吸血秘書と探偵事務所

かみこっぷ

文字の大きさ
上 下
10 / 72

終わりが始まり

しおりを挟む

「ストオオオオオオオオオオオオオオオオップ!!!!」

小さな事務所の一室に悲痛な絶叫が響き渡る。こいつら! 人がちょっと留守してる間に何思い出話に花咲かせてやがる!?
「ちょっと! 今良いところなんだからアンタは黙ってて!!」

来客用のソファに寝転んだまま、青白ツインテール娘がきゃんきゃん吠える。

「そう……です。続き……気になります!」

こちらは行儀よくソファに腰掛けた黒髪おかっぱちびっ子少女の言だ。

「そうですよ! 二人の言う通りです! 探偵さんはどっか行ってて下さい!」

さっきまで出かけてたんだよ! おかっぱ少女の隣に腰掛ける近所の高校の制服でみを包むサイドテール系女子高生の言葉に内心反論する。というかそれ以前にここは俺の事務所だっての!!

「申し訳ありません所長、ギャラリーが続きを所望している様なので……」

そして三人に囲まれ、子供にお休み前の昔話をせがまれる母親のようになっているのは、スーツにポニーテールが良く似合う、事務所自慢の美人秘書だ。

「様なので……、じゃねーよ! このクソ暑い中汗だくになりながらお前らのためにアイスを買ってきてやった事に対しての仕打ちが嬉し恥ずかし昔話暴露大会とかあんまりだろおおおおおおおお!?」

「あーはいはい。暑い中のお使いごくろーさま、すぐに冷やしてあげよーか? あ、あたしガリガリ君ね」

びゅう、と俺の顔面に凍てつくほどの冷風が吹きつけられる。一瞬でまつげがまつ毛がパリッと凍る程の冷気を操るこの娘は、まあ、大体想像つくだろうが雪女・白山氷柱だ。中学生くらいの見た目に青白いツインテールが特徴の小生意気なやつだ。

去年の今頃、事務所の前で行き倒れていたのを見つけたのが初めての出会いだった。なんでも故郷がドのつくほど田舎らしく、都会の生活を夢見て上京してきたらしいが、時期が悪かった。そりゃあ、暑さに弱い雪女がいきなり真夏の都会にやって来たら行き倒れもするだろう。それからまあ色々あって殺されかけたりもしたけれど、今では立派な事務所の一員として活躍してくれている、主にエアコンとして。

「ごめん……なさい、所長さん。あと、わたしは……あ、はい、……ピノです。……ありがとうございます」

謝りながらもちゃっかり自分のオーダーを通してくる辺りこの子もなかなかどうしてしたたかだ。小学生くらいの体格にアンバラスなゴツイヘッドホンが特徴のおかっぱ少女は遠く離れたものを見ることが出来る、千里眼と呼ばれる妖怪で名前は三千千里。
いつもおどおどしており大人しい子だが、彼女のおかけでうちの事務所へ来るモノ探しの依頼は成功率一〇〇パーセントを誇るため、隠れたエースでもある。

彼女以前安っぽい犯罪組織に囚われており、その能力を犯罪に利用されていたが、俺と璃亜がその組織を壊滅させた際に行き場ないということで事務所で面倒を見る事になったというわけだ。ちなみ彼女、並外れた情報処理スキルを持っており、事務所のホームページ作成や事務仕事でも一役買っている。

「あ、探偵さん私スイカバーで! さあさあ秘書さん、どうぞ続きを!!」

この暴走気味の女子高生は中原詩織、今の話に出てきた事件の依頼主である。事件解決後、うちの事務所に入り浸るようになった暇人で、チャームポイントのサイドテールは無くなった友人がよくしていた髪型なのだとか。

「所長、アイスコーヒーでよろしかったですか?」

黒髪ポニーテールの美人秘書が、露が浮くほどキンキンに冷えたグラスをさし出してくる。

「……璃亜。……人がいない間に何の話してんの?」

「それが……。皆さんが所長と私の関係がただの所長と秘書のそれじゃあ無いんではないかと盛り上がり出しまして……」

それで……なんで更に爆弾投下する様な真似を?

年頃の女の子達の前でその手の話をすることは、飢えた獣の前に霜降りの肉をぶら下げる事と同義なのである!!

「それでそれで!? 相一はなんて答えたのよ!?」

「……所長さんの……お返事は?」

「秘書さん! もったいぶってないで続きを! つ・づ・き・を!!」

こいつら――こういう時だけ息合いすぎだし!?

「だぁああああああああ!! もうこの話は終わり終わりぃ!」

「すいません皆さん、所長がこう言っているので続きはまたの機会ということで……」

またの機会もねーよ!!

