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狼男と女子高生
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◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「――――って飛び出して来たのはいいけど秘書さん達どっちにいったんだろう」
前橋さんに用意してもらったあるモノをバッグ一杯に詰め込み海の家を飛び出した所で途方に暮れていた。
こんなことなら千里ちゃんの地図を写メっとけば良かったかな…………。
「でも確か海沿いの洞窟って言ってた気がするし、右か左かどっちかにいけばその内辿り着く…………筈だよね、方向があってれば」
夕日が照らす無人の浜辺、気温も下がり頬を撫でる潮風も涼しくなってきた時間帯。辺りを見渡しても目に入るのは早めの店じまいを決め込んだ他の海の家の従業員だけである。
偏見だけどこういう所の従業員って皆色黒でムキムキのお兄さんが多いイメージなんだけど例に漏れず隣の海の家で店じまいの準備をしているお兄さんも………………あれ?
黒くて短いツンツン髪、大柄で筋肉質な体、極めつけはその頭から覗く一対の耳。ぴょんと伸びた三角形のそれはツンツン髪に殆ど埋もれていて見えないがふさふさの獣毛に覆われた獣、いわば狼の耳と同じものだった。
「あの………………もしかして銀月さん?」
わたしの言葉に海パンとぴちぴちのティーシャツで筋肉を覆った狼男はめんどくさそうな顔を隠そうともせずこちらを振り返った。
「なんだやっぱり嬢ちゃんか」
「やっぱり銀月さんだ。何やってるんですかこんな所で」
いやほんとに何やってるんだろこの人。大妖怪と謳われる吸血鬼と正面から張り合える同レベルの大妖怪『狼男』銀月大牙その人が、なんで海の家の店じまいを手伝っているんだろうという疑問が生まれるのは当然だよね。
「見りゃわかんだろバイトだバイト、仕事してんの。これでも群れ一つ預かってる身なんでな、下のもんまで腹一杯食わせられねえ奴に群れの長は務まらねえんだよ」
「あーつまりお仲間の狼さん達の食事代の為に一生懸命働いている、と」
ぎらついた目つきに獰猛そうな口元から覗く鋭い犬歯、そんな野性味溢れる容貌からはちょっと想像できないけど
「やっぱり…………悪い人じゃないんですよねー」
「だから何でそうなる」
怪訝そうな顔浮かべる銀月さんを無視して先ほどから気になっていた事を尋ねてみる。
「それはそうとさっきから引っかかってたんですけど、わたしに気づいた時やっぱりなとか言ってましたよね? なんでわたしだと分かったんですか?」
「そりゃ簡単だ、匂いだよ」
匂い…………って、え? わたしの? 待って今のわたしってそんなに臭――――
「何考えてるか大体見当はつくがちげえよ、嬢ちゃんの体臭が殊更きついってわけじゃねえ。俺が何の妖怪か考えてみろ、狼と同じ嗅覚を持ってんだ一度嗅いだ匂いなら数キロ先でも追いかけられる。――――まあ、この辺は潮風がきつくてはっきりとは分からなかったんだけどな。昼辺りから漂ってた最近嗅いだ覚えのある匂いはお前らんとこの連中だった訳か」
「昼間から気づいてたんですか!? だったら声くらいかけてくださいよ!?」
「あのな、俺と嬢ちゃんは家族か?」
「え、違いますよね」
残念ながらわたしにはモフモフの耳もしっぽも生えていない。
「なら恋人か?」
「絶対違いますね」
銀月さんも確かに男前の部類には入るけどわたしのタイプじゃないんだよね。
わたしはもっとシュッとしているというかスマートな方が好みで…………って今はそんな事どうでもいいんだった!
「そして俺と嬢ちゃんは友達でもねえ、だろ? 」
「えー! でも一緒に晩御飯食べた仲じゃないですか!」
「あのな一緒に飯食っただけで友達になるなら学校で毎日一緒に給食食ってる人間のガキは皆仲良しこよしのお友達か?」
「うぐっ―――――な、中々痛い所ついてきますね」
銀月さん的には深い意味は無く言葉通りの意味のつもりで言ったつもりなんだろうけど、どちらかというと友達が多い方ではないわたしの胸には必要以上に突き刺さったなぁ…………。
「――――――って! こんな呑気に話してる場合じゃなかった! 探偵さん達が大変なんですよ!」
怪訝な表情を浮かべる銀月さんに駆け足で状況を説明する。
「――――つまり、あのクソ人間が濡れ女とかいう妖怪に攫われてそれを吸血鬼の姉ちゃん達が助けに行ったけど嬢ちゃんは放っていかれた、と」
「そうなんです!! しかもその濡れ女切っても殴っても効かない反則みたいな相手で―――――」
「あー分かった分かった」
ツンツン髪をがしがし掻きながら銀月さんがめんどくさそうに言う。
「やった! じゃあ一緒に来てくれるんですね!! 銀月さんなら匂いで皆の居場所もすぐに――――」
「おい待て嬢ちゃん、誰が着いていくなんて言った」
「――――え?」
銀月さんの予想外の言葉に思考が固まる。
「――――って飛び出して来たのはいいけど秘書さん達どっちにいったんだろう」
前橋さんに用意してもらったあるモノをバッグ一杯に詰め込み海の家を飛び出した所で途方に暮れていた。
こんなことなら千里ちゃんの地図を写メっとけば良かったかな…………。
「でも確か海沿いの洞窟って言ってた気がするし、右か左かどっちかにいけばその内辿り着く…………筈だよね、方向があってれば」
夕日が照らす無人の浜辺、気温も下がり頬を撫でる潮風も涼しくなってきた時間帯。辺りを見渡しても目に入るのは早めの店じまいを決め込んだ他の海の家の従業員だけである。
偏見だけどこういう所の従業員って皆色黒でムキムキのお兄さんが多いイメージなんだけど例に漏れず隣の海の家で店じまいの準備をしているお兄さんも………………あれ?
