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濡れ女の本気②
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「氷柱さん―――――――ッ!!」
雪女を呑み込んだ濁流はその勢いのまま洞窟の入り口へと向かいそのまま外へと流れだし、波立つ海面と同化していった。
「千里さん、氷柱さんをお願いします!」
「それじゃ璃亜さんは…………っ!?」
「心配いりません、何とかします」
とはいえ圧倒的な物量、いかに人間離れした反応と人間という括りの中では最高レベルの運動能力を発揮する半吸血鬼といえども三六〇度を覆う弾幕の合間を一人の力で突破することは不可能で。
首や胸元といった急所に迫る刃だけは辛うじて躱し捌き叩き落す事が出来ているものの、徐々にその全身には鋭い刃で切り裂かれた生傷が増えていく。
(璃亜――――――ッ!!)
目の前で大切な秘書が傷ついていく光景を見る事しかできない所長の咆哮は口元まで覆われた液体のせいでごぼごぼという文字通り気の抜けた音となって消えていった。
「妖怪同士の戦いは本人の性能以上にその場の状況環境に大きく左右される。そういう意味ではあの…………恐らく雪女、で合ってるかしらぁ? あのお嬢ちゃんがこの真夏の海水浴場なんて場所でここまで食い下がれたのはあの子本人の力が相当に大きなものだって事になるのよねぇ」
世間話でもする様なテンションで続ける濡れ女だが悠長に耳を傾けている余裕は今の璃亜に有るはずがなかった。
「はぁ―――――はぁ――――ッ」
頭部を狙う刃、首を振って躱す。脇腹に向かう刃、掌底で弾く。二の腕を襲う刃、躱しきれず切り傷をつける。太ももを撫でる刃、半歩下がり直撃だけは免れる。
「さすがにあなたも限界が近いんじゃあないかしらぁ?」
「そういうそっちこそ、致命傷に成り得る攻撃の精度が落ちてきているんじゃないですか」
「…………そりゃぁ優しくて慈悲に溢れるお姉さんだもの、無駄に命を奪うつもりはさらさらないんだけどねぇ」
思わせぶりに笑う濡れ女を睨みつけながら肩で息をする璃亜。
「所長や…………海水浴客を襲いまわっていた人の台詞とは思えませんね」
濡れ女の後ろで、つま先から口元まで液体で包まれた相一がごぼごぼという音を漏らす。
「もう少し、待っていて下さい所長。すぐにその無駄に胸部を肥大化させた阿婆擦れを叩き潰して、助け出してみせます」
「そう簡単に行かないって事は、もう理解できてる筈だけどぉ?」
「こう見えて私、誰に似たのか諦めが悪いんですよ」
ちらりと洞窟の外へ視線を向ける、オレンジ色の夕焼けは姿を潜め丁度日没と夕暮れの境目の様な時間。
雪女を呑み込んだ濁流はその勢いのまま洞窟の入り口へと向かいそのまま外へと流れだし、波立つ海面と同化していった。
「千里さん、氷柱さんをお願いします!」
「それじゃ璃亜さんは…………っ!?」
「心配いりません、何とかします」
とはいえ圧倒的な物量、いかに人間離れした反応と人間という括りの中では最高レベルの運動能力を発揮する半吸血鬼といえども三六〇度を覆う弾幕の合間を一人の力で突破することは不可能で。
首や胸元といった急所に迫る刃だけは辛うじて躱し捌き叩き落す事が出来ているものの、徐々にその全身には鋭い刃で切り裂かれた生傷が増えていく。
(璃亜――――――ッ!!)
目の前で大切な秘書が傷ついていく光景を見る事しかできない所長の咆哮は口元まで覆われた液体のせいでごぼごぼという文字通り気の抜けた音となって消えていった。
「妖怪同士の戦いは本人の性能以上にその場の状況環境に大きく左右される。そういう意味ではあの…………恐らく雪女、で合ってるかしらぁ? あのお嬢ちゃんがこの真夏の海水浴場なんて場所でここまで食い下がれたのはあの子本人の力が相当に大きなものだって事になるのよねぇ」
世間話でもする様なテンションで続ける濡れ女だが悠長に耳を傾けている余裕は今の璃亜に有るはずがなかった。
「はぁ―――――はぁ――――ッ」
頭部を狙う刃、首を振って躱す。脇腹に向かう刃、掌底で弾く。二の腕を襲う刃、躱しきれず切り傷をつける。太ももを撫でる刃、半歩下がり直撃だけは免れる。
「さすがにあなたも限界が近いんじゃあないかしらぁ?」
「そういうそっちこそ、致命傷に成り得る攻撃の精度が落ちてきているんじゃないですか」
「…………そりゃぁ優しくて慈悲に溢れるお姉さんだもの、無駄に命を奪うつもりはさらさらないんだけどねぇ」
思わせぶりに笑う濡れ女を睨みつけながら肩で息をする璃亜。
「所長や…………海水浴客を襲いまわっていた人の台詞とは思えませんね」
濡れ女の後ろで、つま先から口元まで液体で包まれた相一がごぼごぼという音を漏らす。
「もう少し、待っていて下さい所長。すぐにその無駄に胸部を肥大化させた阿婆擦れを叩き潰して、助け出してみせます」
「そう簡単に行かないって事は、もう理解できてる筈だけどぉ?」
「こう見えて私、誰に似たのか諦めが悪いんですよ」
ちらりと洞窟の外へ視線を向ける、オレンジ色の夕焼けは姿を潜め丁度日没と夕暮れの境目の様な時間。
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