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たった一つの冴えたやり方
しおりを挟む「仕事が――――無い?」
「はい」
「…………マジで?」
「マジです」
璃亜の話はシンプルでわかりやすかった。
仕事の依頼が無い。
ただそれだけ。
それだけなのだが。
「いやいやいや! 仕事が無いってそれ割りと深刻な問題じゃねーか!?」
「……そう……なんです。近頃、妖怪絡みの依頼がめっきり減ってしまって……」
「そーいえば、最近あんたずっと事務所にいたわね」
「言われてみれば確かに最近仕事をした記憶が無い!?」
ここ数日の記憶を思い出してみると、事務所でゲームをしていた事しか思い出せない相一。
「とにっかくッ!! 仕事が無いなら探さないといけないだろ!」
「あの……ええと……基本的に依頼人が来る事を待つしか無いのに……どうするんですか?」
千里の言葉に反応したのは、相一でも、璃亜でも、氷柱でも無かった。
「話はきかせてもらったぁあああああ!!」
ドバーン!! と言う効果音と共に事務所に飛び込んで来た人物は……。
「詩織ちゃん、何してんの? つーか学校は?」
今日は平日、普通の学生なら午前授業の真っ最中のはずだ。そして、この唐突に登場した少女は、多少突拍子の無い行動することはあるが基本的には優等生なので学校をサボってまでここに来るからには相応の理由があるのだろう、と相一は考えていたのだが――。
「いやぁー、実は今日創立記念日だったみたいで、学校着いたら……校門、閉まってました」
訂正、大した理由なんて無かった。
「そんなことより、依頼人が来なくて困っているみたいですね!」
「そうだよ、今みんなで作戦会議中、だから詩織ちゃんに構ってる暇は無いの」
しっしっ、と手を払う仕草をする相一。それに対して、詩織は何故かニンマリと笑みを浮かべながら。
「おやぁ、いいんですか―? せっかく私がお客を増やす良い方法教えてあげようと思ったんですけどねー」
「依頼人を増やす、ですか?」
詩織の言葉に璃亜が反応を見せる。
「そうです、そのためにはこの事務所に足りないものを何とかしなければいけません!!」
「この事務所に……足りないもの……ですか?」
「足りてるものの方が少ないんじゃないの?」
と、千里と氷柱。
「この事務所に足りないもの、それは! 知名度です!!」
ガカァッ!! と、背景に雷を背負いながら詩織が熱弁する。
(知名度、ねぇ)
確かに彼女の言うとおり天柳探偵事務所は有名な場所ではない。通行人の少ない通りでその上背の高いビルに挟まれているという立地もその原因の一つかも知れない。
「で、詩織せんせーよ。そんだけ自信満々に言うってことは、解決策でも考えてあるのか?」
相一の問に、待ってましたと言わんばかりに瞳を輝かせるサイドテール系女子高生。
「ふっふー、良くぞ聞いてくれました! 解決策、あります! もちろんありますとも! それは――――これです!!」
バァン!! と、夫に離婚届けを突きつける妻のような勢いで相一のデスクに一枚の紙がたたきつけられた。そこには――。
「夏祭りの案内ですか」
その紙に書かれていたのは来週末、この街で行われる夏祭りに関する事だった。
「夏祭りはいいけど、この事務所の知名度と何の関係があるのよ?」
氷柱が疑問を口にする。
「それはホラここ見てよここ」
詩織が紙の下部分を指す。
「なになに、人気屋台コンテスト参加について?」
そこで説明されていたのは、二日間に渡る夏祭りの中で一番人気だった屋台を決めるコンテストの事だった。そこで上位に入賞できればローカル番組で取り上げられたり地方新聞に載ることもあるらしく、毎年数多くの団体が競い合っているのだとか。ちなみに副賞も幾つかあるらしく、最新型タブレットやスイーツビュッフェの1ヶ月無料券などバリエーション豊富な品揃えである。
「なるほど、このコンテストで優勝して我が事務所の知名度向上を狙う、ということですね」
「さすが秘書さん話が早い!」
「へー、なんか面白そうじゃない。あたしらも参加しましょうよ、めざすはスイーツ食べ放題!!」
「楽しそう……、です。がんばりましょう……最新のタブレットのために」
「どうせ仕事も予定も無いしな、天柳探偵事務所の全国進出目指していっちょやってみるか!」
全員がそれぞれの思いを胸に参加の意志を固める。周りが早くもお祭りテンションに染まっていく中璃亜は一人考える。
(あれ? 所長はああ言ってますが、ローカル局の放送や地方新聞で全国区進出はできないような……。まあ、皆さん盛り上がっていますし水を差す必要はありませんよね)
「よし、そうと決まれば作戦会議だ。参加するからには目指すは一位だ!!」
おー、という掛け声が事務所に響く。
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