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群れ
しおりを挟むとある人間と雪女が悪態をつき合い、それでいてなんだかんだ夏祭りを楽しんでいる頃、街を一望出来る丘の上に一人の男と狼の群れがいた。男の両手には先ほど買ってきたばかりの、フランクフルトや唐揚げ焼き鳥など大量の肉類が。
「おーう。お前ら喜べ、土産だ」
ドサドサと狼たちの前で肉のタワーが建設されていく。それでも狼たちは我先にと食らいついたりはせず、じっと男を見上げている。餌を目の前にした忠犬が、飼い主の合図を待つように。しばらくすると、丘の奥にある林から一匹の狼がぬぅ、と姿を現した。群れの中でも一際身体が大きくそのあちこちに大小様々な傷がある個体だ。
「偵察ご苦労さん、……いや、報告は後で聞く。先にメシにしよう、こいつらリーダーより先にメシは食えねぇってずっと待ってたんだぜ」
わぅ、と傷だらけのリーダーがどこか誇らしげに唸る。男はそれで理解したのか
「ああ、よくまとまった良い群れだ。お前もいい部下を持ったなぁ、こいつらの事、大事にしろよ」
群れのリーダーは当然だと言わんばかりに短くわん、と答えた。そこで群れの中でも若い数匹がくぅーん、と寂しげに鼻を鳴らした。
「わりーわりー、そうだな先にメシにしよう。俺も腹ぁ減ったしな」
まず男が手にしたアメリカンドッグにかぶりつく、それに連鎖するように傷だらけのリーダーが、そして群れの狼たちが順に食事を口にする。ちなみに串や爪楊枝などは予め男が取り除いておいた。しばらくの間、獣たちが夕食に夢中になる。だがそれは無秩序に食い散らかすようなものではなく、よく躾された犬のように大人しい食事だった。
「ふぅー、ごっそさん。腹も膨れたし話を聞かせてもらおうか」
群れのリーダーが短く吠える。それで全て伝わったらしい。
「やっぱりいたかこの街に、…………吸血鬼が」
男の顔が獰猛な笑みで染まる。
「ジジイの言う使命とやらは、まぁぶっちゃけどうでもいいんだが。ソレを抜きにしても吸血鬼とは一度闘ってみたいとは思ってた所だ」
群れの一匹が抗議するように小さく唸る。
「わぁーかってるって、一族の仇である吸血鬼を一人残らず葬り去れーってやつだろ。ちゃんと覚えてるって」
地面に直接あぐらかいて座り込む男はため息を吐いた。
「だってよー、俺達の一族が吸血鬼と戦争してたのって百年も前の話だろー。自分が生まれる前の争いの仕返しとか付き合いきれねぇって」
群れのリーダーが呆れたように首を振る。
「でもまあ、さっきも言ったけど吸血鬼ってのがどんなものか、個人的に闘ってみたいってのもあるんだけどな」
吸血鬼と闘う。その存在を知った上でそんな台詞が出て来るあたり、彼も吸血鬼と同等か、それに準ずる力の持ち主であることが伺える。男がリーダー狼の大きな身体をぐわしと撫でる。
「ま、折角お前が奴らのアジトまで見つけてきてくれたんだ、あくまで俺個人の興味でかち合ってみるとするか。……丁度、明日は満月だしな」
ニヤリ、と犬歯をむき出しにして男が笑う。
夜が、深くなる。
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