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終わりが始まり
しおりを挟む「ストオオオオオオオオオオオオオオオオップ!!!!」
小さな事務所の一室に悲痛な絶叫が響き渡る。こいつら! 人がちょっと留守してる間に何思い出話に花咲かせてやがる!?
「ちょっと! 今良いところなんだからアンタは黙ってて!!」
来客用のソファに寝転んだまま、青白ツインテール娘がきゃんきゃん吠える。
「そう……です。続き……気になります!」
こちらは行儀よくソファに腰掛けた黒髪おかっぱちびっ子少女の言だ。
「そうですよ! 二人の言う通りです! 探偵さんはどっか行ってて下さい!」
さっきまで出かけてたんだよ! おかっぱ少女の隣に腰掛ける近所の高校の制服でみを包むサイドテール系女子高生の言葉に内心反論する。というかそれ以前にここは俺の事務所だっての!!
「申し訳ありません所長、ギャラリーが続きを所望している様なので……」
そして三人に囲まれ、子供にお休み前の昔話をせがまれる母親のようになっているのは、スーツにポニーテールが良く似合う、事務所自慢の美人秘書だ。
「様なので……、じゃねーよ! このクソ暑い中汗だくになりながらお前らのためにアイスを買ってきてやった事に対しての仕打ちが嬉し恥ずかし昔話暴露大会とかあんまりだろおおおおおおおお!?」
「あーはいはい。暑い中のお使いごくろーさま、すぐに冷やしてあげよーか? あ、あたしガリガリ君ね」
びゅう、と俺の顔面に凍てつくほどの冷風が吹きつけられる。一瞬でまつげがまつ毛がパリッと凍る程の冷気を操るこの娘は、まあ、大体想像つくだろうが雪女・白山氷柱だ。中学生くらいの見た目に青白いツインテールが特徴の小生意気なやつだ。
去年の今頃、事務所の前で行き倒れていたのを見つけたのが初めての出会いだった。なんでも故郷がドのつくほど田舎らしく、都会の生活を夢見て上京してきたらしいが、時期が悪かった。そりゃあ、暑さに弱い雪女がいきなり真夏の都会にやって来たら行き倒れもするだろう。それからまあ色々あって殺されかけたりもしたけれど、今では立派な事務所の一員として活躍してくれている、主にエアコンとして。
「ごめん……なさい、所長さん。あと、わたしは……あ、はい、……ピノです。……ありがとうございます」
謝りながらもちゃっかり自分のオーダーを通してくる辺りこの子もなかなかどうしてしたたかだ。小学生くらいの体格にアンバラスなゴツイヘッドホンが特徴のおかっぱ少女は遠く離れたものを見ることが出来る、千里眼と呼ばれる妖怪で名前は三千千里。
いつもおどおどしており大人しい子だが、彼女のおかけでうちの事務所へ来るモノ探しの依頼は成功率一〇〇パーセントを誇るため、隠れたエースでもある。
彼女以前安っぽい犯罪組織に囚われており、その能力を犯罪に利用されていたが、俺と璃亜がその組織を壊滅させた際に行き場ないということで事務所で面倒を見る事になったというわけだ。ちなみ彼女、並外れた情報処理スキルを持っており、事務所のホームページ作成や事務仕事でも一役買っている。
「あ、探偵さん私スイカバーで! さあさあ秘書さん、どうぞ続きを!!」
この暴走気味の女子高生は中原詩織、今の話に出てきた事件の依頼主である。事件解決後、うちの事務所に入り浸るようになった暇人で、チャームポイントのサイドテールは無くなった友人がよくしていた髪型なのだとか。
「所長、アイスコーヒーでよろしかったですか?」
黒髪ポニーテールの美人秘書が、露が浮くほどキンキンに冷えたグラスをさし出してくる。
「……璃亜。……人がいない間に何の話してんの?」
「それが……。皆さんが所長と私の関係がただの所長と秘書のそれじゃあ無いんではないかと盛り上がり出しまして……」
それで……なんで更に爆弾投下する様な真似を?
年頃の女の子達の前でその手の話をすることは、飢えた獣の前に霜降りの肉をぶら下げる事と同義なのである!!
「それでそれで!? 相一はなんて答えたのよ!?」
「……所長さんの……お返事は?」
「秘書さん! もったいぶってないで続きを! つ・づ・き・を!!」
こいつら――こういう時だけ息合いすぎだし!?
「だぁああああああああ!! もうこの話は終わり終わりぃ!」
「すいません皆さん、所長がこう言っているので続きはまたの機会ということで……」
またの機会もねーよ!!
飢えた獣たちから俺の精神的なヒットポイントを守るためどう行動すべきか考えていると、事務所の扉が叩かれた。
「どうか……どうか助けてください!!」
「もちろんだ。――ようこそ天柳探偵事務所へ」
幽霊や妖怪などは確かに存在する。
だがその存在気付く人間は多くはいない。
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一方で、人間社会に馴染めずトラブルを起こす妖怪や、その超常の力を利用して己の欲望を叶えようとする人間も急増しているのもまた事実。
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