吸血秘書と探偵事務所

かみこっぷ

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はじまりはいつも突然に②

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「……あの、本当にごめんなさい」

「いえ、お気になさらず大したものでもありませんから。それよりここに来た目的は依頼、ということで宜しいですか?」

未だショックから立ち直れない俺に代わって璃亜が客の相手をする。ずいぶん若いな。見た目だけならうちの璃亜も18歳ぐらいに見えるが、それよりもう少し下だろうか。

「……はい、警察に相談してもろくに取り合ってもらえずに……。ここでなら話を聞いてもらえるんじゃないかって…………」

少女の表情に暗い影が落ちる。その沈痛な面持ちを見て素早く気持ちを切り替える。

「分かった、話を聞くよ。でもその前に君の名前を教えてくれるかな?」

「……中原……詩織、です」

「じゃあ中原さん、聞かせてくれ依頼の内容を」

「……一週間前、この辺りで火事があったのを知っていますか?」

「ああ、ニュースにもなっていたしな。確か女の子が自宅に火を放ってそのまま……」

「っ!」

俺の言葉に中原さんがわずかに動揺する。

「もしかして知り合いだったのか?」

「……、」

中原さんが黙って頷く。

「……みのりちゃんは、私の親友でした。強くて、優しくて、私が小さい時男の子にいじめられてた時も体を張って助けてくれて……。そんな、みのりちゃんがあんな事……」

「一家無理心中。ニュースではそう報道されていましたね」

「違います!」

お茶を持ってきた璃亜の言葉に中原さんが震えた声を上げた。

「みのりちゃんは、……私の親友はそんな事するような子じゃありません!」

彼女の悲痛な言葉にはそうであって欲しいという彼女自身の願いもこめられているように思えた。

「だから、確かめて欲しいんです。みのりちゃんは自殺なんてする人じゃない、ましておじさんやおばさんまで巻き込もうとするなんて、絶対にありえません。普通じゃない何かがあったはずなんです」

「じゃあ、依頼っていうのは」

「……はい、みのりちゃんの死の、その真相について……調べて欲しいんです。もちろん聞き込みに来ていた刑事さんにも、あれは自殺じゃない、彼女がそんなことするはずないって、何度も訴えました。でも……信じてもらえなくて。状況からみて自殺にしか見えないって、それでも食い下がったらこの探偵事務所の事を教えてくれたんですよ。もし本当に普通じゃない何かがあると思うならそこに行ってみろって」

「それは……、君がそこまでするのはその『みのりちゃん』のためか? それとも……」

中原さんは一度目を瞑り、そして何かを決意した顔でこちらに真っ直ぐな視線を向けてき
た。

「自分のためです。…………確かに最初私が真実を知りたいと思ったのはみのりちゃんのためだと考えました。そうすることでみのりちゃんやご両親が喜んでくれるだろうって。でも気づいたんです、そんなのは全部私の自己満足だって」

「……、」

俺は黙って彼女の言葉に耳を傾ける。

「死んだ人が何を望んでいるかなんて確かめようがないし、家族を失った人の気持ちなんて私には想像もつきません。だから、これは私の自己満足です。私の親友が……自分の意思であんな事をするはずがない、そう思いたいだけの…………」

彼女の気持ちは本物だ。死んだ友人の名誉の為だとか、残された家族に対するわずかな救いを、だとかそんな綺麗事で塗り固める事もできたはず。それを、自分のためと言い切った。

「わかったよ。君の友人の一件、この天柳相一が責任を持って引き受ける」
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