吸血秘書と探偵事務所

かみこっぷ

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事務所の危機(財政的な意味で)

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「覚悟しなさい吸血鬼! 今日という今日は完膚無きまでに叩きのめしてやるんだからっ!!」

雪女の手のひらが青白く光り、直径一メートル程の氷塊が正面の吸血鬼目掛けて撃ちだされる。

「開幕飛び道具は牽制としては有効ですが、それ故に読みやすい。同じことの繰り返しで私に勝てるとは思わない事です」

ハードル飛びの様に氷塊をジャンプで乗り越えた吸血鬼はその勢いのまま雪女の懐へ潜り込む。

「そして、飛び道具を得意とする者は、得てして接近戦に弱いと相場は決まっています!」

ドガガガガガッ! と、豪雨のように撃ち込まれる吸血鬼の拳に防戦一方となる雪女。

「くっ! こ、の――――いい加減にしろォ!!」

吸血鬼の一瞬の隙を突き前方の地面から突き上げる様な形で鋭い氷槍が現れる。――――が、吸血鬼は身を捻り紙一重の所でこれを回避する。

「そんな!? 今のタイミングで避けられるなんて!?」

大きな攻撃には大きな隙が生まれる。そしてその隙を見逃す程、吸血鬼というキャラクターは甘くない。

「これで――――終わりです!!」

止めの一撃が、放たれた。



「くっそー、また負けたぁ! 璃亜もう一回、もう一回よ!!」

手にしたゲーム機をぶんぶん振りながら再戦を所望するのは雪女、白山氷柱である。来客用のソファに寝転び足をバタつかせているせいで、短いスカートから伸びる、透き通るような白い足が惜しげも無く晒されている。

「ふふ、いいでしょう。何度でも相手になりますよ」

勝者の余裕を浮かべながら、チャレンジャーの挑戦を受けるのは吸血鬼の兎楽璃亜。天柳探偵事務所の秘書である彼女は、白山の対面に位置するソファに腰掛け、できるだけわざとらしく、優雅な素振りで脚を組む。

「……お前ら、朝っぱらから元気だな」

ふわぁあ、と欠伸を連発しながら寝室から顔を出したのはこの事務所の所長を務める人間、天柳相一だ。

現在の時間は午前九時。普通の学生サラリーマンなら各々学校や職場にいるはずの時間だが、探偵という職業の性質上こんな時間まで惰眠を貪る事が可能なのだ。

「おはようございます所長、今コーヒー淹れますね」

「あっ、あたしもー」

「はいはい、千里さんはミルクティーで良かったですか?」

「あ、……はい。……お願いします」

パソコンのモニターに隠れてしまっているのは千里眼を持つ、三千千里。その体格には不釣り合いなゴツイヘッドホンがトレードマークの小柄な少女だ璃亜がそれぞれの飲み物を用意しに、キッチンに向かう。

「よしあんた、ちょっと特訓に付き合いなさい」

そういう氷柱の両手には彼女と、そして相一自身の携帯ゲーム機が握られている。

「いいけど自分より弱い相手とやっても特訓になんのか?」

「AI相手にいくらトレーニングしても上達しない、ってのがあたしの持論よ」

「さいですか」

ちなみに今事務所のメンバーの間で流行っているこのゲームは『妖怪大戦争NEXT』という妖怪を題材にした対戦格闘ゲームで、前作『妖怪大戦争Ⅱ』より使用可能な妖怪が20種類以上増えており、マニアも大満足の出来となっている。ちなみに事務所内でのランキングは兎楽璃亜>三千千里>白山氷柱>天柳相一と、なっている。


「……ちくせう」
結局、璃亜が皆の飲み物を運んでくるまで彼が勝利することは一度も無かった。

「よーし! 肩慣らしも済んだし早速リベンジよ! 今度こそ覚悟しなさい吸血鬼!!」

「いいですよ、この短い期間で何が変わったか確かめてあげましょう」

「ってか、氷柱はともかく珍しいよな、璃亜まで仕事放ってゲームだなんて」

天柳の言葉に璃亜が短くため息をつく。

「それがですね…………」

彼女の口から衝撃的な言葉が飛び出てくるまであと3秒。
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