飢えた獣たちから俺の精神的なヒットポイントを守るためどう行動すべきか考えていると、事務所の扉が叩かれた。

「どうか……どうか助けてください!!」

「もちろんだ。――ようこそ天柳探偵事務所へ」

幽霊や妖怪などは確かに存在する。

だがその存在気付く人間は多くはいない。

ほとんどの妖怪変化は人知れず人間社会にうまく溶け込み、互いに尊重し合って生きている。

一方で、人間社会に馴染めずトラブルを起こす妖怪や、その超常の力を利用して己の欲望を叶えようとする人間も急増しているのもまた事実。

問題を起こす者がいればそれを解決する者もいる。

これはそんな妖怪絡みの問題解決を請け負うとある探偵事務所の話である。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

こちら夢守市役所あやかしよろず相談課

木原あざみ
キャラ文芸
異動先はまさかのあやかしよろず相談課!? 変人ばかりの職場で始まるほっこりお役所コメディ ✳︎✳︎ 三崎はな。夢守市役所に入庁して三年目。はじめての異動先は「旧館のもじゃおさん」と呼ばれる変人が在籍しているよろず相談課。一度配属されたら最後、二度と異動はないと噂されている夢守市役所の墓場でした。 けれど、このよろず相談課、本当の名称は●●よろず相談課で――。それっていったいどういうこと? みたいな話です。 第7回キャラ文芸大賞奨励賞ありがとうございました。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

あやかし狐の京都裏町案内人

狭間夕
キャラ文芸
「今日からわたくし玉藻薫は、人間をやめて、キツネに戻らせていただくことになりました!」京都でOLとして働いていた玉藻薫は、恋人との別れをきっかけに人間世界に別れを告げ、アヤカシ世界に舞い戻ることに。実家に戻ったものの、仕事をせずにゴロゴロ出来るわけでもなく……。薫は『アヤカシらしい仕事』を探しに、祖母が住む裏京都を訪ねることに。早速、裏町への入り口「土御門屋」を訪れた薫だが、案内人である安倍晴彦から「祖母の家は封鎖されている」と告げられて――?

引きこもりアラフォーはポツンと一軒家でイモつくりをはじめます

ジャン・幸田
キャラ文芸
 アラフォー世代で引きこもりの村瀬は住まいを奪われホームレスになるところを救われた! それは山奥のポツンと一軒家で生活するという依頼だった。条件はヘンテコなイモの栽培!  そのイモ自体はなんの変哲もないものだったが、なぜか村瀬の一軒家には物の怪たちが集まるようになった! 一体全体なんなんだ?

みちのく銀山温泉

沖田弥子
キャラ文芸
高校生の花野優香は山形の銀山温泉へやってきた。親戚の営む温泉宿「花湯屋」でお手伝いをしながら地元の高校へ通うため。ところが駅に現れた圭史郎に花湯屋へ連れて行ってもらうと、子鬼たちを発見。花野家当主の直系である優香は、あやかし使いの末裔であると聞かされる。さらに若女将を任されて、神使の圭史郎と共に花湯屋であやかしのお客様を迎えることになった。高校生若女将があやかしたちと出会い、成長する物語。◆後半に優香が前の彼氏について語るエピソードがありますが、私の実体験を交えています。◆第2回キャラ文芸大賞にて、大賞を受賞いたしました。応援ありがとうございました! 2019年7月11日、書籍化されました。

隣の家に住むイクメンの正体は龍神様でした~社無しの神とちびっ子神使候補たち

鳴澤うた
キャラ文芸
失恋にストーカー。 心身ともにボロボロになった姉崎菜緒は、とうとう道端で倒れるように寝てしまって……。 悪夢にうなされる菜緒を夢の中で救ってくれたのはなんとお隣のイクメン、藤村辰巳だった。 辰巳と辰巳が世話する子供たちとなんだかんだと交流を深めていくけれど、子供たちはどこか不可思議だ。 それもそのはず、人の姿をとっているけれど辰巳も子供たちも人じゃない。 社を持たない龍神様とこれから神使となるため勉強中の動物たちだったのだ! 食に対し、こだわりの強い辰巳に神使候補の子供たちや見守っている神様たちはご不満で、今の現状を打破しようと菜緒を仲間に入れようと画策していて…… 神様と作る二十四節気ごはんを召し上がれ!

炎華繚乱 ~偽妃は後宮に咲く~

悠井すみれ
キャラ文芸
昊耀国は、天より賜った《力》を持つ者たちが統べる国。後宮である天遊林では名家から選りすぐった姫たちが競い合い、皇子に選ばれるのを待っている。 強い《遠見》の力を持つ朱華は、とある家の姫の身代わりとして天遊林に入る。そしてめでたく第四皇子・炎俊の妃に選ばれるが、皇子は彼女が偽物だと見抜いていた。しかし炎俊は咎めることなく、自身の秘密を打ち明けてきた。「皇子」を名乗って帝位を狙う「彼」は、実は「女」なのだと。 お互いに秘密を握り合う仮初の「夫婦」は、次第に信頼を深めながら陰謀渦巻く後宮を生き抜いていく。 表紙は同人誌表紙メーカーで作成しました。 第6回キャラ文芸大賞応募作品です。

百合系サキュバス達に一目惚れされた

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

処理中です...