吸血秘書と探偵事務所

かみこっぷ

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海水浴場と千里眼

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人影もまばらになった砂浜に帰り着いた二人を出迎えたのは、心配そうな表情を浮かべたちびっ子千里眼とサイドテールの女子高生だった。

「大丈夫、ですかっ…………? 璃亜さん、氷柱ちゃん、それに…………」

「えっと、あの――――探偵さん、は?」

一緒に帰ってくるはずの所長の姿が見当たらない事実に待機組の少女二人があからさまに顔を強張らせる。

少女達にそんな表情をさせてしまうことに内心歯噛みしながらも、璃亜自身も自分に言い聞かせるようにゆっくりと状況を説明する。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「大変じゃないですか!! 探偵さんが攫われちゃうなんて――――っ!? ちょっと前にも似たような事があったような気もしますが、とにかく早く助けに行かないと! ああ、でもこんなだだっ広い海で人探しなんてどっから探せばいいか見当も――――」

「あーもー!! 氷柱ちゃん専用(以下略)!!」

おもむろに花柄ビキニ女子高生の傍らにしゃがみこんだ氷柱がズボォッ!! と、スカートめくりを思わせるような動作でビキニと太ももの間に両手を突っ込んだ。

「―――――ッ!?!?!?」

少なくとも女子高生という種族が人前で発してはいけないような、具体的には水気の多い泥団子同士をぶつけたらこんな音だろうな…………と思われる叫びを上げ白い砂浜に崩れ落ちる中原詩織。

「詩織ちゃん…………だいじょうぶ…………?」

見かねたおかっぱスク水少女千里が足元でビクビク身体を振るわせている詩織を支え起こす。

「うぅ、ありがと千里ちゃん………………、ってこんな事してる場合じゃないでしょ! 早く探偵さんを探しに行かなきゃいけないって時に! 璃亜さんも落ち着いてる場合じゃ――――?」

自分より頭二つ分ほど小柄な少女に助け起こされ、一度は途切れた勢いが再び盛り返してくる。

「まったく…………もっかいあたしの両手を食らいたいのかしらアンタは?」

「うっ」

詩織の目の前でひらひらと掌を振る氷柱。

一瞬怯んだ詩織だったがすぐに気を持ち直し場違いなほど冷静な雪女に抗議しようとするが……『でも』の一言を放つ前に氷柱が制する。

「大体アンタ、悩むポイントが一つ遅れてるのよ」

「遅れ――――って、え? え?」

「今あたし達が考えてるのは相一を見つけた時にその場に一緒にいるどろどろ金髪クソ巨乳をどうやってぶちのめすかって事だけよ」

氷柱の説明に頭が追いつかない詩織へと璃亜が助け舟を出す。

「詩織さんお忘れですか? こちらには千里さんがいるという事を」

その言葉にはっと顔を上げた詩織にスクール水着のおかっぱ少女が自信気に頷いた。

「大丈夫…………、私に…………任せて…………」

おかっぱ少女千里は詩織の隣に座込むといつの間にやら手にしていたごついヘッドホンを装着しゆっくりと目を閉じた、と同時に千里の周囲の空気が一変する。

「そういえば千里ちゃんって確か―――――」

「思い出したかしら。ちびっ子が何の妖怪やってるかも忘れるなんてちょっとテンパり過ぎじゃない?」

「どんな遠くの物も見つけ出す、それが千里眼である千里さんの能力です」

璃亜の言葉とほぼ同時、千里が大きく眼を見開いた。

「見つけ…………ました…………っ!!」

「えっ、もう見つかったの!?」

「さすがちびっ子仕事が早い!」

ぱんと両手を合わせるとすぐさまその場から駆け出そうとする氷柱の首根っこを摑まえる形で璃亜が引き留めた。

「まだ所長の居場所も聞いていないのにどこに向かうつもりなんですか…………。あなたも人の事を言えない程度にはせっかちな性分のようですね」

「あぁっとそうだった! ――――ちびッ子、地図お願い!」

地図、と言ってもここはビーチで身に着けているのは水着のみ。普段千里が愛用しているタブレットは勿論、紙やペンなどもここには無い。

そんな状態で地図など用意できるのか、という詩織の疑問は言葉にせずともおかっぱ少女に伝わったようだ。

「大丈夫…………ちょっと、待ってて…………」

そういうと千里はその幼い両手をそっと砂浜に乗せる。細く白い指が柔らかな砂粒に触れた瞬間そこを中心に砂浜の表面が一斉に蠢き始める。

ザザザザ、と一見無秩序な模様に見えるそれは徐々に周囲一帯の地形を示したものに変貌していく。

「これ、断波海水浴場周辺の地図――――?」

「千里さんの指先が現在地だとすると所長の居場所は…………」

「ここから南西…………1キロ程行った所に…………小さな洞窟があります…………。入口が海に面してて…………本来なら泳ぐか…………小型のボートでもないと入れない構造だけど…………」

浜辺に浮かび上がった周囲一帯の地形図を指でなぞり直接目的地までのルートを書き込みながら氷柱の方に視線を向ける。

おかっぱ少女の言わんとすることが伝わったのか、氷柱は軽く自分の胸を叩いた。

「そういうことね。ま、それならこの氷柱ちゃんに任せなさい、相一のいる洞窟までの道のりはあたしが用意してあげるわ」

「では今度こそ、行きましょうか。我々の所長を助ける為に」

「現場まで…………私が直接…………案内します………」

「よし、じゃあ早速出発しましょう!」

「詩織さん、お気持ちはありがたいのですがここから先は少々危険が伴います。所長の元には我々三人で――――」

意気込む詩織の出鼻を挫く形で黒いビキニの吸血鬼がその手で少女の動きを制するが、それで納得する女子高生ではないようで。

「わ、わたしも――――っ! わたしもついていきますよ!」

「詩織、気持ちは分かるけど璃亜の言う通りよ、あんたはここで待ってなさい。…………大丈夫よ、すぐ戻るわあのバカ所長を連れて」

「――――――――でも!!」

あくまで食い下がる詩織に諦めたように首を振る璃亜が一つの提案を出す。

「…………分かりました。ですが一緒に来る以上、事務所の一員として最大限協力してもらいますがそれで構いませんね?」

「――――はい! わたしに出来る事なら何でも言ってください!」

「では早速一つ頼みたいことがあるんですが――――」
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