠を仕掛けたり、伏兵を忍ばせたりなど場面によって様々である。今回は、ラルスの足元に石が置かれたことが搦手となった。
ジュンタ「恐縮です。」
ハルド「あの時の準備ってのはこれが狙いだったんだな。」
ジュンタ「まあね。」
ハルド「じゃあ、そのジャケットは?」
ジュンタ「石を仕込むためだよ。それに、石は1個だけじゃないんだ。ほら。」
ジュンタは床に隠し持ってた石を並べた。
ハルド「うわっ、こんなにあるのかよ!」
ジュンタ「暗器を携帯すれば何かと役に立つからね。」
暗器
→懐に隠し持つ小型の武器や罠のこと。搦手としてよく使用される。
ハルド「用意周到だな。」
ラルス「なるほど。準備に抜かりがないという訳だね。」
ジュンタ「はい。」
ギルドマスター「ウォッホン。これにて、2つ目のテストはクリアじゃ!」
ハルド「よし!」
ジュンタ「ありがとうございます!」
ラルス「ジュンタの戦闘勘は本当に素晴らしいですよ。この調子なら冒険者になれる日もそう遠くはない。今日の所はゆっくり休んでください。」
ジュンタ「はい!最後まで頑張ります!」
ハルド「よーし!また次回に向けて英気を養おうぜ!」
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こうして、戦闘教官すらも驚かせるセンスを見せつけたジュンタは、最後のテストに向けて体を休めるのであった。
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