黒くて短いツンツン髪、大柄で筋肉質な体、極めつけはその頭から覗く一対の耳。ぴょんと伸びた三角形のそれはツンツン髪に殆ど埋もれていて見えないがふさふさの獣毛に覆われた獣、いわば狼の耳と同じものだった。
「あの………………もしかして銀月さん?」
わたしの言葉に海パンとぴちぴちのティーシャツで筋肉を覆った狼男はめんどくさそうな顔を隠そうともせずこちらを振り返った。
「なんだやっぱり嬢ちゃんか」
「やっぱり銀月さんだ。何やってるんですかこんな所で」
いやほんとに何やってるんだろこの人。大妖怪と謳われる吸血鬼と正面から張り合える同レベルの大妖怪『狼男』銀月大牙その人が、なんで海の家の店じまいを手伝っているんだろうという疑問が生まれるのは当然だよね。
「見りゃわかんだろバイトだバイト、仕事してんの。これでも群れ一つ預かってる身なんでな、下のもんまで腹一杯食わせられねえ奴に群れの長は務まらねえんだよ」
「あーつまりお仲間の狼さん達の食事代の為に一生懸命働いている、と」
ぎらついた目つきに獰猛そうな口元から覗く鋭い犬歯、そんな野性味溢れる容貌からはちょっと想像できないけど
「やっぱり…………悪い人じゃないんですよねー」
「だから何でそうなる」
怪訝そうな顔浮かべる銀月さんを無視して先ほどから気になっていた事を尋ねてみる。
「それはそうとさっきから引っかかってたんですけど、わたしに気づいた時やっぱりなとか言ってましたよね? なんでわたしだと分かったんですか?」
「そりゃ簡単だ、匂いだよ」
匂い…………って、え? わたしの? 待って今のわたしってそんなに臭――――
「何考えてるか大体見当はつくがちげえよ、嬢ちゃんの体臭が殊更きついってわけじゃねえ。俺が何の妖怪か考えてみろ、狼と同じ嗅覚を持ってんだ一度嗅いだ匂いなら数キロ先でも追いかけられる。――――まあ、この辺は潮風がきつくてはっきりとは分からなかったんだけどな。昼辺りから漂ってた最近嗅いだ覚えのある匂いはお前らんとこの連中だった訳か」
「昼間から気づいてたんですか!? だったら声くらいかけてくださいよ!?」
「あのな、俺と嬢ちゃんは家族か?」
「え、違いますよね」
残念ながらわたしにはモフモフの耳もしっぽも生えていない。
「なら恋人か?」
「絶対違いますね」
銀月さんも確かに男前の部類には入るけどわたしのタイプじゃないんだよね。
わたしはもっとシュッとしているというかスマートな方が好みで…………って今はそんな事どうでもいいんだった!
「そして俺と嬢ちゃんは友達でもねえ、だろ? 」
「えー! でも一緒に晩御飯食べた仲じゃないですか!」
「あのな一緒に飯食っただけで友達になるなら学校で毎日一緒に給食食ってる人間のガキは皆仲良しこよしのお友達か?」
「うぐっ―――――な、中々痛い所ついてきますね」
銀月さん的には深い意味は無く言葉通りの意味のつもりで言ったつもりなんだろうけど、どちらかというと友達が多い方ではないわたしの胸には必要以上に突き刺さったなぁ…………。
「――――――って! こんな呑気に話してる場合じゃなかった! 探偵さん達が大変なんですよ!」
怪訝な表情を浮かべる銀月さんに駆け足で状況を説明する。
「――――つまり、あのクソ人間が濡れ女とかいう妖怪に攫われてそれを吸血鬼の姉ちゃん達が助けに行ったけど嬢ちゃんは放っていかれた、と」
「そうなんです!! しかもその濡れ女切っても殴っても効かない反則みたいな相手で―――――」
「あー分かった分かった」
ツンツン髪をがしがし掻きながら銀月さんがめんどくさそうに言う。
「やった! じゃあ一緒に来てくれるんですね!! 銀月さんなら匂いで皆の居場所もすぐに――――」
「おい待て嬢ちゃん、誰が着いていくなんて言った」
「――――え?」
銀月さんの予想外の言葉に思考が固まる。
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